「はむころりん」は動物たちを転がしてゴールに導くスリングショットアクションだ。その名の通りメインとなるキャラクターはハムスターなのだが、ゲームを進めていくうちに可愛らしい動物たちが次々と仲間になる。動物たちのスキルを考えた上でギミックあふれるステージを攻略する楽しさは、カジュアルなゲームをつい敬遠してしまうゲーマー層にとっても十分魅力を感じてもらえるだろう。
開発を手がけたのは『魔法の女子高生』などで知られるilluCalab。
今回はその代表を務めるEIKIさんに、発端となったunityroomの#unity1week についての話や自身のキャリアなどについて伺った。
インタビュー: 池和田 有輔
EIKI
1989年生まれ。ゲーム制作サークル illuCalab. 代表。
学生の頃からゲームを作り始め、某大手ゲーム会社を経て独立。
制作物に幻走スカイドリフト、Incubator、ハートオブクラウン PC、魔法の女子高生など。 スマホゲーム「はむころりん」を最近リリース。3Dアクションゲーム「獣王武陣」、プロジェクト"アリス"、その他色々進行中。
池和田
多くの人が抱く『はむころりん』の印象って、可愛らしいとか愛らしいとか、あるいは誰でも楽しめるゲームという感じだと思うんです。でもそれってEIKIさんの今までのリリース作品から考えるとちょっと異色作ですよね。
EIKI
実際けっこう異質だと思います。普段グラフィック周りは一緒に仕事している子に任せるのですが、別の仕事が忙しかったので、僕1人で何ができるか考えた上で作った作品が『はむころりん』なんです。もう一つ特徴を言うと、「スマホの無料ゲームを作りたいな」というところからスタートし、「どういうゲームを作れるかな」と思った結果でもあります。ステージクリア型で合間に広告を挟んで、ということがやってみたかった。
池和田
なるほど、そういうモデルが頭にあったんですね。
EIKI
となるとキャラクターは沢山いたほうがいいなとか、丸っこいキャラクターがゲームには合っているなと考え、自然とこういう形になりました。異質に見えるかもしれませんが、何かを狙ったというわけではないですね。
池和田
元々は #Unity1week の「転がる」というテーマから生まれたゲームですよね。#Unity1week は主催のnaichiさんが毎回悩みつつテーマを決めているようですが、もしテーマが違っていたら生まれてなかったと思いますか?
EIKI
はい、全く違うゲームが出来てたと思います。
「Unity1Week」とは?
定期的に開かれる、一週間でゲームを作るイベントです。
月曜00時にお題が発表され、日曜20時までにお題に沿ったゲームを作ります。
期間中に投稿されたゲームはunityroomに投稿され、日曜20時に一斉公開されます。
ハッシュタグは #unity1week です。
みんなでゲーム作りを楽しみましょう!
池和田
まさにジャムから生まれたゲームだったんですね。僕もあの時の#Unity1week に参加しており、プロトタイプを遊ばせてもらいましたが、完成度が高くて印象的でした。地形がすごくきれいで…。多分アセットストアのものだと思うんですけど。
EIKI
実はあのアセットを使いたかっただけなんですよ(笑)。
池和田
その気持ちわかります。ゲームシステムも #Unity1week バージョンは飛ばす高さと勢いが別々に選べて少し複雑ですよね。リリースバージョンのほうが遊びやすくなってて、丁寧に再構築された印象を受けました。
EIKI
ありがとうございます。やっぱり難しいという意見が結構ありましてシンプルなシステムになりました。それからデコボコのステージは見栄えはいいんですけど、遊びづらいというのもあって。ゲーム性は結構変わりました。
池和田
ジャムの時に「もっと良いものになるな」という確信があってブラッシュアップしていったわけですよね?
EIKI
はい、絶対面白くなるなと思ってました。リリースまで結局6ヶ月くらいかかりましたが、当初は3カ月ぐらいで上げるつもりだったんですよ。
池和田
ステージ数が相当多いですからね。リリース後もかなりアップデートされたのでは?
