2019.12.05
20年間の「どこでもいっしょ」の歴史はスマホ時代にどう変わる?
南治一徳
トロとパズル~どこでもいっしょ~
BeXide Inc.

1作目の『どこでもいっしょ』の発売から20年。その大きな節目に、スマートフォン向けのゲームとしてサービスが開始されたシリーズ最新作が『トロとパズル ~どこでもいっしょ~』(以下『トロとパズル』)だ。20年前と変わらぬ表情でスマホの中にいるトロた。「以前、この白い猫と暮らしていたことがありますか?」のメッセージに、胸がアツくなったファンも多いだろう。今回は、『どこでもいっしょ』の生みの親であり、『トロとパズル』のプロジェクトマネージャーを務める南治一徳氏に話を聞いた。

インタビュー: 田村 幸一

プロフィール

南治一徳

1970(昭和45)年生まれ:株式会社ビサイド代表取締役社長。東京の電気通信大学を卒業後、プログラマーとしてゲーム会社に就職。その後、大学の仲間たちを中心にチームで株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント (現 ソニー・インタラクティブエンタテインメント)のオーディション「ゲームやろうぜ!」に応募し合格。かわいい猫のキャラクター「トロ」とお話しするプレイステーション用ソフト『どこでもいっしょ』を制作し、それ以降「どこいつシリーズ」を手がける。トロは子どもから大人まで人気があり、ゲームだけでなく、ぬいぐるみやステーショナリーとなって根強いファンの支持を受けている。

打ち上げ花火で終わらない、長く愛されるコンテンツを

田村

『トロとパズル~どこでもいっしょ~』の開発が始まったのはいつからですか?トロのゲームは前作が2011年に出たPSVita版の『みんなといっしょ』になるので、8年ぶりの新作ということになりますね。

南治一徳(以下南治)

企画として立ち上がったのは4年前ぐらいからですかね。ソニー・インタラクティブエンタテインメントさんのゲームIPをスマートデバイス市場に向けて展開することを目的にフォワードワークスさんが2016年に設立され、「どこでもいっしょ」のIPがスマートフォン向けゲームアプリの企画・開発にも展開できる道が開かれるにあたり、「トロはアプリに向いている」ということからGOが出たんです。スマートフォン向けゲームアプリは『パズドラ』(パズル&ドラゴンズ)の大ヒット以降、コンシューマーのビジネスモデルとは随分違った感じに発展していました。

田村

そこで現在のようにスマホゲーのゲームデザインが「基本プレイ無料で有料ガチャを回す」というものが主流になりましたね。

南治

でも、ガチャって多くのキャラクターが必要になるから、トロのゲーム性と合わないんですよ。一方で基本プレイ無料のスマートフォンアプリの場合、ちゃんと収益が上がっていないとすぐサービス終了になって、ファンを悲しませてしまいますし。そこで考えた結果、今回採用している、コンティニューによる課金というビジネスモデルが決まりました。さらに「トロらしさ」を出すために、長く続けられる内容で、トロが活躍できて、プレイヤー層の方々が楽しんで遊んでもらえるということでパズルゲームになりました。そこまで決まったのが2年前くらいです。

田村

「どこでもいっしょ誕生20周年」ということは強く意識されましたか?

南治

はい。でも「20周年!」ってバーンと花火を打ち上げてすぐに終っちゃあダメですよね(笑)。「どこでもいっしょ」のファンの方って、昔からプレイしてくれている、30代から40代の女性の方が多いんです。そして、新しくトロたちを好きになった人たちにも、これから長く「どこでもいっしょ」の世界を楽しんでもらいたい。だからソラなど新しいキャラクターを出しつつ、「ずっと長く続けられるもの」を作るということはすごく意識しました。

右端は本作で初登場のポケピ(キャラクター)「ソラ」

田村

既存のファンの方には、コアな方が多いですからね。僕もその一人ですが…。

南治

ありがとうございます!

最初の舞台は古本屋だった?!

温泉街のポケピたち

南治

舞台のアイデアは二転三転して…。

田村

最初はどんな舞台設定だったんですか?

南治

最初の舞台は「古本屋さん」だったんですよ。プレイヤーが、古本屋をどんどん大きくしていくというもので。ソラも今のデザインとはだいぶ違った感じでした。

古本屋さんの設定スケッチ

田村

…今とはかなり違いますね。

南治

ソラが古本屋さんの看板ネコで。それは萌える人は萌えるだろうけど、あんまり古本屋を大きくしてもビジュアル的にあまり映えない…。そこで次のアイデアは「ソラがアパートの管理人になる」だったんです。いろいろな面白い人たちが住みにくるアパートを大きくしていく。

アパートの設定ビジュアル

南治

「アパートの管理人さんかぁ…ソラ…。まあ、いいかもね」という話はしたんですけど、なんかやっぱりパッとしないというか…。

田村

それはどうしてですか?

