インディゲーム開発者さんにとって、いかにゲームをより多くの人々に届けるのかというのが最も苦慮するところではないだろうか。近年の中国のゲーム市場は世界中で注目を集めつつあるが、一方で、中国市場からの情報発信が少なく、進出したい場合は大量の情報収集が必要だ。こういった仕事は、開発に精一杯のデベロッパーにとっては困難であり、ターゲット市場の情報を握っているパブリッシャーの助けは開発者にとって心強いものになるだろう。今回は中国国内で活躍しているゲームパブリッシャーにフォーカスを当ててみたい。
パブリッシャーは直訳すると「出版会社」であり、資金調達・開発監督・ローカライジング・マーケティングなど、様々な役目を果たす存在だ。現在世界中の大手のゲーム企業の場合、自社開発・自社パブリッシングが数多く行われており、海外で発売する時にはその国の市場に詳しいサードパーティのパブリッシャーに委託する場合もある。以前はゲームを発売するには法人の設立など、政策・法律上の煩雑な手続きと付き合わねばならなかったので、開発だけで手いっぱいな小規模チームにとってほぼ不可能なことだった。
近年はApp StoreやGooglePlay Store、それからSteamなど個人も登録できるプラットフォームが出現した。リーズナブルな登録料金と大幅に簡略化された手続きは、まさにインディ開発者たちの救いである。しかし大量のインディゲームの出現はまた新しい問題をもたらした。ユーザーは膨大なアプリの山から欲しいゲームを見つけ出すのが難しく、開発者は自分のゲームを宣伝するのも極めて困難なのだ。
幸い、その潮流に乗り、各国では個人・小規模チームに向け特化したパブリッシング会社が続々と現れた。これらのパブリッシャーは自社ホームページ、アプリなどの入り口以外に、Facebook・Twitterで拡散する事や有名なユーチューバー経由でゲームを宣伝する等、インターネット時代の斬新なマーケティング手段を運用して、優秀なゲームを多くのユーザーたちに届ける役目を果たしている。
しかし前回の文章で紹介したように、中国のゲーム業界は特別な歴史と特徴を持っている。海外のマーケティング手段は中国で果たして通用するだろうか。中国のユーザーたちはどんなゲームが好きで、ゲームを彼らに届けるにはどんな方法が有効なのか。
中国ではデジタルコンテンツの制作・販売を管理する法律は1998年に初めて制定されて以来、数回の改正を経て、今でも試行錯誤を繰り返している。現在中国では、ゲームソフトなどの著作物を発売する時は書籍などと同じく、パブリッシングライセンスが必要である。そして海外各国に存在する民間レーティング組織は存在せず、行政機関「国家新聞出版広電総局」が内容審査を担当している。ゲームを発売する時にパブリッシングライセンスを取得するには、中国国内で登録した出版資格を持つ法人が総局に申請しなければならない。
ちなみに、海外の一般企業・個人は中国の出版資格を取得するのが極めて困難で、中国のパブリッシャーを頼らず自力でゲームを中国で販売することはできない。現在では、マイクロソフトとソニーインタラクティブエンタテインメント2社は中国上海市政府に属する国有企業「株式会社上海東方明珠(トウホウメイジュ)メディアグループ」と合資会社を設立する形で、中国国内の出版資格を入手して自力でXbox、PlayStationゲームを発売することが出来るようになった。PC・スマホゲームなら他の中国パブリッシャーを経由することが必須だ。
ゲームの内容や表現に関して、中国ではレーティング組織が存在しないので、内容審査の目的は他国のような「各年齢層のユーザーに相応しい内容を届ける」のではなく、「国民生活に害になる情報を阻止する」ことである。その「害になる情報」の定義に関して、現在明確化された条例は下記の通りである。
内容を文字通りに訳したが、やはり疑問は存在する。上記の中1番と7番が重複していて、10番の定義が曖昧すぎる。政治に関する内容は普段あまり関係のない話だが、戦争がテーマのゲームならどこを注意すべきなのか。また、現代のゲームであれば暴力、性的な表現はドラマを盛り上げる上で多少存在する方が自然だと思うが、それらは全部7番に当てはまって発売禁止となるのではないか?
