岡山に拠点を置く『ココノヱ』は、ゲーム性のあるインスタレーションを得意とするクリエイティブ・ラボだ。彼らの代表作の1つである『ピーポーパニック!』は、釣竿の先端に付いたUFOによって床に投影された街に住まう人々を吸い上げる、可愛くもちょっとシニカルな体験型コンテンツだ。
今回は彼らのオフィスにお伺いし、制作を手掛けたディベロッパーの岡田さん、デザイナーの蚊野さんに話を伺った。
インタビュー: 池和田 有輔
岡田 隆志
1986年岡山生まれ。大阪のWeb制作会社にてFlashエンジニアとして3年ほど勤務。2011年よりココノヱに所属。主にインスタレーションコンテンツのソフトウェア開発やモーション制作を担当。
蚊野 佳美
1991年生まれ。京都精華大学デジタルクリエイションコース卒業後、ココノヱにデザイナーとして入社。入社後は、クライアントワークとして子供向けのアプリデザインや、自社開発インスタレーションの制作に関わる。
池和田
ずいぶんユニークな社屋だと思うんですが、現在は何人くらい働かれているんでしょうか?
岡田
今、10人ですね。建物自体は元々蔵だったんですけど、それをオフィスに改装しまして。
池和田
入るとき「失礼します」というべきでしょうが、雰囲気的に「ごめんください」と言いそうになりました。
岡田
どちらでも良いと思いますよ(笑)。
池和田
みなさん、このあたりに住まわれてるんですか?
岡田
だいたいそうですね。働くことになって岡山に引っ越してくる人も多いです。
池和田
なるほど。では、『ピーポーパニック!』について聞かせてください。蚊野さんと岡田さんはプロジェクトではどういった役割だったんでしょうか。
岡田
僕はソフトウェアのシステムと演出を担当しました。演出面では蚊野が作った3Dオブジェクトにアニメーションをつけたりしました。
ココノヱに入って6年ですが、入ったばかりの頃はFlashのサイトをずっと作ってました。それが、だんだんこういうインスタレーションも作るようになって。最初のうちは全部Flashで作ってましたが、一昨年あたりに「Unity使いやすいみたい」というふうな話を聞き、少しづつ移行していった感じです。
蚊野
私は『ピーポーパニック!』では全体のデザインを担当していました。主に3DのモデリングとUIのデザインですね。企画面とか、タイトルを決めるのは社員全員で、という感じです。
池和田
社員みなさんで企画を立てるのですか?
岡田
そうですね。小さい会社なので、参加するメンバーはとりあえず集まって、企画出しのところから全員同じように意見を言うんです。今回もみんなで集まって「じゃあ、何をやりましょうか」という感じで誰が中心というわけでもなく、全員でブレストするような感じでした。
蚊野
「複数人で遊べるインスタレーション」というテーマだけは決まってましたが。
池和田
話がまとまらなくなるとか、そのへんは大丈夫なんですか?
岡田
まとまらないです(笑)。
蚊野
まとまらないですね、本当(笑)。
岡田
エンジニア、デバイス担当、デザイナーと、やりたいことが各々違う中で企画を揉んでいくんです。
池和田
面白いスタイルですね。プロジェクトに参加しない人でも意見を言う分には良いんでしょうか。
岡田
そうですね。時には「こんなデザインはどうですか?」って、デザイナーではない僕が言ったりとかもします。
池和田
風通しが良いんですね。
岡田
ありがとうございます。
池和田
ものづくりをする上で「ココノヱさんらしさ」というものは、どういうところにありますか?
岡田
「らしさ」でいうと、最新の技術をあまり使わないというところかもしれません。センサーとか、カメラとか、新しい技術を前提に何かを作るのではなく「新しい体験をつくる」という方がメインなので。それを再現するために何が必要かというところから、候補となるデバイスを触り始めることが多いんです。誰もがなんとなくやったことがあること、例えば福笑いなどの昔の遊びとか、今回の『ピーポーパニック!』でいうと「釣り」ですが、それを技術を使って新しい体験に変えるような感じですね。
池和田
なるほど。あくまでベースはアイデアとか発想で、必要であれば新しい技術を取り入れるけど、それに振り回されない、みたいなところですかね。
岡田
もちろん最新の技術とかセンサー類をチェックしてはいますが、いざ何かを作ろうとすると「どの体験が面白いか」「これは子どもに楽しんでもらえるのか」とか、そういうことばかり考えています。あとは、ちょっとクセがあり、かつ親しみやすいものを作るのが得意かもしれません。あまりシュッとしたものを作らない。作らないというか作れないのかもしれないんですけど。
池和田
カッコよすぎない、みたいな?
