2019.10.04
漫画、飲食、インディゲーム、全てがいずれ結びつく「ナナフシ」の挑戦
木星在住、山口友美
DEAD OR SCHOOL
Studio Nanafushi

東京・国立のインディゲームスタジオ「Studio Nanafushi」が、たった3人のメンバーで作り上げた女子高生+ゾンビハクスラゲーム『DEAD OR SCHOOL』が発売初日で100万円、一週間で一万本の売上を記録した。中心人物の木星在住氏は、漫画家としてオリジナル漫画“機械人形ナナミちゃん”のネーム600ページを描き上げるが、どの出版社からも断られてしまった...。その失敗を糧に、木星在住氏が乗り出したのが「飲食店経営」と「インディゲーム」だ。一見破綻したロジックのようだが、その裏には木星在住氏の確固たるビジョンがあった。

インタビュー: 齋藤 あきこ

プロフィール

木星在住

自身の著書、漫画「機械人形ナナミちゃん」の連載が上手くいかないことで、 今後の人生に不安を感じゲーム会社ナナフシを設立。 漫画、ゲーム、飲食店などを通して独自のクリエイター活動を展開する。

プロフィール

山口友美

専門学校を卒業後、プログラマとして、コンシューマゲーム開発会社に入社。その後、Web系のシステム開発会社へ転職し、WebサーバーやDB運用等の業務に携わるが、やっぱりゲームが作りたくて、意を決し退職。インディーゲームを制作しながら、現場を通じて木星在住と出会い、今に至る。

自分のイメージの10倍を作ってくれる仲間たち

齋藤

たった3人で開発された『DEAD OR SCHOOL』ですが、昨年のSteamでのアーリーアクセスから好評で、今年8月にはNintendo SwicthとPS4でも発売され、すごいことだと思っているのですが。そもそも3人がどうやってチームを結成したのか教えてください。

木星在住(以下木星)

『DEAD OR SCHOOL』では僕がプランニングとシナリオ、山口友美さんがプログラム、二宮岳さんがゲームデザイナーでありグラフィッカーを手掛けています。かつてはこの3人で企業の下請けもしていたんですよ。

齋藤

下請けというのはゲーム制作に関連することですか?

木星

そもそもゲームを作り始めたのは、自分の本業が漫画家業で、それががうまくいかないからいろいろな副業をしよう、というとろから始まったんです。副業をしながら漫画に接点を持たせて、漫画を再起させようという自分のプランがあって。その一つが飲食、もう一つがゲームだった。下請けは5年くらい前からやっていました。その中で出会ったのが山口さんと二宮さんで、僕がイメージしたアイデアの本当に10倍くらいのものをつくってくれる2人なんですよ。

高円寺にある「BAR365」。木星氏自らが1年掛けてセメントをこねて内装をつくりあげ、自らが経営している。

齋藤

下請けで自信を付けて、オリジナルタイトルに挑んだわけですね。

木星

「このチームならいける」と手応えを感じて、下請けで貯めた資金も使ってオリジナルタイトルを作ろうと決意をしました。『DEAD OR SCHOOL』の開発期間は3年ほどですね。

『DEAD OR SCHOOL』 地下暮らしの少女ヒサコが、ゾンビに汚染された東京の地上を目指すハクスラ・アクションRPG!敵から入手した武器を強化、改造し…スキルツリーでカスタマイズした最強のプレイヤーを作り出せ!

