南アフリカと聞いてゲーム開発を思い浮かべる人は少ないかもしれない。しかし今や世界中のあらゆる場所と同じく、ここでも新進気鋭のゲームクリエイターが日夜ゲーム開発に取り組んでいる。
今回紹介するSugar氏の設立したNyamakop社もそのひとつ。スタジオ名はスワヒリ語で肉を意味するNyamaと、アフリカーンス語で頭を意味するkopを組み合わせた造語。設立は2015年。大学時代の友人であったSugar氏とBen氏の2人を中心に、現在はデビュー作『Semblance』の開発を進めている。
元々は大学の課題だったという彼らのデビュー作『Semblance』はどんな経緯をたどってきたのか?若き2人組のこれまでとは?今回、5月のBitSummit(開催地京都)出展のため来日されるということで、インタビューの時間をいただきお話をうかがった。
インタビュー・翻訳: 矢澤 竜太
Cukia “Sugar” Kimani
南アフリカ・ヨハネスブルグを拠点とするゲーム開発スタジオNyamakop共同設立者。同社のデビュー作『Semblance』(2018年リリース予定)はリリースされれば任天堂プラットフォーム初のアフリカ産IP(知的財産)となる。過去作Boxerでは2015年の第1回A MAZE. / Johannesburg Awardも受賞。
矢澤
よろしくお願いします!さっそくですが、これまでのキャリアを簡単に教えていただけますか?
Sugar
キャリア自体はそんなに長くないです。初めてUnityを起動した瞬間から4年くらいですね。ゲームジャム(集まったメンバーで即席チームを組み、短時間でゲーム制作を行うイベント)に参加したんだけど、そのゲームは結局完成させられなかった。それが凄く悲しくって。大学でコンピューターサイエンスを修めた「プログラマー」なのに、ゲームをきちんと組み上げられなかったってのが。だからその後再び大学に戻って、改めてゲームデザインを学ぶことにしました。(開発デュオのもうひとりの)Benとはそこで知り合って…『Semblance』を作り始めて…今こうして日本でBitSummitに出展してインタビューを受けている、という感じです。
矢澤
お二人が大学でゲームデザインを専攻していたということは、その時点でもうゲームクリエイターになろうという気持ちは固まっていたんですよね。実際になろう!と決断したのっていつだったんですか?
Sugar
7歳のときです。
矢澤
えっ?
Sugar
はい、7歳の時に(笑)。誕生日にPlayStationをもらった時に。それが何なのかも分からず遊び始めて、「え?人類は…こんな事できるの?作れるの?なんで誰も教えてくれなかったの!?これやりたい!」って思って、以来ずっとゲームを作りたいと思い続けてきました。
やがてプログラム書けないといけないと思って勉強し始めたんだけど、大学卒業間近になって「今何もしなかったら、銀行入ってATMのプログラム書くことになるぞ」と思った。そこでUnityをダウンロードして、ゲームを作り始めたんです。その後はNyamakopを設立して、『Semblance』を作り始めて、よし、仕事としてやるぞと。
矢澤
本作は大学の課題としてスタートしたと読みましたが、当時このユニークなゲームプレイのアイデアはどこから来たんでしょう?
Sugar
実は最初は主人公がペシャンコになったり細長くなったりするゲームだったんですよ。で、そのプロトタイプを大学の担当教員(元Naughty Dogで『Uncharted』シリーズや『Last Of Us』にも携わっていた方だそう)に見てもらったら「コレ、ちゃんと完成させなよ」って言ってもらえたのがきっかけかな。…あと地形を変化させるゲームメカニクスについては…実は元々バグで(笑)。
矢澤
えっ?(2回目)
Sugar
偶然出ちゃったバグだったんですよ。面白がってTwitterに上げたら、相棒のBenがすぐにDMで「Sugar、コレだわ。コレが俺らのゲームだわ」って言ってきて(笑)。そこからは進捗を共有するたびに良い反響が増えていって。だから、すべてはあのちっさなバグから始まったんです。
矢澤
核となるゲームメカニクスだと思っていたので、その回答はちょっと想定外でした(笑)。ところでプレイしてみて、操作感がとても良いなという印象を受けました。やっぱりここまで仕上げるには時間や労力がかかりましたか?あるいは、最初からビシッと決まった?
Sugar
めちゃくちゃ時間がかかりましたよ。操作部分のコードも滅茶苦茶長くなってます。ジャンプの操作とか、切れ味が悪いとダメでしょう。2Dアクションで操作感が悪いのは絶対ありえない。だからずっと手を入れ続けてきた部分ですね。
矢澤
今やキャラクターの重さがしっかり感じられる操作感ですもんね。
Sugar
そうそう、物理演算も、エンジンのものじゃなくて自分たちで書いてるんです。本当に細かく制御できるように。
矢澤
なるほど。ところで、本作のストーリー性ってどうなってるんでしょう?
