「レッドシーズプロファイル」「D4: Dark Dreams Don't Die」など一筋縄では行かない物語で知られるSWERY氏の独立が伝えられたのは2016年の秋の話。そこから2年以上が経過し、最初のリリースとなったのが、今回紹介する「The MISSING - J.J.マクフィールドと追憶島 -」だ。
本作は大切な人を取り戻すために自らを傷つけることを繰り返さなくてはならないという、深い悲しみを湛えた作品である。しかしゲームを進めるうち、SWERY氏が手がけた他のゲーム同様、深いメッセージが込められており、White Owlsという高潔で神秘的な印象のスタジオ名さながらに人を励まし勇気づける作品であることに気がつくだろう。
一風変わったプラットフォーマーアクションの裏に潜む物語をぜひ体験してみてほしい。それが忘れ得ぬ体験となることを保証する。
インタビュー: 池和田 有輔
SWERY (末弘 秀孝)
株式会社White Owlsの代表取締役。
「大阪から世界中のあなたへ!」をスローガンに精力的な創作活動を続けている。
最新作『The MISSING - J.J.マクフィールドと追憶島 -』は数々のメディアで「最も重要なゲーム」と評され、The Game Award 2018でGames for Impactにノミネートされるなど、国内外で高い評価を得ている。
代表作は『レッド・シーズ・プロファイル』『D4:Dark Dreams Don't Die』等多数。
次回作の『The Good Life』は2019年発売予定。
西出 渡
株式会社White Owlsのアートディレクター。
『The MISSING - J.J.マクフィールドと追憶島 -』ではアートディレクションと全マップの背景制作を担当。
代表作は『レッド・シーズ・プロファイル』『D4:Dark Dreams Don't Die』『Spy Fiction』等。
ミッドセンチュリー、スペースエイジ、レトロメディアを好む。
一見すると物静かな人物に見られがちだが、その内面は熱く、SWERYからは “Last Man Standing” の異名で呼ばれているらしい。
関 裕一
株式会社White Owlsのゲームデザイナー。
WhiteOwlsスタートアップメンバーの一人としてSWERY氏と目標を共にする。
A SWERY GAMESへの関わりとしては『D4:Dark Dreams Don't Die』および『The MISSING - J.J.マクフィールドと追憶島 -』の2作において、プランニングとレベルデザインを担当。
辛いものに目がなく、オフィス周辺の美味しいカレー店を知り尽くす。
東 龍一
株式会社White Owlsのプログラマー。
『The MISSING - J.J.マクフィールドと追憶島 -』では、主にキャラクターとギミックの制御を担当。
初挑戦ながらUnityを見事に使いこなし、「鉄球にぶつかると全身の骨が折れて天地が逆転する」という奇想天外なパズルを生み出した。
SWERY氏に負けず劣らずの酒好きで、夜な夜な行きつけのバーへ飲みに出かけている。好きなお酒は『THE GLENLIVET』。
まずは『The MISSING – J.J.マクフィールドと追憶島 -(以下、The MISSING)』というゲームについて教えて下さい。
SWERY
『The MISSING』は、自分の体を傷つけたり、欠損させる行為を使ってパズルを解いていく、横スクロールのアクションアドベンチャーゲームです。主人公のJ.J.という女の子が、とある島の中で親友を探す旅に出る、という物語になっています。ゲームデザインやストーリー、そして見た目のグロテスクさから一見すると人を選ぶタイトルのようですが、最後には必ず全ての人に伝わるメッセージ性を込めています。
White Owlsはどのようなスタジオですか?
SWERY
「大阪から世界中の皆さんに向けてゲームを届けたい」という思いから設立されたゲーム開発スタジオです。大阪には多くのクリエイターがいますが、どうしてもAAAタイトル以外では世界向けに発信している作品が少ないように感じています。一方で、大阪人の持つエンターテインメントに対する考え方は、サービス精神の旺盛さなどを含めて世界に通用するイメージを自分自身が持っています。そういったものを体現出来るようなゲームスタジオを目指しています。
関
面白いことを頭から否定されない、まずは面白いかどうかを試させてくれる環境だと思っています。普通、自分の中で「これは結構面白いかも」と思っても、なかなか言い出せない空気があったりするじゃないですか。でも、White Owlsは何を発言しても否定されない空気があるので、何でも提案しやすいですね。
西出
自分の考えたことに対してチャレンジができる環境ですね。私は今までいろいろな会社を経てきたのですが、その中では「自分の考えが上の人に伝わる前に止められてしまう」ということも結構ありました。でも、White Owlsでは自分の意見をみんなに聞いてもらって、意見をもらった上でいいところだけを採用していくという環境になっているので、すごく良いなと思っています。
東
White Owlsは見た目もそんなに会社らしくなく、ラフな雰囲気ですね。『The MISSING』に関しても、すごく自由に開発をやらせて頂いています。「自分でこれをやりたいから、やらせて欲しい!」といった具合でもうひとりのプログラマーと相談して、やりたい箇所を担当出来たりもしました。
White Owlsらしさ、SWERYさんらしさというものは、『The MISSING』のどの辺りに現われていると思いますか?