岡田
そうですね。アート寄りにならないというか。「子どもがワーッと群がって、ワイワイやる」みたいなものを作ることが多いです。会社のイメージとしてもそんな印象が強いみたいで、クライアントさんからもそういうご相談をよくいただきますね。あと、うちには社訓があって。「もうひとかさね」というのが社訓なんです。
池和田
おお、なんだか渋いですね! 詳しく聞かせてください。
岡田
ホームページにも「重ねる」って漢字でドンと載っているんですけど「一個作ったものを、ここで終わりとせず、もうちょっと考えてみる」ということですね。作る上でもそうだし、作った後もなんです。例えばイベント後の反省会で、「ここはもうちょっといけたんじゃないか」とか「次に作るときはもうちょっとできるんじゃないか」と、もう一個重ねるための話をするんです。九に重ねるで『ココノヱ』ですので。
池和田
なるほど。そこからきているんですね。ちなみにミーティングや反省会で「もう一個重ねよう」って、主に誰が言うんですか?
岡田
代表です(笑)。でも全員、意識の中ではあると思います。
池和田
作品が生まれた経緯を教えてください。
岡田
まず、地元でインスタレーションを出展するイベントがあり、それに向けてココノヱの若手陣で新しいものを作ろうという話になったんです。予算の関係もあり「会社にある機材で何か面白いことをしよう」というところから企画会議が始まりました。
イベント自体が一昨年の10月で、スタートが8月だったのであまり時間がなかったんですが、企画会議は何度もやったんですよ。その時になぜか「UFOで牛を吸い込みたい」みたいな案がちょこちょこ出てきまして。誰からともなく。
池和田
何か‥‥闇を感じますね。
岡田
疲れていたんです(笑)。
池和田
でしょうね(笑)。
岡田
「この案、何回も出てるし、1回作りますか」みたいな流れから企画が決まりました。作る上で、ちょっと不思議な体験がほしいんですよ。手品じゃないんですけど、「これ、どうやっているんだろう?」という、ちょっと不思議な感じ。その中でも、特にアナログな体験からデジタルな体験にシームレスに移る時に感じる不思議な感覚を、うちの会社は得意としていて。描いたイラストがデジタルディスプレイを飛び回る『撃墜王ゲーム』とか、まさにそうなんですけど。
『ピーポーパニック!』で言うと、実際に体を動かし、UFOを動かし、それによって下のデジタルのものに変化を起こすというのは、慣れ親しんでいるマウスやキーボードとは違って不思議な感じがありますよね。実際に触っているものから演出が起きることの面白さがある。それから操作が簡単なので子供にもできるし、みんなで遊べるというテーマにも合ってました。
池和田
なるほどね。釣り竿にUFOがぶら下がっているデザインはとても特徴的だと思いますが、そのアイディアはどこから生まれたのでしょうか。
岡田
いろいろありましたね。最初は手袋だったんですよ。手袋にUFOをつけて、こうやってこう‥‥吸い込めるというゲームを作ろうとしていたんです。
蚊野
でも「手だとすぐに捕まえられちゃうからゲーム性がないよね」という話があって。釣り竿だとちょっと揺らぎがあって、自分の思ったように操作できないのが良かったんです。
岡田
かつ、ちょっとフラフラしているのがUFOっぽいし。
池和田
手だとちょっと生々しいですよね。
岡田
僕はその生々しさがいいかなと思ったんですけど。神様になったような感じで、箱庭で人や建物を操作したり‥‥。
池和田
岡田さんはそういう願望があるんでしょうか。
岡田
そうですね、そういう欲求が(笑)。
蚊野
載りますよ、岡田さん。人を操作する願望があるって(笑)。
岡田
大丈夫です(笑)。ちなみに、今回作る上では特にデバイスを使う上での気持ち良さをかなり考えました。
池和田
お、岡田さんのこだわりポイントですね?
岡田
やっぱり気持ち良くないとやってもらえないな、というのが僕の中にあって。どれだけ、いかに気持ちよく人を吸い込めるかという。
池和田
そこの気持ち良さですか(笑)。
岡田
でも、重要なんですよ。人が気づいて逃げたりするけど、ちゃんと追いついたら吸い込める。吸い込むまでの秒数とか、人をどれぐらい出すかとかをすごく考えて。もちろんゲームとしてルールも重要ではあるんですけど、まずこの体験自体が面白いと思ってもらえるかが大きくて。やってみたくなるものを作らなくてはダメなんで。
池和田
納得いくまでひたすら調整、みたいな。
岡田
人を吸い込むというデバッグをずっとやってましたね。
池和田
こだわった部分でいうと、蚊野さんはいかがでしょうか。
蚊野
デザイン的には俯瞰で見せるので、絵として面白くすることにはかなり苦労しました。建物も屋根しかないので個性が出せないし、人も頭からしか見えないから個性を出しにくくて。とにかくわかりやすくとっつきやすく、みたいなことを意識していました。
岡田
ボクセルなので、人でも建物でも上からみたらただの四角なんですよね。それをいかに認識させるかが重要で。そのあたりを考えずにやるとのっぺりしちゃうんで、見せ方を考えたりしましたね。
蚊野
それから、捉え方によっては、ですけどコンセプトがちょっと残酷なので、見た目はちょっとオブラートに包んでPOPな感じにして、どんな方でも体験してもらえるようにしたいな、というのがありました。
岡田
僕らが作っているときにはあまり気づいていなかったんですが、現場で「そのUFOで人を吸ってみよう!」って言うと、親御さんに「‥‥‥」っていう顔で見られたり。
蚊野
「誘拐ですね」みたいにおっしゃられて。
岡田
「いや、イタズラです」みたいな(笑)。
池和田
うーん、まあ、そうなるのか(笑)。子どもの反応はどうでしたか?
