ツールとゲームの境界線
Wonderland Kazakiri inc.は東京秋葉原を拠点にした”Web制作”を主とした5人の会社で、私を含めた2人がゲーム制作に携わっています。ゲームを作るノウハウは少ないのですが、インターネットを通したサービスの提供などに豊富な経験を持っているのが強みです。なぜゲームを作るのか?というとゲームが作りたいから、そして作れる環境があったからです。
新作の「BQM ブロッククエスト・メーカー」(以下BQM)は、ダンジョンが作れるゲーム、いわゆる”メーカー”です。メーカーというとエディター = ツールという側面が強くあります。
BQMの制作過程に於けるツールとゲームの境界線についてのストーリーをご紹介します。
今回のゲームは、もともとブロッククエストという名前で2年前に発表したパズルアクションゲームの続編として開発したものです。
ブロッククエストは、8ビット風でオールドスクールな雰囲気をもった、ブロック単位のパズルアクションゲームです。カギやスイッチ、転がる玉、手強いモンスター…謎を解いてステージをクリアする、冒険的なワクワク要素をたくさん詰め込んだゲームでした。
今作BQMは、少人数開発ではネックとなりがちなレベルデザインの負担を軽減するため、ユーザージェネレートコンテンツ型のゲームとなりました。
エディターの制作
BQMのレベルエディターを開発するにあたり、最初はいかに簡単にゲームを作り、共有し、友達に遊んでもらえるのかというのがポイントになりました。ブロッククエストはスイッチを入れて扉を開けたり、トラップを回避したり等、内部的には数種のフラグがあって、そのON,OFFをIF文的に解釈できるデータを作り処理をしています。出来ればユーザーには、IF文やフラグなどが分からなくても直感的にデザインできるツールにしたかったのです。
そしてたどり着いたのが独自のリンクシステムというものです。ON,OFFという条件をパワーを入れるという概念にして、相手先につなげる(LINKする)ことで何かが発動するという考えをゲームにいれました。
プロトタイプを制作しリンクシステムの感触をチェックすると、これでいけると確信しました。元のブロッククエストのシステムでは、構文を作ることで出来ることは沢山あったのですが、リンクシステムのためにかなり切り捨てシンプルにしました。タイミング的に東京ゲームショウ出展の3週間前だったのですが、幸いベースのシステムは前作である程度完成していたので、そこに載せるデータをどう作るかというエディター部分に専念できました。集中力を上げて一気に制作したのを覚えています。
データの公開
さて、エディターで作ったレベルは自分だけで楽しんでもつまらないのでネットで公開できるようにしました。このあたりのノウハウはWeb制作で培ったものがあり、すべて自前で作っています。ゲームを作っている2人の内、1人がサーバープログラマーで、私がゲームプログラマーです。その場で2人話し合いながら必要なAPIを作り、データ通信の仕組みを作り上げました。仕様書も何もないのですが、その代わりスピード感だけは間違いなくありました。
API設計にあたってやり取りするデータは基本的にUnity側C#で定義したClassをベースにしています。定義したオブジェクトをサーバーへ送りPHPでやりとり、もしくはPHP上でオブジェクト生成してUnityに送っています(実際にはMessagePackを使っています)。
C#の型にそのままデータが入る仕組みを作ったので、データやりとりは格段にやりやすかったです。PHPの型が曖昧なため、C#でintなのに受け取ってみると256で切られていたりと、異なるシステム間でのやりとりの難しさは感じましたが、良いノウハウになりました。
余談ですが、モンスターの強さ、表示メッセージの登録など、全てWebでできるような管理サイトがあり、これには自社で作っているECの管理画面を使っています。
エディターをゲームにする
一通りエディターを作って、実際にテストプレイしてもらうと何か違和感がありました。確かに簡単にレベルが作れるようになって公開もできるのですが、結局エディターはツールでしかないという点です。ツールはゲームではないのです。ツールでレベルをデザインする。作られたレベルを遊ぶ。このサイクルにゲーム性を感じることができませんでした。1つのゲームの中に、遊ぶ”ゲームプレイ”と、作る”エディター”と別々なアプリが2個入ってる感じです。私はゲームが作りたかったのでこの感覚ではダメだと思いました。
ツールがどうしたらゲームになるのかは難しい課題でした。様々なアイディアの中、ゲームの基本であるロールプレイングの概念をエディターに拡張することで解決を試みました。ロールプレイングは役割を演じる”ゲーム”です。BQMでは、ダンジョンに潜る職業を「ダイバー」、ダンジョンを作る職業を「ビルダー」という名前で職業として定義しました。ユーザーにダンジョンを作ることを「ロールプレイ」してもらいゲームの世界に参加してもらうのです。さらに、この2つの職業を繋げるためBQM内通貨であるゴールドを使っています。つまり、ビルダーは作ったダンジョンに入場料を設定でき、その入場料で儲けます。ダイバーはダンジョンで遊ぶときに入場料を払い、ダンジョンの成功報酬で儲けます。
BQMの世界で仮想通貨が廻る仕組みを構築することで、ツールであるエディターもゲーム世界の一部になるように試みています。例えるならビルダーはBQMの世界ではYoutuberのようなものかもしれません。有名ビルダーになればゴールドを沢山稼げます。
流行りの仮想通貨BitCoinにも影響を受けています。BQMの世界にゴールドを発行する場所がないとゴールドはまわりません。BitCoinでよく言われるマイニングを文字通り捉えて、トップページに「マイン」を置きました。ただタップすれば地味にゴールドが入る仕組みに過ぎないのですが、これがあれば通貨が発行されます。
公開してみて
さて、実際公開して、Twitterにシェアされたユーザーボイスや投稿ダンジョンを見てみると…
など、BQMの世界でダイバーやビルダーになり、お互いに職業の違いを意識しながらロールプレイしてくれているのが見えたのです。これを見てエディターのゲーム化に成功したと感じました。
広告宣伝もまったくしていないので、実際ユーザー数は少ないのですが、公開されるダンジョンの数は2000を超え(2018.2末時点)ダイバーとして作ることを楽しんで頂けてるのかな?と勝手に解釈しています。
驚いたこともありました。リンクするだけのシンプルな仕組みしかないのですが、RPGのようなものから、論理装置、カウントダウンするデジタル数字、タイマー式トラップを自作するなど、多種多様なダンジョンが公開されています。ビルダーの発想力は制作者以上だったようです。
まだまだツールとゲームの境界線が完全に消えたとは思っていません。今後もユーザーの創作欲に負けないようにバージョンアップして、より面白いゲームが作れるBQMの世界を構築していく予定です。
BQMはWebページもあります。ゲームを始めるとマイページができて、自分のダンジョンの一覧のURLをソーシャルネットにシェアできます。記事を読んでくれた方の中にもレベルデザインのプロの方がいらっしゃるかと思います。もしBQMの世界に興味を持ちましたら、ぜひビルダーになって、そしてダイバーとしてダンジョンの攻略もしていただけると幸いです。
公開中の全ダンジョンはこちらから見ることができます。