『マドリカ不動産』は間取り図にメモを取りつつ物件に潜む謎を解き明かす、なんとも不思議なゲームだ。紙とペンが必須と言うわけではないが、切ったり折ったりと紙ならでのはギミックを生かしたステージもあり、事前に間取り図をプリントアウトして挑めば最大限に楽しめることは間違いない。Joy-Conのおすそわけしてプレイにも対応しており、2人で挑戦してもよし、1人でじっくり謎を解き明かすのもよしと遊び方も様々だ。
企画&プログラムの濱田さんとアーティストの村瀬さんは構想からわずか半年でゲームをリリース。
独特のゲーム体験をスピーディに仕上げた秘訣について、そして次回作について話を伺った。
インタビュー: 池和田 有輔
濱田 隆史
ゲームデザイナー。デジタルとアナログのどちらにも興味があり、その2つが融合したゲームを作っている。1984年生まれ。埼玉県出身。武蔵野美術大卒。
もともと陶芸をやっていたが任天堂ゲームセミナーからゲーム制作を開始。
ハル研究所を経て、2015年ギフトテンインダストリを設立。
村瀬 都思
アーティスト。美術作家活動と並行してゲーム制作に携わる。
イラストレーションを主に、ゲーム内の演出、ものによっては音楽制作など、アート全般を担当。
1984年生まれ。愛知県出身。武蔵野美術大大学院日本画コース修了。
池和田
濱田さんとお会いするのは『モニャイの仮面』以来だと思うんですけど、今回もまた独特のゲームですよね。デジタルなものとアナログの組み合わせ、という所は前作との共通点だと思うんですが、それは「ギフトテンインダストリさんらしさ」でもあるんでしょうか?
濱田
そうだと勝手に思ってますね。ブルーオーシャンというか、人がやっていないことが好きなんですよ。みんなやってしまうと「もういいかな」と思ってしまうところがあって。
池和田
みんなでわいわい盛り上がる作品だと思うんですが、一方で硬派なゲームという印象です。
濱田
決してカジュアルなゲームではないですからね。そういう意味でもモバイルではなくSwitchと相性はいいなと思っています。ボードゲームにすごく近い遊び方。大きいボードゲームを買ったんだけど、一人じゃ遊べないから、土日にちょっと2、3人呼んでやるか、みたいな。そういうゲームを作るのが自分としても得意なんだと思います。
池和田
実際僕もわいわいと楽しませていただきました。一人だったら心が折れたかもしれません(笑)
濱田
一人では少し厳しいですね(笑)。いわゆる脱出ゲームやボードゲームが好きな人にまず届けたいというのがありました。
池和田
謎解きは脱出ゲームさながらですよね。僕はリアル脱出ゲームに近いものを感じました。あれはゲームの世界のものを現実にしてみようという発想だと思うんですけど、それをさらにもう一回ゲームに戻したような感じ。一回りしたような面白さというか。
濱田
リアル脱出ゲームも、やっぱり一人だと相当難しいじゃないですか。2、3人いてようやく成立するというようなゲームで、やっぱり硬派ですよね(笑)。ただ、意外と参考になりにくいものも多かったです。
池和田
それはなぜでしょう?
濱田
日本語依存のものが多いんです。50音順で「【さ】の下は何?」みたいなそういうやつとか、漢字が分解されて、これとこれをくっつけるとか。そういうネタは日本語だけになってしまいますからね。
池和田
最初から間取り図を使うというコンセプトで開発が進められたんですか?
濱田
当初のコンセプトは多重刷りだったんです。つまりインクジェットプリンターを使うのが前提なのですが、まず1枚印刷して、1つ謎を解くと違うPDFが出てきて、それを前の印刷結果にもう一回印刷するんです。それで、どんどん同じ紙に情報が追加されていく。
池和田
おー、面白いアイディアですね!
