「Google Play Indie Games Festival 2018」優秀賞に選ばれるなど、高評価を得たゲーム『PARADE!』。登場する動物は30種類。ポリゴンで描かれた可愛らしい動物のムーブをタップやスワイプで真似することでリズムを再現し、より多くのキャラクターを仲間にしていくというリズムゲームだ。スタイリッシュなデザイン、テンポに合わせてキャラクターを動かす操作性の良さ、キャラクターの可愛らしさなどで人気を博している。このゲームの開発者である内田達也さんにお話を伺った。
インタビュー: 齋藤 あきこ
内田 達也
1988年生まれ。名古屋市立大学芸術工学研究科卒。メディア系アプリのUIデザイナーとして修行を積み、その傍ら個人でもアプリの制作を続ける。学生CGコンテストノミネート、グッドデザイン賞、Google Indie Games Festival TOP3選出など。
斎藤
リリースとともに脚光を浴びた「PARADE!」ですが、内田さんのキャリアについて教えてください。
内田
プログラムを始めたのは、大学時代です。名古屋市立大学の芸術工学部というアートと工学を学ぶ学部で、プロダクトデザインから立体造形、人間工学などもやっていました。最終的に映像専攻だったので、プログラミングを使った映像を作りたいと思い、プロセッシングなどを独学で学んで作品を作っていたんです。
斎藤
クリエイティブコーディングと言われる表現をされていたんですね。その後は就職をされたんですか?
内田
卒業後は東京のWEB会社に就職し、UIデザインやバナー制作などの普通のデザイナー業務をしていました。完全にデザインの仕事だったので、趣味でアプリやゲームを自作していたんです。それが5年前くらいで、お絵かき版のインスタグラムのようなアプリを作っていたんです。でも特にプロモーションもしないで、作って終わり、というような、完全に趣味の範疇でしたね。
斎藤
クリエイティブコーディングの表現者はアートを目指す事が多い印象があるので、ゲームにシフトするというのは珍しいことなのではないかと思うのですが、内田さんがゲームを作り始めたのはどのようなきっかけだったのでしょうか?
内田
ふと、「ゲームを作るのはこれまでやってきたことの複合なんじゃないか」と気がついたんです。アートよりも、もっとたくさんの人に伝わるものが作りたかった。それでインスタレーションよりもスマホという皆が見ているメディアに作品を届けたいと言う気持ちがありました。
斎藤
「PARADE!」はいつごろから構想されていたんですか?
内田
音ゲーを作りたいということは2年位考えていました。マーカーが落ちてきて目で見て押す、という既存のシステムではなくて、もっと音楽を感じられるゲームが作れないかと構想していて。会社の仕事をしながら開発していたのですが、「30歳になる前にやりたいことをやっておきたい」と思い、退職して「PARADE!」の開発に専念しました。それが1年前のことです。
斎藤
すごい一念発起ですね。開発に集中するために会社を辞めるというのは、勝算があってのことですか?
内田
あまりなかったですし、今もあるわけではありません(笑)。受注などもせずに、ゲーム開発のみに専念していました。でも、やりたいことをやりたいし、悔いのないように生きたいという思いが強かった。それでも出来れば儲かりたいという気持ちもあるので、そのためにいろいろ考えています。
斎藤
こちらが最初のスケッチですね。
内田
最初はopenFrameworksで『パラッパラッパー』のように、黒いキャラがリズムを作って、白いキャラがコピーするというゲームを作っていました。そのうちに、「これはゲームエンジンを使った方が明らかに早い」と気づいてUnityに移行したんです。
斎藤
「PARADE!」は初期の試作とは全く違うゲームになっていますが、かなり試行錯誤されたんでしょうか。
内田
上部にバーがあって、それに合わせてタップするゲームだと、画面を見ずにバーの部分しか見ないんですよ。そこで画面内で自分でタイミングを合わせることでパターンが作れるという方向にシフトしました。
斎藤
“パレード“というテーマはどのように思いつかれたんですか?