Sugar
ストーリー性はありますよ。ただ、「ナラティブコンテキスト」(参考訳: 文脈提示型の物語体験)と呼ぶ手法で描いています。カットシーンやテキストとかでストーリーを語るんじゃなくて、主人公が先へ進む動機や世界がこうなった背景みたいなものを、進む途中で暗に示すようにしたんです。壁画とかね。
ゲーム自体もパズルだけど、物語部分もプレイヤーがそれぞれパズルのように考えて解き明かしていくというか。そして人によって解釈が変わるような作りになっています。「僕はこう解釈した。キミは別の解釈もできる」みたいに。ワールドを巡る順番が違えば情報に触れる順番も変わり、解釈も変わってくる。
だからこういう物語です、と全部解き明かすんじゃなくて、プレイヤーがそれぞれ組み上げてもらうようになってます。「環境ストーリーテリング」とも呼ばれるような手法ですね。
矢澤
色彩がとても綺麗なゲームだなって思ったんですが、どなたが決めたんですか?もしカラーリングに込められた意図とかがあったら教えてください。
Sugar
コンセプトアーティストが決めてくれました。僕はプログラマーだから無頓着で、普通の青とかでいいんじゃない?とか言ってたんだけど。 アーティストとBenは絶対ピンクだって譲らなかった。しばらく経ったら僕もその理由が分かってきたけど。ピンクってすごく目を引くんですよ。BitSummitの会場でも、Steamのストアページでも、あんまりピンクを見ることってないでしょう。
矢澤
ゲームデザインの点では、チェックポイントとリトライシステムがすごく洗練されていてストレスがかからないと感じました。やっぱりプレイテストを重ねてこうなっていったんでしょうか?
Sugar
最初は一般的な、通過すると起動するタイプのチェックポイントを置いてたんです。でも煩雑だなって思ったし、世界設定的にも浮いていたからやめちゃおうって話になりました。『Semblance』はどこまで死なずに進めるか?というアクションゲームじゃなくて、あくまでもパズルを解いていくゲームだから、次のパズルへ進む間にやられることもない。だからチェックポイントとなるオブジェクトはパズルの横にざっくり配置して、倒れたら一番近くに復活するようにした。そしたら、微調整するくらいでうまく機能するようになって、ストレスも減らせたんです。
矢澤
なるほど…ちょっと関連していますがゲームプレイについての質問です。序盤では基本的なアクションがひとつずつ紹介されていきますよね。ジャンプ、ダッシュ、ボディの形状変化、地形変更、それから危険地帯としてのトゲとか。こうなると、ゲームが進行するにつれてアクション重視になっていくのか、パズル重視になっていくのかが気になっていたんですが?
Sugar
パズル重視です。反射神経とかそういうもので勝負するんじゃなく、パズルを解くことにフォーカスしてもらうようにしています。ジャンプとかダッシュとか基本的な要素を学んだら、それ以降はBGMやビジュアルを楽しみながらパズルの前でじっくり解決策を練って、計画し終えたらそれを試してみる、という流れで進んでいきます。もちろんタイムアタックするなら別ですけど(笑)。
矢澤
個人的にはアクション下手なのでそれは嬉しいです。ところで、「あなたらしさ」、あるいは「あなたのチームらしさ」はこのゲームのどこに現れていると思います?
Sugar
難しい質問だけど…キャラクターたちかな。主人公はゼリーみたいに形が不定で、目玉もあっちこっちに動く。あの何してるのか、何考えてるのかわからない感じが僕らを一番現してる。「日本行くって?日本語しゃべれる?しゃべれねえ!でもまあイケんだろ!」みたいな(笑)。あとゲーム中に出てくる動物とかもおバカっぽいんだけど、僕らチームもノリと楽しさを身上とするようなところがあるから。
矢澤
じゃあ『Semblance』の目的は「開発チームがゴールに辿り着く」ことなんですね。
Sugar
あ、ホントだ(笑)。確かにそうだ。ゴールに着かなきゃ意味ないからね!
矢澤
Unityを採用した理由は何でしょうか?
Sugar
うーん…逆に「Unityを採用しない理由」が出てこない(笑)。ゲーム作りを始めたばかりの頃は、「C++をマスターしろ!」とか「自分でエンジン作れ!」とか言われてた。でもそれやってる時って結局ゲーム自体を作ってないんだよね。でもUnityは、「さあゲーム作れ」って環境だったし、だから当然「おし、じゃあゲーム作るぞ」ってなった。
あとはやっぱり拡張できるところかな。自分のゲーム作りを効率化するようにカスタマイズしていけるから。あとはアセットストア。あれのおかげでずいぶん開発を短縮できたと思う。それからコミュニティの存在。分からないことがあっても、ちょっとググれば誰かが答えを書いてくれてる。このあたりが採用した具体的な理由かな。
矢澤
ありがとうございます。最後に、日本のゲーマーに一言お願いします!
Sugar
えっと、僕は今回が初めての来日だったんだけど、すごくリラックスできて、新しい事もたくさん体験できました。京都の庭園、東京のビル群、そういうものを見て、世界はこんな風になり得るんだと思えた。そしてこの体験を誰かと共有したいなって思えた。『Semblance』には、そんな事を感じた男の体験がぜんぶ詰まってます。このゲームを通じて、僕の気持ちを、心を、少しでも感じ取ってもらえたら嬉しいです。
矢澤 竜太
英日翻訳者。現在の主戦場はゲーム開発関連とesports関連翻訳。過去にはゲーム開発会社勤務や架け橋ゲームズ立ち上げなどを行ってきた。現在はフリーランス。イラスト:Mitsu Hiraiwa