誕生

『GIGA WRECKER』の最初の企画が立案されたのは2013年で、その時の仮タイトルは『MAGNETIC GIRL』でした。なんとも捻りのないタイトルですが。

これが、当初の企画書です。

初期企画らしく、あることないこと吹かしています。最終的にリリースしたものはほとんど別物になっています。

当初、主人公は磁力を操る超能力を持ったキャラクターとして設定していました。
磁石という実在するモチーフをもとに、「鉄を引き寄せる」「鉄を弾き返す」というシンプルなアクションでゲームを構築しようと考えていました。

しかし、コンセプトワークを進めていくうちに、この設定には限界があることがわかりました。

危機

これが問題となった、ステージマップのコンセプトアートです。

当初は「工場の廃墟って最高だよなー」くらいの軽い気持ちで特に問題視していませんでしたが、ある日開発メンバーではないスタッフから、「磁力を操るんだったら、鉄の床とか柱とかも引き寄せて、ステージがぶっ壊れてしまうのでは……」という、素朴かつまっとうなツッコミをもらったことで、事態は一変しました。

主人公の能力に対して、効果が及ぶものと及ばないものがある。
ゲームとしてはあって当然の割り切りですが、なまじ「磁力」という現実的なモチーフを使っているがゆえに、かえって言い訳が苦しくなってしまいました。
ゲームに一貫性を持たせるために採用したモチーフが、ゲーム性を縛る制限になってしまったのです。

どうしたものかと頭を抱えていたところ、意外な形で、考え直す時間をもらえることになりました。
他のプロジェクトの開発を優先するため、『MAGNETIC GIRL』プロジェクトは一旦凍結されたのです。

再生

プロジェクトが再始動されたのは2015年。
設定を再検討した結果、採用した新しいモチーフは「ナノマシン」。
主人公はナノマシンを操る超能力を持つ少女。

ナノマシンという概念自体は実在のものですが、磁力のように明確なルールがあるわけではないので、わかりやすさは低下しました。
しかし、そのぶん作り手の裁量でルールを決められる余地のあるモチーフでした。
「能力の効果が及ぶのは、ナノマシンが付着しているものに限定しよう。ナノマシンは黄色いペンキのように表現すればわかりやすさも担保できる」
「ナノマシンに物質を加工する機能があることにして、集めた素材で道具を作れるようにしよう。道具によって異なる物理特性を与えれば、パズル面の遊びを広げられる」
といった、「磁力」がモチーフだった時よりも自由なアイデアが出るようになりました。

凍結期間中に頭を冷やしたのが、結果的には良かったのかもしれません。

もちろん、方向転換はリスクを伴います。
『GIGA WRECKER』が、設定のモチーフを変えてもトラブルが発生しなかったのは、「物理エンジンを導入したパズルアクション」というゲーム性の「軸」をあらかじめ定めておいたからこそだと考えています。

再・再生

『GIGA WRECKR』を遊んでいただいた方は気付かれたかと思いますが、上の方に載せたイラストのキャラクターは、最終的な主人公のデザインとは全く異なります。
モチーフがナノマシンに確定した後にも、再度主人公のデザインを見直したのです。
これもまた、ゲーム性の「軸」から派生した「物理オブジェクト（＝ガレキ）が散らばるステージを探索する」というコンセプトのもと、
「ガレキの山の廃墟には、小ぎれいなSFファッションよりもボロボロの恰好が合うだろう」
「服もボロボロなら体も無事では済まないだろう」
といった検討の末のデザイン変更でした。

方向転換は、ときに「迷走」と揶揄されることもありますが、ゲームをより良いものにするためには、避けることは難しいものです。

私たちのチームは、方向転換をするときでも、立ち帰るべき「軸」を定めていたおかげで、それなりに苦労はしましたが、「雨降って地固まる」でより良い成果を得ることができたと考えています。

ゲーム開発もまた、諸々の要素を当てはめて問題解決を目指す、一種のパズルなのかもしれません。

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