この記事を読んで頂く前に時間のある方はTwitterを開き、ハッシュタグ #アカとブルー を見てほしい。称賛の声やスコア自慢、クリア報告に溢れているのではないだろうか。「勧めたくなる」「布教したくなる」という言葉が目に付かないだろうか。そしてプレイした人の多くはそういった意見に同意できるのではないだろうか。
奇をてらうような要素の一切を持たず、誇大な印象を与えるものも存在しない。ひたすら調整を繰り返し、細部に至るまで丁寧に作り込まれた世界を、木村さんは「プロとして当たり前のことをやった結果」と表現した。この言葉に多くが集約されているように思う。
気鋭の開発スタジオ、タノシマスのディレクター木村さんとプログラマの藤岡さん。
2人が『アカとブルー』で切り開いたストーリーは、まだ始まったばかりだ。
インタビュー: 池和田 有輔
木村 浩之
代表取締役兼プランナー。ゲーム開発会社に10年間従事し、現存する全てのプラットフォームを制覇するまでディレクションやプロデュースを続け、その後「お客さんを楽します」という信念を込めた株式会社タノシマスを立ち上げる。本業はプランナーではあるが、人手が足りなければ何でもこなす。『アカとブルー』では敵キャラのデザイン、3Dモデリング、シナリオなども担当。
藤岡 裕吾
ゲームプログラマー兼Unityエンジニア。プロジェクトの基礎設計と最適化、UIアニメーションを得意とする。 ゲーム会社でコンシューマ・アーケード・iOSネイティブと渡り歩いたが、Unityと出会いフリーランスとして独立。 独自でUnityのパフォーマンスを引き出す為の設計を研究し、今回タノシマスとして『アカとブルー』のプログラム全般を担当。
池和田
お二人が最初に知り合ったのはいつ頃だったんですか?
藤岡
実は僕が専門学校時代にインターンで行った会社の面接官が木村でした。そのまま雇って頂き、その後引っ張ってもらう形で転職したので、もう8年くらいの付き合いです。
木村
僕の方が3年くらいキャリアが長くて、最初はガラケー時代のモバイルゲームをやっていました。そこからは、ほぼ同じチームでゲームを作っています。
池和田
長いお付き合いなんですね。もともと木村さんはプランナー、藤岡さんはプログラマだったのでしょうか。
木村
いえ、ガラケー時代は営業職でした。企画書は作るんですがビジネス寄りの内容で、いくらで開発していくら稼いでペイしますというものをゲームの内容に沿って作成し、営業しながら回していくという仕事ですね。その後、主に家庭用のゲームを開発している会社へ転職した際に、本格的にプランナーへ転身したんです。
池和田
それ以降は、いわゆる現場仕事を中心に?
木村
実際に現場のプランナーでいられたのは半年くらいで、そこからはディレクターやプロデューサー的な役割がほとんどではありましたね。あ、驚かれるかもしれませんが、実はこれまでシューティングはちゃんと作ったことがなかったんですよ。
池和田
え、そうなんですか?
木村
そこが一番誤解される部分なんです。過去にシューティングゲームで知られる会社で働いていたのは事実なんですが、自分は主にマネジメント側として関わってきてまして、実際に中身を作ったのは『アカとブルー』が初めてなんです。だから、どう弾を撃つとかっていう具体的な部分はよくわかっていなかったんですよ。
藤岡
僕もいくつかシューティングに関わっていましたが、UIとか表層部分の実装をしていたので、いわゆるゲーム部分については全然わからなかったんですよね。
池和田
『アカとブルー』は、ほとんどお二人だけで制作されているんですよね。
木村
サウンドとキャラクター周りのイラスト、UIデザインは外部に委託しましたが、それ以外の実装物は全部自分たちで作っています。
池和田
2Dと3Dが混在していますし、相当な物量ですよね。
木村
最初のころは、美大の学生さんを雇って仕事を教えながら手伝ってもらったりもしていたんです。でも単純に資金が尽きてしまって、ごめんね…と。その頃はまだ2Dだけで作っていたんですが、2Dだけでクオリティを上げるとなると描き込み量が大変なことになるので、徐々に今の2D・3D混在の形に変えていったんです。
藤岡
モデリングは今回、全部木村がやっています。昔ちょっと仕事でかじっていた経緯があったし、3Dをやりたいと言い出したのも木村だったので「じゃあもう、やってくださいよ」という感じで(笑)。
池和田
ソフトウェアは何を使われたんですか?
