Shi-chi Shen
沈士棋(シェン・シーチー)、台北在住のアートデザイナー。
ウェブ及びグラフィックデザインの業界から、インディーゲーム開発に挑戦。
ソロ開発でパズルゲームのジャンルを研究中。
では、Alleysの着想についてお聞かせください
Shi-chi
はい、私は高校生の時に「Myst IV」をプレイし、そのクラシックな作品から深い感銘を受け、同じタイプのパズルゲームにも興味を持ち始めました。いざ自分でゲームを作りたいと考えた時、最初に思いついたのも「Myst」のような謎解きゲームでした。
謎解きゲームを作る上では、何よりも「没入感」が大事だと考えています。しかし、雰囲気を重視したゲームはパズルが難しい作品が多い。逆にカジュアルな謎解きゲームは雰囲気づくりに余り重きを置かない印象があります。
そこで私はストレスを感じさせない、まるでテーマパークのような遊べる作品を作ろうと思いました。
難しすぎるパズルに躓くことなく、誰でもゲームの雰囲気に浸り存分に楽しめる体験を作りたかったのです。
子供の頃、家の周りの路地裏や小道をワクワクと探検していた思い出が大きなヒントになりました。「探索」は指示や説明がなくても、ただ「発見」する事によって謎を解く達成感を与えてくれる、一番シンプルなパズルの形態だという事に気づかせてくれました。
これらが「Alleys」が探索と雰囲気作りに焦点を当てた謎解きゲームである理由です。
ゲーム開発を始めたきっかけは?
Shi-chi
大学を卒業した後、デザインスタジオを立ち上げ、ウェブサイトとグラフィックデザインのアウトソーシングに取り組み始めました。その契約が終わり、私は完全に自由に創造できるプロジェクトを求めるようになりました。
昔からシノグラフィー(舞台デザイン)に興味があって、それに関連したものが作りたかった。
そして舞台のシーンを楽しむ最善の方法は、実際にシーンの中に入って舞台に触れることが一番だと私は考えています。
このようなインタラクティブな体験を実現する上で、ゲームという形態が真っ先に思い浮かびました。
ゲームをステージとして使えば、開発コストを低く抑えつつ、より多くの人に自身の作品を体験してもらえると考えたのです。
このような経緯でゲーム開発を始めようと決めたわけですが、当時はインディーゲームの存在すらも知りませんでした。
Alleysを開発する上で、何が一番難しかったのでしょうか?
Shi-chi
謎解きゲームにとっては、レベルデザインは大きな課題です。特にAlleysは固定したルートが無いノンリニアなゲームとして作られているので、この問題がより際立っていました。
プレイヤーがどのようにプレイするかを完全に把握できないため、レベル設計とテストは非常に大変でした。
ソロ開発ならではのチャレンジや限界などはありましたか?
Shi-chi
一人だけだと開発の難易度が跳ね上がります。私は元々グラフィックデザイナーが本職なので、プログラミング面を解決するのが一つ目の難題でした。プログラミングをした事がない人としては、これはかなり大きなハードルです。
それ以外にもレベルデザイン、ストーリー、テスティング、音楽やSE、マーケティング、経理、その他全てを自分一人で処理しないといけませんでした。習うことも多く、時間もかかりましたが、非常に新鮮で興味深い経験でした。
一つ言える事としては、開発者はみんな自分の限界を把握しておくべきだということです。もちろん己の限界に挑戦すべきですが、誰にでも限度があります。無理をしないように心掛けた方がいい。自分の技術、リソース、時間を正直に見極め、現実的なプランを立ててこそ、より良いゲーム開発が出来ると私は思います。
Alleysのフイーチャーの多くは、開発リソースと時間を節約して、結果を最大化するように設計されています。このデザインアプローチがソロ開発を支えてくれました。
Alleysの一番の特筆すべき点を教えてください
Shi-chi
「没入感」がAlleysの最も重要な特色です。これだけだと少し抽象的過ぎる気がするので、それを生み出すためのいくつかの特徴をもう少し具体的に解説します:
1. パズルを簡易化し、探索に集中させる
2. ストーリーを追って遊ぶか、自由に探索するかの判断をプレイヤーに任せる
3. 謎の解き方は自由
4. 雰囲気のあるシーンでプレイヤーを引き込む
この全てが、プレイヤーが探索に集中できるようにに配慮した要素です。
テーマパークを歩くように、プレイヤー自身が何を見て、何を体験したいかを選べるのです。
プレイヤー達からの反応はどんな感じでしょうか?