内田
見た瞬間に「やりたい」と思ってもらえるゲームを考えたときに浮かんだんです。賑やかそうな雰囲気だったり、群れが付いてくる様子が、プレイヤーをひきつけるのではないかと考えました。『スプラトゥーン』や『モニュメントバレー』って、見た瞬間に「やりたい!」と思うじゃないですか。そういう感覚を目指しています。
パレードのモチーフは、ニューヨークに滞在していた時に参加したハロウィンのパレードから。すごく楽しかったんですよ。その楽しい感覚を体験してもらえればと。
斎藤
インターフェースにたくさんのレイヤーがあって、すごく賑やかで楽しいんですよね。動物が動いている後ろでも、車椅子の人がいたり、UFOがいたり。
内田
UIは最初に決めました。常に目を楽しくさせたいという気持ちがあって、バックグラウンドはループさせているんですが、最初は少しのモチーフしか動いていないのに、ループするうちに参加者がどんどん増えてくるという仕掛けにしています。これはミシェル・ゴンドリーのミュージックビデオ(Kylie Minogue – Come Into My World)から思いつきました。
斎藤
「PARADE!」ではカメラの動きがすごく印象的ですよね。突然俯瞰になったり、トリッキーな動きが面白い。
内田
できるだけ目に頼らないで、身体でリズムを感じて欲しいというのがコンセプトなんです。そうした変化があったほうが、長く楽しんでもらえるのではないかと思っています。
斎藤
開発で一番苦労したところは?
内田
やはり根幹のゲームシステムというか、1小節ずつでターンが変わるところや、2小節になるときもあれば2分の1小節になるときもある…というシステムをつくるのが一番大変でした。そこにポップアップが出たり、モグラに叩かれたり、様々なイレギュラーが挟まってくるので、条件分岐が大変でした。また、様々なチャレンジを入れているので、それぞれの行動を作っていくとまたバグが出るので、その調整のが大変で。
斎藤
そういった様々な仕掛けを入れることでプレーヤーが飽きないようになっているんですよね。
内田
もう一つ苦労したのは、プレーヤーにゼロのタイミングで画面を押して欲しいときに、マイナス10から10までのタイミングで押してもらうプログラムを組まなくてはならない。それが結構大変でした。
斎藤
下、上、スワイプの3種類に分けたのは、最初の段階ですか?
内田
けっこう最初の段階だったと思います。最初はタップだけだったんですが、意外とスワイプのほうがリズムが取りやすいんです。タップは指が空中に浮いているから、ラグがあるんですね。スワイプのほうが直感的というか、気持ち良くできるなというのはやっていて感じました。タップの方が難しい、というのは「Flappy bird」がなぜ難しいかという記事で読んだことがあって、それも記憶に残っていました。また、ドラムのバスドラ、ハイハット、スネアを表現できるから、というのもあります。
斎藤
本当にリズム起源で作られているゲームなんですね。
内田
自分が音楽好きだし、高校の時に軽音部でバンドをやっていて、ボーカルを習っていたりしました。その時に先生に「音楽はリズムだよ」とずっと言われていて、それが自分の基本になっているところはあります。歌を聴くときも、メロディじゃなくてリズムを聴くんだ、と。
斎藤
音楽も自分で作られているんですか?
内田
MacのLogicで作っています。ループ音源を切り刻んで並べている程度ですが。よくあるドラムのフレーズみたいなものを意識しているという感じです。ゲームでは、最初は8ビートの簡単なビートが16ビートのように複雑になる、という移り変わりを作っています。ユーザが失敗すると難易度が下がって、またちょっとずつ上がっていくとか。そういう難度調整も、最後のほうで飽きさせないために頑張りました。
斎藤
「PARADE!」はもともと2017年リリースの予定でしたよね。リリースが伸びたのはどんな理由があったんですか?