齋藤

そういった才能のあるお2人がジョインするというのは、やはり企画に魅力があったということでしょうか。

木星

彼ら2人が持っていないものは僕が持っていて、僕が持っていないものは彼らが持っている。本当に、かぶるもスキルが1つもないんです。逆に誰も加えられないくらいもう分担されています。僕自身が企画の持ち込みやプロデューサー的な役割も行っているんですが、僕が尋常じゃなくメンタルが強いんですね(笑)。ギャラも、入った分だけ二人に渡すようにして、金銭の心配なく開発に専念していただけるようにしました。

ヒサコは「ナンバーガール」から命名

齋藤

『DEAD OR SCHOOL』についてお伺いしたいんですが、ヒロインのヒサコちゃんがぐいぐいストーリーを引っ張ってくれる感じがしますよね。彼女ありきの世界観が出来上がっているというか。

木星

ヒサコちゃんは僕の理想の女性なんです。超前向きで、バカなんだけど賢い、みたいな。ゲーム後半では、ストーリーに浮き沈みがあるんですが、「学校に行く」と決意したから絶対に学校に行くぞ、と突き進んでしまうんです。自分が言わなきゃ誰がやる、という役割を、周りの眼もわかっていながら貫くくらいの強さがある。

齋藤

ほかの登場人物はかなり内面のダークさがにじみ出ている感がありますもんね。

木星

ヒサコちゃんは、いずれ誰かが立つべき役割にちょっと早めに立っただけなんですよ。社会って暗黙の了解があるじゃないですか。絶対にみんな思っていることなのに、実際に公に出て言うと叩かれる。ヒサコちゃんは叩かれるのがわかっていても一番前に立って戦う。そういう子なんです。

齋藤

どうして「ヒサコ」なんですか?結構古風な名前ですよね。

木星

ヒサコちゃんは、「ナンバーガール」というバンドのギター担当の田渕ひさ子さんから命名しました。僕、すごく田渕ひさ子さんのこと好きなんですよ。彼女自身も歯でギターを弾くぐらいプレイ中はアグレッシブですが(笑)、すごくかわいい人なんです。攻殻機動隊の「素子」みたいに、古風かと思いきや、作品世界に浸るうちにかわいい名前に思えてくるというのが、個人的にはすごく好きな流れなんです。

なぜハクスラなのか、その理由

齋藤

木星さんのキャラクターへの思い入れを見ると、「ノベルゲーム」という選択肢もあったのではないかと思います。それをあえてハクスラ(アイテムを集め、武器改造などするアクションゲーム)にしたのはどういう意図があったんですか?

木星

リサーチの結果です。僕が漫画家だった時に、自信を持って出した作品が売れなくて挫折したことがあるんです。そこで、「どうして売れなかったのか」をものすごく考えたんですね。冷静に考えると、世の中には需要と供給というものがありますが、夢を追っている人間には、「供給過多」と言っても聞かないんですよ。「やりたいものをやりたい」しか考えていない。

齋藤

と言ってもリサーチもプロではありませんよね。どうやって需要を調べたんですか?

木星

Steamの売上本数がわかるサービスがあるので、そこに片っ端から、日本の萌えアニメ的な、パッケージの萌えアニメ的なゲームを検索して統計を調べたんです。ノベルゲームも売上はすごく良かったんですが、ランダム性が強すぎて、外れしたら終わる。でも、横スクロールアクションは、ある程度のクオリティを保てば、安定した数字をけっこう出すことができるんです。なおかつ、ハクスラは供給が足りていない。うちのスタッフはみんなハクスラが好きだし、萌えアニメ+ハクスラという要素を出せば売れるのではないかと。

齋藤

趣味全開、ではなく、徹底したマーケティングに基づいた作品だったわけですね。

木星

思い入れのあるキャラクターがいるからノベルゲームを作る、というのは僕のやりたい方向ではなかった。ノベルゲームはいま供給過多になっています。これは自分の役割ではないなと思ったんです。じゃあ、いま必要とされているのはどんなゲームか?来年オリンピックがあるから、東京観光を兼ねたゲームならどうか?東京観光ができて、ゾンビがいてという、アニメっぽい展開ですね。また、チームの二宮さんがハクスラが大好きだったので。

齋藤

ゲームの面白さはどういうところにあると考えて仕掛けていきましたか?

