2017.03.22
『 ピーポーパニック!』のもうひとかさね
岡田 隆志
ピーポーパニック!
ココノヱ

はじめまして。『ピーポーパニック!』のソフト開発を担当したココノヱの岡田です。

所属するココノヱという制作会社は、岡山にあります(東京まで新幹線で3時間かかります)。
今回制作した「ピーポーパニック!」というインスタレーションは、2016年10月に地元岡山で開催されたイベント出展に向けて新規コンテンツを制作するお話をいただき、ディレクター、デザイナー、デバイス開発2人、ソフト開発の計5名で企画を進めていきました。

自社開発インスタレーションの特権は、ローンチ後も来場者の率直な意見やリアクションを受け、次回の展示に向けて体験方法やコンテンツそのものを大胆にリニューアルしていくことが可能なことです。

「ピーポーパニック!」は過去二回の展示、そしてこの先の展示にあたって、都度修正を加えていきました。企画決定の背景から、イベントごとにどのように軌道修正していったかをご紹介します。

1. 企画会議~開発

今回の企画で大切にしたのは、「子どもから大人まで複数人で同時に楽しめ、故障しにくく、不思議な体験ができるもの」。そして何より、自分たちが作りたいものを作ろう、という気持ちが強くありました。

この記事を書くにあたって、企画会議中のメモを見返してみました。

以下はごく一部ですが、自由な発想で会議をしていたことがわかります(苦笑)。

そんなまとまりのない企画会議を毎日続けていきました。8月中旬、社内向けのプレゼンがあり、3つの企画を提案しています。

ならばナイト

カメラで撮影した人を画面内に読み込んで、巨大なモンスターを倒すゲーム風インスタレーション。
撮影した人がコマアニメになり、モンスターを倒すため攻撃の順番が来るまで律儀に整列する。負けるとまたカメラで撮影されにいくという非効率でアナログな参加方法であり、見た目の面白さと、ゆるさ、シュールさが売りのコンテンツ。

箱庭(ちきゅう)

天候を操作する手袋型デバイスで天地創造する、癒し系インスタレーション。太陽/雲/木など役割のある手袋をはめ、ディスプレイの上で手を振ったり動かしたりすることで、ディスプレイ内に起こる変化と箱庭作りを楽しむ。

Hole New World

モニターの下に手を差し込み、モニター上では自分の手があらゆるものに変換されて表示されるシステム。体験者は自分の手がモニターに入りこんだような不思議な感覚が楽しめる。

社内プレゼンの結果は、拭えない既視感と、さらなる新しい体験を求めて、全てボツ。期間の無い中、さらなる新たな企画を生み出すため会議を続けるのでありました。

「箱庭」での天地創造する感覚を残したまま、何かできないか。UFOで牛を吸い込むという提案が過去に何度か出ていたという話はインタビューでもさせていただいたのですが、この「箱庭」からの派生で、UFOを実現できるのではという流れから、一気に企画は固まり始めます。

プレイヤーは地球へ観光しにきた宇宙人。街で迷子になった息子を探し出すため、手袋型のUFOで人を吸い込みながら自分の息子を探す「UFO~ウチのファミリーがおらん!~(仮)」という企画にまとまっていきました。

※ おらん:岡山弁で「いない」という意味です。

そして、再度社内プレゼンへ。
弊社は3Dコンテンツに疎く、モデリングも比較的作りやすいボクセルを使って制作することが決まっていたので、この企画では地球人と宇宙人の違いを出すのが難しいことや、以前のような天地創造の神様感が無いので、もはや手袋の必要がないのではといったフィードバックがあり、UFOは手袋から釣り竿デバイスへ。ゲームは人探しから、時間内に街の人全員吸い込めるか。といった内容に変化していきました。

企画が決まった時点で8月も終わり、残り二ヶ月を切っています。スケジュールの割にボリュームのあるコンテンツを提案してしまった…という不安を残しつつ開発へ。この動画は、別々で開発していたデバイスとUnityでのモックが合わさったときの様子です。

これは、体験として面白い。というのはこの時点でのモックで感じていて、一つ予想外にラッキーだったことは、プレイヤーはUFOの位置をあまり気にしないということ。UFOを動かせば、光が同じように動く。その動作だけで十分コントローラとして成立していて、正確に光がUFOの真下に無くてもあまり気にならなかったのです。

深度情報を使用せず、赤外線カメラで再帰性反射材の位置だけをセンシングする今回の仕様では、位置の正確さを求められるとかなりの工数が必要になりましたが、ざっくりとした位置検出で済むというのは助かりました。新しい体験は、モックを作って実際に体験してみないと見えないことが沢山ありますし、それによってコンテンツ企画自体ひっくり返ることもあるというのは、インスタレーション独特の開発感覚だと思います。

そして、自由参加の場合は特になのですが、体験者は通りすがりであることも多く、ちゃんと体験しようとやってくる参加者は少ないです。操作について一度に色々言われても、体験者はそんなつもりで前に立ってないので混乱してしまいます。つまり、一言二言でゲーム全てのルールを理解でき、操作はシンプルでなくてはならない。「UFOを街の上にかざして、人を全員吸い込むゲームです」それだけで全てが理解できるゲームに仕上げられるよう徹底しました。