内田
ゲームの基本的な部分は11月くらいに出来ていたのですが、「このゲーム、誰かが出しても自分はやらないな」と思って。そこから作り変えていたんです。
斎藤
えええ?!ほぼ完成した時点で?!会社を辞めて半年間専念して完成したゲームを「これ誰もやらないな」と思うなんて…。
内田
半年間一人で開発していたら飽きも来ますよ。それでも、みんなにPLAYして欲しいという気持ちで「もうちょっと改善していこう」と作り直していきました。具体的にはキャラクターを選べるようにしたり、クエストを作ったり、レベルを30まで用意したり、インタラクションをきれいにしたり、背景を動かしたり…。それでリリースが遅れたんです。
斎藤
開発者さんからは、1日ごとに、「これ超いいゲームじゃん、俺、天才だな」と思った翌日には、「こんなゲーム誰もやらないんじゃないか」と思ったり、浮き沈みが激しいと聞きます。よく乗り越えましたね。「もう駄目かも」と思ったときに、改善点を書き出されたりしたんですか?
内田
改善点は、日報に常に書き出していました。日報は完全に自分だけが見るためのものなんですけど。
斎藤
どういうことを書いているんですか?
内田
90日でリリースしようと思っていたので、毎日“90分の1”とカウントして、常に「今日やったこと」「明日やること」を書いていました。11月に90分の90くらいになったんですが、「このゲームは自分だったらやらないな」と思って、そこから90分の91が始まりました。最終的には90分の190までいってリリースされたという感じです。
斎藤
一人で開発して心が折れてしまったリリース出来ないということもあると思うんですが、そうやって乗り越えたんですね。
内田
出せないと死にますから(笑)。また、出来た後も、パブリッシャーさんが10カ国語くらい翻訳してくれたテキストを入れたり、プロモーション用の動画を作るのにも時間がかかったり。ゲームの内容以外のことで、3ヶ月くらいかかりました。
斎藤
開発以外のことでもやらなくてはならないことがたくさんあるんですよね。それにしても自分の追い込み方が半端ないですね。
内田
「会社を辞めたのに結局ゲームを出さなかったな」と思われたくないという、身近な人へのプレッシャーもありました。開発してから最初の1カ月くらいで雰囲気は出来ていたので、その時点でSNSにイメージをアップして、けっこう反応が良かったんです。リリースしていないと「あれどうなったの?」って聞かれますからね。絶対出さなきゃ、という気持ちはありました。
斎藤
SNSで自分にプレッシャーをかけるというのは有効そうですね。
内田
「みんな見ているぞ」というところでやらないと駄目なんです。情報を出したら出したで期待が高まって、みんな「いつ出るの?」というプレッシャーがかかるんですけど。
斎藤
一人で開発すると、プランニングからレベルデザインからコーディングから、全てを担わなくてはならないですよね。内田さんは、その中で何が一番楽しいですか?
内田
最初のゲームを考える部分と、モデリングが一番楽しいですね。作業自体はモデリングが一番楽しい(笑)。老後は彫刻家になりたいと思います。というか、これでお金を稼げたら彫刻家になってひたすら石を彫りたい。
斎藤
Unity上でモデリングできる「ProBuilder」が統合されたので、そちらも是非(笑)。今後「PARADE!」のアップデートの予定は?
内田
とりあえず今は安定性を重視していますが、順次キャラクターや楽曲を増やしていきます。またコンシューマも視野に入れながら、次のゲームを考えていく、という感じです。
斎藤
楽しみにしています。ありがとうございました。
齋藤 あきこ
ライター・編集者として雑誌やWeb媒体にてテクノロジー・アートに関する記事を多数寄稿するほか、企業PR、コーディネーター、翻訳など幅広い活動を行う。2017年よりMade with Unityに編集者/ライターとして参加。編著書に「Beyond Interaction[改訂第2版]」ほか。