2020.03.31
後ろを振り返らないチームが挑んだ「新作」
岡村峰子、吉永 匠、堀田 昇、栗原直哉
スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー
グランディング

第一作の発売から20年経った今も、多くのファンを魅了する『スペースチャンネル5(以下チャンネル)』。2002年の第二作の発売から18年、伝説のIPがVRで復活! 単なる音ゲーの枠を超え、主人公・うららの冒険ストーリーに引き込まれてしまう『チャンネル』というタイトルが、VRという没入感のあるメディアによってさらに強みを増した最新作として発売されたことに感動してしまう。新キャラクターも続々登場し、旧作ファンから新しく知った人までをあらかた虜にしてしまう本作について、制作陣に話を聞いた。

インタビュー: 齋藤 あきこ

プロフィール

岡村峰子

グランディング代表取締役にして、「スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー」プロデューサー。エイベックスからセガに転職したという経歴を持ち、同シリーズのアシスタントプロデューサーとして開発からプロモーションまで広く関わった

プロフィール

吉永 匠

「スペースチャンネル5」シリーズのキーマンと呼べる存在。シナリオ執筆およびゲームデザイン・ディレクターとして携わってきた。「スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー」ではストーリー&ゲームデザイン・アドバイザーとして、セガゲームスから参加

プロフィール

堀田 昇

グランディングで「スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー」のディレクターを担当。かつては吉永氏や岡村氏と同じく、セガソフト9研→ユナイテッド・ゲーム・アーティスツに所属。「Rez」のグラフィックデザイナーを務めた

プロフィール

栗原直哉

家庭用ゲーム、モバイルゲームの開発を経て、グランディングに参加し「スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー」のテクニカル方面を担当。Unity歴はあらかた9年。

伝説のIP復活までの道のり

そもそも、3作目となる本作の企画が立ち上がったきっかけは、セガのゲームの楽曲をオーケストラで演奏するイベント(史上初のセガオンリーのオーケストラコンサート「Game Symphony Japan 14th Concert SEGA Special」。2015年)だったそうですね。

岡村峰子(以下岡村)

はい。それを吉永(匠)さんと見に行って、お客さんが『チャンネル』の楽曲ですごく喜んでくださっているのを目の当たりにして、すごく驚いたんです。「まだこんなに好きでいてくれている人がいるんだ!」。でも、それですぐに「じゃあ、新作を作ろう」となったわけではないんですよ。

吉永匠(以下吉永)

実は、過去に作ったものにあんまり執着しないんです。常に新しいことを追い求めるという…。

それはセガの血じゃないですか?!「創造は生命」って社訓?がありますが、基本的に過去の遺産にすがらないというか。

岡村

意外とそうかもしれないですよね(笑)。

吉永

VRを作るまでは、『チャンネル』というブランドを守るという使命感ってそこまでは持ってなかったんです。基本的に、「何かを作った人」って言われるよりも、「何かを作っている人」って言われたい。ゲームは時間の流れが早くて、ハードだって遊べなくなっちゃうでしょう。作り手としての思い出トークもあんまりしたくないし。

そんな中で、昔から愛されているタイトルが復活したんですから、ありがたいことですね。今回、グランディングが開発で、セガのライセンスアウトということになっていますが、どのような経緯でグランディングさんが開発されることになったのでしょうか?

岡村

まあコンサートがあまりにもすごい反響だったので、「私も一作目の開発から関わっている(※岡村さんは当時セガで水口哲也さんのアシスタントを勤めていた)端くれとして、何かしなくてはいけないのかな」と思っていたところに、『チャンネル』のサウンドディレクターの幡谷(尚史、セガのコンポーザー)さんに、「グランディングで作りなよ」って言われたんです。「うちみたいな小さな会社が?」と思いましたが、大先輩にそんなことを言われたものですから、「これはもうやるしかない」と。

吉永

岡村さんなら、「当時関わった人を一つにして調整できる」という信頼があったんでしょう。

岡村さんの存在があって実現したことなんですね。そもそも、グランディングさんが設立されたのは何年ですか?