SWERY
他のクリエイターが作らないもの、手を出しにくいもの、あるいは作るチャンスがないものを目指して開発されました。本作には残酷描写もありますが、それだけではなく精神的にきちんと意味を伴ったもの、メッセージ性のあるものになっています。”Missing”という言葉には、行方不明の友人そのものであったり、自分自身がなくしたもの、人生を生きていく中で見失いがちなものなどたくさんの意味も込められていて、それがストーリーを進めるにしたがって次々に明らかになります。作品にどういったものを込めるか、その”想いの部分”がWhite Owlsらしさだと思っています。
SWERYさんの作品からは統一された世界観を感じますが、『The MISSING』はその中でどのような位置づけなのでしょうか?
SWERY
どのように統一性を持たせるかという話をチームメンバーに向けて共有しています。共通して言えるのは、ゲームとはエクスペリエンス、体験であって、プレイヤーがいてはじめて成り立つ物語だということ。ですから、そのプレイヤーに体験して頂く事柄を表現するためにどういう世界観が必要か、どういうテーマに沿ってものごとを作っていくかが、中心的な考え方です。言い換えると人生の一部であるとか、人生観や死生観、そういうものが中心にあるとは思いますね。物語が好きというよりは人間が好きなので、人間を中心に据えて何かをやろうとしている感じです。
部位欠損をテーマに選んだのはなぜですか?
SWERY
横スクロールのアクションゲームは、プレイヤー、敵、レベルデザインの三要素で成り立っています。そこにもう一つ、四つ目のレイヤーを足したいと思っていて。アイテムやプレイヤー性能ではなく、なにかもう一つフックの効いたパズル要素が欲しいと考えた時に思いついたのが、「プレイヤーが窮地に陥るであろう状況を利用する」というものでした。それがきっかけで、ゲームデザインにダメージというか、部位欠損が入った形です。
初期段階ではグロテスクさやアクション性を強調させていたそうですが、これが現在のパズル中心のゲームデザインになった経緯を教えて下さい。
SWERY
『The MISSING』は、”プレイヤーの不利な状況を利用してゲームを進めていく”というアイディアがコアにあったせいで、不利な状況やダメージのアイディアが先行していたんです。苦しみを伴う死に方や、少し笑ってしまうような死に方など、いろいろな死に方のリストを作って、それらをどう利用するかのアイディア出しをしていったんですね。ただ、いざゲームを作ってみると、「ダメージをゲームで利用する」ということ自体が応用的な考え方であって、普通に遊んでもらうことが難しいということが分かりました。そもそもプレイヤーはアクションゲームでダメージを受けること自体がアウトだと思いこんでいるので、ダメージ自体を攻撃手段やパズルを解く手段、アドベンチャーで活用する手段などと複数用途で用意してしまうと、もう解けないゲームになってしまっていたんですね。だから今回はパズルに特化して、ほかの要素は全部ボツにしようと決めました。
西出
アートの方向性も途中で変更がありましたね。グロテスクさという意味では、キャラクターがバラバラになるシチュエーションなどを直接的に表現してしまうと良くないイメージになるため、ある程度マイルドにするためにシルエットを用いるということを開発当初に決めていました。それを表現するために、手前はシルエットで、奥はカラーでというアートを採用したのですが、それだと細かな表情や感情などの表現を伝えきれないということが分かって。ストーリー上、キャラクターの演技が重要になったため、途中からカラーで表現するようにアートワークを変更しています。
『The MISSING』は独特なゲームシステムかと思いますが、レベルデザインの上で苦労したことなどはありますか?