木村
メタセコイアですね。今回はアニメーションを使っていなくて、スキンだけなのでなんとかできたという感じです。「ボーンを仕込んでください」と言われていたら終わっていました(笑)。
藤岡
だから言わなかったですよ(笑)。動きは全部コードで制御しています。あと、テクスチャーはさすがに描けないという話になって、小型の敵機は事前にポストエフェクトをかけた状態でレンダリングして2Dにしたりと、工数を押さえながらクオリティを上げるための工夫をしていますが、ほとんど単色のテクスチャーとかマテリアルカラーですね。ボスなどの大型の敵機だけはちょっとこだわって模様をつけたりしてましたけど。
木村
クオリティが高いと言われることがありますが、僕らはあまりピンとこないんですよね。広げてみたらかなり素人ですよ。
藤岡
デザイナーなしで作った見た目の部分も、皆さん「すごい」っておっしゃってくださるんですけども、僕らとしてはデザイナーがいなければいないなりに自分たちで持ち上げるしかない、という意識でしたね。やはりプロとしてデザイナーさんが作った物をずっと見てきているので、そこにたどり着かないといけない、という義務感がありました。
池和田
UIもかなりこだわられてますよね。
木村
そうですね。僕らは過去にRPGの開発を主にやっていたこともあり、特にテンポの良さやシームレスさを大事にしています。例えばオプション画面に行くときに、よくある表現としては1回ブラックアウトしてから入り直したりしますよね。あれ、僕の中では絶対NGなんです。
池和田
なるほど、たしかにそこでプツっと切れてしまいますからね。UIはかなり専門性が強い分野だと思いますが、ノウハウやナレッジをどのように得たのでしょう?
木村
ソーシャルゲームの開発で得た知見はわりと大きいです。ソーシャルゲームって離脱率を計測したり、ボタンの色は何色がいいのかとか、UIへのこだわりがハンパじゃないんですよね。『アカとブルー』で言えば、Yes/No以外は全部縦にならんでいたり、右利きでも左利きでも同じ位置にボタンを置いたり、そういうところはその時に得た考え方を参考にしています。
木村
僕らがソーシャルゲームをやっていたのは『パズル&ドラゴンズ』が出た直後ぐらいで、パズドラ的な存在はまだニッチだったんですよね。だからあの時代にゲームっぽく作ると「簡単にしてくれ」と言われて、簡単にしたら今度は「ゲーム性がなさすぎる」って怒られて…その繰り返しでした。
池和田
「どっちやねん」という。
木村
家庭用のゲームと全然違って、ゲーム内容を審査するスキームが結構多いんですよね。開発期間が長いので、人に見せて意見をとる段階で、その時々のトレンドにも左右されますし、どんどん変わっていくんですよ。
池和田
ゲーム性もサービスの一環という考え方が強いですよね。
木村
だからイベントでも、お客さんが「違う」と言ったら平気で確率を変えたり、ゲームの仕様を変更したりする。100%の支持を得られる仕様って絶対にないので、こうしたら一番面白く遊べるということを提示すること自体が難しいんです。個人的にはお客様主導で動くコンテンツがあってもいいとは思っているんです。普通のサービス業で考えれば当たり前のことなので。
池和田
もちろん、そういったサービスを楽しみにしているユーザーさんも大勢いらっしゃいますが、判断が難しい部分でもありますよね。
木村
ただ、自分が作ってきた歴史の中で考えると開発のしかたが自分には合わないということです。それから、ソーシャルゲームって、いったんコケるとV字回復は難しいと言われていたじゃないですか。だから不安要素はリリース前にどうしても潰しておかなければいけない。でも、そういうことを考え討論していると、開発期間は長引きますし、だんだんと荒んでくるんですよね。起業のきっかけもそこにあります。
池和田
そのときには既に作りたいゲームのイメージはあったんでしょうか?
