2017.05.16
ゲームエンジンの拓く未来と変わりゆく映像制作のワークフロー
加治佐 興平、高橋 聡、井上 貴博
Ultimate Bowl 2017
マーザ・アニメーションプラネット

『Ultimate Bowl』の原型は80年代学園スポ根ラブコメにあった? ゲームエンジンの拓く未来と変わりゆく映像制作のワークフロー

「日本の映像プロダクションでUnityを積極的に採用しているところというのは、まだ数が少ないと思うんですよ。そのなかで、マーザというのはトップを走ってるという自負があります」

マーザ・アニメーションプラネットの加治佐氏は力強く語った。
マーザは日本のフルCGアニメーションのトップを走るスタジオだ。昨年発表したショートフィルム『GIFT』は技術デモでありながら親しみやすいキャラクターやストーリーが好評を博し、幅広く愛される作品となった。

それから1年。世界観をガラッと変えた『Ultimate Bowl 2017』はどのように作られたのか。
制作チームのコアメンバーである3氏に話を伺った。

インタビュアー:池和田 有輔(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)

加治佐 興平

SEGA時代より、マーザ・アニメーション・プラネットの立ち上げに関わる。長年、ゲームシネマティクスのディレクターやCGディレクターを担当し、ライティングやコンポジットのノウハウに関しても詳しい。近年は、リアルタイムエンジン関係のプロジェクトをメインに関わっている。

高橋 聡

CGデザイナーとしてセガVE研究開発部(現Marza Animation Planet)にて映画、ゲームムービーの制作にかかわる。近年では、Marzaの歴代リアルタイムムービーにSurfacing Leaderとして関わる。

井上 貴博

2004年スクウェア・エニックス入社、カットシーンを中心にゲーム開発に携わる。2011年マーザ・アニメーションプラネット入社、アニメーションを中心にプリレンダリングの映像制作に従事。現在はデザイナー兼ディレクター兼プロデューサー(何でも屋さん)。

幅広く対応するマーザのクリエイティビティ

池和田

マーザ・アニメーションプラネットとはどのような会社なのでしょうか?

加治佐

「フルCGで日本の3本の指に入る、品質の高い映像を作る会社」でしょうか。そのなかでも特にキャラクターアニメーションに強い会社です。

高橋

例えば『BIOHAZARD: VENDETTA』のようなクールでリアルなCGも作れますし、以前Unityのデモとして制作した『THE GIFT』のようなかわいらしくて家族で楽しめる作品も作れる。柔軟に対応できる基盤がある会社ですね。

加治佐

マーザは、セガのクリエイティブセンター・ムービーチームから始まっているんです。4、5名のメンバーだったんですが、ヴィジュアル・エンターテイメント研究開発部(通称:VE研)を作るとなって人が集まって、2005年には正式にセガから離れ、マーザが設立されました。

3年前、マーザの中で「ゲームエンジンを使って何かをやってみよう」という取り組みが始まり、僕がゲームエンジンチームをまとめる役割を担うようになりました。マーザは映像プロダクションなんですが、半数はゲーム業界出身です。ゲームも映像も両方見てきたので、「ゲームの開発をやっているエンジンで、そのまま映像を作ったらどうだろう?」という動きがごく自然に起こったんだと思います。

永井豪的なキャラが演じるハチャメチャなアメフト

池和田

今回の『Ultimate Bowl 2017』は『THE GIFT』のときよりちょっと実写に近いというか、ゲームのシネマティック寄りの映像ですよね。

加治佐

元々はもう少しアニメっぽいところもある映像を作っていたんです。「日本的な良さを入れながらアメリカでもウケる、ゲームエンジンで作ったムービーを作ろう」という出発点で、日本的なアニメっぽさを入れつつ、競技はリアル路線を目指していた原型版がありました。

最初に生まれたコンセプトは永井豪的なキャラがハチャメチャな未来アメフトをやる、というものでした。今回のムービーは、キャラ部分をバッサリカットして競技部分にフォーカスすることにしたので、中途半端にアニメ寄りにせず、最近のゲームっぽいルックに振ってあります。

キャラクターとアーマーの初期スケッチ

池和田

確かに永井豪感がありますね! このコンセプトを打ち出したのは加治佐さんですか?

加治佐

そうですね、僕は新ゲッターロボが好きなので、かなり趣味に寄っている気がします。

池和田

このテーマは前々から温めていたんでしょうか。

加治佐

今村卓也という、漫画家のテイストに合わせて絵を描くのがすごく得意なメンバーがいるんです。「彼に永井豪風なデザインをお願いしたら、そういうのを作ってくれるな」という確信があったので、題材として選んだ感じですね。

キャラクターデザイン

それからマーザは「日本から海外に何かを打ち出していきたい」というのがコンセプトにある会社なので、「アメリカのゲーム好きな人にもウケそうなものは何だろう?」ということで、アメフトが題材にあがってきました。

池和田

永井豪とアメフトで和洋折衷に。

加治佐

そうですね。もともとは、めちゃめちゃドリルが付いているキャラが出たり、その腕もロケットパンチで飛んでいくとか、もっとハチャメチャな話で、一時は主人公と悪役キャラでヒロインを取り合うという学園ラブコメみたいな設定まであったんです。

ヒーローと悪役との対立が軸にあった

池和田

その設定も80年代的ですよね。

加治佐

かなり昔のアニメっぽいノリのものを作ろうとしていましたね。

池和田

制作過程としては、加治佐さんが手描きでラフスケッチを描くところから始めたんですか?