濱田
例えば最後に答え合わせというのを印刷すると、選択肢の左の丸の中の一つにチェック入り、「正解」みたいな。だけどさすがに多重印刷は敷居が高いって気が付いて。
池和田
レーザープリンタなど、プリンタの種類によってはやりづらそうですね(笑)
濱田
当初はそんな感じでたくさん実験していてという感じでしたね。ある程度アイディアが固まり、プロトタイプとしてまずは2ステージ作りました。ちゃんとそれで面白いのかどうかというのを検証し、問題なさそうだったので量産に入りました。ちなみにプロトタイプの2つは「KAO-KAOオフィスビル」と「泉町3丁目の一戸建て」として実際に使われていますよ。
池和田
20ステージ全て濱田さんの手による物なんですか?
濱田
そうです。プロトタイプまでは思いついたら作る感じで、のんびり作ってましたけど、量産になった途端気合が入りました。18個って結構な量ですから、ちょっと自分にプレッシャーをかけながら作らないと駄目かなぁなんて思って1日1個という目標を立てて作りました。
池和田
えええ、それはかなり大変ですね・・。
濱田
もちろん良い物もあり、ひどい物もありという感じだったんですけど、数を揃えるのが大事かなと思いまして、ひとまず全部揃えました。それから1カ月ぐらい調整する時間を用意して、たくさんの人に遊んでもらいながら修正してゆきました。
ステージを完成させるためにはネタの数が本当に重要で、ネタさえあれば後から調整が利くんですよ。その1ヵ月間はとても辛かったけど、やって良かったです。粗くてもネタだけは揃いましたから。量産するにあたって絶対必須な時間だと思いましたね。
池和田
自分にプレッシャーをかけていた手前、苦しかったんですね。
濱田
苦しい。苦しいという‥。全く楽しさはなかったです(笑)。僕、夜にお酒を飲みながら仕事をしているんですけど、その期間は飲みませんでしたから。7月ぐらいから2ヵ月ぐらい飲まなかった。異常な期間でしたね。
池和田
自分を追い込んで行くスタイル(笑)
濱田
毎日スーパーでドリンク2本とチョコレートを買いました。チョコレートをちょっとずつ食べるとお腹減らないんですね。食事をすると作業のリズムが崩れるので、チョコレートをちょっとずつ食べつつドリンクを飲むという。
池和田
ストイック過ぎませんか(笑)
濱田
人にはお勧めしませんけど(笑)。朝、頑張ってネタ考えて、考えたやつを午後に実装して、夜組み立てて、さらに夜テストプレイ。夜が今、2回やってきましたけど(笑)。普通の夜と深夜という感じです。それが一番ひどい時で、ずっとそれが続くわけじゃなかったですが、辛すぎてあまり覚えてないです。
池和田
朝、昼、夜、深夜と。ゲーム作りの大変さですよね。
池和田
村瀬さんはアート担当ですよね。
村瀬
はい、クレジットではアーティストですけど、絵を描くのがメインですね。3Dについては別のバイトさんがやってくれた部分もあったんですけど、基本的な絵とかテクスチャは僕が担当しました。
濱田
開発は僕ら二人がメインで、ゲームデザインとプログラムは僕の担当で、彼(村瀬)はアート全てという感じですね。
池和田
アーティストさんから見て、Unityはいかがでしたか?
村瀬
初めてUnityに触ったのが『モニャイの仮面』のときで、正直最初は「何だろうこれ」という感じでしたね。「再生ボタンをポンと押しても、再生されないんだけど、なんで?」というのを何回もやってました(笑)。けどそれを乗り越えてからは意外とスムーズでしたね。Unityのバージョンアップでアニメーションも使いやすくなりましたし。
濱田
絵づくりは結構頑張ったんですよ。というのも、僕らはもともと3Dのアーティストとかじゃないし、モデルを作るのは得意じゃないんです。彼が得意なのはとにかく絵を描くことなので、苦手な部分をなるべく見せず、得意な部分をどう引き出すか、少ないリソースの中で良く見せるかということを踏まえての実験でした。わりと絵が好評なので苦手な部分がバレなかったと思います(笑)
村瀬
ちなみに初期のデザインはこんな感じでしたね。
池和田
だいぶ雰囲気が違いますね。おどろおどろしいというか。敵キャラも全然違いますね。
濱田
子どもがテストプレイで泣きました(笑)
村瀬
もとは、アウトサイダーアートとかそういうコンセプトでした。
池和田
ステージ最後のボスキャラも全て村瀬さんが作ったんですか?
