パブリッシャーインタビュー「フライハイワークス」(前編)

そうだ、フライハイワークスさんに訊いてみよう(前編)

インディーゲーム躍進の傍らにゲームパブリッシャーあり。Made With Unityの新たなコンテンツとして、近年のインディーゲームブームを支えているパブリッシャーへのインタビューシリーズを開始します。今まさにゲームを開発しているクリエイターが最適なパートナーを見つける手掛かりになればと思っています。

その第1回にあたる今回は、フライハイワークス株式会社。同社は2013年から数々のインディーゲームをコンソールゲーム機向けに配信しており、近年ではNintendo Switchで『神巫女 -カミコ-』のヒットが記憶に新しいです。

すべての取り扱いタイトルを決めているのは代表の黄 政凱(こう せいがい)氏です。黄氏は「クリエイターこそが一番偉い」という確固たる哲学を持ってゲームパブリッシングに取り組まれており、あくまで裏方に徹しつつ、クリエイターの作品が世に出ることをバックアップしています。

多数の作品をリリースした中で培ったプロダクトクオリティアップの勘所と、作品を選ぶ審査眼。そのルーツは、意外にも黄氏の幼少時代にあったようです。ゲームパブリッシングにかける信念と美学は何なのか、たっぷりお話を伺いました。

インタビュー:一條貴彰(株式会社ヘッドハイ)

パブリッシャーとして、クリエイターとどう向き合うべきか

まずは御社の事業の概要についてお教え下さい。

弊社では2013年からニンテンドー3DS向けダウンロードタイトルの配信事業を始め、スマホからの移植ものと、海外タイトルのローカライズがほとんどを締めます。数字として本数が出たタイトルとしては、たとえばNintendo Switchの『神巫女 -カミコ-』はワールドワイドで14万DLされています。ニンテンドー3DS向けのタイトルでは、『魔女と勇者」シリーズや『魔神少女』シリーズが高評価を得ていまして、3DSのダウンロードソフト全体で100万ダウンロードを突破いたしました。

合計80タイトルを配信していますが、私は「全てのタイトルがイチ押し」だと思っており、共通して言えるのは、すべてのタイトルを自信を持ってオススメできるところです。

どのようなパブリッシングサービスを提供していますか?

正直、「サービス」と言えるほど大層なものではありません。シンプルにクリエイターさんが開発に集中できるようにお手伝いしているイメージです。

コンシューマープラットフォームに出すための手続きや、ローカライズ対応、PV作成などです。こうした作業は、クリエイターさんが苦心すべき部分ではないと思っていまして、いわばアシスタントのような気持ちでやっています。

私はゲームを作れる人が一番偉いと思っています。理由は簡単で、たとえば『神巫女 -カミコ-』というタイトルは、開発のスキップモアさんがいなかったら絶対世に出ていません。そして、スキップモアさんが必ずしもフライハイワークスを選ばなければ出なかったタイトルかというと、別にそうではないわけです。

私はそうした才能にあやからせてもらってる立場なので、関わらせてくれたらもっと沢山の人に届けることできます、という提案をしてるだけなんです。

ゲーム作品をお預かりして、クリエイターさんが開発に集中できるようにお手伝いをしているということですね。

クリエイターさん自らPVを頑張って作ったとしても、言葉の翻訳が変だったりするだけでチープに見えてしまったりします。こうしたノウハウをもってお手伝いするだけでも、売り上げに貢献できると思っています。

他のプロモーションとしては、公式ツイッターでの発信や、「FLYHIGH EXPRESS」というYouTube番組も全部自分でやっています。

クリエイターさんが困る部分としては、審査の部分があります。

もちろん審査機関との手続きも弊社でやっています。日本ではそれが一番手間のかかる作業です。審査用の映像を作って出したら、さらにこれが足りないとか電話がかかってきて…。「キャラクターが死んでるところを撮影してください」などの追加確認が来ることもあります。また、日本のCEROは団体の会員になっているかどうかで審査料金が全然違いますので、弊社が間に入る意義にもなっています。
海外では4年くらい前からインディー対応が進んでいて、ダウンロード専売タイトルに関してはIARCで審査すればOKという形になっています。残念ながら日本は時流に追いついていない感じがします。

スマホやPCからの移植はクリエイター任せですか?または、移植会社が別にありますか?

どちらもありまして、クリエイターさんの意向で決めています。クリエイターさん側で人員が足りなくて移植の暇がないとなりましたら、開発会社さんを紹介します。実際にRayarkさん関連の移植は後者でして、弊社ではエスカドラ社さんに協力していただくことが多いです。

同時に何タイトル進行していますか?

10タイトルぐらいです。常にそのぐらいで、意図的に増やしたり減らしたりしてるわけではないのですが…。今こんなにタイトルが出せているのはNintendo Switchが盛り上がっているおかげですね。

『ピコンティア』からの分岐で始まったヒットタイトル『神巫⼥ -カミコ-』

『神巫女 -カミコ-』では、クリエイターとどのように関わられてたのでしょうか?

