『神巫女』は天魔を討たんとする3人の巫女たちがいにしえの日本を奔走する2Dアクションだ。ワンコインで買える小品ではあるもののタイムアタック機能もあり、やりごたえは十分。著者も3人のキャラクターでクリア済みだ。
たった4ヶ月の開発期間でコアメンバーは2人のみ。それでSwitchの「ほぼ」ローンチタイトルというのは控えめに言っても異例だろう。今回はそんな『神巫女』の開発にあたったサークル「スキップモア」のユウラボさんと、ゲームクリエイターのKan.Kikuchiさんに話を伺った。
インタビュー: 池和田 有輔
ユウラボ
DTP関連のデザイン会社に勤めた後、2005年に独立。スキップモアとしてガラケーやスマホでカジュアルゲームを多数リリース。現在はコンシューマ向けにドット絵ゲームを開発中。
Kan.Kikuchi
学生時代に個人でiOS向けのアプリをゲーム中心に28本リリース、その実績を生かし新卒で就職するも5ヶ月で転職。転職先では主にUnityを使ったゲームアプリを開発、2年ほど勤めた後、2016年に独立。現在はユウラボ氏と共に、PCやコンシューマ向けのゲームを開発中。平成生まれ。
池和田
ユウラボさんとKikuchiさん、『神巫女』でのお二人の役割を教えてください。
ユウラボ
プログラム以外のところ全般です。ゲームシステムを考えたりのプランニングから、ストーリー、キャラクターデザイン、ゲームデザイン、効果音も僕がやってます。
Kikuchi
僕はプログラム全般のほかに、ユウラボさんが作ったものに「こうした方がいいんじゃない?」みたいなことを言う、サブのゲームデザイン的な役割もしていました。
池和田
プログラマーの目線だから言えることもありますよね。当初、どのような経緯で開発が始まったのでしょうか?
ユウラボ
これは多分話しても大丈夫だと思うんですけれど、Kikuchiさんとは『ピコンティア』という別のゲームを開発していたんです。でも開発資金がちょっと足りなくなってきてしまいまして。軽めのものを3ヶ月くらいで1本作り、それをSteamでリリースして、開発資金の足しにできればな…っていうのが発端です。『ピコンティア』の戦闘部分が良い感じで動いていたので、その部分を使って何かできないかなあと。
池和田
ということは、もともとはNintendo Switchじゃなかったんですね?
ユウラボ
そうですね。ただタイミング的にちょうどSwitchで開発できる環境が整ったので、そちらの方にシフトしたという。
池和田
『ピコンティア』とは世界観は全然違いますよね?
ユウラボ
全く違いますね。もともと『神巫女』は、外国の人が日本のゲームに憧れて、日本っぽいゲームを作ってるよっていうのを、Twitterでアカウント作ってやろうかなと思ってて。
池和田
(笑)。そういう体のものを?
ユウラボ
外人のフリして「こんなゲーム作ってるよ」っていうのをやろうと思ってたんですけど、そこで「外人から見た日本」みたいなイメージがもともとあったんです。でも、パブリッシャーのフライハイワークスさんと話した結果、一切口外しないで極秘に作ろうということになって流れちゃったんですけどね。
池和田
それはそれで見たかったです(笑)。プロジェクト自体はかなり秘密裏に行われてたんですね。
ユウラボ
そうです。だからSNSとかではKikuchiさんも僕も『ピコンティア』を作っているフリしてて(笑)。
池和田
実際は誰にも言わずに粛々と『神巫女』を作っていたわけですね(笑)。
池和田
開発中、特にこだわった部分ってありますか?
ユウラボ
これはもうKikuchiさんが頑張ってくれたキャラクターの操作感とか、気持ち良さですね。敵をズバズバ切っていったり。自分のディレクションだけでなく、Kikuchiさんが自分で判断して入れてくれたものも結構ありました。例えばSPがバラバラって散らばって吸い込まれるところは、Kikuchiさんがプログラムしたものの方が僕がやろうと思ってたことよりも良かったので、「じゃあもう、それで行きましょう」みたいな感じで。
池和田
では、そういったフロントの演出や実装もKikuchiさんの得意分野なんですね。
Kikuchi
そうですね。そういった細かい演出とかは、良いのを思いついたら作って見てもらうやり方が早かったですね。
池和田
それにしても『神巫女』はランキングでも1位になったり、ローンチに近いタイトルとしては大成功だったんじゃないですかね?
ユウラボ
もともとローンチを目指していたものの少し遅れてしまい、どうなることやらと思っていましたが、結果は期待以上にいい感じになったと思ってます。皆さん『ゼルダ』からちょっと一息つきたいタイミングだったのかなあと。
池和田
結果オーライ、ですね。
ユウラボ
そうですね。海外のランキングでも上位に行けたのが良かったです。もともとあちらの市場を狙って作っていたので、その辺もうまくいったかなあと思ってます。
池和田
お二人は『1-Bit Rogue』も一緒に作られてますよね。もともとお知り合いだったんですか?
ユウラボ
もともとはTwitterでの関わりしかなかったです。ちょうど同じぐらいの時期からそれぞれアプリを作り始めていたので、お互いTwitterでいつの間にかフォローしていました。最初の頃だから、僕は『イクラプチプチ』っていうゲームとか作っていましたね。ウェブサイトを見ていただくとわかりやすいと思うんですが。
池和田
めちゃくちゃたくさん作っていますね!