審査機関「総局」は、審査基準に関する詳細情報は今でも公表していない。現状では参考にできるのが近年国内のゲーム開発者、パブリッシャーから入手した情報や経験だけだ。筆者の感覚を以下のようにまとめてみた。
まず暴力について。出血表現の有無にかかわらず、絶望的・反社会的な世界観を持つ3Dゲームは合格するのが困難。現状として、今まで3Dホラーゲームにおいて審査をクリアした作品はない。しかし2Dの場合はビジュアル上のインパクトが弱まり、合格の可能性がゼロではない。
性的な表現に関しては、女性キャラクターの服装は胸の谷間より下・膝から太もも3分の2以上を露出してはいけないという噂(あるいは都市伝説)がある。近年多くのオンラインゲームやスマホゲームで適用されているので一応参考にしていいと思える。残念ながら、アダルトな内容はもちろん無理。海外の美少女ゲームもアウトだろう。
暴力・出血表現などは完全に禁止ではないが、厳しく指摘されるので要注意。シューティング・対戦ゲームでは人間キャラクターが死亡する時「殺した」や「死亡した」などのネガティブな言葉ではなく、「気絶した」や「力を尽くした」などの表現が吉だ。死体も残さずに直接消失するか、棺で表現するのが良い。血の表現は赤ではなく紫に近くする方が通りやすく、量も少なめの方が良い。
政治的な内容に関して、中国歴史上の政治事件や政治家の名前などは基本的に一切登場させてはならない。また、必ず完全ローカライズ、つまり文面と画像を全部中国語化しなければならない。ただし吹替えはローカライズの対象にする必要はない。
大まかに言うと以上の感覚だが、細かい基準や法律が存在しない現在、やはり審査時に人間の感覚で判断するのが一般的なので、ゲームの世界観や具体的な表現によって結果が大きく変わる。自分で判断できない場合、とりあえず中国のパブリッシャーに問い合わせるのが無難だ。
というわけで、中国市場に進出したい場合、中国のパブリッシャーに頼るのが現状では最良の手段だろう。中国国内には昔からオンラインゲーム・ウェブゲームなどを運営するパブリッシャーは数社存在し、海外ゲーム解禁以来はインディ向けに特化したパブリッシャーも現れた。これらのパブリッシャーは似たような役目を担っているが、それぞれ持っているリソースは異なり、それぞれ個性的なサービスや機能を実現している。総じて言えるのは、基本的にソリューションをセットで提供している点だ。ただし各社の特徴・サービス内容は多少異なっているので、いくつかの例を見ていただくのが分かりやすいだろう。
まず、2013年に成立したIndienova社は、大量のボランティアを募集し、低価格で快速、大量的にゲームローカライジングを実現している。また、中国で知名度の高いゲームマスコミ「Gamecores」と提携して定期的にPodcast形式で海外の優良ゲーム紹介、開発者インタビューなどを掲載し、公式サイトでは開発者向けの業界情報・開発経験の文章を定期的に更新している。パブリッシャーとして発信力が強いのが特徴。
そして2009年に成立したCoconut Island Games社は解禁後にインディ向けの業務を展開し、ホラーゲーム「返校(ヘンコウ)」を審査クリアして中国で10万本以上の販売実績で有名になっている。有名な動画アップローダーたちと提携してゲーム紹介動画、生放送を提供するマーケティング戦略が成功している。
一番歴史を持つ心動(シンドウ)ネットワークズはウェブゲームを始めオンライン・インディなど多角展開をしており、関連会社が運営している「Taptap」は中国最大のAndroidゲームストアとして知名度が高い。また、大手パブリッシャーとして自社の開発・翻訳部門を持ち、現場技術支援や、予想販売利益の一部を前払って開発資金として提供するなどのサポートサービスも充実している。
これらパブリッシャーの共通点として、ゲームの審査・移植・ローカライズなどの段階で発生した費用はすべて販売利益の30%に含まれており、開発者には料金が請求されないことが挙げられる。その代わり、ゲームを提出する際に社内審査があり、予想利益が一定の基準を超えた場合のみ契約が可能となっている。言い換えれば、その審査基準を満たしやすいのは海外で既に成功しているゲームであり、それを狙って輸入する傾向があるのだ。心動ネットワークズ社からの情報によると、各社とも今年はより多いゲームを輸入する方針にあり、もし新作ゲームのクオリティーに自信があるなら積極的にアピールする価値はあるだろう。
パブリッシングに関する情報は以上だが、発売プラットフォームはどうなっているだろうか。
まず中国では、モバイル側はGoogle Playが利用できない代わりに、サードパーティのAndroidストアが多く存在するのが最大の特徴だ。それぞれのストアは自分のSDKを提供していて、パブリッシャーがアプリを各ストアに登録する時の移植作業は非常に大変だ。