EIKI
チュートリアルを増やしたり、最初のほうに簡単なステージを入れたりしました。スマホのカジュアルユーザー向けに今も調整しているんです。難易度の上昇を緩やかにして、これなら少し難しくなってきても遊んでくれるかな、というふうな調整も入れました。
池和田
そのあたりの調整の妙やバランスって、EIKIさんの開発者としての長いキャリアが大きく影響していると思うんです。
EIKI
そうかもしれません。僕は社会に出る前からゲームを作っていたんですが、去年まで働いていたゲーム会社では特にゲームづくりにおける考え方とか手触りの重要性などを学びました。特に低年齢の人でも遊べることをしっかり考えること、つまり混乱させないようにするとか、諦めてしまわないことをかなり意識しているんです。
子どもにも遊んでもらえるデザインにするというところを、ちょっと俯瞰したところから見られるようになったというのが、得たスキルとしては大きかったと思います。
池和田
前職ではどういう仕事をされてましたか?
EIKI
プログラマーとして入社し、最新作ゲームソフトのUI周りや細かな機能などを担当しました。プログラムを書きつつも「プランナーもやりたい」みたいなことを言ったりゲーム中要素のアイデアを出し続けていたら、次の作品ではレベルデザインやテキストなどプランナーっぽいこともやらせてもらえました。最後に関わったのはオムニバス形式のゲームプロジェクトだったのですが、そこでもプランナーとしてワンセクションをディレクションする仕事が与えられました。
池和田
元々プランナーやディレクター志望だったんですか?
EIKI
そうですね。プログラマって2種類いると思っていて、一つはプログラムがとにかく好きで、その結果プロダクトができるみたいな人で、もう一つは、プログラムはあくまでも手段で、そのプロダクトが作りたいという人。それでいうと僕は後者のほうなんです。なので、プログラマは自分にとってキャリアパスという感じでした。
池和田
様々な経験を積まれたんですね。ちなみに辞めたきっかけのようなものはありました?
EIKI
一番の大きな理由は、ゲームを作る活動をしていて、その結果がどこに返ってくるかということです。大作に関わりたい、なら大きな会社でゲームを作り続けるのが合っていると思います。しかし、会社でゲームを作った結果はどこまでいっても会社に返っていくので、そうなると一度自分の会社を持って、その結果が会社に返ってくるようなサイクルが良いなあと思ったんです。元々会社で働く前からゲームを作る活動をしていましたし、そろそろひとり立ちして自分の会社と自分の仲間とかに還元されるような仕組みにしていこうかなと思ったので、もうすっぱり辞めました。
池和田
なるほど、サークルilluCalab(いるからぼ)のリリース数に圧倒されましたが、活動は社会人になる前から始まっていたんですね。
EIKI
最初の作品が2010年ぐらいなのでもう8年目ですね。気がつけばという感じです。
池和田
サークルのメンバーはどういう構成なんですか?
EIKI
僕がプログラムとかいろいろやっていて、あとイラストレーターの子がいます。初めて会ったのは大学生の時で、当時Visual Studioが僕の大学のパソコンに入っていて、「これで何でも作れるな」ということでアクションゲームを作り始め、本格的に同人活動に入っていきましたが、その辺りのコミュニティで知り合い、イラストが描けるっていうので一緒に『Takkoman』というアクションゲームや『東方十七歩』という麻雀ゲームを作りました。その子はドット絵も描くし、3Dモデルも作るし、アニメーションもやるみたいな感じで、グラフィック周りは全部お任せしています。
コアメンバーは2人なのですが、他には営業とか広報とかいろいろやってくれている子がいて、いま実は彼と2人で社長をやっているんです。以前からショップさんとのやり取りとか、パブリッシャーさんとのやり取りとかを全部やってくれていました。
池和田
じゃあ現在は3人なんですね。
EIKI
それに加えて最近『ハートオブクラウンPC』からサーバ周りを任せている子が加入してくれて、今は4人です。ただグラフィッカーの子は独立する前から専属だったので、会社員時代、僕は給料をもらいながらその子に給料をあげていたんですよ。
池和田
それもなかなか凄い話ですね!
