2018.06.18
8歳の自分に耳を傾け、大人の自分が全力を尽くす
Thierry Boulanger
The Messenger
Sabotage

Sabotageは、カナダ・ケベック州を拠点とし「レトロビジュアルと現代的ゲームデザインの融合」に特化していると謳うインディーゲームスタジオだ。現在開発中の『The Messenger』も8ビット/16ビット時代のビジュアルを全面に打ち出したタイトルである。

しかし(主観的な評価ではあるが)本作が醸し出す懐かしさは、決してビジュアルだけではないものだった。何が違うのか?その理由を考えている時、5月のBitSummit(京都開催)出展のためディレクターのBoulanger氏が来日しているとの情報を得てインタビューを実施。

カナダ発の忍者アクション『The Messenger』はどのようにして生まれたのか?その舞台裏をご覧あれ。

インタビュー・翻訳: 矢澤 竜太

プロフィール

Thierry Boulanger

ファミコン世代のフランス系カナダ人、ゲームデザイナー、ディレクター、シナリオライター。 ゲームプレイプログラマー歴10年以上。「子供の頃の自分が作った物語」をゲームにするべく2016年4月にSabotageを共同設立。ゲーム以外では旅行、ドラム、料理、パンクを好む。

ゲーム開発者になると決めたら、数学が楽しくなった

矢澤

今回はよろしくおねがいします。さっそくですが、これまでのキャリアを簡単に紹介していただけますか?

Thierry

最初はゲームプレイプログラマーとしてゲーム会社に就職して、10年くらい働いてました。当時は子供向けのFlashとかWebベースのMMOとかを開発してましたね。その後Unityを使い始めたのが…7年前くらいかな。Unityのバージョンが3くらいの時代?で、2年前に自分のスタジオSabotageを立ち上げて『The Messenger』に着手し、今に至ります。

矢澤

なるほど。最初にゲームクリエイターになろうとしたきっかけは何だったんですか?

Thierry

ゲームって勉強とか宿題を邪魔するモノでしょ?だからこんなにゲーム遊んでるのに、仕事にしなかったらマズいと思ったのがきっかけかな。

矢澤

今まで聞いた中で一番格好いい答えです!

Thierry

でしょ(笑)?だからこそ一生懸命だったなあ。ゲームプログラマーになるって決めてからは数学も楽しくなったし。

見た目はレトロ、でも内容と作り方は現代的に

矢澤

さて本作なんですが、8ビットや16ビット時代には「キャラクターの成長要素」、特にパワーアップアイテムとかじゃなくスキルツリーとかは極めて珍しかったと思うんです。スタジオの公式ページにも「レトロなビジュアルと現代的ゲームデザインの融合」とあることから、そういう点が「現代のゲームデザイン」が足された部分なのかなと思いました。他にもやっぱり「現代的ゲームデザイン要素」を足されているんでしょうか?あるいは足したかったけど断念したものなんかもありますか?

Thierry

まずは、先日パブリッシャーが決まって資金的にも支援してもらえたから、色んなことが実現できるようになったんだ。あれは本当にありがたかった。だからゲームの現状にはかなり満足してる。他に組み込んだものだと…「死亡とコンティニュー」のシステムかな。あれを現代のゲームに組み込むのは厳しいと思って。でも、死亡時のペナルティがなかったら手応えが失われてしまう。だからその解決策として「悪魔がギリギリでテレポート脱出させ」て、「その後は悪魔に代償を支払うまでまとわりつかれる」というデザインにした。できる限りレトロゲームに忠実でいたいけれど、今遊んだら色んな部分が古びたふうに感じてしまい厳しいのも事実でしょう。だから忠実なレトロ性と現代的ゲームデザインのギリギリをずっと攻めるようにしています。

矢澤

忠実なレトロ性というところでは…本作の操作感については多くのレビューが「キビキビしている」と評しています。どんな魔法を使ったんでしょう?技術的・心理的な要素があるかと思いますが。