SWERY
『The MISSING』のステージは、スタートから最後までずっと一連で繋がっている一場制になっています。僕自身はもともと大学で映画を学んでいたりと映像分野の出身なので、映像に対する思いがすごく強いんですよ。昨今でいうと、映画の中でカットチェンジをしない手法が流行っていて、AAA作品ではこういった手法を直接的にゲームに取り入れることも増えてきています。我々のような10人そこそこのインディースタジオがこうした手法を取り入れるにはどうしたら良いのかを考えたときに、横スクロールのアクションでローディングのないもの、シームレスなものを作ろうというという発想になり、現在のようなステージ設計に至りました。
関
レベルデザインはまず紙面上でサイズ感や遊び方を想定して、実際に面白そうかどうかを思考するのですが、実際に配置すると意外とハマらないということも多くて。実際のゲームの中で「より面白くするにはどうしたら良いか」を考えていくのに苦労しました。
開発にUnityを使うことで、良かった点はありますか?
東
Unityはとにかく情報が豊富ですね。インターネット上で検索すれば、やりたいことがほぼヒットするので、かなりの時間短縮になりました。
西出
アート面で今回かなりアセットストアを活用させて頂きました。自分の頭の中のイメージを実現したいと思ったとき、モデリングから始めていると時間が掛かりすぎてしまうため、アセットストアで購入したモデルをもとに組み立てることは効率化に大きく繋がります。ゲーム内オブジェクトの7割くらいはアセットストアから購入させて頂いて、それをいったんイメージ作りとして並べてみて、その後ゲーム用にカスタマイズをしていくという工程で作業を行いました。
関
先ほどレベルデザインの部分でも触れましたが、紙面上ではなく実際のゲーム内で面白いものを作るのには苦労しました。そういった意味では、Unityはプランナー側で地形を自由に置いていくことが出来るので、起動してすぐにプレイヤーを動かすことができ、自分たちだけでも地形の面白さがすぐに検証出来ていました。すごくありがたかったですね。
トランスジェンダーや、ある種の倒錯がテーマになっていると思いますが、こうしたテーマを採用した理由を教えて下さい。
SWERY
すべての人々は、ある種のマジョリティであり、ある種のマイノリティに含まれるはずです。本作の主人公J.J.は少し特殊なアイデンティティを持っているのですが、そういうマイノリティ側に対して「自分はマジョリティである」と思っているプレイヤーがどのような感情を抱くかがこの作品の醍醐味だと思っています。立場を置き換えて物事を見ることの大切さを、ストーリーの中で表現することを目指して開発を続けて来ました。『The MISSING』の物語を通じて体験して欲しいテーマは、すべての人々が共通して認識できるものだと僕は思っています。
実際に『The MISSING』を遊んでくれたプレイヤーの反応はいかがですか?
SWERY
The Game Awardsという年に1回アメリカで発表される大きなゲームアワードでGames for Impactという部門にノミネートされたほか、『MISSING』の中に登場する主人公と親密度の高いコミュニティの人たちからは信じられないくらい長文のファンレターが届いているような状況でして、今は「作ったかいがあったな」と感じています。それと、僕は普段からTwitterやFacebookでファンの方と交流することが多いのですが、『The MISSING』発売後はファンアートをすごくたくさん頂いています。やはり主人公J.J.のイラストが多いのですが、驚いたのがそのほとんどが傷を負っているイラストなんです。あえて怪我をさせているという、そこまで込み込みで受け入れて頂けるのはすごいな、と思いましたね。海外からの反応は相変わらず良かったのですが、国内でも漫画家の方やイラストレーターの方がファンアートを描いてくださっていて…そういったことは僕の作品でははじめてだったので、すごく嬉しかったです。
最後に、ファンに向けてメッセージをお願いします。
SWERY
『The MISSING』は主人公の特殊なパーソナリティや残酷なゲーム性によってユーザー層を狭めている可能性はあります。ですが、この作品は世の中にいる全ての人たちが理解出来るであろうことを、少し特殊なストーリーテリングで表現することで、よりビビットに強調しようとしている作品です。是非、全ての皆さんに遊んで頂きたいです。我々White Owlsまだ2年ほどの若い会社ですが、これからも世界中の皆さんに大阪で作った素晴らしい作品を届けられるように頑張っていきたいと思いますので、引き続き応援をよろしくお願いいたします。
池和田 有輔
フリーランスとしてWEB制作・広告制作のキャリアを経て、2013年からRépublique開発チーム(Camouflaj, LLC.)に参加。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社に入社後はエバンジェリストとしてUnityの伝道活動に携わってます。