新キャラクターができるまで
- 良いゲームのキモとなるのはゲームメカニクスとパズル要素だって!
- いやいや、良いストーリーがなくちゃ意味が無いよ
- いやいやいや! 世界観で心を掴まなきゃ始まらないよ!
…とはいえ、全部のポイントをカバーできれば間違いないですよね。もちろんそれは相当大変な仕事になるわけですけれど…。
世の中にはプログラミングやモデリングのコース・教材や、音楽リソース(信じられないことに、こういうサービスを積極的に提供するミュージシャンはたくさんいるんです)がたくさんあります。勤勉(余暇時間も学ぶようなタイプ)で才能ある人材が集まれば、すべてのポイントをカバーすることはできるでしょう。あとはそれらを納得いく形に融合させるだけです。でも問題はそこから。「納得いく」ものを「プレイヤーが楽しくて知的だと感じる」ものに進化させるまでが長いのです。これを実現するには、先に述べた要素を総動員して感情をゆさぶる必要があります。
そこで出番となるのがゲームデザインとストーリーテリング。ビデオゲームのようなインタラクティブストーリーを作る上では、ゲームデザインのコースや出版物や増え続けるストーリーテリングの学習リソース以外にも使える「魔法」があるのです。
大手企業がどうやっているのかは分かりませんが、ここではとあるインディーディベロッパー(つまり私たち Sand Sailor Studio)がストーリーテリングにどう取り組んでいるかを紹介してみたいと思います。特に今回は、新しいキャラクターを追加する手順に注力してみます。
Kickstarter キャンペーンの中で私たちは、バッカー(出資者)の皆さんにBlack(主人公)のペットを追加すると約束しました。なので当然、このペットにどういう役割・関係性・目的を持たせるか決める必要性に迫られました。
最終的にはチーム8人全員が2時間かけてペットの性格と能力を決め、そこからさらに 10 時間かけてペット専用のパズルを紙に書き出し、さらに 10 日かけて Unity 上でパズルを実際に組みました。では早速、最初の 2 時間をどう使ったか解説してみましょう。私たちはまず、4 つのチームに分かれてペット作りをスタートしました。
ステップ 1: 制限なしでアイデアを出す
- 各チーム 5 分が与えられ、その間に浮かんだペットのアイデアを紙に書きまくる。
- ルール:面白そうなら何でもあり。
- 2チームが合流して浮かんだアイデアを読み上げる。
この時点では何でもアリでしたが、昆虫的なアイデアが多く出ていました。実在の生物から着想を得たアイデアからは能力や短所が浮かびやすいという利点があります。たとえばハチならば空を飛べるけれど泳げない、などですね。ただしこの時点では制限はなしなので辻褄が合うかどうかは不問ですが。
ステップ 2:要素に分解してみる
- 各チームが前ステップで挙げたペットに特徴を追加していく。
- ルール:直前に出たペットの種類に適合する特徴なら何でもあり。
- 2チームが合流して浮かんだアイデアを読み上げる。
ここで話し合う内容には、見た目、長所、短所、武器(攻撃方法)、倒す相手が含まれます。ただし今回は着想を得た生物をベースに考えるのではなく、どういう「特徴」を持たせるかに注力します。まずはどういう種類の特徴が必要かを考え、思いついたアイデアと関連情報をどんどん紙に書いていきます。その後 2 チームが合流してアイデアを共有する段階になったらノート PC を開いて Excel にまとめ、後々アイデアを整理しやすいようにしていきます。
ステップ 3:トップ 5 & トップ 10
各チームが 5 分の間に、それまでに挙げられたアイデアの中からペットの種類を 1 個、性格・特徴を 10 個選ぶ。
ここまで来るとメンバーそれぞれに好きなペットの種類が決まっているので、ペットに合った性質の組み合わせを決めること、そして与えられた時間(ウチの場合はゲームチャプターごとに明確な締切が設定されています)とリソースで実装可能な内容にすることを重視して進めていきます。このため、空を飛ぶペットはここで諦めることとなりました(経路探索と目標位置設定の点で技術的に難しい点があったため)。またペットには壁にひっつくための足を持たせることが決まっていたので、戦車型ロボットのアイデアも諦めざるを得なくなりました(ペットのアイデアを出している時にはペットを使ったパズルのアイデアもよく出てきていたのです)。
ステップ 4:投票・集計・決定
全員の作ったリストを集めてひとつにまとめ、投票を行う。
勝者が決定する。
このとき、全員が投票に参加するものの議論は行わないものとします。各人はゲームにとって一番良いと思えるアイデア/実装映えしそうなアイデア、純粋に好きなアイデアを選び、慎重に、他者から影響を受けることなくポイントを割り振ります。私たちのケースでは、「ペットが潰れる」と「足で攻撃する」というアイデアがほぼ満場一致で否決されました。これは特徴として劣っているというからではなく、他の特徴を潰してしまうものだったからです(例:ペットが潰れる場合、重いドアなどのオブジェクトや Black を支えることができなくなってしまう)。
ステップ 5:アイデアをしっかり練る
- 選ばれなかったアイデアを惜しみつつも、選ばれたアイデアを受け入れる。
- アイデアの肉付けを開始し、説得力のある用途を考える。
- Black と出会うシーン、協力して冒険するシーン、ペットを用いて想起させる感情、ペットの最終的な運命を描いてみる。
投票結果は全員にとってハッピーなものにはなりませんが、誰がどれだけ要望してもアイデアの敗者復活はなしとします。選出されなかったということは、そういうことだと受け入れてもらいます。ただしこの時点ではまだコンセプト段階なので、実際にパズルを作る段階まで進めてみたら選出された特徴がつまらなかったり、飽きやすいものだったり、そもそも実装不可能だったりすることはあり得ます。なのでペットの特徴はここで一度確定させるものの、パズル製作時・実装時・テスト時にはそれぞれ変更の可能性があることも事実です。
こうして我らがペットはゲーム内で具現化し、個性を獲得するに至りました。
以上が私たち Sand Sailor Studio がゼロから何かを作る時に採用しているブレインストーミング手法です。この手法には(アイデアを練るための)時間がかかりますが、クリエイティブなプロセスに骨組みを作れるという点で実施する価値があると考えています。結局、こういった骨組みは時間の短縮や成果物の品質に寄与するからです。またこの方法だとチームメンバー全員が役職に関係なく参加できるので、一番声の大きい人物が出したアイデアが通ってしまう事態を回避することもできるのではないかと私たちは考えています。
あなたのところでは、どんな風にブレインストーミングしていますか?
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PS:惜しみなく情報共有してくれた Execution Labs に感謝を