2017.09.12
デジタルとアナログを同時に作る モニャイの仮面の開発記録
濱田 隆史
モニャイの仮面
ギフトテンインダストリ

ギフトテンインダストリの濱田と申します。こんにちは。
弊社は、ボードゲームや玩具を作っている少人数の独立系スタジオで、主にアナログとデジタルの良さを組み合わせた商品を作っています。

最後に作ったのは『モニャイの仮面』というVRを使用したボードゲームです。
ボードゲームの箱を開けると、モアイ型のVRゴーグルがセットで入っているのが特徴です。
ここではモニャイの仮面の開発事例をご紹介し、そこからデジタルとアナログの開発の共通点やアナログならではの大変さについてご提示ができればと思います。

スケジュール

スケジュールの大きな流れはデジタルゲームを作っていたときとあまり変わりません。
まず、試作を少人数で検討する期間があり、この方向性で良ければ開発に移ります。
開発は2016年4月末から試作を開始し、9月から開発に移り、2017年2月に発売をしました。他のプロジェクトを並行しながらですが同時に2~5くらいの人が関わっています。

企画の軸は「ジャンプ!」

『モニャイの仮面』の基本コンセプトは、ジャンプ動作で2つの視点を切り替えることでした。前作『アニュビスの仮面』はtwitterで仮面の写真が多く共有されていていました。この作品を発売をする頃にはtwitterでの動画投稿がもっと増えると思っていたので(実際はあまり増えなかった)お客さんが楽しげな映像を撮りやすいものはなんだろうと考え「ジャンプ」にしました。

試作の手順

試作では基本のコンセプトを軸に、どんな遊びが出来るのかを様々な角度から検討します。アプリは1~2時間で作れるくらいの、遊びが検証できる最低限のものにとどめます。あまり作らないほうが試遊のときにアイディアが浮かびます。

アナログ部分も画用紙をハサミで切ったり、汎用のコインを使ったり、その場限りのもので試します。また試遊で浮かんだアイディアをすぐに試せるよう文字は鉛筆で書いて修正できるようにしておきます。

試作では海の中から宝を探り当てたり、巨大な怪獣を色々な角度で見て粘土で作るなどのアイディアを試しました。最終的には、前作『アニュビスの仮面』と同様の「自分が見た風景を相手に伝える」という要素に「見えていない風景を推測する」というパズル要素を加えたものが面白かったので、前作のパワーアップ版として本作を作ることに決めました。

試作で気をつけていること

試作で気をつけているのは、世界観を含めずに考えることです。できるだけ単純化し、アートとゲームデザインを切り離して考えます。例えばいきなりキャラクターを考えるのではなく、丸や四角、色も白と黒など、ゲーム進行上、最低限必要なシンボルに限ります。様々な開発の進め方があるとは思いますが、この方法は世界観の呪縛にとらわれること無く、新しいゲームデザインを作り出すときに有効だと感じています。

ゲームのルールがざっくり決まったら、外部の人に向けて試遊会を企画します。ここでゲームルールの細かい部分を詰めていきます。試作段階のゲームは世界観もないし、アプリもアナログもとても荒いものになりますので、開発者以外の人に見せてしまうと、「ストーリーがないとやる気がしない」とか「アプリの見た目がよくない」など検証したい部分とは違う感想が返ってきます。そのため未完成の部分を想像力で補完できる、何かしら制作に関わっている人に試遊をお願いするのが良いと思っています。

世界観や価格の決定

いよいよゲームデザインが決定したら世界観や最終的なプロダクトのイメージを固め始めます。たくさんの世界観のアイディアを出して、ゲームの目的と世界観の目的が一致するものを選びます。『モニャイの仮面』では地図があっているかどうか確認するため、粘土で作成した3体の生き物を動かし1箇所に集めます。この不可思議な動きを説明するために「自分たちはUFOでやってきた他の星の調査隊で、謎の生物を1箇所に集めて捕獲する」というストーリーを考えました。ただ前作『アニュビスの仮面』の「ピラミッドの中のお宝を探す!」という明確な目的に比べて分かりにくくなってしまったという反省があります。

まずはお客さんの気持ちになって、いくらなら買っても良いのかを頑張って想像します。このときに、ボードゲームではプレイ時間と箱サイズで価格が変わってくるような気がしています。例えば5分で終わる小箱のゲームでは5000円は高く感じますが、1時間くらいのゲームで箱も大きめなら5000円くらいはしそうです。立体駒とVRゴーグルを格納するには、かなり大きな箱になってしまうので、価格は4600円とやや高めに設定し、そのぶんリプレイ性を高めたり内容物を豪華にしたりしました。

最終的な価格が決まったら、そこから目標原価を設定しゲームデザインを壊さないよう設計を工夫して安くしていきます。価格を安くする方法は様々ですが、同じ厚さの紙を使うようにする、お客さんにとって価値が無いところの質を落とす、印刷は違っても共通して使える金型を設計するなどです。

製造と開発

アナログとデジタルで、同じ人の役割が変わるのもこのプロジェクトの面白いところです。
開発の前半は、印刷の〆切が早いアナログの制作に、後半はアプリの開発に集中します。金型を作っていたCADデザイナーは3DCGを作り、印刷データを作っていたDTPデザイナーはテクスチャやUIを作成します。小さいチームですが、それぞれの出来ることを組み合わせながらアナログとデジタルの開発を行いました。

最後に

簡単にですが『モニャイの仮面』の開発についてご紹介をさせて頂きました。
アナログとデジタルが組み合わさった遊びは、まだまだたくさんの可能性があると思っています。これからデジタルだけでなくアナログにも挑戦したいと思っている方にとって、少しでも参考になれば嬉しいです。

現在は、VRだけでなくARに強い関心を持っていて、ARのゲームを2つ同時に作っています。1つはマーカベースのARを使用した『とびだすAR恐竜パズル ディノバーン』(2017年秋発売予定)。

もう1つは、画像ベースARと顔変化技術を使用した『バケタージュ美術館』(2017年冬発売予定)です。

こちらもどうぞご期待下さい!

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プロフィール

濱田 隆史

ゲームデザイナー。デジタルとアナログのどちらにも興味があり、その2つが融合したゲームを作っている。1984年生まれ。埼玉県出身。武蔵野美術大卒。
もともと陶芸をやっていたが任天堂ゲームセミナーからゲーム制作を開始。
ハル研究所を経て、2015年ギフトテンインダストリを設立。

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