ユウラボ
もともとフリーランスのDTPデザイナーをやっていたんですが、この頃はなんか、特にやることもなかったので。Kikuchiさんは最初って、ツール系のアプリでしたっけ?
Kikuchi
そうですね。大学3年の冬休みぐらいにものすごく暇だったので「なんか作ろう」と思って。ツールやゲームを何本か作っているうちに、それが主になって就職しました。会社勤めをしながらも個人開発を続けて、今年の1月に独立しました。
ユウラボ
僕が3DSで『フェアルーン2』を出したあと何をしようか考えていたとき、漠然と「Unityで作っておいたら今後いろいろ展開がしやすいだろうな」って思ってたんです。そのときに『1-Bit Rogue』の企画も考えていて、「Unityが使えてローグライクが作れるプログラマーさんはいないかな?」と。KikuchiさんはUnityを使っていたし『ローグライフ』というローグ系のゲームを出していたので、声をかけさせていただいたんです。
池和田
ユウラボさんが初めてゲームを作ったのは?
ユウラボ
小学校5、6年ぐらいですね。自分でゲームブックの内容を書いて、それをパソコンに打ち込んで遊べるようにしたのが最初です。そのときも友達のプログラマーと組んで、いろいろなゲームを作っていました。ただ、1本も完成はしてなかったですけど。
池和田
その頃から、仕事としてゲームを作るようになると思っていましたか?
ユウラボ
中学校3年ときの進路指導みたいなやつで、「将来何になりたいか」って聞かれて「ドッターになりたい」って言ったので、その頃はもう職業として意識していました。
絵を描くのが好きだったっていうのもあるし、中学のときに作ってたゲームでの僕の役割がドット絵だったし、その延長線上で。当時は3Dとかなくて、ゲームのグラフィックと言えばドット絵だったので。
池和田
ドット絵を作る上でのこだわりは?
ユウラボ
パブリッシャーさん曰く「レトロなドット絵っぽいけど、今風の表現も取り入れてる」というところが僕らしいみたいなことをおっしゃっていただいて、「ああ、そうなのかな」と思っています。
ただ単にレトロじゃなくて、光の表現を入れたり、解像度が違うものが混在していたり、拡大・縮小が入っていたりとか。「今だからできる表現」ですよね。ピクセルパーフェクトにこだわるのもそれはそれで、ものすごくわかる。ただまあ、せっかくいろいろできるんだったら、いろいろしようかなと。
池和田
今後、ユウラボさんのアートスタイルがガラッと変わる可能性はあるんでしょうか?
ユウラボ
どうでしょう、3Dに行かない限りはないかな。一応昔から言っているのは「ファミコン以上、スーファミ未満」。そこが個人で作るにはちょうどいい情報量かなと。『神巫女』は今までの僕のドット絵とはちょっと違うタイプではあったんですが。
池和田
ブログの中で、はちのすさんの影響について言及していた「フチなし」の話ですか?
ユウラボ
そうですね。一昨年のBit Summitのとき、向かいの会場でやっていたMegabit Conventionで、はちのすさんが出展されていて。実際に触って「すごいな」と感じて、はちのすさんが紹介しているゲームやリツイートしてくれる海外のゲームの画像とかを見て、「こういうのもアリだな」と思って『神巫女』のフチなしドット絵の方向性が決まりました。
池和田
今回の『神巫女』のあとには『ピコンティア』が控えてますよね。
ユウラボ
そうですね。『ピコンティア』は自由に生活ができる、スローライフRPGです。クラフト、農業、採取、釣り、アクションゲームみたいな感じでモンスターと戦ったりとか、「今やれることを全部詰め込んでみよう」という感じのゲーム。1日24時間がゲーム内では24分、それで朝・昼・晩があるので、その範囲で行動できる大きさのマップが入っている箱庭系です。
池和田
何か特定のミッション、クエストみたいなものが発生したりするんですか?
ユウラボ
メインストーリーのクエストをこなしていくとお話が進んでいって、島の謎が徐々に解けていく。それとは別に、住人たちの頼みごとを聞いていったら住人と仲良くなっていく。「このクエストをやりなさい」とか絶対話を進めないといけないというのは特になく、好きなときに話を進めてもいいです。
池和田
RPGと言っても「ラスボスを倒したら終わり」というようなゲームではないんですね。
ユウラボ
そうですね一応ストーリーのエンディングはありますが、そのあともそのまま農作業したり採取したり街の人のクエストをこなしたりというのは続けていける……ということになる予定です。
池和田
長く楽しめる内容になりそうですね。
ユウラボ
ボリュームは確かにありますね。ただ『神巫女』と一緒でコアメンバーが二人なので、最終的なリリース時期に物量をどこまで入れられるかというのがまだちょっとわからなくて、ここではあんまり大きいことを言えないんですけど。
池和田
展開予定のプラットフォームは?
ユウラボ
当初はSteamで出して、そのあとコンシューマーに展開していこう、という感じで進めています。先日、Nintendo Switchでもリリースすることを告知したところです。「寒くなる前にはリリース」というのを目指してやっていますので、よろしくお願いします。
池和田 有輔
フリーランスとしてWEB制作・広告制作のキャリアを経て、2013年からRépublique開発チーム(Camouflaj, LLC.)に参加。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社に入社後はエバンジェリストとしてUnityの伝道活動に携わってます。