2019.11.08
最小限の労力で最大限の効果を出す方法〜『ペルセポネ』ができるまで〜
リナルド・ビルツ、セドリック・ラインハルト、ギヨーム・シュノウリー
Persephone(ペルセポネ)
Momo-pi

たった3人のチーム

みんな、こんにちは!僕の名前はリナルド・ビルツです。「Momo-pi」というインディゲームスタジオを経営しています。スイス出身で、ついこの間まで日本に住んでいました。日本に住んでいる間、スイスの友達と一緒に作ったゲーム『ペルセポネ』のメイキングについてお話しようと思います。

『ペルセポネ』は、パズルゲームなんだけど、主人公がすぐに死ぬ…でも3体まで蘇って、死体はステージに残ったままになる。残された自分の死体を使って、パズルを解いていくという内容だ。Googleが主催したインディゲームのコンテスト『Google Play Indie Games Festival 2019』でトップ20に選ばれて、「集英社少年ジャンプ+賞」を頂いたので、もしかしたらMWU読者の中でも知ってくれている人もいるかもしれないね!

『Google Play Indie Games Festival 2019』にて Google Developers Japanブログより

『ペルセポネ』の制作スタッフはたった3人。ソフトウェア開発者のセドリック・ラインハルトとギヨーム・シュノウリー、そしてアーティストでクリエイティブ・ディレクターの僕。僕は日本、二人はスイスにいるから、打ち合わせできる機会は週に一回。僕は働きながら『ペルセポネ』を作っていたから、仕事以外の時間は全部『ペルセポネ』のことを考えるのに使っていた。帰りの電車でも、家に帰ってもアイデアをスケッチして、修正すべき点を考えた。ずっとこのゲームのことを考えていたのは彼らも同じ。だから、週に一回だけの打ち合わせでも、すごくスムーズに開発が進んだんだ。

左からギヨーム、セドリック、リナルド

ここで僕らの話をしようかな。

まずはセドリック。セドリックはこれまでの人生を、ビデオゲームをプレイすることとストーリーテリングをすることに費やしてきた。コンピュータ・サイエンスの教育を受けた後に、機械産業とソフトウェア開発を始めたんだ。リナルドから一緒にゲームを作らないかと声を掛けられた時に、自分の専門知識が役に立つと思った。

次はギヨーム。ギヨームは、『レッドアラート』(コマンド&コンカー)と『ハーフライフ』に夢中になったことがきっかけで、ゲームを自分で作ることに興味を持つようになった。「こういうものがコンピュータで作れるのか!」ってすごく心を動かされたんだ。「クリエイティビティの無限の可能性がある」と思った。それでいろいろなツールを試してみたけど、ちょっと難しすぎた。それでコンピュータ・サイエンスを学びながら、いろんなスタイルのゲームをプレイすることでゲームの様々なスタイルを知っていったんだ。

最後は僕だ。

僕は子どもの頃から、ずっと幻想的なユニバースや「もう一つの世界」について空想することが大好きだった。そうやって考えたものを、アートにすることで他の人にも見てもらいたいって思ってた。最初はイラストから初めて、次にマルチメディア・コンテンツのクリエイターになって、アニメーターになった。そこからゲームクリエイターに転向したってわけ。大人になった今でも、僕が考えた世界をみんなにも体験してほしいと思っているよ。僕の情熱を色々な人と分かち合って、僕が考えたビジョンを見てもらうことで新しいエモーションを感じてもらうってこと。それは、子どもの頃から変わってないよね。

リナルドのスケッチ

僕らが最初に出会ったのは、『Spirit』というゲームを作ったときのこと。「Momo-pi」の第一弾ゲームだ。『Spirit』を作るために、僕は友人のつてなどをたどって、セドリックとギヨームに巡り合うことができた。最初はもっと大きいチームだったんだけど、最終的に三人のチームで落ち着いた。二人のエンジニアと、一人のアーティストという編成だね。小さいチームでは、誰もが「スペシャリティ」を持っていなくてはならないんだ。僕たちは大作ゲームを作った経験がないから、スキルをお互いに補い合って開発を進めた。

『Spirit』を作ってみて「いける」という手応えを感じた。それで、僕たちは本格的に『ペルセポネ』の開発に取り掛かった。1年半かけて『Spirit』のプロトタイプを作ったけど、これを「絶対ゲームにするぞ!」とみんな燃えていたんだ。

『Spirit』キービジュアル

『Spirit』のスケッチ

9つの章、110のレベルをいかに効率良く作るか?