当初は、開発元であるスキップモアさんと『ピコンティア』というタイトルをSteam向けにリリースしようと思い作っていたんです。

しかし、この作品は開発に時間がかかりそうだということで、まず小さい規模のタイトルをやりませんかという話になりました。すると1枚のスクリーンショットが送られてきまして、それが『神巫女 -カミコ-』でした。2017年の4月発売でしたが、企画の話をさせて頂いたのが12月あたりでしたので、実質4か月ぐらいの期間でしょうか。この辺りのスピード感は、スキップモアさんがブログで詳細を公開しています。

また、今回は弊社からクリエイターへ先に開発費用をお支払いする形でプロジェクトが進行しました。

日本のインディーゲームパブリッシャーさんでは、発売後にレベニューシェアで収益を分ける形がほとんどだと思っていました。意外です。

弊社でも開発資金を出すケースは稀です。しかしながら、スキップモアさんは過去タイトルでの実績がありましたので。ゲームをリリースするにあたって一番困るのはお金ですよね。先ほどの話の「困っている部分を助ける」と感覚的には変わらないです。

フライハイワークスはそんなに大きな会社でもないですし、「一緒にやりたい」という気持ちを伝えるだけではクリエイターさんは動かせないと考えています。ですので、パブリッシャー側ができることとして、「まずお金を出します」というのは一つの誠意の見せ方ですね。ローカライズだってお金かけることなのですし、同じ話だと思っています。ただ、資金を出したからといって、開発への口出しはしないようにしています。

スキップモアさんと出会ったきっかけは何でしたか?

純粋に1プレイヤーとして「フェアルーン」に出会い、こちらから連絡をしました。これをニンテンドー3DSで出したら絶対面白いんじゃないかと考えたのです。

私はスキップモアさんを天才だと思っています。スピード感をもって時流に乗ったタイトルを開発することができる方です。今作で大きな花を咲かせるお手伝いができたというイメージです。

パブリッシングの依頼は受けるよりも断る方が多い

パブリッシュする作品は、どうやって選んでいますか?

基本的には私が選んでいます。選定には理論だった基準がなくて、ほんとに私が面白いと思ったかどうか。2013年に初めて『魔女と勇者』を出させて頂いたときもそうですけど、「絡ませて頂けませんか?」っていうのが弊社のそもそものスタンスですので。

「経営的にこれは売れるか」ではなくて、本当に黄さんが好きだから、一緒に手伝いたいタイトルを選んでいるということですね。

私は今までのゲーム人生で、ゲームを1人で遊ぶことが多かったです。周囲の友人にはゲームに熱中している人が少なく、勧めてもあんまりピンときてくれない経験がありまして。小さい頃から「この人にゲームを勧めるなら、これかな?」というレコメンド的な事を考えていました。今やっている仕事は、この経験の延長線上にある気がしています。

パブリッシング自体が、ゲームに対するレコメンドをしてる形ですね。

パブリッシャーの役割って、本来はそうだと思うんですよ。ゲームに限らず、電子書籍やビデオストリーミングサービスなど、人間が一生で消化できるペースを越えてコンテンツが供給されていますよね。情報過多な時代は、それらを交通整理する役割が必要だと考えています。

クリエイターさんから問い合わせが来ることもありますか?

はい、それで契約したタイトルも沢山あります。先ほど申しあげたように、一回やると決めたら作家性には口を出しませんが、逆にやると決める前はガッツリ選別します。ですので、決して「来るものは拒まず」というスタンスではないです。いまリリースしている80タイトルよりも、お断りした数の方が多いですね。

最近リリースされた『OPUS-地球計画』は、スマートフォン版が基本無料ですが、Nintendo Switchでは500円です。こうした場合の価格はどのように決めていますか?

一度私が考えて、クリエイターに提案する形で決めています。クリアするまでのボリューム感などから、ユーザー目線で良い値段を設定することを心がけています。
私は、普段からダウンロードゲームを遊んでいる人なら、「このゲームなら」幾らになるだろう、という想像は即答できると思うんですよ。ラーメンが何円であるべきかと同じ肌感覚と言いますか。価格設定は難しい話じゃなくて、結局ゲームの内容から得られる満足感と釣り合っているかどうかということです。

おっしゃる通りですが、ゲームを作る側に回るとそれを失ってしまいがちで…。作者としての思い入れが入ってしまうので。

よくわかります。ただし残酷な話ですが、作者の思い入れがどれだけ強いかということは、ユーザーさんからは関係のない話なんですよ。500円分の面白さがあったか、1,200円分の面白さがあったか、だけが判断基準になりますから。

また、あるタイトルに売上1千万円のポテンシャルがあるとして、それを500円で2万人に売るか、200円で5万人に売るかという2通りの場合を考えてみてください。お金の面での結果は一緒だけれど、次に繋がるのは圧倒的にユーザーが多い後者なんです。

値付けについて、クリエイターと揉めてしまうことはありますか?

いえ、揉めることはないですよ。先ほども申し上げたように、基本的にはクリエイターさんが一番偉いと考えているので、弊社から提示する価格はあくまで「提案」です。たまにその提案に乗ってくれないこともありますので、その場合はクリエイターさんの主張する値段で販売します。

後編に続く

Made with Unity - 2018年1月18日