2017.05.27
いかにして95,000ドルを達成できたか
Thomas Brush
Pinstripe
Atmos Games

残り48時間で約10万ドル達成

今でも信じられないけれど、僕のUnityプロジェクト『Pinstripe』の Kickstarterキャンペーンは目標達成した。
Unityコミュニティのおかげだ。

最近僕は夢の中にいるような気がしている。いつか目が覚めるんじゃないかと。なんと言ってもあと 48 時間を残して、自分の Unity 製タイトル『Pinstripe』のKickstarterキャンペーンが約10万ドルの資金を集めたのだから。

2ヶ月かけて入念なKickstarterキャンペーン準備と調査を行ったあと、僕は生まれて初めてとなるキャンペーンで目標達成することができた。そうしてようやく、ずっと感じていた不安は晴れた。『Pinstripe』のKickstarter キャンペーンは失敗しなかったどころか、目標額 28,000 ドルの 3 倍以上もの額を集めたから。でもこの成功は、自分ひとりの力によるものではない。友だち、家族、そしてUnity コミュニティの強力なサポートがなければ、絶対に成功しなかったと確信している。

特にキャンペーン立ち上げ前に優れた Unity デベロッパーたちに話を聞く機会がなかったら、キャンペーンは間違いなく失敗していただろう。キャンペーン前に何ヶ月にも渡り調査した結果から、失敗する Kickstarters キャンペーンは 5 つのタイプに分類でき、成功するキャンペーンはひとつの共通要素がある、というのが僕が到達した結論だ。そして成功・失敗いずれのケースでも、カギとなるのは「コミュニティ」。キャンペーン立ち上げ前にあなたをしっかり応援してくれるコミュニティが形成できていなければ、キャンペーンは成功し得ない。

#1:声なき Kickstarter

Kickstarter を見ていると、届けるべき相手が居ない場所で声を枯らして宣伝しているようなキャンペーンを見かけることがある。どれほどゲームが美しく、高いクオリティだったとしても、届けるべき相手がいなければすべては徒労に終わってしまう。

僕が『Pinstripe』(地獄がテーマの、独自の雰囲気をまとった2Dアドベンチャーゲーム)の開発を始めたのはおよそ 4 年前、21 歳の時だった。僕は当時 Flash ゲーム市場で小さな成功を収めていて、今から思えば恥ずかしいほど有頂天になっていた。当時の僕が持ち合わせていたインディーゲーム観は浅く、夢見がちで、そして少し抜けていた。Kickstarter キャンペーンなんて絶対やらないと思っていたし、Facebook に広告なんか出さないし、自分のアイデアを売り込むために戦略的な計画を立てるなんて考えたこともなかった。優れたゲームを作れば自然と売れる、と信じていた。そんなはずもないのに。

これは最近になってようやく気付いたことだけれど、自分のプロジェクトを見せるチャンスがあれば必ず見せていくことと、コミュニティやゲーム業界の人たちに関心を寄せてもらうことはほとんど同じ重さを持つ。Kickstarter 立ち上げ前(1 年前程度をお勧めする)からマーケティングを開始するのは、小さな種を土に植えるようなものだ。Kickstarter キャンペーン立ち上げの準備が整う頃、自分の夢を支えてくれるファンやディベロッパーが「収穫」できる。僕の場合先行マーケティングに力を注ぎ始めたのは数年前で、最終的にゲームを見せたりマーケティングを行ったりすることで Twitter フォロワーは約 1,500 人、『Pinstripe』の Facebook ページは約 2,000 イイね!、Kickstarter キャンペーン開始を知らせるメール先は約 700 人(友人、家族、業界人)集まった。圧倒的多数ではないけれど、とても強力な支援だ。彼らがいてくれたからこそ、キャンペーンは多くの人に届き、またシェアされていったのだから。

#2:はじめての Kickstarter

2015年 12月、僕はあと1クリックで『Pinstripe』の Kickstarter キャンペーンを公開するところまで来ていた。でもそこでふと思った。「この Kickstarter キャンペーンが練り込み不足だったらどうしよう?」と。というのも、最初に作ったキャンペーンはシンプルなスケッチのようなものだったからだ。

そしてその夜、僕は William Dubé に連絡した。William は同じ Unity ディベロッパーで、『Jotun』の開発者だ。『Jotun』 も Kickstarter でキャンペーンを行ない Kickstarter のゲーム部門で優れたキャンペーンとして取り上げられている。