最初のプロトタイプができた時点で、いま見えているパズルの下に次のパズルが見えていて、キャラクターがそこに向かって降りていくということをメインアイデアとしていたんだ。また、主人公を女性にしたいということもあって、ギリシャ神話の女神で、冥府の神ハデスの妻である「ペルセポネ」をモチーフにしたキャラクターを作ろうと考えた。だから、ペルセポネが夫を救うために冥府に降りていくという話が(ゲームの)ストーリーの起点になった。

プロトタイプを作ってみて、出来上がったアイデアは、プレイヤーが今やっているパズルと平行して次のパズルが見えているというものだった。また、それまでは中性的だった主人公をフェミニンなイメージに変えることで、ギリシャ神話の「ペルセポネ」をモチーフにするという、ゲームの核となる最大のテーマに行き着いたんだ。

製作中の資料。ペルセポネのキャラクターが中性的

ギリシャ神話において、「ペルセポネ」は死者が暮らす冥府を司るハデスの妻。ペルセポネは地下にある地獄に降りて、夫のハデスを救うために旅をするというのがこのゲームのストーリーの始まりだ。『ペルセポネ』のプロトタイプの制作には一ヶ月かかった。その後、『ペルセポネ』は仕事が終わってからとか週末などの空き時間を費やして開発を進めていった。

これが「ペルセポネ」の主人公の最終的なデザイン。そこまで大きくは変えていないけど、パズルゲームということもあって、主人公は画面の中ですごく小さく表示されるから、プレイヤーから見えやすいデザインにする必要があった。白いドレスに青いサイン、赤い髪というのはすぐに決まったよ。このかわいらしいデフォルメされたキャラクターと、「死」という重いテーマが対比することによって、よりゲームの深みも増す。

ところで制作中にぶちあたった問題が、

「やることが多すぎる」

ってこと!

リサーチ中のスケッチ

『ペルセポネ』には9つの章、パズルのレベルは110もある。当たり前だけど、ステージのそれぞれが全部、違ってなくちゃいけないんだ。

(ちなみに、隠しステージが10個あるよ!見つけられるかな?)

そこで僕らが行った工夫がこちら。

そう、

使いまわし

だ。
「これはさっきのやつだな」って気づかれないギリギリを見極めて、同じ素材を登場させている。例えば、右上にある触手のような木。全く同じ素材を反転させたり角度を変えることで違うものに見える。こうした工夫によって、大幅にデザインや開発のコストが減って、内容の充実に時間がかけられる。

ゲーム内での死は忌むべきものではない

日本のスタジオ(自宅)で作業中のリナルド

そもそも、「プレイヤーが死ぬことでパズルを解いていく」というアイデアは、僕らが参加したゲームジャムのテーマが「ゲームオーバー」だったから、ということが大きいんだ。昔のゲームでは、主人公が死んだ途端にゲームオーバーになっていた。そして、「死なせない」ことがゲームをする際のモチベーションにもなっていた。その固定観念をひっくり返そうと思ったんだ。逆に、プレイヤーが「この主人公はどうやったら死ぬんだろう?」って考えるようなゲームを作ってみようと思った。

初期の開発画面

ゲームを作ったら第三者のテストが必要だ。僕らは三人だけで作っているから、他人の意見に耳を傾けるようにしなければならない。そこでdiscordのコミュニティでベータ・テスターを募っていろいろな機能を試してもらった。そのフィードバックと、繰り返しの試作から得たのは、「2つのタイプの操作方法を実装する」ことだった。ボタン・コントロールと、スワイプ・コントロールだ。スワイプでの操作はすごく重要で、スワイプによってプレイヤーにビジュアル体験をもたらすことができるし、主人公を最も良い場所に連れて行くというゲーム性も得ることができた。