村瀬
はい、ボスに関してはデザインからアニメーションまで全て担当しましたが、20ステージ全部違うんです。2日間で作ったんですけど(笑)
濱田
マジで?(笑)
村瀬
それまでにイメトレを済ませて。
濱田
イメトレ(笑)
池和田
「こういうものを作ろう」というふうには考えてはいて、実際に作ったのが2日という?
村瀬
取れた時間がそれぐらいで、ガーッと作りました。実装はシンプルにAnimationコンポーネントとパーティクルとの組み合わせです。2日で20体、いや正確には19ですね。
池和田
一体あたり1、2時間くらいですよね。めっちゃスゴイじゃないですか!
村瀬
もちろん部分的には使いまわしているアニメーションとかもありますが、なんとか工夫しつつ作りましたね。
池和田
大変な話が続いているので、楽しい話も聞かせてください(笑)
村瀬
それはやっぱりプレイして頂いている瞬間じゃないですかね。
濱田
実況でつまっているのを見ると少し胃が痛くなるけどね。ずっと「ごめんなさい、ごめんなさい」という感じ(笑)
池和田
いやー、謎解き系はそうなりますよね。
村瀬
でもあんまり途中で投げ出すみたいなことがないので良いかなと。
濱田
Twitterはポジティブな意見が多くて嬉しいですけどね。
池和田
YouTubeなどの実況はどうですか?
濱田
結構あがってますね。間取り図を使う、つまり画面の中で完結しないゲームなので。二画面にして手元を映していたりとか皆さん工夫されてますよ。
池和田
おおーそれは嬉しいですね! そういう環境があれば、実況映えするゲームですよね。
濱田
そうですね。一人だとクリアしにくいというのはお話したとおりなんですけど、実況って見ている方もコメントが出来るじゃないですか。それで、助けてくれる人がいたり。
僕、1回ね、すごく困っている人がいたから、ちょっとコメントしたら正体がバレちゃって(笑)。「あれ?これ、開発者なんじゃね?」みたいな(笑)。大急ぎで逃げました(笑)
村瀬
それ、やっちゃ駄目なやつじゃん(笑)
濱田
つい、「うわー、そこじゃないんだよ」みたいな(笑)
池和田
この話、記事にしても大丈夫なんですか?(笑)
濱田
いいですよ。実はその方とちょっと仲良くなって、昨日一緒にご飯食べてきたんですけど。
池和田
そんな交流もあったんですね。
濱田
ええ。でも、もうコメントはしません(笑)
池和田
ちょっとした出来心だったんですね(笑)
濱田
はい、出来心です。ちょっとお酒も飲んでいたし(笑)。やっぱりやってもらって、楽しんでるとかそういうフィードバックが返ってくるのが一番嬉しいですね。収穫までだいぶ長いけどね。半年ぐらいかかっていますけどね。半年後にやっと。
池和田
まいた種を刈るみたいな(笑)。でも半年ってゲーム開発の中では短い方ですよね。こんなに独特なゲームを、少人数かつ短いスパンで作られているとはみんな思わないでしょうね。ステージもバラエティ豊かでアイディアに溢れているし、それを今日伝えようと思ってました(笑)
濱田
ありがとうございます(笑)
池和田
ステージ9の「ピラミドビル」は『世界樹の迷宮』を彷彿とさせましたし、紙を折ったり切ったりするステージもありますよね。
濱田
ありがとうございます。ちなみに『世界樹の迷宮』的なステージは後半も出てきますよ。名前も「フォレストビル」です。
池和田
おお、オマージュが入ってるんですね。
池和田
次回作はもう作られているんですか?