岡村

2007年です。堀田さんと、二木幸生さん(「パンツァードラグーン」シリーズの開発者)の3人で立ち上げました。今は東京・福岡・京都・高知に拠点があり、ビデオゲームだけでなくボードゲーム、プロモーションコンテンツやインスタレーションなどの企画・制作もしています。

吉永

昔からよく知っている仲間のような存在ですからね。最初に復活の話が立ち上がった時に、「グランディングなら大丈夫だろう」とは思ったんですが、その一方で、自分たちでも「チャンネル2」はよく出来ていて、やりきったという感があったんです。だからただの続編の「3」を出す気にはなれなかった。そこで、グランディングはVRに力を入れている、ということで「VRならでは!」いう要素を入れることで、実現に乗り出したというかたちですね。

岡村

最初はKDDIさんとのコラボレーションで、東京ゲームショウ2016にVRコンテンツを出展させていただいたんです。そこから、堀田さんがディレクターになって。

堀田昇(以下堀田)

その時はまだゲーム性はなくって、あくまでHTC Viveの中で『チャンネル』の映像が見れるというだけのものでした。昔のデータを使い、簡単に作ってみようっていう軽いノリだったんです。でも想定外に、たくさんのお客さんが来てくださって。ただ映像が流れていてゲームではないのにも関わらず、一緒に踊ってくださったりして。それを見て「よし、素直に新作を作ろう」と決意しました。

東京ゲームショウ2016に出展された「ウキウキビューイングショー」

「没入感」を作るには

VRコンテンツの出展で手応えを得てから、ようやく新作をゲームとして作るという流れになったんですね。

岡村

はい。企画が通ってから作り始め、『チャンネル』の世界観を作った吉永さんに「アドバイザー」という立場で参加して頂いています。『チャンネル』らしさの表現には必須である吉永さんのエッセンスを入れて頂いているんです。

堀田

うららの「ぎゅんぎゅんします」とか、吉永さんがニュアンスを調整してくれていて。吉永さんが入らないと、『チャンネル』感が出ないんです。ここだ!というツボを押してくれる。

設定資料

吉永

自分はセガで『チャンネル』のIP管理を担当しているという立場なので、うららというキャラクターが「これはやる、これはやらない」という線引きをしていかなくてはならないわけです。そもそも、うららがああいうキャラクターになったきっかけは、見た目がバービー人形みたいに完璧だったので、そのままゲームの中に出てくると冷たい印象を与えてしまう。だからあえて口調を崩してあげることで、キャラの深みが得られるんじゃないかということで性格付けをしたんです。

タイトルの「あらかた」っていうキーワードも、『チャンネル』の世界観にぴったりだな!と思わされます。

吉永

ちょっとずらすのは、わりと気にして入れています。うららの声って、素人っぽいじゃないですか。その声でしゃべるセリフなので、抜けを入れることで親近感を持ってもらうことは狙っていました。

『チャンネル』の特徴として、他の音ゲーにはあまりない、感情移入できるストーリーがありますよね。VRとは相性がすごくいいコンテンツなのではないかと。

吉永

『チャンネル』の元々のコンセプトが、「ゲームとミュージカルの融合」だったんです。また、自分的に、ゲームプレイとデモ演出のムービー部分がブチっと途切れるのがすごく嫌だったんです。だからゲームとストーリーを融合したかった。新しい入力パターンが出れば展開も新しくなっていく、そういう全てがつながったゲームデザインにしています。

VRですとゲームの世界が360度見えてしまうので、その「つながっている」感覚を実現するのに演出としてかなり苦労があったのでは?