そしてユーザーの構成に関しては、Android市場の状況が複雑で集計できない、アップルが中国の販売数量を公表していないなどの理由で不明だが、ゲーム開発者の間では、iPhoneのApp Storeが20%ほどで、複数のAndroidストアが残りの80%の市場という意見が一般的だ。また、政府の発表によると中国では現在スマホユーザーが13.5億人いるという(中国人口数は2017年まで13.8億人)。そしてゲームに特化したAndroidストア「TapTap」は800万人以上のユーザーを持ち、最多数となっている。
PCの場合、昔からオンラインゲームが絶対的に主流だったが、近年Steamが流行り始め、2017年末までにユーザー数は2000万人を突破している。中国最大手の騰訊(テンセント)社が運営しているPCゲームプラットフォームWeGameは2017年10月運営開始以来、アクティブユーザー数はもう500万人を超えているという。
据え置き機は解禁後に販売し始めたばかりだが、過去の個人輸入など含めてユーザー数は600万人ほど。その中にはSteamユーザーも兼ねている人も少なくない。一方、騰訊社は「高品質のゲームを一般人にも届ける」という方針であり、WeGameのユーザーはゲーム機やSteamのユーザーとはまた別のクラスタだ。
「ゲームなんかまともなものじゃない」という考え方は、娯楽手段が乏しい80・90年代からずっと中国国民の心の中に深く根付いている。今でも、ゲーム好きな人々はマイナーな存在(事実上はもうマイナーではないが)だと認識され、そういうプレイヤーたちは集団アイデンティティを強く求めているというのが、海外のユーザーと比較する上で、一番の特徴ではないかと私は思う。
去年末に中国国内では「恋与制作人(恋とプロデューサー)」というスマホの恋愛アドベンチャーゲームが人気を集め、一時的にソーシャルメディアではユーザーたちがゲームキャラとデートする時のスクリーンショットをシェアする話題ばかりとなっていた。しかし今年1月中、日本の放置育成系ゲーム「旅かえる」がブームになって、「恋与制作人」の話題はたった2日間でネット上から消失した。現状、「こんなゲームに数百時間を使うのはおかしいだろう」と言いながらやはりやめられない人が多数いるのが事実だ。
ひとつ言えることがある。中国のユーザーたちがゲームを遊ぶ一番の動機は「友達も同じゲームをやっている」ことだ。ソーシャルネットワーク経由でこの影響は拡大され、有名な俳優・タレントなどがシェアするとさらにブームになりやすい。集団心理が強い中国のユーザーたちは、同じゲームを遊び、結果を他人と比較することに楽しみを見出している
「恋与制作人」の場合、プレイヤーたちはデート時キャラの反応と結果を、「旅行青蛙(旅かえる)」の場合、かえるからもらったポストカードをシェアする。目的は競争ではなく、他人と同じゲームをし、それぞれの結果をシェアして仲間意識を満足させる事だ。以前「Flappy Bird」の点数シェアや、「Angry Birds」のバカ動画が流行ったのもそうだ。e-sportsやコアプレイヤーの心理は海外の人々とあまり変わらないが、一般プレイヤーたちは「みんなと一緒に楽しんでみんな仲間だ」というのをオンラインゲーム時代からずっと求めているのだ。
では、そういった一般のプレイヤーたちにいかにゲームを届けるのか?
ヒットするゲームに共通する特徴はやはり「非常にシンプル、そして意外と奥行きが深い」である。カジュアルなゲームで誰でも簡単に遊べるが、誰でもいい成績や同じエンディングを得られるとは限らない。そこから中国のユーザーたちは他人とコミュニケーションを取りたくなり、自発的にマーケティング効果が発生するのだ。また、コアユーザー向けなら戦略ゲームも同じ効果が期待できる。
しかしながら、こういう現象は作為的に再現するのは難しく、ユーザーたちの意識も簡単にそらされるのが問題点だ。現在中国のパブリッシャーが研究しているのは、格安の値段でゲームを提供してとりあえずユーザー数を確保する事や、ユーザーたちの集団心理を利用して、開発者もソーシャルメディア参入して一般ユーザーと交流し、新アイデアをゲームに組み込んで持続的に人気を集める方法だ。また、レビュー掲載や広告など、ユーザーにとって参加度が低い手段より、積極的にレビュー動画・コンテスト・生放送など、インテラクティブ性のあるプロモーションを企画するのもいい方法だ。
中国ではインディゲームのパブリッシングはまだ発展途上だが、莫大な人口には無限の可能性が秘められている。「本当にいいゲームならジャンル問わず売れる」と、中国ゲーム業界の人々は信じつつも、ユーザーたちにゲームを届ける方法を模索している。日本の開発者たちも是非この機会に、素晴らしいゲームを中国のユーザーたちにアピールしてみよう。
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