濱田
はい、次回もSwitchで出そうかなと思っています。
池和田
Switchの第2弾目ということですね。どういったゲームなんでしょう?
濱田
実は次も紙がテーマなんです。『マドリカ不動産』は紙にメモをするというところに特化したゲームなんですけど、紙の面白さはそれ以外にも、たくさんあります。で、今日、試作も持ってきたんです。
池和田
え、もう遊べちゃうんですか?
濱田
はい。次のテーマは本なんです。これはA4用紙なのですが、こうして真ん中に切り込みを加えると本になる。
池和田
ああ、本と言ってもPDFで印刷をして、真ん中にスリットを入れるだけで出来ちゃうんですね。
濱田
そうです。A4でできるというのが一番のポイントです。こういうふうに本を使って遊べるゲームがいいかなと思っていまして、今は実験的にiPadで作っているんです。
池和田
最終的にはSwitchになるんですよね?
濱田
そうですね。でもプロトタイプはiPadのほうが楽なので、今はiPadで作ってます。この本は全部違うミニゲームなんですよ。例えばこれは辞書を使ったゲームで、未知の言語と、それに対する英語の辞書なんです。キャラクターが謎の言語で話しかけて来るのですが、それを辞書で調べていくと意味がわかるわけです。
池和田
なるほど、それで選択肢を当てたら次に進めるわけですね。(本をめくりながら)あ、二つ意味があるものがある。
濱田
そういうのもあるんですよ。
池和田
同音異義語的なものも踏まえた上で、推察しながら解くわけですね。
濱田
これかなっていうような、そんな感じですね。他にも「地図の本」から自分の位置を推測したり、ハッカーのPCを「OSの説明書」を読みながら謎を解き明かしたりするゲームもあったりと、様々なアイディアを試している最中です。
これら試作はたまたま海外の滞在中に作っていたんですが、1日に1ゲームという感じで決めて。朝考えて、昼作って、夜はだいたいパーティーなので、そこに持っていってフィードバックをもらうという感じでした。これ以外にも8個ぐらいあります。本を使いながらゲームをやるって結構面白いと思っていて、今はどういう方向にまとめようか考え中なんです。まとまったらまたテストプレイをして、上手くいけば量産みたいな感じですね。
池和田
これらプラス8つというと、すでに12冊も作られてるんですね。
濱田
そのぐらいですかね。でも、現在はあくまで試作というか、どういう方向が面白いのかなというのをただ探しているだけなので、基本全部捨てて作り直すと思いますよ。
池和田
わあ、大変だ…。『マドリカ不動産』以上に要素があるのでどういう切り口で揃えるのかとか、インデックスの作り方もキーになりそうな気がしますね。
濱田
そうですね。今は特にアイデアはないんですけども、日記みたいなものも面白いなと思うんですよ。日記を毎日書いていれば思い出がどんどん束になっていくじゃないですか。そういうのもすごい楽しいな‥なんて。いっぱいたまったところで見返すとか、そういうのがあっても面白そうですよね。いろいろ考え中ですけど、次のテーマは本です。本で何か面白い事をしますよ。
池和田
楽しみですね、大人も子供も楽しめるものになるんでしょうか。
濱田
できるだけ楽しんでもらえるといいなと思います。まずは楽しさ重視ですね。その結果ホラーになっても良いかな、みたいな。そんな可能性を残しつつ、面白さを第一に作っていきますよ。
池和田 有輔
フリーランスとしてWEB制作・広告制作のキャリアを経て、2013年からRépublique開発チーム(Camouflaj, LLC.)に参加。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社に入社後はエバンジェリストとしてUnityの伝道活動に携わってます。