堀田

かなり試行錯誤しましたね。カット切り替えもできないですから。

それは大きな違いですよね。

堀田

パート2までの感覚でやってしまうと、VRでは踊れなくなってしまうんですよ。だから出題を削ぎ落としたり。あとは気をつけたのは、「本当にそこにうららがいる」という存在感です。

本当に、うららちゃんが隣にいるような臨場感がありました。

堀田

VRならではということで、岩や、巨大なパンチが飛んできたり、迫ってくるような演出は多く入れています。立体感がある空間なので、前後の奥行や、迫力がある絵を、とにかく間に挟むようにしました。吉永さんからもらったプロットを基に、私のほうで演出プランというか、コンテを全部バーッと、流れを全部描いたんです。


堀田氏による演出絵コンテ

吉永

堀田さんの描いているコンテやストーリーボードを見て、「これは勝てる!」って思いました。展開がダイナミックですから。

堀田

僕の中では、もう、ある程度絵がわかっていて、「これはすごくいいゲームになる」っていう自信がありましたね。

吉永

実は、堀田さんと一緒にお仕事するのは初めてなんです。堀田さんとは、手加減なしでゲームの話ができて、使う言語が一緒というか、「ああ、だったらこうだね」って普通にやりとりできました。

堀田

でもそこで、僕が行き過ぎると、吉永さんが「そこは抑えてください」って言ってくれる。吉永さんのなかで、「チャンネルではこれはやる、これはやらない」というルールがある。それがすごく助けになりました。

確かに、IPを守るというのはそういうことですよね。

吉永

これはやる、やらないという線引きは自分の中ではあるものだったんですが、明文化はしていなくて。今回をきっかけに、書き出したりしました。

新キャラ誕生


新キャラ、ルー(左)とキー(右)

魅力的な新しいキャラクターが続々登場して、ストーリーに絡んで来るところがすごくワクワクしましたね。どのように新キャラを考えていったのでしょうか?

吉永

新作感を出すためにも新キャラは必要でした。とは言え、見たこともないデザインのキャラクターが出てきても「誰?」となってしまうので、過去作のライバルキャラの一味的な感じで出せば、ユーザーに受け入れてもらいやすいんじゃないかという狙いで設定をしました。ちなみに、今回の声優さんは、全員「チャンネル好き」の方を起用したというのがポイントなんです。過去のブログを調べたりして、怪しい人のように(笑)。

やっぱり、『チャンネル』独特のノリがわかる人にやってもらいたいですよね。

吉永

それが本当にありがたかったです。説明しなくても、「アップ、ライト、レフト、ダウン」って普通に言ってもらえますからね。ちょっと変なセリフでも、『チャンネル』のノリに合わせてやってくれるという。

デザイナーもUnityで並行作業

今回、開発にUnityを選んだ理由は? プログラミングのディレクションや、作業管理も担当していた栗原さんにお伺いしたいのですが。

栗原直哉(以下栗原)

VR対応ということが第一にありましたし、いろいろなデバイスへの対応が、Unityなら早いですから。他のエンジンと比べた検証結果なども考慮して選びました。

堀田

デザイナーにもわかりやすい、というのは大きかったですね。以前は全部プログラマーにお願いしていたものが、デザイナーもUnityを触れるから、基礎を作ってもらったんです。

デザイナーも触れるというのは大きいですよね。

堀田

昔は、デザイナーやプログラマの横に僕が座って、「うーん。違うね」って、直してもらっていたんです。Unityを使うことで、「こういうことをやりたいから、そういう仕組みを作ってください」とお願いし、出来上がったものを僕がいじって返すというやり方にしました。


吉永

作業するフローが本当に変わりましたよね。昔だったら、階段式にしかできなかったところが、Unityによってデザインとプログラムがパラレルに動けるようになったことで、スケジューリングが全く変わってきた。

堀田

制作期間は短くなりました。昔はもっと、プログラマーと組んで細かい動きの調整をしていたのが、今は自分だと難しいところだけをプログラマーにお願いするようになって。

制作で苦労した点は?