Thierry

確かに技術的・心理的の両面からアプローチしました。まずプレイヤーの想定する動きというのがあります。それってその時点で起きていることじゃなくて、常に一歩先のことなんだよね。だから着地の数フレーム前にジャンプの先行入力を受け付けず、実際に着地してから受け付けていたら、どうしても反応がモッサリしていると捉えられてしまう。本作ではそういう細かなディテールをひとつずつ徹底的に対応していきました。移動、方向転換、跳躍や落下の速度…全部です。
そもそも僕はゲームデザイナーになる前はゲームプレイプログラマーだったから技術的な面から物事を見るところがあって。だから実制作に入る前に研究開発的なフェーズを設けて、レベルデザイナーが参加するときには完全にレベルエディターを完成させてあったんですよ。あとはコンテンツを作るのみ、という状態まで整えていました。
ビジュアル的には棒人間と無味乾燥のブロックで構成されているんだけど、操作感は完全に磨き上げてあった。先に綺麗なアートができてると、「お、このゲームいい出来なんじゃない?」って錯覚しちゃうでしょう?でも見た目がしょぼい状態で面白くしておけば、あとは綺麗になってもっと面白くなる一方だから。

矢澤

なるほど。ところで、「リプレイ性が高い」と謳われていますが、いわゆるメトロイドヴァニア系ゲームでリプレイ性が高いって、タイムアタック以外だとちょっとうまく想像できない所があります。もう少し教えてもらってもいいでしょうか?

Thierry

確かにタイムアタックは大きいと思う。ただ本作って、最初の5時間位は8ビットテイストのステージクリア型ゲームなんだけど、その後は未来へ移動してそこから16ビット世界になっていくんですよ。その後最終的に(ネタバレ自粛)でループに入るんだけど、おそらく多くのプレイヤーはそこでプレイするのを辞めてしまうと思う。でもそこから色んなボス戦とか超絶難易度の「チャレンジルーム」とか、たくさんの要素が出てくるようになってて。それから、セリフの8割は一通りプレイしただけでは出てこないようになってるんですよ。

本作では主人公が8ビット世界と16ビット世界を行き来する

矢澤

8割ですか!?

Thierry

そう、8割。たとえばショップの店員と話せるようになっているんだけど、コイツが「メタ」な発言とかあるあるネタとかを繰り出してくる。さらに話していくと、ストーリーを補完する内容とか、おとぎ話とか、果てには人生のアドバイスまでするようになってて。だから一部の人にとっては、そういう部分もリプレイ性になるんじゃないかな。多くの人にとってはこういうゲームのテキストって飛ばすものだと思うけど、好きな人はしっかり楽しめるように作った。ボスキャラの過去とか、プレイヤーが世界観を広げられる情報とか。

矢澤

ネタといえば…個人的には作中に散りばめられたユーモアがすごくツボでした。誰の案なんでしょう?それから、ゲームプレイの難しさとユーモアの配分や入れどころなんかで苦労されませんでしたか?

Thierry

シナリオ担当は僕だよ!そもそもこのゲームって、8歳の自分が作ってるものなんだ。そのくらいの年の頃って、「自分や友達はイケてるけど先生とか偉い人ってしょうもないよな」みたいなところがあるでしょ?アレを大事にしたんだよね。だから主人公は忍者で格好いい、出てくる敵もクール、でもボスとかそういう「命令してくるやつ」は全員ちょっとバカ。「偉いやつは全員何も分かってない」というか(笑)。

矢澤

ゲームプレイの難しさとネタはそういう基準で配分されてるんですね!