Shi-chi
世界中のプレイヤーから様々なフィードバックが貰えて嬉しいです。
普段は謎解きゲームを好まないと言う人からも「Alleysは楽しめた」、というメッセージを多く頂いています。謎解きジャンルとしては独特な、気軽に探索と謎解きに取り組めるスタイルが好評のようです。
展示会などではあまりゲームを遊ばないような方がAlleysを手にとって一時間以上も続けて遊んでくれます。このような反応を見ると、開発当初の目標が達成できたと感じます。
そしてAlleysで行った実験の成果は、今後開発するゲームにとっても大事な布石になります。
マップを制作する際のプロセスについてお聞かせください
Shi-chi
Alleysの最大のパズルが「シーンの探索」なので、レベルを設計する時は謎解き要素からは始めず、シーンをそのまま構築していました。まずプレイヤーが探索したがる環境を作り上げて、その後からマップ内でどんなミッションをこなして貰いたいかを考えていくスタイルでした。
このようなプロセスがあったため、開発中の一時期ではマップがほぼ完成していたのです。
ただ、歩き回る事以外は何もできない状態でした(セットを散歩するだけでもそれなりに楽しかったのですが)。
ゲーム開発のアプローチとしては少し妙かもしれませんが、他とは違う、探索が中心のゲームを作る上では重要だったと思います。
ゲームのビジュアルをデザインする上で、どんな点に注意しましたか?
Shi-chi
プレイヤーは、ゲームを始めるとすぐに他の登場人物がいない事に気づくでしょう。しかし、これは意図的な仕様です。 プレイヤーを世界観に引き込む事が重要なので、Alleysの多くの要素はそれを助長するために設計されています。
プレイヤーに無理矢理ストーリーを押し付けたくはない。しかし、没入感を演出する上では設定やキャラクターなどは大切です。だからこそ、Alleysのストーリーは空間を使って語っていますー この街で何がおきたのか、どのような人物がいたのか。環境のディテールがプレイヤーの興味を引き、そこに物語が隠されている事に感づかせるのです。そして周囲に残された新聞やメッセージ、シンボルなどがストーリーを解明するヒントになります。
ハンセルとグレーテルのようにパンくずを辿っていけば、プレイヤーは徐々にストーリーの全貌に辿り着く事ができるでしょう。
Alleys、または他のプロジェクトに関する今後の予定などはありますか?
Shi-chi
元々ハロウィンアップデートを予定していましたが、私は現在、より大事なアップデートに取り組んでいます。このアップデートはAlleysにとって非常に重要で、ストーリーの強化や新しい手がかりやチャレンジの追加など、その他にも多くの調整が行われます。これらのアレンジはAlleysをよりユニークにし、ゲームの特色をもっと明白にしてくれます。
このアップデートは時間をかけて製作しているので、リリースはまだ未定です。
でも、そう長く待つことはありません。
無料アップデートの予定なので、既にAlleysをプレイしている方も新しい体験を楽しめます。
Alleysは他のデバイスでも出す予定でしょうか?
Shi-chi
はい、Alleysは今後AndroidとPCバージョンが出る予定です。
最後にコメントなどはありますか?
Shi-chi
私が言いたいことは他のデベロッパーにもう何度も言われていることですが、プレイヤーの皆さんからのサポートを心の底から感謝しています。開発者としてプレイヤー達の存在は本当に、非常に、大切なものです。
Alleysは私の初めてのゲームです。開発を始めた頃はインディーゲームの存在すらも分からなかったものですが、Alleysの開発とパブリッシングを経て、インディーコミュニティーの巨大なエネルギーと熱意を知りました。創造から得たいすべてのものを満たせるという意味では、インディーゲーム開発は私にとって一番最適な環境なのです。
そして自分が制作できるのは、一人での開発も可能にしてくれたUnity Engineを含む、多くの方々の苦労のお陰でもあります。
インディーゲームコミュニティーに参加できてとても光栄です。