栗原

最適化ですね。たくさんのキャラクターが出るシーンなどの最適化は苦労しました。

堀田

「大変そうだなあ」って思いながら、僕は演出を盛るだけ盛ってましたからね。

吉永

堀田さんがエフェクトをたくさん炊くから(笑)。

堀田

「ここに光が欲しい」とか言って。それで処理落ちしちゃったりして。無茶なオーダーをしたり、スケジュールのギリギリまでいろいろ突っ込んだので、実は結構キレられていたのかも…。

栗原

そんなことはないです(笑)。

岡村

栗原さんは、東京ゲームショウで出展したときに「僕、チャンネル作りたいんです!」って立候補してくれてびっくりしました。情熱がありがたいです。

堀田

僕は好きなだけ演出をかますので、そのニュアンスを残しつつ、最適化するのは大変だったと思いますよ。

うららちゃんの動きなど、細かいニュアンスの表現などはいかがでしたか?

栗原

モーションデザイナーさんが頑張ってくれました。Unity上では、タイムラインをすごく活用させてもらって、それで構築していった感じですね。キャラクターのフェイシャルの指定を作って、「ここでこの顔」みたいに指定したりとか。また、シェーダーについても、担当者が作ったものをちょっと僕が手直しするというフローだったので、すごく楽でした。

エディタ拡張や、デバックの効率化なども行っていたんですか?

栗原

そうですね。エディタ拡張では、例えば、出題のエクセルシートを読み込んで、出題のデータにするところの拡張であるとか、あとは音楽のデータをサウンドのほうから頂いた後に、出題がBPMに基づいて出されてくるゲームなので、そのBPMを確認して、データで入れていくんですけど、そのためのウィンドウをダイアログで作ったりしました。

全体の製作期間はどれくらいですか?

栗原

ゲームショウの時のデモから、展示会で発表するたびにちょっとずつバージョンアップをしていきました。最初は1面だけだったものを、ストーリーを乗せて、最終的には4面構成になりました。製品化のための制作期間は、1年半ぐらいですね。

岡村

今回は基本的に、すごく少人数で作っています。キャラクターのメイン担当が一人、モーションや背景担当が一人、プログラマーも栗原さんが一人でやっている期間が長くて。もちろんサポートにも入っていただいていますが、自社開発ですから、予算の課題も大きく…

それでこのクオリティというのはすごいと思います。

岡村

特に開発後半、クオリティを上げていくところは大変でしたよね。『チャンネル』として、下手なものは出せない。堀田さんがディレクターとして、お客さんの想像を超えるレベルをどこまで目指せるかに挑んだ結果、出来上がってきてから見えてくるものもあるんですよ。さらにサウンドチームから素材とかが入ってくると、「だったら、もっと、これもできるよね」ってどんどん積み上がってしまうので。でも多分何とかそこを乗り切って。リリースできて本当によかったです。

これからの展開

とは言えこれで終わりではなく、既に初音ミクとのコラボレーションなども予定されていますよね。

岡村

初音ミクさんとは、『チャンネル』で歴史的にコラボレーションしてきた流れがあります。

吉永

ミクさんのほうで、『チャンネル』のコスチュームもずっと前から出ているんです。ミクさんもネギを持っているし、うららも前作でネギを持っているので、長ネギつながりもあります(笑)。

岡村

絶賛開発中なので、ぜひ楽しみにしていてください。

どちらも楽しみにしています。ありがとうございました。

プロフィール

齋藤 あきこ

ライター・編集者として雑誌やWeb媒体にてテクノロジー・アートに関する記事を多数寄稿するほか、企業PR、コーディネーター、翻訳など幅広い活動を行う。2017年よりMade with Unityに編集者/ライターとして参加。編著書に「Beyond Interaction[改訂第2版]」ほか。

スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー

グランディング
  • リズム
  • AR/VR

プラットフォーム

  • HTC Vive
  • Playstation VR
  • その他のVR/AR

言語

  • 日本語
  • 英語
  • psstore

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