東京藝術大学ゲーム学科(仮)「第0年次」展レポート

東京藝術大学、ゲーム学科新設の前兆戦!「東京藝術大学ゲーム学科(仮)「第0年次」展

2018年11月2日(金)~4日(日)、東京・上野にある東京芸術大学アーツ&サイエンスラボにて、「東京藝術大学ゲーム学科(仮)「第0年次」展」が開催された。これは、東京藝術大学大学院映像研究科が開催する、「東京藝術大学にゲーム学科ができたら」という仮定のもとに、同大学院修了生が作った”ゲーム作品”を展示するもの。会場には5名のアーティストによる作品が展示されたのだが、いずれの作品においても株式会社Luminous Productionsが作家に対するメンターの役割を担ったという。

会期中には、3日間(内覧会含む)で、500名を超える来場者があったという。今回の「Unity探検隊」では、展覧会の模様をレポート!ほぼ全ての作品で、Unityが使われている。

薄羽涼彌「ゲーム学科(仮)展 −つづきから−」

(右)薄羽涼彌氏(左)メンターの貫田将文氏(Luminous Productions)

昨年開催された第一回の「東京藝術大学ゲーム学科(仮)」展にも参加をした薄羽涼彌氏による作品。薄羽氏はCGアニメーションから出発。現在はゲームデザイン、アートディレクション、デザインのほか、自らUnityのプログラムを手がけ、独自の世界観を感じさせる作品を手がけている。作品「ゲーム学科(仮)展 −つづきから−」は、薄羽氏が昨年からの取り組みを実験作含め全部で9つのコンテンツを展示したもの。

2018年10月から開発している「Imaginary Dungeon(α版)」。主人公がゲームをしようとすると、テレビが壊れていて遊べない。目を瞑ると頭の中でゲームが始まる。部屋を動いて鍵を探すと、階段が出てきて次の部屋に進める。ゲームの世界では、穴に落ちるとゲームオーバー。また、ゲーム内に敵が出現すると現実世界にも敵が出てきて、敵が顔にぶつかると目が覚めてゲームオーバーになる。プレイヤーは二つのゲームを並行して遊ぶことになる。

薄羽氏はゲームの制作にあたり、「作ったCGアニメを触れるものにする、ゲームとして楽しいものにするという課程で、二つのことに気づいた」と語る。

「まずは見た目の問題。プログラミング上でのコードは同じでも、どうビジュアライズするかで異なる経験になる。もう一つは操作する感覚。自分がこれを操作しているという意識の集中や、自分の意識が行き渡るものが広がって行くという操作感覚の柔軟性。それがゲームにおいて興味を持ったところ」(薄羽氏)

「実験集」この作品も、ゲームの中にゲームがある二重構造。部屋を進んで行くとキャラクターが自分の部屋に入ってくる。「一度定着した自分の意識がねじれたり変容したりするのはゲームだからこそ感じる感覚である」(薄羽氏)

曽根光揮「中の人たち」

左から江波戸天仁氏(Luminous Productions)、曽根光揮氏、岡本美津子副学長

曽根光揮氏の「中の人たち」は、VRとAR、プロジェクションを組み合わせた複合的な作品だ。まずVRの空間では、渋谷駅ハチ公前が舞台になり、体験者は空から振ってくる熊や車などに対して、写真を撮ることで消したり、手で掴んで放り投げることができる。

VR体験者が見ている景色

VR体験者

いっぽうのARは、実は石を移動させるARゲームを体験するのだが、その石は実はVR体験者にとって、降ってくる物体に変化する。

AR体験者が石を落とせば落とすほど、VR体験者はたくさん降ってくるオブジェクトを処理しなくてはならない。そして観客は、その両者を見守る。

鑑賞者が見る景色

本作は映像やVRの向こう側のコミュニケーションから出発した作品。制作にあたり、曽根氏は「アバター」に興味があったという。アバターとは映像と自分の間に、今まで感じたことのない関係性を生み出すもので、自分の定義がどこまで拡張し得るかを探る鍵になる。「ルールを乗っけることで、ゲームとして面白さが増します。本作では、ARの人はゴールがわかっていますが、VRの人はゴールがわからない。まるで、VRは役者で、ARは演出家、外から見てる人は観客のような役割になります。自分はこれまで、映像に仕掛けを作ることによって関係を破壊するものを作っていました。ゲームでしかできない新しい表現とは何なのか、末端だけでも見せることができたらいいなと思います」(曽根氏)