加治佐

そうですね。ラフを描いて、今村にデザインをおこしてもらって。あとは別のメンバーに僕の落書きみたいなものからアーマーとかスタジアムのデザインをおこしてもらいました。

初期スタジアムデザイン

加治佐

ムービーの構成は僕の方で絵コンテを描いて、それを井上に見てもらい、「実際にキャプチャーして組むんだったらこうなっている方がいいですよ」とかいろいろアドバイスを受けながらキャプチャー撮影に入る感じでした。

池和田

キャラクターの動きは、全部モーションキャプチャーですか?

井上

はい、アメフトはキャラが多いので、手でアニメーションをつけるとそれだけですごい費用になるんですよね。僕は「なんでこんな大変な題材を選んだんだ!」って少し後悔しましたけどね。収録も大変でしたよ。役者さんにプロテクターをつけてもらって、ガチガチ当たってもらって、危険だからっていって下にマットを敷いて……。

池和田

役者さんはアメフトの経験があったのでしょうか?

井上

さすがに経験はなかったんですが、活劇座というアクションが得意な方々に演じてもらいました。

加治佐

でも、アメフト自体はこれをきっかけにかなり調べました。映像としてすごく迫力があって、面白いんですよね。これはアメリカ人が喜ぶわけだというのがよく理解できました。なので、もしこれが今後コンテンツとして成立してアメフトのCGアニメみたいなのものを作るようなことがあれば、広がりもでて面白いんじゃないかなと思っています。

このように様々な構想はあったのですが、あくまで技術デモとして作っていたので盛り込みすぎだったんですね。キャラの方も含めて全部のクオリティを上げて作るのはちょっと大変だったんですよ。結果この原型版は、マーザとしては1回お蔵入りになったんです。

『Ultimate Bowl 2017』が体現する映像革命

加治佐

関わったスタッフはすごく頑張ってくれたので、僕はずっと世に出したいなと思っていて。Unityの大前さんに原型版をお見せしたところ興味を持っていただき、「これのアメフト部分だけリファインできますか?」と質問されたのが今回のUnite版制作のきっかけです。

高橋

原型版よりもかなりアメフト感を出しているんです。アメフトの競技の雰囲気をデザインの要素にちょっと加えているところがありまして。もちろんSFなので、まるまるアメフトのリアルなものではないんですけども、参考にしつつ。

加治佐

アーマーのラインのデザインとかエンブレムの入れ方とかが、原型版と違うんです。「もっとアメフトっぽい雰囲気にしよう」という話をして、それぽいラインの入れ方とかになっているんですよ。

アーマーはより洗練され、よりスタイリッシュに

加治佐

リファインするときに考えた方針としては、「特撮に寄せる」というのと、「アメフト競技に寄せる」という二つがありました。モーションアクターの活劇座さんが、特撮の中でヒーローや悪役をやったりする人たちだったので、元々は特撮っぽい要素を入れてアクションを組んでいたんです。今回そこをより強調するか、競技に寄せるかというのはちょっと悩んだポイントでした。高橋と相談した結果、「競技に寄せて、スタイリッシュに見せた方がいいだろう」ということを決めて、デザインもその方向で調整してもらいました。海外ウケを考えると、「シンプルな未来のアメフト」にした方が、見る人にわかりやすいんじゃないかなと。

池和田

当初のテーマからは少し遠くなりましたが、その分海外の方は違和感なく受け入れられそうですよね。最終的に関わられた人数はどのくらいになりましたか?

加治佐

エフェクトが2人、背景が1人、エンジニア1人……僕も入れて、現場で手を動かしていたのは全部で8名ですね。基本的にはパーティクルなどのエフェクトも含め、全部Unityの標準機能で作っているんです。プリレンダと同じ品質を出せて、ゲーム的な作りだからその場でバババッと編集できて、リアルタイムで流れる。それはゲームエンジンでしかできない。映像そのものというよりも、作り方の部分が業界的には面白い。革命ですよね。

池和田

ワークフローが根本的に変わってしまうだけのポテンシャルを秘めている、ということですね。では、最後にこのインタビューの読者に一言、お願いします。

加治佐

日本の映像プロダクションでUnityを積極的に採用しているところというのは、まだ数が少ないと思うんですよ。そのなかで、マーザというのはトップを走ってるという自負があります。これからもトップを走れるように頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

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