EIKI
まあ、少し不思議な感じですよね。ちなみに夏に辞めて、9月には法人化してしまったので失業保険はもらえませんでした。今考えると、もらったほうが良かったです(笑)。
池和田
もう少しEIKIさんのことをお尋ねしたいのですが、そもそもゲーム開発を始めたのはいつからでしょうか?
EIKI
小学生です。最初はMacのHyperCardを使っていました。StackでRPGとか作られている方がいて、「こんな作品作れるんだ!」って思って。あの当時はスクリプトとか直に見ることができたので、どう作られていたのかを学びながらやっていたら、気がついたらプログラマーになっていました。
池和田
HyperCardとは…懐かしすぎます。ではMacは子どもの頃から家にあったんですか?
EIKI
そうです。ウチがMac派だったので。Color Classic IIだったんですが、「もう、捨てるよ」って言っていたので、「捨てるなら俺にくれ」みたいな感じでもらったのが最初で。親のお下がりです。
池和田
Color Classic II は一体型でしたよね。解像度ってどんくらいだろう。640×480ぐらい?
EIKI
512×384かな? 小学5年生ぐらいのときで、それが初めての自分のパソコンでした。OSは漢字Talkで、使えるのはエディタとKidPixとHyperCardぐらいだったんですけど、あるもので作り始めたというスタートで、簡単なゲームから作りはじめました。「いつかRPGを作ってやろう」と思ってましたね。まあ完成はしなかったんですけど。
池和田
ちなみにUnityとHyperCardあるいはFlashって、何かしら似ているところがあると思いますか? 過去に中村勇吾さんも同じようなことを仰っていたんですよね。
EIKI
そう思います。似てますよ。ボタンを1個置いて、そのボタンに処理をかけられるといのがやっぱすごいいいなと思っていて、それはもうずっとHyperCardの頃から変わっていなくて。そういうDNAをUnityはどこかに受け継いでいるところはあるのかなと思っています。僕も原体験がHyperCardなので、Unityはすごい親和性があるなと感じましたね。
池和田
Unityって全くプログラミング作らなくても、一応プリミティブ並べて物理演算でオブジェクト落として跳ね返らせたりできるじゃないですか。意外と遊べる。でも凝ったことを考えだすとプログラミングに向き合う必要が出てくる。
EIKI
そうですね。スケールアップできる。Unityはサンプルもたくさんあって、そのスクリプトも見られて、改造もできるところが素晴らしいですよね。Flashを使っていたときは、僕はもうずっと「AppleはHyperCardを移植すべき」ということを言っていたんですけど(笑)。そのあとUnityができて、今の環境はすごくいいなと思っています。
池和田
遊ぶ方はどうでした? 子供の頃からゲームは結構遊ばれてましたか。
EIKI
いえ、小学生の頃はゲーム禁止だったので、TRPGという言葉も知らないまま、そんな感じのゲームを友達と作ってやっていましたね。ガチャポンのフィギュアとかをコマにして並べたりとか。
ゲームは日曜日、父親がやるときに少しやらせてもらえるだけでした。「ゲームでもっと遊びたい、でも禁止。だったら作るしかない」という感じです。それで実際に作っていくうちに、作る面白さみたいなものがわかってきて、小学校の卒業のとき、「ゲームを作る人になりたい」ということを書いたんです。だからその頃からゲーム開発者を目指してはいたんです。
池和田
開発の楽しさについて教えてください。EIKIさんは企画やプログラミングからUIデザインなどまだ幅広くやられてますが、一番楽しいフェーズはどのあたりでしょう?
EIKI
正直にいうとですね、ゲームを作っていて楽しいと感じる瞬間はほぼないです。
池和田
え、そうなんですか?