Kickstarter キャンペーンで不安に思うところがあっても、William なら正直に答えてくれると思ったのだ。翌日、William は返事をくれた。そして丁寧な口調で、僕のキャンペーンにはいくつか致命的な欠陥があると教えてくれた。彼が直すべき点を具体的に挙げてくれたおかげで、僕はそれをひとつずつ修正することができた。結局、僕は Kickstarter キャンペーンを立ち上げる前に 5 回の改定を入れている。また他の Unity ディベロッパーの助言を受け、動画も再撮影、再編集を行った。

僕はそれから、別の Unity ディベロッパー Joe Russ とも親交を深めた。彼は『Jenny LeClue』というとても美しいミステリーゲームの開発者で、同じく Kicsktarter キャンペーンを立ち上げている人物だ。Facebook で Joe にメッセージを飛ばすと、僕らは数分後には電話で話をしていた。その後はたっぷり 1 時間かけて、Kickstarter のこと、『Jenny LeClue』のキャンペーンのこと、Unity でのゲーム開発のこと、そして『Pinstripe』のキャンペーンで改善するべき点について話し込むことができた。

この他にも、Kickstarter で失敗を経験した Unity ディベロッパーからも話を聞くことができた。既に一度挑戦し、何をすべきでないかを一番分かっている人たちだ。彼らとのやり取りは、キャンペーンで目標達成したディベロッパーとのやり取りと同じくらい有意義なものだったと思う。正直に言って、ここには書ききれないくらい多くの知見を得られた。

#3:完ぺきじゃないプロトタイプで Kickstarter

「俺もKickstarterやろうかな」なんて台詞を聞いたことはないだろうか?僕はあれを聞くとどうしても、あばら家に住む飲んだくれの叔父さんを連想してしまう。心の中で即座に「そんな簡単なもんじゃないよ」と思ってしまう。飲んだくれの叔父さんが Kickstarter キャンペーンを成功させるなら、完ぺきで、美しくて、見た人の心を掴むプロトタイプが必要だ。このプロトタイプは「それなりの出来」では絶対にダメだ。基本的に「完ぺき」でなくてはいけない。人がお金を出すくらいに完ぺきでないと。『Pinstripe』の場合、プロトタイプである体験版を GameGrumps で 15 分程度プレイしてもらうことができた。この動画はキャンペーンにとってこれ以上無い起爆剤となったと思う。だから僕は言う。プロトタイプは完ぺきじゃないといけない。ゲームが完成していなくちゃいけない、という意味じゃない。遊べる部分が完ぺきじゃないとダメということだ。見た人、触った人の心を掴むものでないと。

#4:自信なさげに Kickstarter

Kickstarter やソーシャルメディアサービスにしょっぱい出来のモノを上げる人の気持ちは、正直言ってよくわかる。自分のプロジェクトに興奮してて、フィードバックが欲しいなんて普通のことだ。僕も昔はよく Twitter に酷い出来のものをアップロードしてた。作りかけの画面のスクリーンショットとか、iPhone で描いたスケッチとか。なぜか自分のやっていることに酔ってしまう瞬間や、他の人にプロジェクトを見せたくなる衝動に襲われる瞬間があったのだ。振り返ってみれば、クオリティの高いものを見せていなかったんだから誰も興味を示さなかったのも当然だと思う。一方で当時の自分は自信満々だった。僕は個人的に、自分のアイデアやコンセプト、そして夢を世界に向けて発表できないほど不安がっているよりは、自信を持っている方がずっとずっと良いと思う。

自分の作っているものを世に見せる勇気が絞り出せても、それを語る自分が自信なさげでは誰も興味を持ってくれない。Kickstarter に上げる動画を作る上で、これは一番重要なポイントだ。ボソボソ震える声で自信なさげに話していたら、プロジェクトの真の魅力は絶対に伝わらないし、Kickstarterキャンペーンの成否まで左右してしまいかねない。

それなら自信を持って、どれだけ凄いモノを作っているかを伝えたほうが 100 万倍いい!俺のゲームは世界を変えるぜ、くらいの気持ちで。あなたの作ってるゲームはきっと良いものだ。でも、誰かがそれをみんなに伝えて納得させなければいけない。人生は短いし、時間は黙っていても過ぎていく。だから語るべきことは自信たっぷりに語ってください。

