『Lode Runner Legacy』は30年以上の歴史を持つロードランナーシリーズの最新作だ。伝統を守りつつ、新しい体験を提供するための仕掛けが盛り込まれた、まさに「故きを温ね、新しきを知る」作品と言えるだろう。
プロデュースを手がけたTozai Games代表坂野さんによると、あらゆるプラットフォームで遊ぶことができるゲームとして、過去にリリースされた作品はなんと100を超えるという。今回、坂野さんにはゲーム業界の大いなる遺産でもあるロードランナー、それからもちろん最新作である『Lode Runner Legacy』に込められた思いについて語って頂いた。
インタビュー: 池和田 有輔
坂野 拓也
株式会社Tozai Games代表。マイクロソフトでXboxとXbox 360の立ち上げに携わった後、2011年に米Tozai, Inc.とのパートナーシップの下、日本でTozai Gamesを立ち上げる。「みんなでスペランカー」シリーズのプロデューサー兼ゲームデザイナー。新作「Lode Runner Legacy」プロデューサー。
池和田
社内で「新しいロードランナーUnity製だってよ」って結構盛り上がったんです。そのとき僕を含めほとんどの人が知ったんですが、「道を走る人」という意味ではないんですね。
坂野
そう、「Lode」だから鉱脈なんです。
池和田
これだけメジャーな作品でありながら、誤解している人は絶対多いですよね。
坂野
英語圏はスペルが違うので明確ですけど、カタカナで書いちゃうとわからない。だから日本語読みだといろいろな同名の商品があって、Twitterで「ロードランナー」を検索すると、いろいろなものが出てくるんです。釣り竿とか(笑)。
池和田
ゲームですらない(笑)。最初のリリースはPCですか?
坂野
一番初めはApple IIで、その後あらゆるハードに移植されました。昔の日本には様々なPCがありましたよね。NECのPCやシャープのX1、富士通FM-7、MSXとか。それぞれに『ロードランナー』が出ていました。アメリカだったらAtariとか、コモドールだとか、もちろんアーケードも。
池和田
まさしくあらゆるハードですね。
坂野
ネタとしてちょっと持ってきたんですが…これなんかすごいですよね、MSXのROMカードリッジかな。
池和田
おお、懐かしいですね。
坂野
『ロードランナー』も100タイトル以上あって、ユーザーによって好きな『ロードランナー』って、いろいろなんです。大きく分けて4系統ぐらいあるんですけど。
池和田
今回の『Lode Runner Legacy』はどの系統なんでしょうか?
坂野
一応Apple II版をベースにした元祖系がベースですが、色々なロードランナーの要素も入れています。
池和田
元祖系が宗家なんですか?
坂野
宗家って表現が合っているか分かりませんが、元祖系だから本流ということではないと思います。
池和田
僕はファミコンの『ロードランナー』が本流かと勝手に思っていました。
坂野
だから本流とかはありません。ファミコン版のファンは一大グループなのは確かですが。
池和田
ではディスクシステムの『スーパーロードランナー』もファミコンの一派ですか?
坂野
ディスクシステム版はアイレムから出てるのでアーケードの流れを汲んでいると言えます。最初のファミコン版はハドソンから出ていて、コンシューマーには他にプレステ版があります。
池和田
宗派ごとの特徴って、例えば「よりアクション要素が高い」「パズル要素が高い」みたいな感じですか?
坂野
宗派でなく系統と呼びましょう。様々ですね。プレステ版はいろんなアイテムとかトラップが出てくる所が特徴だったりします。床に油ひいて敵をすべらせたりとか。
池和田
なるほど面白いです。多くの会社からリリースされているのも驚きです。
坂野
それがこのゲームの大きな特徴で、20社以上から出ていますが、正直全ては把握しきれないです。一度ギネスに載せられないかなって調べたことがあるんですけど、まだ調べ切れていなくて(笑)。
池和田
もともとはアメリカで生まれたゲームですよね?
坂野
はい。作者はダグラス・E・スミスと言います。
池和田
Tozai Gamesさんは権利を買われたようなかたちなのでしょうか?
坂野
われわれの姉妹企業のTozai, Inc.はワシントン州のベルビューにあるんですが、創業者のスコット津村がダグ氏と公私ともに親しくしていたんです。ですので「買った」というようなビジネスライクなものではなく、どちらかというと津村に託される形で権利を保有するようになったと聞いています。
池和田
ベルビューってシアトルの隣町ですよね。Unityの支社もありますが、一帯がゲームスタジオだらけでびっくりしました。
坂野
近くのレドモンドにニンテンドー・オブ・アメリカの本拠地があったりマイクロソフトの本社もありますから、開発者にとっては良い環境です。
池和田
先日『Lode Runner Legacy』のエディットモードでステージを作ってたんですが、金塊を全部取った後に出て来るはしごの形状がファミコンのときにやっていたものと同じなんですよね。
坂野
渋いところに反応しますね。あの形状はApple IIからのデザインなんです。
池和田
プレイするまで完全に忘れていましたが、フワーッて思い出して懐かしくなりました。「子どものときに延々やってたやつだ!」って。
坂野
『ロードランナー』はファン・コミュニティとしても34年の歴史があって、過去の膨大な遺産があるんです。その貴重な資産を未来に残していくというような意味合いでの「Legacy」です。だからテーマとしては、原点回帰なんですよね。かつては誰もが遊んでいたゲーム『ロードランナー』ですが、知らない世代が増えてきたので、幅広い人たちに遊んでもらえるようシンプルなゲームとして作っています。
池和田
まさにダグ氏の意思を引き継いでいるんですね。
坂野
ただ、原点回帰と言っても昔のままじゃなくて、ちゃんと進化しています。大きく変わったところはエディットしたステージやアイテムをネットワークでシェアできることです。これは100タイトルある『ロードランナー』の歴史の中で初めてのことなんです。
池和田
今回の大きなフィーチャーなんですね。
坂野
そうです。いわゆるUser Generated Contents(以下、UGC)をアップロードしてシェアする仕組みがSteamに用意されていて、『ロードランナー』にピッタリだったので、まずSteamから入ることにしました。それにSteamは世界中にユーザーがいる。例えば日本のユーザーとロシアのユーザーがステージを交換できるなんて、グラフ用紙に書いて交換していた頃には考えられなかったことです。
池和田
エディットは本当に気軽に直感的に、何も見なくてもできるようになっていますよね。ステージだけでなくプレイヤーや金塊の形も作ってシェアできますが、それはその人オリジナルの『ロードランナー』を作ってほしいということですか?