南治

これはゲームを考えるときにいつも考えることで、プレゼンテーションの時でも一緒なのですが、話を聞いた人が勝手に良いイメージを想像してくれるようなワードが入っている方がいいんですよ。例えば「舞台は古本屋さんなんです」って言ったときに、古本屋にポジティブなイメージを持っている人が多いのか、マイナスのイメージの方が多いのか、あるいはどうでもいいなのか。古いとか汚いとか、いろいろなイメージが持てる単語だと思うんです。古本屋だとそんな感じで、ではアパートの管理人はどうかって言うと「アパートの管理人ね。ああ、そう。そんな答えかな」という中で「やっぱパッとしないんじゃない?」と。話を聞いても、聞いた人が勝手に想像してプラスなイメージを持ってくれて、ゲームをやろうと思ってくれるまで踏み込めないんじゃないのかなと思って。

田村

言葉から来るゲームのイメージを深掘りすることで、そのテーマが本当に面白いのかを見極めるわけですね?

南治

なので、そのあといろいろ考えた結果「温泉とかだといいんじゃない? 日本人みんな温泉好きだし」みたいな話になって…。寂れた温泉って日本人ならみんなすぐイメージできるし、「寂れた温泉をだんだん良くしていく」や「そこのネコなんですよ」というのは、「温泉」というワードを含めてポジティブなイメージだし。継続性と単語を聞いたときに広がるポジティブなイメージを総合して、温泉を復興するという舞台設定になりました。

温泉街のスケッチ

田村

寂れた温泉を復興していくという舞台がすごく良いですよね。ポケピたちとのストーリーも、非常にジーンとくる、印象深いもので感情移入がしやすかった。舞台設定ができたら、次はプロトタイプ制作でしょうか?

南治

試行錯誤にだいぶ時間を取られてしまって。通常は画面の大きさが決まり、世界の広さが決まり、じゃあここに何を置こうか、ストーリーはどうしようか、と決めていくんですが、全て同時進行になってしまいました。特に苦労したのはアートですね。Unity製のスマホゲームもたくさん出ていますが、ゲームごとに目指すアートのスタイルってすごく違いますよね。リアルな方向もあればコミカルなものもあり、2Dにするのか3Dなのか、ハイエンドにするのかローエンドにするのか。トロたちにはその中でどんなアートが似合うのか?

田村

それを決めるだけでも一苦労ですね。

南治

最初はプレイステーション3時代に出していた3Dのポケピたちを出していたんです。ガッツリCGの表現にして。でも温泉という舞台と馴染みが良くない。そこで現在の、いわゆるセルルックでアウトラインも描画されているような感じ、背景の町もフラットな感じの絵でまとめるというところに落ち着きました。でも舞台が温泉に決まってからも、すんなり今の形になったわけではないんです。最初は縦画面で、エッシャーのだまし絵のような3D構造にしていたんですよ。

温泉街、初期のスケッチ

田村

これはかなり違いますね!?

南治

実は、最初は縦持ちのゲームにしていたんです。「遊びやすいほうがいい」という理由で。でも縦にすると、盤面が狭くなっちゃって、パズルがいまいち面白くならない。狭すぎて、トロたちを出したら何もできないんですよ。ストーリーの演出もすごくやりにくかったし。そこで急遽α版の段階で横画面に変えました。

縦画面のショット

田村

α版からの変更とはかなり大胆な判断ですね。

南治

あと、そのときにテクニカルな部分も再度見直したんです。当時はまだタイルマップ機能を使っていなくて、横画面にしてマップを広げたら全部表示するのに処理が重たくなってしまって。しかし、たまたまタイミングよくUnityのアップデートがあって、タイルマップがクォータービューに対応したんですよ。「やったー」という「これ使えばいいじゃん」と思って使い始めてマップ全てをそれにしようとしたら、一部やりにくいところが出てきて。そこで試行錯誤して、地面はタイルマップ、建物などのデカいオブジェクトはアセットストアで購入した「Isometric 2.5D Toolset」を使って…とハイブリットに組み合わせることで、処理速度を軽快にしつつマップ上に建物を沢山置ける2Dクォータービューのマップシステムを作ることができました。実はシナリオ、つまりキャラクターたちがマップのどこまで行って何が起こって…という部分は開発最終段階までずっと調整していました。例えば「神社を足したいんだけど」って相談して、「ここ空いているから好きにしてください」とか、「ここ、道が繋がってると話がつながらないから壊してくれる?」とか、そういうことも実現できたことは本当に助かりました。

アセットストアを使って「捨てる」プロトタイプを作る

田村

(現状の)スリーマッチのパズルでゲームデザインしようと決めた経緯は?