Thierry

そうそう。ストーリーを楽しみたい人も、手応えのあるゲームプレイを楽しみたい人も、音楽やビジュアルを楽しみにしている人もいるから、それぞれが楽しみにしている部分を選べるようにしたんだ。だからチャレンジルームも、NPCとの会話も、やりたい人には思う存分楽しんでもらえるようにしてある。

矢澤

つまりそこも、「現代的ゲームデザイン」が入ってる、と。

Thierry

まさに!そういう意図で設計していたのでそう言ってもらえて嬉しいな。

“忍者はヒーローとして完璧だと思う”

矢澤

なるほど!次はちょっと変な質問なんですが…カナダの人は忍者好きなんですか?もし好きだったら、どこが良いんでしょう?

Thierry

好きに決まってるでしょ!忍者嫌いな人とかいるの!?…真面目な話をすると、忍者ってヒーローキャラクターとして完璧だと思うんだよね。忍者自体は「機能」でしかない。素性はすべて隠されていて、色んな事ができて、俊敏。逆に個性が立ったキャラクターを作った場合って、そこに感情移入ができるかどうかや個人的な好き嫌いとかが入ってくる。でも忍者なら装束の下は何にでもなりうる。繰り返しになるけど忍者自体は「暗殺者という機能」でしかないから、自己投影がすごくしやすいと思う。キャラクターを見て「コレは自分じゃない」という要素がない。

矢澤

目からウロコすぎてちょっと鳥肌が立ちました(笑)。全然変な質問じゃなかった!

Thierry

(笑)。だから忍者はヒーローとして完璧なんだよね。特にプレイヤーとして動いてもらうには。当然バク転とか忍術とかそういうのも格好いいよ。カナダ人、忍者大好きだよ、クールだし!

“指示はほとんどないから、君の全力を出してくれ”

矢澤

なるほど…!全く別のトピックですが、本作は音楽についても高い評価を得ていますよね。僕も個人的にすごく好きだったんですが。作曲を依頼する時に、何か意識して出された指示とかはありました?どんなビジョンに基いて作られたのか気になります。

Thierry

作曲を依頼したのはデスメタルドラマーだったんだけど、彼はRainbowdragoneyesっていう名前でゲームボーイ音源を直接叩いてチップチューンを作るような活動もしてて。自分自身がそういう音楽のファンだったから「The Messenger」を作るにあたって彼にゲームを説明をして曲を作って欲しいって依頼しました。そしたら「おう、作るぜ!」って言ってくれて。
僕の方から伝えたディレクションは、「ファミコンソフトの曲」「ゲームから乖離してしまうから現代的にしないで」の2つだけ。そして曲はぜんぶFamiTrackerで制作されてるから、ファミコンでも鳴らせる音なんです。
ちょっと脱線するけど、僕はThe Messengerのディレクターとして、本作に情熱を持ち、ビジョンを理解してくれる人だけを招き入れるようにしていて。だから指示は殆ど出さず、彼らが全力を出せる環境を整えることに全力を注ぐようにしたんです。このプロジェクトでは本当にそういう人だけで作ることができて、幸運だったと思ってます。

一番キツかったのは“己のすべてをさらけ出すこと”

矢澤

さて次の質問なんですが…「あなたらしさ(あなたのチームらしさ)」はこのゲームのどこに現れていると思います?

Thierry

ううん…比較的小規模なゲームだから、端的に言えば「ゲーム全体」になると思う。本作自体、さっきも言ったけど子供の頃の自分の頭の中にあった世界をゲームにしたものだから。

矢澤

「子供の頃の自分が思い描いたゲームを具現化した」ような?

Thierry

そう!あえて一番お気に入りの点を挙げるとしたら…「オーガ戦」かな。シナリオ敵にもゲームプレイ的にも、一番自分が気に入っているところかもしれない。

矢澤

開発中、一番苦労したのは何でした?