木村
いえ。というか正直、当時の僕は「ゲーム会社はもういいや」って思っていたんです。
池和田
ゲーム以外も含めて、広く考えられていたと?
木村
僕が起業する半年ぐらい前、2014年の終わりぐらいは、転職するとしても基本的にはオンライン系のゲームになるという環境でした。運営を続けるとなると肉体との勝負になるじゃないですか。正直早死にするかも…と思った部分もありました。ゲームからちょっと離れよう、と。やりたいことではなくてお金を稼ぐ方法で仕事をしようと思ったんです。
池和田
では、具体的に何かをやるという予定があったんですか?
木村
コストコって知ってます? 僕、コストコの店員になりたくて。
池和田
それは外資系大型店舗の、あのコストコ?
木村
家の近所にできたコストコに行ってみたら、日本人だけじゃなくていろいろな国の人が働いていて、みんな笑顔で試食のケーキとか配ってるんです。受け取った子どもも「ありがとう」って笑っている。それを目の前にすると「俺、何やっているのかな」と思ってしまったんですよね。コストコの店員がうらやましかったんです。
池和田
思ってもみない回答でした(笑)。
木村
もともとゲーム会社に来た理由は、人に喜んでもらえるモノを作って売りたいということだったので、モノ自体はなんでもよかったんです。アニメでも漫画でも映画でもいろいろあると思うんですけど、僕が就職活動したときに、一番面白いエンターテイメントって何かなと考えたらゲームだったというだけなんです。
池和田
文字通りの「タノシマス」というわけですね。
木村
結局『アカとブルー』の開発を始めたのも、冷静になって考えるとゲームは「やりたいこと」であるとわかったからなんです。以前、スマートフォン向けの弾幕シューティングに関わっていたことがあって、またこういうのを出してほしいということは言われていたんですよね。お客さんが必ずそこにいるというのを知っていたわけですから、じゃあシューティングにしようかと思い、開発がスタートしました。
池和田
様々な思いがあるなか、プロジェクトがスタートしたんですね。
木村
ただし、実際にお客さんが何人いて、どれだけ儲かるかというのは一切考えていなかったんです。やってきたものはこれだけだったからで、コスト面と需要を合わせて考えたとき、プロとして当たり前のことをやった結果が『アカとブルー』です。
池和田
独立される方の多くから「ほんとうに好きなゲームを作るんだ」という意気込みを強く感じるのですが、そういった思いはありましたか?
木村
実は、僕は好きなものを作りたいという意味でゲームを作ったことは一度もないんですよ。タノシマスという会社自体が、社是として他の皆さんと違うんですよね。面白くても売れない物は商品にならないですし、お客さんが求めているニーズから何を拾い上げて、その中に自分が持っている面白さのエッセンスをどのように入れるのか、というのが商売だと思っています。
藤岡
野球の選手で言うと新庄選手みたいな、ああいう感じでいたいんです。野球は本当は好きじゃないけれど、それが一番みんなを楽しませられる、喜ばせられるっていうスタンスというか。
木村
お客さんが見て面白いって思うものをやるべきで、だからお客さんありきの業界ではあると。ただ、お客さんの主導という考えはありません。もちろん、先程言ったとおりソーシャルゲームのビジネスを否定しません。ただ、僕らはそこで戦える必殺技を持っていないというだけですね。それから、きちんと終わるゲームを作りたいと思ったんです。ソーシャルゲームはなかなか終わらせるのが難しいし、そこには思うことが多々ありましたから。
木村
終わりが決まっているから、シナリオをきれいに入れ込めたんですよね。そこが、『アカとブルー』の大きな特徴だと思っています。
池和田
シナリオも木村さんが書かれていたんですね。
木村
正月に自信もなく書いてましたね(笑)。ストーリーライダーズというシナリオを生業にしている会社さんにも協力してもらいましたが、基本的には僕が全部骨子を書いて、脚色してもらったりしています。
池和田
ゲーム内のキャラクター同士の掛け合いが本当に魅力的ですよね。
木村