この複雑な作品は、Unityでの実装含め、全て曽根氏自身が行った。開発は全てのプラットフォームが同時並行で行われた。「片方でどう見えるかを考えると、片方がわからなくなって大改修になるんです。まずはARとVRの空間が並行するのがどうなるのかから初めました」(曽根氏)

谷 耀介「怪獣縁起」

谷耀介氏による「怪獣縁起」は、iPad上でのミニゲームで行われた結果が、ジオラマで作られた現実の箱の中の世界に変化をもたらすというゲーム。ペッパーズゴーストを使ってプロジェクションされており、雷を起こしたり、雨を降らせたり花を咲かせたりというミニゲームの中で行うことが物理世界に介入していく。谷氏が制作したアニメーション「怪獣神話」の世界観を現実に再現したという作品だ。

プログラムを担当したのは小楠竜也氏。画像の連番を作って、インタラクティブにボタンを押したらシーケンスが流れるという仕組みを制作した。難しかったのは、「iPadの世界で起きたものが連動する」ということ。「アニメはシーンごとに画面が切り替わるが、ゲームでは他の場所への移動がシームレスになっている。そこでシーンを切り替えるというよりもバックグラウンドで各シーンをまとめた素材を用意しておいて、次のシーンを繰り返していくという方法を取った。素材が膨大になったため、圧縮の方法に苦労した」と小楠氏は語る。

メンターの菊地咲氏(Luminous Productions)は、「作っている谷さんのコンセプトがブレないようにすること」を重点的に指導した。「現実とバーチャルの世界の融合を伝えたいという目的だったので、本物の土を使ったジオラマを作るのはどうかなと提案しました。プロの視点で寄り添うのがメンターの役割です」と語った。

ゲームの仕掛けが、箱の中の世界に連動する

小光「here AND there」

小光氏の「here AND there」は、雰囲気のあるアニメーションが眼を惹く、タッチした時の気持ちよさを追求した、iPad用の作品。傘をさわったり、犬の鼻をつかんだり。画面じゅうをタッチして海と家と街の3つの世界を探索できる。すでにiOS向けに無料でリリースされているので、興味を持った方はぜひダウンロードしてみてほしい。メンターは長岡愛子氏(Luminous Productions)、プログラムは木村優作氏。ダウンロードはこちら

展示の世界観もかわいらしい

福地明乃「たいふうのよる」

福地明乃氏「たいふうのよる」は、氏のアニメーション「たいふう14ごう」の1シーンを再現したVR作品。アニメーションが美しく、まるで絵本の中の世界に飛び込んだような体験ができる。福地氏は沖縄出身で、沖縄での台風の体験をもとにして本作品を制作した。

マイエクササイズ

また、会場では、薄羽涼彌氏がプログラミングを手がける、2019年リリース予定の和田淳氏のゲーム「マイエクササイズ」の最新版デモが展示されていた。ゲームではスペースだけを使い、ぽっちゃりした男の子を腹筋させる。腹筋回数が増えるとともに、応援の仲間が増えてスペシャルアニメーションが登場するなどのボーナスがある。

回数が増えると様々な仕掛けが…

岡本美津子副学長は、「ゲームの分野は学問だけでもできない。アート分野とやっていく価値もある。新しい産学協同を考えていければと思っている」と語る。東京藝術大学では2019年4月から、大学院映像研究科に、ゲームを中心とした制作・研究等を行うことができる2年間のコース(ゲームコース)を新設するというニュースが発表されたばかり。来年の開催も楽しみだ。

東京藝術大学ゲーム学科(仮) 「第0年次」展

日程:2018年11月2日(金)〜4日(日)
開催場所:東京藝術大学 上野キャンパス Arts & Science LAB.
公式WEB:https://geidaiverticalslice.wordpress.com/

齋藤 あきこ - 2018年11月16日