体験としては面白い。ビジュアルも楽しい。しかし、ゲームとしては面白くない。なんてこった。展示二週間ほど前の話です。

ただ人を吸うだけのゲームを前に、デバイス担当と2人で頭を抱えました。ここからゲーム性を高めていくため、最善の方法はプレイヤーを焦らせる、という結論になります。残り制限時間が少なくなるごとに焦らせるテロップを表示させ、30秒前にBGMが早くなり、人が必死に逃げ惑う。そういう演出を細かく入れていくことで、終盤一気にゲーム感が増していきました。

2. 地元岡山での初回展示と反省点、続く開発



当日の展示では多くの方にご来場いただき、親子連れのお客さまを中心に楽しんでいただけたようです。初めて出会った子どもたち同士が互いに協力している姿は、開発者として嬉しい光景です。そして、dotFesという東京での次回イベント展示が決まりました。

大切なことは反省点を洗い出し、次回に向けて引き続き開発をしていくことです。それは機能の足し算だけでなく、ときにはゲーム性すら変更することがあります。

会期中、UFOを鷲掴みにして操作しようとする少年が現れました。それも一人ではなく何人も。天面を隠されるとセンシングができないため、街に光は現れません。少年はさらにイライラし、故障したおもちゃを扱うように、掴んだUFOを振ります。そうなるとなかなかこちらの話は聞き入れてくれません。一度離しても再び掴みます。

いくら注意をしても意味がありません。つまり、そもそも掴めないようにしないといけなかったのです。

また、台の上に50インチのディスプレイを上向きに置いて展示していたのですが、背の小さいお子さんには画面が見づらかったようで、簡易の足場を用意しても反対の画面端までUFOが届かず、ゲームが十分に楽しめないということがありました。

解決策として、出力をディスプレイからプロジェクターに変え、地面に投影する釣り堀スタイルへ変更しました。画面が離れることでUFOを鷲掴みにすることは無くなり、また地面に投影されるので身長による制限がなくなりました。

街の建物を吸い込むと中から人が現れ、吸わなければいけない人が増えます。誤って建物を吸ってしまったときのペナルティのつもりで実装しました。しかし本番では、建物の中にいる人も全員吸わないといけないと勘違いする原因になっていました。

また、残り30秒になると街の人はUFOに気づき全力で逃げるのですが、システム上吸い込まれにくくしています。
前半は吸い込む気持ちよさを楽しんでもらい、後半は時間に間に合うか焦る感覚を楽しんでもらいたいという意図だったのですが、後半捕まえにくくなることに、ただただイライラするお客様もおられました。

2つに共通することは、やはりルールがシンプルではなかったということです。

修正するにあたって「時間内に全員吸い込む」から「時間内に何人吸い込めるか」にルールを変更しました。大胆な変更です。そもそものゲームが変わってしまいました。吸い込む体験をとにかく気持ちよく、建物も人もとにかく吸い込む。そこに特化することで、よりシンプルなゲームに修正していくことにしました。

3. dotFesでの展示と反省点、続く開発


dotFesでも様々な方に楽しんでいただきました。ありがとうございました。反省を繰り返し、次回の展示に向けて準備を進めます。

とにかく吸いこむゲームに変更したことで、一緒にプレイしている人と吸った人数を争う個人対戦ゲームと感じた方がおられたようです。また、シンプルなルールを徹底したことで、ゲームの達成感が薄れてしまうという事態が起きました。これはいけません。修正が必要です。

この二点は、吸った人数を常に表示して、全員で何人吸ったかを意識させることで、チーム戦だと認識してもらう修正を行いました。またハイスコアを同時に表示して、一位を狙いたいという意識を芽生えさせ、達成感を演出しようという試みでもあります。

さらにはUFOデバイスがお子さまにとっては重く、UFOを地面につけてしまうことで、プロジェクターの投射を遮り、影が出てしまうようになりました。

そこで、今回も大きく方向転換を試みます。

UFOをペーパークラフト化するという施策です。
ワークショップ形式にして自分のUFOを塗り、組み立てていただき、それを使って「ピーポーパニック!」を遊んでいただくことにしました。

デバイスは軽くなり、また自分のUFOという意識があるので乱暴な扱いが減ることを期待しています。
UFO同士のぶつかりも紙のため影響が少なく、持ち帰れるため思い出にもなります。

メリットが多いので採用し、ペーパークラフトを設計したのですが、立体物は組み立てるのが意外と難しいことを知りました。ここで断念するお子様を減らしたい。
そこで、組み立てに時間はかかるがUFOらしい形になるパターンと、お椀型だけど簡単に作れる2つのパターンを用意しました。

新たな取り組みですので、どのような反応が得られるか楽しみな半面、正直怖さもあります。
でもそこがインスタレーションの面白みの一つだと思います。

次回の展示はこの記事が公開された週末に開催される SENSORS IGNITIONS 2017 になります。

もし興味をもっていただけたら、「ピーポーパニック!」をプレイしにぜひご来場ください。
そして率直な意見をいただければ、またその反省を活かし、次の展示のため、もうひとかさねしていく、そうやって進化を続けていければと思っています。

プロフィール

岡田 隆志

1986年岡山生まれ。大阪のWeb制作会社にてFlashエンジニアとして3年ほど勤務。2011年よりココノヱに所属。主にインスタレーションコンテンツのソフトウェア開発やモーション制作を担当。

ピーポーパニック!

ココノヱ
  • インスタレーション

プラットフォーム

  • Windows

言語

  • 日本語