主観にはなりますが、昔のシューティングって、なぜ敵と戦っているのかがゲーム内だけでは語られてなくて、目的がよくわからない印象があるんです。でもやっぱり設定を見ると、それぞれの登場キャラには生きている価値があって、戦いに意義を見出して、だからこいつを倒さなくちゃいけない、というのがしっかりとあるわけで。それを『アカとブルー』では「通信」という手法を使うことで30分で語れるんじゃないか?と思ったんです。
キャラクター同士の通信会話は様々な局面に自然に織り込まれ、ゲームプレイを盛り上げている
池和田
あれがないと、だいぶ印象が変わっていたと思います。
木村
それに僕、『スターフォックス』が大好きで、あのエッセンスを入れたかったんですよね。「フォックス右だ!」とか言ってファルコが誘導してくれるところとか、それだけですごくワクワクするじゃないですか。
池和田
『メタルギア』もそうですが、臨場感だけでなく緊張感も出ますよね。
木村
古いところであれば『スナッチャー』や『ポリスノーツ』もそうです。やはりああいうのが自分の中に根付いているんです。人間の声から伝わる想いや感情が通信から出てくる、「誰だ!」ってひとことが聴こえるだけでもドキッとしたり。でも一方で、そういうところに進化を見い出してこなかったのが、弾幕シューティングなんじゃないのかなって思ったんです。
池和田
なるほど。
木村
シューティングゲームって、ゲーム性自体は完成されているわけですから、そこを無理矢理進化させる必要はないと思うんですよ。「弾幕」というのもひとつの進化の結果ですし。でも、シチュエーションに合わせた会話だったり、ゲーム内で目的をちゃんと表現しているものって実はほとんどなかったりするんです。あったとしても一時停止だったりステージの間にイベントシーンが入ったりというパターンが多いですしね。
池和田
やはりシームレスにはこだわりたいと。
木村
そういえば、リリース前は「シューティングにボイスはいらない」なんてさんざん言われて結構不安だったんですが、いざ『アカとブルー』をリリースしたら「シューティングにボイスがないのは寂しい」って言われるようになってきたんですよね。逆に褒めてもらって、あれは嬉しかったなぁ…。
池和田
今後の展開について、何か言えることはありますか?
木村
まず海外版があります。それは近々出る予定ですね(※9月27日より『アカとブルー』は海外対応されたものがVer1.1.0としてリリースされている)。
藤岡
それから横展開として、年明けには高田馬場ゲーセンミカド店長のIkedaminorockさんと今回作曲してくださったWASi303さんが、所属しているバンドでライブをしてくださるというのがあります。コンテンツとして『アカとブルー』を展開していきたいというところですね。
10月20日にはサウンドトラックも発売。限定100本のカセットテープ版は予約開始からわずか3時間半で完売した。
木村
2018年の1月13、14日の2日間、ディファ有明でJAPAN Game Music Festival Ⅱ:Reというゲームミュージックのフェスが開催される予定なんですが、そこでHEAVY METAL RAIDENというバンドが『アカとブルー』の曲を演奏してくれる予定になっています。そのあたりで何か新しいモノを発表できたらいいなあと漠然と考えてはいるんですが。
池和田
おお、それはとても気になりますが…。
木村
現時点ではちょっとコメントできないんですよね。水面下ではいろいろ動いていますとしか。
池和田
わかりました。今後にも期待しています! 本日はありがとうございました。
池和田 有輔
フリーランスとしてWEB制作・広告制作のキャリアを経て、2013年からRépublique開発チーム(Camouflaj, LLC.)に参加。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社に入社後はエバンジェリストとしてUnityの伝道活動に携わってます。
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