南治

スリーマッチのパズルにしたのには、ターゲットの好み、継続性、運営のしやすさなど複合的な理由があります。もちろんオリジナルのパズルを考える案もありましたが、新しすぎるとルールを覚えてもらうまでに時間がかかり敬遠されてしまうので、オーソドックスかつ個性を出すというかたちにしました。

田村

パズルの難易度はどう調整されているのですか? パズルにおける難易度の調整は見極めがものすごく難しいですよね。

南治

もう力技ですよ(笑)。今後はAIによる自動難易度調整を入れようとしています。AIがバーッとパズルを解いて「AIが平均30手ぐらいで解いてるんだったら、これぐらいだろう」と難易度を調整していくようにしたいと思って準備中です。メインターゲットが30代〜40代の女性ということもあり、あまり難しいものだと敬遠されてしまうんですよね。クローズドβ版の時には「簡単」と言われていたものでも、公開したら「難しすぎる」という声が出てしまったりして。

田村

やっぱり層が違うんでしょうかね。

南治

実はパズルも最初から果物だったわけではなくて、トロたちの顔をピースにしていたんです。でもトロたちの顔を揃えるとバーン!ってトロたちが破裂しちゃうので「これはアカンやろ」となって(苦笑)。

縦画面のショット

田村

ロケットでトロの顔を壊したくないですからね(笑)。

パズルピースになったポケピ

南治

キャラクターたちの顔をのっぺらぼうにしてみたんですが、それでもダメでしたね。

表情をなくしたピース

田村

それにしても、開発に2年以上ということですが、プロトタイプを作るのが大変だったのでは?

南治

最初のプロトタイプには半年かけたんですが、プロトタイプって全部捨てる前提で作るんですよ。アセットストアに行って、パズルゲームのプロジェクトアセットをかたっぱしから買って試していたんです。買ったアセットのピースの絵を変えて試したり「この機能はいる」「これはいらない」とやってみて。検証が終わったら新規でゼロから作るという。

田村

すごくいい判断ですよね。プロトタイプは捨てる前提で作って、アセットストアのパワーで押しきってしまうという。

南治

これは決して悪い意味ではないんですが、アセットストアは玉石混交なので、クオリティの見極めにもなりました。

SNS越しの世界になって変わったこと

田村

プレイしていると、ポケピのストーリーや、コミュニケーションが楽しくて、その結果をTwitterでシェアされている方も多いですよね。かつてはポケットステーションでみんなで赤外線通信でやっていたことが、今はSNSになっている。今実際に運営している中で、気を使っているところはどんな点ですか?

南治

SNS越しの世界になって変わったのは、ネットワーク越しで許されることが違うということですね。昔の『どこでもいっしょ』はネットワークに乗らなかったから、いわゆる「禁止単語」がなかった。でもネットワークに繋がるとなると禁止単語の設定は必須だし、出会い系をブロックする仕組みなども入れなければならない。フレンド同士のチャットも入れていません。β版の時に入力した言葉が特定の固有名詞を含むので「禁止単語」に登録されていて入力できないということが起こって(笑)。トロたちに教えてよい言葉と禁止単語を調整したり、「友達に教えてもいい言葉」かどうかは必ず聞くようにしています。

田村

SNSでの反応はどれぐらいチェックされているんですか?

南治

Twitterのハッシュタグで『トロパズル』『トロとパズル』『どこでもいっしょ』というハッシュタグが付いた投稿は、社内のSlackに自動に投稿されるようになっています。みなさんが「変なことを教えたらこんなことになった!」というのを直接聞く事ができるので、すごく面白いです。今だから言えますが、20年間続いたシリーズですがなかなか売れない時期もありまして。ハードの切り替えなどでプレイヤー層も変わったりするので、その中でひとつのIPを続けていくには結構大変でした。

田村

「トロと旅する」というコンテンツもテレビで放送されていましたね。

南治

「トロと旅する」はフジテレビで6年間もやってもらったんですよ。ありがたかったです。放映されていた時期はちょうど、ゲーム機にライトなプレイヤーさんになかなか来てもらえなかった時期なので。番組のおかげでIPの認知がだいぶ進んだので、次のハードで出したローンチタイトルにはたくさんのユーザーさんにプレイしてもらえました。

田村

今回の『トロとパズル』をプレイしてうれしいのは、ポケピと一緒に生活しているような距離感を、毎日楽しめることですね。追加された、フレンドへの「おすそわけ」の機能もすごく楽しかったです。

南治

昔『どこでもいっしょ』をやっていたけどしばらく離れていた、という方がすごく熱心なレビューを書いてくれたり、おハガキやメールを頂くこともあるんです。すごく嬉しいですね。昔のファンの方が久しぶりに遊んでくれることと、新しいファンの方が「ちゃんとお話できて楽しいですね」って言ってくれること、どちらも嬉しいです。今後もいろいろなアップデートを予定しているので、楽しみにしていてください。

プロフィール

田村 幸一

2010年ごろよりUnityを使い始め、2013年のUnite Japanでは個人開発に関する講演を行う。2017年にユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社にコミュニティエバンジェリストとして入社し、PR業務などを担当している。東雲めぐちゃんデビュー2日目の朝配信で東京タワーをギフティングした古参めぐるーまー。

トロとパズル~どこでもいっしょ~

BeXide Inc.
  • パズル

プラットフォーム

  • iOS
  • Android

言語

  • 日本語
  • appstore
  • googleplay

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