Thierry

そうだなあ…「子供の頃の自分が作りたかったゲーム」だからやっぱり子供特有の脆さは内包しているんだよね。それを世界にさらけ出すのはやっぱり難しいなと思った。自分がどんな人間なのか世界に見せるのか?って。多くの人に拒絶されるかもしれないのに、それでもさらけ出した。でも今回ちゃんとさらけ出せたことを嬉しく思ってる。

コレ本当にキツイことなんだ。大ゴケするかもしれない。でもやった。創作物を作る時コレがないのは、「自分と作っているものの間に距離を取っている時」だと思うんだ。本当に突き詰めていったら、コレが俺自身なんだからしょうがない!ってところに行くから。誰かが気に入らなくても別にいい、自分が納得行くように作る。全力を尽くしたから、嫌いな人がいても大丈夫。これが俺だから、って。好かれても嫌われてもどちらでも最高なんだ。商業的に成功するかどうか?それはわかんない。でも俺にはこの方法でしかこの賭けに勝ちたくないから仕方ないよね。…これ、うまく伝わったかな?

矢澤

完全に伝わりましたよ!

Thierry

ならよかった!

軽快なアクション!

Unityを選んだのは全員がゲーム作りに注力できるから

矢澤

さて…インタビューも最後に近づいてきましたが、そもそもUnityを採用した理由は何だったんでしょう?

Thierry

Unityは一番好きなエンジンなんだよね。僕はプログラマー出身だから技術的なバックグラウンドはある…でもチームサイズや予算規模なんかを考えると、Unityを採用するのが「プロジェクトを進める上での摩擦係数が一番低くなる」んだよね。もう数年プロジェクトを進めてきて、扱い方も習熟してきたし、いいプラグインがどれかも分かってきた。他のプラットフォームへの移植性も高いし(訳注:本作はPC版のほか、Switch版が予定されている)。

何だろ…今やアーティストも作曲家も全員がUnity上で作業してる。プログラマーによる実装待ち時間がゼロで、全員がUnityでゴリゴリ自分の仕事を進めていけるようになってる。次のプロジェクトも含めてね。そういうところかな。

矢澤

よく言われることに、各種ゲームエンジンが普及したことにより、既に使い方を理解した人材が業界に多く存在するようになった、ということがありますよね。そういう点もやっぱり大きいですか?

Thierry

間違いなくあるよ。たとえば今後、別プラットフォームへの移植を外注しようと思っても、たとえばUnityプロジェクトをPS4とかへ移植するのが得意な会社とかもあるわけだし、自分たちでやらなくてもいい。それって大きなプラスだよね。結局のところ、僕らの仕事はゲームを作ることであってミドルウェア作ることじゃないから。

矢澤

なるほど。では最後に、日本のゲーマーに一言お願いします!

Thierry

BitSummitに来ること自体僕らにとってとても興味深い体験だったけど、皆さんにとって『The Messenger』がどんな風に映るかにもすごく興味があります。僕らの描く忍者はちゃんとしてるか?そもそも楽しんでもらえるか?色んな思いがあります。子供の頃から日本のゲームで育ってきたものとしては、「日本の皆さんドウモ!僕ら、魂込めて忍者のゲーム作りました、楽しんでもらえると良いな!」っていうのが一番かな。僕らは謙虚なチームで、「オラオラ、これがゲームだぞ!しっかり遊べ!」ってノリはゼロで、どっちかっていうと「こんにちは…ゲーム作ってみたんです。楽しんでもらえたら嬉しいです」みたいな感じなんです。大好きなゲームの世界に僕らから捧げる1本、みたいな。だから皆さんに遊んでもらえる日を今から楽しみにしています。

プロフィール

矢澤 竜太

英日翻訳者。現在の主戦場はゲーム開発関連とesports関連翻訳。過去にはゲーム開発会社勤務や架け橋ゲームズ立ち上げなどを行ってきた。現在はフリーランス。イラスト:Mitsu Hiraiwa

The Messenger

Sabotage
  • アクション

プラットフォーム

  • Windows
  • Nintendo Switch

言語

  • 英語
  • フランス語
  • ドイツ語
  • スペイン語
  • イタリア語
  • steam

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