坂野
そうです、世界で一つだけの『ロードランナー』を作ろうというテーマですね。せっかくUGCを交換する仕組みがあるので、キャラクターとかアイテムとか、いろいろなものがシェアできたら楽しい。今回ボクセルグラフィックにしたのも、エディットがしやすいというのが一番の理由ですね。実際、結構皆さんに喜んで頂いて、UGCが増えています。それをまた「イイね」したりとか、ソーシャル的な面もあるのかなと思います。
池和田
一方で、過去のビジュアルに近いモードもありますよね。
坂野
クラシックレベルですね。見た目とApple II版の150面を再現しています。Apple II版は今でも根強い人気なのですが、PCやゲーム機ではもう今は遊ぶことができないんです。違法コピーくらいでしか遊べない。なので、ちゃんとオフィシャルで遊べる場を提供したいと思ったんです。
池和田
新しく『ロードランナー』のファンになった人で「原点を遊んでみたい」という方が絶対いるでしょうしね。
坂野
まさしく。それが「Legacy」なので。
池和田
すごくシンプルなゲームだけに、いろいろな可能性があるような気がします。エディット要素を含め、今後もアップデートされていくんでしょうか?
坂野
そうですね。自分たちの思いとしては、いろいろ拡張して行きたいというのはあります。今回のプロジェクトは、まずはきっちりと元の楽しさを進化させることに集中したんです。ベースができたので、新しいものを導入したらどういう化学反応が起こるかというところにこれから取り組んでいきたいと思います。
池和田
過去のゲームのリメイクで特にスポットがあたるものって、『テトリス』や『ボンバーマン』のように対戦要素があるものが多い印象なんです。
坂野
実はリリースされた100タイトルの中には対戦要素入りのものもあります。でもどちらかというと、協力プレイを入れてほしいという声がすごく多いです。
池和田
ああ、それは面白そうですね!
坂野
2人でやるんですが、1人を頭の上に乗せて上の金塊を取るとか、穴に落ちてハマったのをもう1人が助け出してあげるとか、協力プレイとはすごく相性がいいんです。実際、協力プレイがある『ロードランナー』は、過去に結構あるんです。
池和田
100タイトルあると、もうなんでもありそうな気がしますね(笑)。
坂野
今回はSteam版ということでローカルマルチプレイの需要がどのくらいあるのかわからず見送りましたが、例えばSwitchだったら、コントローラーを1個ずつ持って2人でやりたいですよね。
池和田
パーティーゲームは海外の方が盛り上がっていますけど、Switchは日本でも盛り上がるきっかけを作っているように思います。
坂野
手前味噌なんですけど、ウチはレトロゲームの復刻、つまり古いゲームに今の技術を足したときにゲーム体験が変わるっていうのを、かなり先を行ってやったと思います。2009年にPS3で出した『みんなでスペランカー』がまさに協力プレイなんですね。オンラインで6人一緒にワイワイ探検するのは、30年前にはできなかったけど今ならできる。『スペランカー』も『ロードランナー』も協力が面白いんです。
池和田
助けるつもりが殺しちゃう、みたいなこともありそうですよね。
坂野
協力プレイで大事なのはそのときに笑えることですね。怒らせるよりも笑っちゃうっていうふうにできるかどうかが分かれ目です。ミスしたときにゲラゲラ笑っちゃう、そういうのものであるべきだというのが自分の考えです。
池和田
Tozai Gamesさんは『ロードランナー』と『スペランカー』の印象が強いのですが、今後オリジナル作品をリリースする予定はありますか?
坂野
そうですね、もちろんその2つの作品は会社の主軸であり、まだまだ発展していくんですけど、それ以外にも様々な技術的な可能性を探ったり、プロトタイプを作ったりしてますよ。
特に持ち上げるとかではありませんが、Unityは早いですからね、形にするのが。だからプロトタイプは常に作っているんです。早く作れることはとてもありがたいです。そこは本当に助かってます。
池和田 有輔
フリーランスとしてWEB制作・広告制作のキャリアを経て、2013年からRépublique開発チーム(Camouflaj, LLC.)に参加。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社に入社後はエバンジェリストとしてUnityの伝道活動に携わってます。