岡田
お子さんにはUFOを釣り竿のように吊るしているというのが結構キャッチーだったみたいで、それに食いつく子が多かったですね。あとはサウンドですね。
蚊野
「キャー」っていう人の絶叫がゲームで流れるんですが、それが結構キャッチーみたいでみんな寄ってくるんです。スタッフの声を加工した電子音なんですが、効果がありました。
岡田
弊社のコンテンツは、たまにやたらハマるお子さんがいるんですよ。何時間もずっとやり続けて、もう親は疲れて後ろでずっと座りっぱなし(笑)。違う子どもにルールを教え始めたりして‥‥。
池和田
面白いですね。
岡田
建物を吸うと中から人が出てくるんですけど、当初は思ったよりそれが伝わりにくかったんです。そうしたら、体験した子の一人が「ここに人がいるから」ってルール説明し始めて、コミュニティが作られ始めたんです。そういうことがあると、僕らは「よし!」と思って、ちょっとガッツポーズしたりします。そのあたりは上手くいったかどうかの指標でもありますね。
それから、お子さんを対象とする場合、あまり勝敗を決めないようにしてます。勝敗があっても「ゲームがうまい人が勝つ」みたいなルールにはしないで、描いたイラストによって強さが決まるとか、そんな感じが良いかなと。今回はみんなで協力してチームの得点が決まるので、小さい子が悲しんだりしないかと思います。
池和田
岡田さんは開発していく中で、どういったときに楽しいと感じますか?
岡田
新しい体験を作るとなると、今まで自分でもやったことがないわけですから「これ本当に面白いのかな?」と思いながら作ることになります。でも、モックが形になる過程で「大丈夫かな?」だったのが「これ、行ける!」って思える日があって、その日はずっと楽しいですね。
池和田
ブレイクスルーね。
岡田
ですね。そこからは「盛り込んでいくだけで絶対良くなる」と思うので、まずはそこを目指すという感じです。
池和田
なるほど。蚊野さんはいかがですか?
蚊野
やっぱりプロトタイプができてこの体験が新鮮だと思えた瞬間と、楽しんでいる方の姿を見られるのがインスタレーション作りの醍醐味だなって思います。『ピーポーパニック!』は高齢の方のリアクションが良くて、それがすごく意外で。UFOって割と老若男女問わずキャッチーなものなんだなというのがわかりました。だから「お孫さんとおばあちゃんが一緒に遊べるものができたんだな」とわかった時はけっこう感動しましたね。
岡田
以前、おばあちゃんが一人でふらっと来られて、「UFOで人を吸うゲームなんです」って説明したら「楽しそうね。私もね、素敵な人生だったからね、もう私も吸われたい」って(笑)。「いえいえ、まだまだお元気で」って。なんだかよくわからないリアクションですけど(笑)。でも、ちゃんとルールを理解していただけたんですよね。
池和田
いいリアクションですね(笑)。『ピーポーパニック!』は今後アップデートするのでしょうか?
岡田
そうですね。UFOをペーパークラフト化して、お子さんに塗ってもらったりするワークショップ的なことをして、その流れでゲームも遊んでもらうみたいなことにすれば、夢が広がりますよね。
蚊野
想像力も。
池和田
クラフト要素は良いですよね。「ゲームなんて‥‥」というお母さんもニッコリ、みたいな。
岡田
そう、教育的にも良いですよね。しかも持ち帰れるし、思い出にもなる。時間を作ろうか、という話をしています。
池和田
今後、展示の予定はありますか?
岡田
3/23に、虎ノ門ヒルズで行われるSensors Ignition 2017に出展予定です。イベント自体、ここ2年ぐらい出させていただいてますけど、今年も参加します。
池和田
もう直ぐですね。僕も体験しに行く予定です! 本日はありがとうございました。
池和田 有輔
フリーランスとしてWEB制作・広告制作のキャリアを経て、2013年からRépublique開発チーム(Camouflaj, LLC.)に参加。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社に入社後はエバンジェリストとしてUnityの伝道活動に携わってます。