インタビュー・翻訳: 矢澤 竜太
プロジェクトはどうやって始まったのですか?
Cristian
実は『Black The Fall』はCristian DiaconescuとNicoleta Iordanescuの共同制作による、共産主義のアートインスタレーションとして始まったんです。私達としては共産主義といえば人心操作、陰鬱さ、統制、酷使、孤独、恐怖、抑制といったキーワードが浮かんだので、ビジュアルとゲームプレイの両方が柱となりアイデアを補完するようにデザインしていきました。
ビジュアルの美しさに目を奪われましたが、アート的に開発が難しかったのはどんな点だったのでしょう?
Cristian
「ルーマニアにおける共産主義には歴史的資産として世界に見せるべき価値がある」という決断を下したことだと思います。あれが、一番勇気のいる決断でしたから。なのでいわゆる一般的な共産主義・圧政地域的ビジュアルやゲーム性を作り上げていく一方で、ルーマニアの共産主義に結びついた具体的なディテールも足すようになっていったんですよ。たとえば人々がEuropa Libera Radio(wikipedia)を聞いている姿だとか、主人公が通りを歩いていくと窓を閉める姿なんかですね。こういう細かなディテールが、母国が当時行っていた検閲や告発の怖さを表現しているんです。
ゲームでは照明や影が重要な役割を果たしていますが、何か哲学的なものがあってのことですか?
Cristian
希望がなければ生き延びることなどできませんよね?暗い世界に街灯があるのもそのせいです。これを一番直接的に示す方法が、シーンやパズルに光と闇のコントラストを入れることだったので、あのような形になっているんです。その後、大きなマイルストーンに向けて作っている間も常にそのコントラストを意識していたのですが、ギリギリになって実は大きな変更を入れているんですよ。照明と暗闇の対比が大きなシーンを抜けた先には、完全な暗闇の中で音だけを頼りにパズルを解くシーンがあるんです。
お気に入りの点はどこですか? もちろんネタバレしない範囲で!
Cristian
ゲームの第二章にあたる部分に、「The Mire」という名の建築現場があって、ここは平穏と不安が同居する不思議な場所になっています。希望の地となるべく作られた場所が破壊の末に姿を変えてしまっているのですが、それでも「希望の地」としての役割はまだ果たしているんです。
開発していて、一番楽しい瞬間はどんな時ですか?
Cristian
私たちは「初めてのプロジェクトを一緒にやりたい!」という強い気持ちからスタートしたチームで、夢見たアイデアを実現させたい気持ちが情熱の源になっています。今はそれが結実してゲームが完成していく最後のところなので、プレイヤーのみなさんが遊ぶ姿を見るのがとにかく楽しいです。
ブレインストーミングについての記事は興味深かったのですが、あの手法で決めたゲーム要素は他にありますか?
Cristian
ペットのアイデアをブレインストーミングした時の話ですね。実はあの記事のように決定した後、パズル要素に落とし込むために試行錯誤を重ねていったんです。最初は紙とペンで作り始めて、その後はサンドボックス上で作っていきました。でもそこまで行ったところで、想定では最高にエキサイティングだと思ったアイデアが実際にはうまく機能しないと判明したんです。そこでその時点になって再びブレインストーミングで挙げたアイデアに立ち戻って、ゲームに実装可能であり、世界観を壊すことがなく、なおかつ遊んで楽しいアイデアに変更したんですよ。
ゲーム以外のインスピレーションの源は何ですか?
Cristian
チームメンバーの趣味は多岐にわたりますね。ギターを掻き鳴らしたり、合気道の稽古をしたり、自転車で遠出したり。それからヨガ通い、コンテンポラリーアートや心理学の学習に励むメンバーも。全員に共通しているのは…いい本と創造力を掻き立てる映画が好きで、リラックスした時間と週末のハイキングを楽しむところでしょうか。
新しいプロジェクトの予定なんかは?
Cristian
昨年のある段階で、全員で集まって新しいプロジェクトの会議をしたんです。色彩豊かで、悲哀と希望が共存し、VRで、ストーリーがあるものになると思います。名前も企画書もできていますが、今のところは『Black The Fall』を完成させることに集中ですね。あせらず、一歩ずつ、です。
矢澤 竜太
英日翻訳者。現在の主戦場はゲーム開発関連とesports関連翻訳。過去にはゲーム開発会社勤務や架け橋ゲームズ立ち上げなどを行ってきた。現在はフリーランス。イラスト:Mitsu Hiraiwa