そしてブロガーや YouTuber にコンタクトする時にも「自信」がすごく重要になる。彼らの力は、Kickstarter を成功させる上では欠かせない。誰も知らないゲームのキャンペーンが成功する道理はないのだから。でも一方で、多くの Unity ディベロッパーは Twitter やメールを通じてプレスとやりとりする時に、自分のゲームの売り方をよく知らないんじゃないかと思う。そこで僕がお勧めする方法は、毎日ソーシャルメディアやメールで、自信たっぷりにクオリティの高いモノ(それなりの出来ではなく、とっておきのモノ)をシェアしていくこと。シェアするモノのクオリティが高ければ、鼻が利く人たち(YouTuber、パブリッシャー、業界著名人など)の目に留まるチャンスは高くなる。僕は有力 Unity ディベロッパーやブロガーに数え切れないほどのメールを送った。本文では自信たっぷりに、自分のゲームがどれほど独創的かを説明し、これが優れたゲームになることを確信していると書き、相手が持つオーディエンスが間違いなく楽しんでくれるはずだと記した。反応は「ほぼ」ゼロだったけれど、まったくのゼロではなかった。何十万ものフォロアーに向けてツイートされたこともあれば、世界的に有名な YouTuber と話をする機会を得られたこともあった。そういった出会いは美しく、非現実的ですらあるけれど、最終的には Kickstarter キャンペーンを立ち上げる時には素晴らしい強みにもなる。

#5:孤独な Kickstarter

Unity ディベロッパーやゲーム業界のリーダー的存在から支援を得ることなく Kickstarter キャンペーンを立ち上げても、おそらく結果は失敗に終わると思う。あなたは、自分より 10 億倍成功している人に「よかったら電話でお話してもらえませんか?」とメールしたことが何度ありますか?「そんなの絶対しない」と思ったら、それは機会損失。僕もかつては、世界的に著名な Unity ディベロッパーやゲーム業界の巨匠と電話で話すなんて怖いし、そもそも馬鹿げていると思っていた。でもある日覚悟を決めて、仕事場(僕は日中は会社勤めをしている)の PC から Tom Fulp 氏(『Newgrounds』クリエイター / ゲーム業界の巨匠)にメールしてみた。もし良かったら、電話でアドバイスを頂けませんか?と。下の写真が、僕が送ったメールの文面だ。

(注:メールでは丁寧な口調で、Tom 氏の都合の良い時に時折Skypeで話す程度の頻度で、自分のメンターになって欲しいという内容が書かれている)

驚くべきことに、彼は返事をくれ、僕たちは 30 分ほど会話をすることができた。そしてできる限りの範囲で僕のメンターになることを了承してくれたのだ。以来、Tom は僕にかけがえのない助言を与え、常に支えてくれている。また知人も紹介してくれるなど、大きな助けとなってくれている。

それから、ゲームに関係なく、尊敬する人物にコンタクトを試みるのも試してみるべきだろう。ある日の早朝、僕はベッドの中から好きなバンド Snowmine にメール(ニュースレター配信元アドレス宛だった)を送り、立ち上げ前だった『Pinstripe』の Kickstarter キャンペーンについて助言をもらえないか、とたずねてみた。Snowmine が過去に公式ウェブサイトでイチからクラウドファンディングキャンペーンを立ち上げて成功させた実績があり、クラウドファンディングの領域でよく知られたバンドだったからだ。そして翌日、僕は職場の駐車場に停めたボロボロの愛車イスズビッグホーンの座席で、満面の笑みを浮かべながら Snowmine のリードボーカルと通話していた。会話を通じて僕は多くを学ぶことができた。だからどんな分野で活躍する人であれ、尊敬する人物にコンタクトするのは有意義だと僕は信じている。まだ信じられない?

それなら…第一に、西部開拓時代のように混沌としているインディーゲームシーンに「これをやれば成功する」という方法論はない。でも人は、自分より賢いメンターを得ると賢くなれる。

僕はこれまでとても長い期間、馬鹿みたいな事(たとえば、約 4 年間も資金調達せずに 1 本のゲームを作り続けたこと)をやってきた。でも僕より賢い人がある日、「そりゃ、資金調達したほうがいいよ」って言ってくれた。あの瞬間の視野が開けた感覚を思い出すたび、僕は成功している人に助言を求めることの有用性を再確認する。ただしここには、ひとつ注意をしなくてはいけないことがある。無礼な振る舞いは慎むべきだということだ。助言は誠意を持って謙虚に求めなくてはいけない。業界のリーダーのような人たちの頭の中には珠玉の助言がたくさんつまっているし、広い心も持っているけれど、時間だけはまったく足りていないのだ。だから助言を求める時には気を配り、先方のスケジュールを尊重する必要がある。