EIKI
何も楽しくない。全部辛い。同人作家の友人とも「ゲームって別に作っても楽しくないよね」っていつも話をしてます(笑)。リリースして売れても、「ああ、良かったな」みたいな感じで、楽しいというのとは少し違う気がします。
ただ、思うんです。そもそも楽しいって相対的評価で、楽しくないっていう状態があり、楽しいという状態がある。で、「楽しくない」っていうのを考えたときに、僕はゲームを作ってない人生は楽しくないなと思うんです。それと比較して、僕はゲームを作っている人生のほうが楽しいから作っているんです。なので、ゲームを作ること自体は全然面白くないですけど、ゲームを作っている人生は楽しいんですよね。最近そう考えるようになりました。
池和田
なるほど。なんだか禅問答みたいですが、それがない人生は無味乾燥なものになってしまうという話ですよね。それに共感したり納得できる人はわりと多い気がします。
EIKI
だから自然と選んでいったんだと思うんです。
池和田
ちょっと変な質問なんですけど、意識している人やライバルだと思う人などはいますか?
EIKI
近い世代だと、「えーでるわいす」のなるさんかな…。いま『天穂のサクナヒメ』というとてもクオリティの高い3Dゲームを作ってます。ライバルでもあり、仲間でもありという感じで意識はしています。まあ向こうはどう思っているかわからないですけど(笑)。
それから同人ソフトというルーツでいうと、やはりZUNさん。憧れというよりはいつか勝ちたいな、という感じです。ZUNさんと同世代にはへっぽこさんという凄い開発者さんもいますが、一緒に飲んでたときに「シューティングを作っているとどうしてもZUNさんと比べられるけど、やっぱり俺としては同年代でライバルだし、イーブンだと思っている」っていうのを聞いて、「あ、やっぱ、素敵だな」って。同人ってそこらへん上下とかないので、いつかアッと言わせてやろう、追い抜いてやろうという気概が一応あるんですよ。
池和田
切磋琢磨しているんですね。ちなみにEIKIさんは何がしかのコミュニティやクラスタに対しての帰属意識はありますか?
EIKI
僕は全くないんですよね。同人ソフトは黄金期のような時期があって、渡辺製作所さんという一番最初に『メルブラ』とかを作っていたところのフォロワーとしてのでっかい塊がありました。その一世代下のところに僕らがいて、少し規模は小さくなりつつあるけど、その分ニッチが表現とかができるようになった時代です。そういう仲間ともよく飲んだりしますし、もちろん居心地はいいんですけど、帰属しているとは思ってないです。
それから『はむころりん』を作ったこともあり、いわゆるインディのほうからのお誘いも増えまして、スマホゲームを作っている方とかとも話すようになりました。でも全然話題も違うんです。今のトレンドはこうだとか、操作はこうだとか、広告の入れ方はこうだみたいな話とかも聞きます。「メチャクチャ売れたい」みたいなのを前面に押し出す子もいますし、中にはとがっている子とかもいます。そっちはそっちでとても面白いんです。僕的には同人でもインディーでもどちらでも良いんですよね。
つまり全然こだわっていないです。どちらかというのもありません。いわゆる業界の飲み会とかも会社にいた頃はよく行っていたので、大手のゲーム会社の仲間もいますし、結構不思議な感じではあるかもしれません。
池和田
なるほどね。そういう自由な立ち位置にいるということはそれだけで素晴らしいことだと思うんです。外からの影響を持ち込んでくれるということでもあるわけだし。
EIKI
そうなればいいな、とは思っていますね。
池和田
EIKIさんというかilluCalab.は、現在新作の開発を行っていますか?
EIKI
はい、色々あるんですが、現在のメインのプロジェクトは3Dのアクションゲームです。いわゆるスタイリッシュアクションゲームですね。実はエンジンをどうしようか結構悩んだんですけど、今のUnityであればグラフィックの表現含めて僕がやりたいと思うことは十分できると思っています。グラフィックの詳細などはまだ全然詰めきれていませんが、来年か再来年にはリリースできる予定です。今までの集大成という感じのゲームになると思いますよ!
池和田 有輔
フリーランスとしてWEB制作・広告制作のキャリアを経て、2013年からRépublique開発チーム(Camouflaj, LLC.)に参加。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社に入社後はエバンジェリストとしてUnityの伝道活動に携わってます。