背景

複数の開発者でインディゲームを作るコツ

開発画面

Unityを使いだしたのは『Spirit』でのこと。すごく大きなコミュニティがあるから、初心者でも情報がたくさん入手できるっていうのが選んだ理由。プロトタイプを作ったあと、プログラマにはUnityのノウハウがすごく溜まって、「これを選んでよかった!」と思ったよ。汎用性がすごく高いのが、インディ開発者にとってはすごくありがたいよね。もちろんアセットストアにはすごくお世話になったし、それでかなりの開発時間を節約することができた。開発初期に、命名とコーディングの規則をあらかじめ決めておけば、開発後期になって時間を取られることもなくなるよ。

もしプログラマがコラボレーションして開発を行うなら、コメントを丁寧に書くべきだし、バージョン管理には気をつけないといけない。そこに気をつけていたことが、終盤になってすごく助けになったんだ。

Unity Test Runner

あと、すごく役に立ったのが「Unity Test Runner」だ。ユニットテストのためではなく、ゲームのプレイアビリティを上げるという目的だった。課題だったのはゲーム全般にわたって「完璧な」プレイヤーをシミュレーションするということ。リリース前に、このゲームが始まりから終わりまで遊びやすいのか、ユーザーの体験を邪魔するものがないかを確認したかったんだ。果たして、僕たちのゲームはTest Runnerにハイジャックされた。Filipp Keksが開発したUITestを使ったよ。Test Runnerはゲーム内でボタンを押したときの挙動をシミュレーションしてくれる。その後、僕らはそのデータを使って内容を修正した。あまりにも失敗が多かったら、ヒントを出すようにね。

だから、リリース前のたった数時間をかけてTest Runnerを使ったことで、ゲーム内容のチェックを完璧にすることができたんだ。

『ペルセポネ』の開発で一番難しかったのは、アイソメトリックビューの2Dゲームだから、アニメーションとエフェクトの大部分を非同期的に立ち上げる必要があったこと。また、パズルの視覚的な表現と論理的な表現(レーザーの遮蔽、ボタンの押し下げ、ゴールにキャラクターが入ったなどの状態を判定するロジック)も分けなければならず、Unityエンジンとパズルの論理的な解決を制御するレイヤーを追加しなければならなかった。こうした要素が重なって、ゲームのコードが非常に複雑になってしまった。

ほかに、開発で「失敗した」と思ったことは、オプティマイゼーションだった。開発している間にもUnityのバージョンもスマートフォンのバージョンも上がっていく。そこでビジュアルエフェクトを変えるなどして対応していった。ブラー・エフェクトやカメラ・ゲインは結局リリースしたバージョンには含められなかった。スペックが低い端末にすごい不可をかけてしまうからね。そこは泣く泣く削ったところ。

そして、インディゲームで重要になるのが、、プロモーションだ。僕たちはプロモーションのために、GDCや東京ゲームショウ、ビットサミット、gamescomのようなイベントやコンテストに出展した。他にもSNSやdiscordのコミュニティでファンを獲得していった。本当のところは、もっと注目されてほしいと思っているけどね!いつか、あらゆる人が『ペルセポネ』を知ってもらえるようになるまでがんばるよ。

次のステップは出版社とのコラボ

いま、僕らは『ペルセポネ』の追加コンテンツを準備している。2019年末頃にリリース予定なんだ。その後はPC、SwitchとXBoxでのリリースもある。次のゲームも制作もスタートしていて、それは僕たちMomo-piと集英社(少年ジャンプ+)とのコラボレーションになるよ!

プロフィール

リナルド・ビルツ

スイス出身。2Dアーティスト、アニメーター、ゲームデザイナー、プロデューサー。「Momo-pi Studio」クリエイティブディレクター。

プロフィール

セドリック・ラインハルト

スイス出身。「Momo-pi」シニアソフトウェアデベロッパー。2012年よりUnityを使いゲーム開発を行う。

プロフィール

ギヨーム・シュノウリー

スイス出身。ソフトウェア・エンジニア、ゲーム・デザイナー、コミュニケーション・マネージャー

Persephone(ペルセポネ)

Momo-pi
  • パズル

プラットフォーム

  • iOS
  • Android

言語

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