第二に、業界のリーダーはあなたのゲームをマーケティング面でも助けてくれる。ただこれは、従来のマーケティング手法のことではない。僕が成功している Unity ディベロッパーと話していて気付いたのは、彼らが他のディベロッパーにも成功してほしいと願っていることだった。僕が話をすることができたメンターは、助言を求めてコンタクトした直後からサポートしてくれた。彼らからは実にさまざまなサポートを受けたけれど、中でも貴重だったのは優れた人物を紹介してくれたことだっただろう。もちろん毎回紹介してくれるわけではないけれど、誠実で謙虚に助けを乞う時、メンターは何とか助けようとしてくれるものだ。ただしあなたが謙虚さと誠実さを失った時、その関係は終わる。繰り返しになるけれど、成功している Unity ディベロッパーは多忙を極めているのだから、彼らとの関係は誠実にしっかりと育んでいくべきなのだ。Kickstarter キャンペーンの立ち上げ時に彼らが協力しようと考えてくれるのは、しっかりとした関係があってこそなのだから。僕のケースでは、キャンペーン立ち上げ時に少なくとも 10 人が僕を助けてくれた。彼らなしには『Pinstripe』の Kickstarter キャンペーンが成功することは絶対に有り得なかったと思う。

最後に、誰に対しても、常に、親切であろう。誰かが助けを必要としていれば助けよう。自分のキャンペーン立ち上げの時、誰が助けてくれるかは誰にも分からないから。僕の場合は幸運にも Game Grumps(チャンネル登録者数 300 万人の Youtube チャンネル)の Kevin Abernathy(Baby Grump)と親交があった。

Kevin と知り合いだったのは完全な運だったとはいえ、それでも人との繋がりを大切にする事の証明にはなるのではないかと思う。Kevin は高校時代に一緒に映画館でアルバイトしていた(25 ドルのポップコーンを一緒に売った仲だ)ことを覚えていてくれて、既にカリフォルニアで有名人になっていた去年、ノースカロライナの無名ディベロッパーの僕に連絡をくれ、Kickstarter に合わせて『Pinstripe』を 300 万人の YouTube ユーザーに紹介してもいいかと聞いてきてくれたのだ。世界は小さい。友情は大事にしよう。

完ぺきな Kickstarter

Unity コミュニティは、夢を追う者にとって素晴らしい場所だ。誰もがみんなの成功を願っている。完ぺきな Kickstarter キャンペーンとは、この強固で助け合い精神の強いインディーゲームコミュニティの価値を理解した先にあると僕は信じている。既にお気付きのとおり、僕はここまでずっと Unity ディベロッパーや業界のプロフェッショナルたちとの関係が持つ重要性を書き続けてきた。僕はそもそも、人生の大半を孤独に過ごしてきた人間だ。あらゆるコミュニティとの交流を絶ち、内省的なアーティストを名乗ってきた人間だ。そうあり続けたいと望む人はそれでもいいかもしれない。ただ、その先に大きな成功はないと思う。僕は1 年前、「自分のゲームを遊んでくれた人は自分をどこかで支援してくれるかもしれない人だ、だから彼らのことをもっと知らなくてはいけない」とようやく気づいた。

最後にまとめよう。もしあなたが本物の Unity ディベロッパーと本物の交友関係を築くことができれば(人によって程度の差はあるだろう)、Kickstarter キャンペーンが目標達成する確率は高くなる。僕はそう考えている。

『Pinstripe』の Kickstarter キャンペーン詳細についてはこちら(リンク先英語)に書かれているので、興味があればぜひ読んでみて欲しい。

立ち上げから 1 日足らずで Kickstarter キャンペーンの目標達成した瞬間は、夢が叶った気分だった。僕はそれを、あなたにも体験して欲しい。インディーゲームコミュニティで成長していく上で質問があれば、遠慮なく atmosgamesnews [at] gmail.com まで連絡を。お互いに頑張りましょう。

最後に:『Pinstripe』の Kickstarter キャンペーン成功を強力にバックアップしてくれた皆に謝辞を

Will Dubé
Joe Russ
Tom Fulp
Tyrone Henrie
Jay Armstrong
Julian Wilton

Pinstripe

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