歌詞がモーショングラフィックスとして表示される『Lyric speaker』や、800本の造花が有機的に動くウィンドウディスプレイ『FLOWER MIRROR』など独創的なインタラクティブ・コンテンツを手がけるクリエイティブ・プロダクションの「dot by dot」。
ユニークな作品が生まれる秘密をプログラマのSaqoosha氏と代表の富永氏に聞いた。
インタビュー: 齋藤 あきこ
Saqoosha
クマをかぶったプログラマー。Flash, JavaScript, openFrameworks, Unity などのフロントエンドのプログラミング技術を中心に、さまざまなソフトウェア・ハードウェア技術を巧みに用いて、クライアントやクリエティブディレクターたちの無理難題を解決する仕事に携わっている。
富永 勇亮
2014年4月、dot by dot inc. を設立。広告キャンペーンのインタラクティブ、デジタル領域、インスタレーション、ミュージックビデオ、IoT、ファッション、TVなど幅広い領域を担当。渋谷でシェアオフィス『HOLSTER』を共同運営。カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル、SXSW、文化庁メディア芸術祭、The Webby Awardsなど国内外の広告賞を受賞。
斎藤
800本もの花が有機的に動いてパターンを作る作品『Flower Mirror』について教えてください。海外メディアにも取り上げられて、大きな話題を呼びました。
Saqoosha
花は3000本あって、実際モーターを入れて稼働しているのは800本です。造花も、中に入っている固い芯を抜いたりして、結構加工しています。メカ部分は「TASKO」が作っていて、アーティストの堀尾寛太さんが電子系の制御全般を担当し、僕が全体を制御するソフトウェアを書くという分担でした。
斎藤
造花のメカ部分と、ソフトウェアとの連携が密でしたよね。
Saqoosha
花が前に出たり後ろに出たりすることによって、数字や文字、鑑賞者のシルエットを表現しています。事前にどの花がどう動く、というシミュレーションが必要だったので、Unityでプロトタイプを作っています。イメージを作ってみることが、前例のないプロジェクトでは大事なんです。クライアントの説明にもプロトタイプを作りました。
斎藤
かなり工夫がされていますよね。
Saqoosha
白の花をベースにして、赤の花が出る・出ないでパターンを表現しています。プロトタイプのほうも、メカの試作をもとに開く速度と閉じる速度を反映しています。
斎藤
どういった調整をして完成させたんですか?
Saqoosha
花が咲く速度を早くしたほうがいいのでは、ということになって、ソフトとメカの調整をしていたんですが、実際やってみたらすごく人工的な印象になった。それでわざと遅くして、花が動く順番をちょっとずつずらしてランダム性を出すことで、生命っぽい感じを出しました。
斎藤
花の配置はどのように決めているのでしょうか?
Saqoosha
これは単なるグリッドではなくて、黄金比なんです。フィボナッチ数列によって、花の広がり方や角度など、広がっていく割合が黄金比になっています。
斎藤
だから有機的な動きなんですね。
Saqoosha
そうかもしれないです。モーターの制御基板の都合で、八個づつ花をグルーピングしてほしいというリクエストもプログラムで出来ました。実際のケーブルの長さも計算出来たのがよかった。
斎藤
人物の動きのデータは何で取っているんですか?
Saqoosha
「ZED Stereo Camera」です。日光が入るインスタレーションだとKinectは使えないので、可視光で使える「ZED」にしました。精度はあまり良くないんですが、今回は花が800個だから、800ピクセルしかないということでなんとかなりました。カメラからの映像を処理して人型にするエディタのようなアプリケーションもUnityで作っています。
斎藤
企画から何ヶ月で完成したんですか?
Saqoosha
制作にかけたのは4ヵ月ぐらいです。僕がUnityで書いたソフトウェアと実際のメカががっちゃんこ(組み合わせる)してから設置までは2週間ぐらいしかなかった。だからどんな場所であってもなるべく簡単に、正確にセットアップできるためのツールをしこたま作りました。設営では、モーターの設置にものすごく時間がかかるので、ソフトウェアの調整時間はほとんどないんです。
斎藤
それは綿密な準備が必要になりそうです。
Saqoosha
店の営業が終わってから朝までに作らなければならないという制約があるので、前準備を徹底的にやるようにしています。
斎藤
dot by dotはどのようにして出来た組織なのでしょうか?
富永
アイディアとテクノロジーとデザインを軸にした広告表現を中心にした、ものづくりの会社です。2014年に5人で立ち上げて、今は12人ぐらいが在籍しています。Saqooshaみたいなテクニカルディレクターや、谷口恭介みたいなクリエイティブ・ディレクター、エンジニア、デザイナー、プロデューサーは私を含めて3名います。さらに、「所属クリエイター制度」を作って、フリーのクリエイターをプロデューサーして、マネジメントなど面倒な作業を補完し、作品を一緒に作るということもしています。その人たちは音楽などのアーティスト活動と並行して、仕事をしたりしていて、会社員とフリーのハイブリッドみたいな仕事の仕方をしています。
斎藤
会社の立ち上げと同時にシェアオフィスを作った理由は?
富永
5人くらいの規模の会社だと、小さなオフィスしか借りられないし、閉鎖的で小規模なプロダクションみたいな感じにはしたくなかった。色々なジャンルの人と関わることができる環境が欲しかった。だから渋谷の宮下公園に「東京ピストル」という編集を中心とした会社と一緒にシェアオフィスを立ちあげて、多様な人達と創作活動をすることを目指しました。今は映像作家、プログラマー、イラストレーター、PR、イベントプロデューサーなど、たくさんの業種のクリエーターが入居しています。
斎藤
2014年の立ち上げから、どのような変遷がありましたか?
富永
もともとはWebサイトを作るというのがキャリアのスタートでした。それが次第に「ヤフー トレンドコースター」のようにWEBとリアルな装置が連動したプロモーションやデバイスを作るようになって、また同時に全くノンテクノロジーな、無印良品の「MUJI 10000 shapes of TOKYO」を作ったりもしますが、基本は広告ですね。
斎藤
これからのdot by dotはどうなっていくのでしょうか?
富永
デジタル、ノンデジタルといったメディア関係なく活動していきたいです。インターネットの世界で生きてきたので、その雰囲気というか、人の接触の仕方や話題になり方がわかるという強みが生かせれば、アウトプットは別にどうあってもいいなと思っています。
斎藤
多様性というのがdot by dotの特徴ですね。
富永
アウトプットは、ミュージックビデオでも、複雑系ウェブサイトでも、インスタレーションでも、デバイスでも、ノンテクノロジーなマンガのようなものでも、何でもいいんです。かっこいいものだけが作りたいんじゃなくて、表現の振り幅を大きくしたい。dot by dotには特徴のあるクリエイターがたくさんいるので、組み合わせによって色々な、変なものが作れる。それがうちの強みだと思っています。
齋藤 あきこ
ライター・編集者として雑誌やWeb媒体にてテクノロジー・アートに関する記事を多数寄稿するほか、企業PR、コーディネーター、翻訳など幅広い活動を行う。2017年よりMade with Unityに編集者/ライターとして参加。編著書に「Beyond Interaction[改訂第2版]」ほか。