木星

役割の一言に尽きますね。スマホゲームでもなく、大きな会社がやっていることのまねごとでもない。僕たちの人数で、僕たちのスペックで、一番できることが、やっぱりプレイヤーに楽しんでもらえる条件だなと思っているんです。横スクロールアクションで、RPGでハクスラでスキルツリーでオタク要素をちょっと足す…というのは、僕たちが考え抜いたベストのもので。この多様化するゲーム業界で、そういう誰もやっていないところに「まだ座れる椅子」がある。『マインクラフト』も『UNDERTALE』も、”まだ誰も作っていないけど、需要のあるもの”という「椅子」を自ら作ったんです。

齋藤

まったく同じことを『DEAD OR SCHOOL』にも感じました。実は、ものすごく”選択と集中”をしている。不要な要素はあっさり切り捨てて、重要だと思うところだけに集中している。かなりの合理性があることだと思いますね。

木星

すごいきれいなグラフィックで、すごいかっこいいPVでも、忘れさられてしまうゲームも多いじゃないですか。「必要とされる椅子」って、必ずしも予算や開発規模に依るものじゃないと思うんです。大企業だと許されないようなゲームも、インディなら作ることができる。その先の「椅子」を自分で見つけていくことができるのはインディの楽しさだと思います。『ウィザードリィ』から『ドラゴンクエスト』が生まれたように、まねごとから形を変えていくのも創造性だと思いますね。

開発で苦労したところは?

齋藤

Unityでの開発で苦労した点がありましたらお教えください

山口友美(以下山口)

ありません!わからないことがあっても利用者が多いし、フォーラムも活発なのでググれば大体対処法が見つかります。Unity最高!

齋藤

(笑)Unityで良かった!という点、ここは困った、という点がありましたらお教えください

山口

まず、全てにおいて簡単なマウス操作で目的が達成できるのがとてもいいです。カリング系の高度な事前処理とか。困った点は、ライトベイクが難しくて思うようにいかなくて困りました。トライアンドエラーでしたね。また、プロジェクトサイズが大きくなってくるとプラットフォーム切り替えやバージョン更新した時のリフレッシュに結構時間が掛かるので、少しストレスでした。不安定なエディタバージョンだと頻繁にクラッシュするのですが、公式でバックアップ対応がないところも。結構ありますね(笑)。簡単で単純な処理もプログラムを書かなければならず面倒なので非言語型のプログラムが実装されることを今後期待してます。確かロードマップに書いてあったので。

齋藤

コンシューマーで発売されましたが、Switchにはゾンビ系が少なくユーザーにも喜ばれているそうです。移植について苦労したことはありましたか?

山口

ありません!Unityでなければこんな短期間でPS4、Switch対応できなかったと思います。実際かなり苦労しましたが、Unityに対する不満はとくになかったように思います。強いて言えば、IL2CPPビルドが早くなってくれると嬉しいです。

齋藤

今回Steamのアーリーアクセスを利用されましたが、いかがでしたか?早く存在を知ってもらえますが、リリースのタイミングでの盛り上がりがないという話も聞きます。

木星

確かに初動の勢いはなかったですね(笑)。ただ、Steamにおいては、3段階の波を感じました。一番目がアーリーアクセス、二番目が販売、最後がセール。この前ついにサマーセールで60%をぶち込んだんです。そのときの売上が、三つの中で一番高かったんです。だから、どちらかというと、Steam業界においては、セール、アーリーアクセス、発売という、その三段仕込みな気がして。こちらとしても次回作はアーリーアクセスとセールに力を入れちゃう気がするんです。そういう時代なんですかね。

齋藤

三年間、本当に三人だけで作られていたんですよね。ストレスはありませんでしたか?

木星

下請けゼロでうちはやっているので、本当に3人だけの世界に籠もるんです。それもあって、飲食店を作ったんですよね。会社員ではなく、インディーズという枠で働く以上は、不特定多数の人と会うことがなくなるので。そうなると、飲食店で人と触れ合うことは大事でしたね。あと5年ぐらい経ったら、インディーズレーベルをガッと集めたシェアオフィスをやりたいな思っているんです。インディーズで完結したいという人って絶対に増えていると思うんですよね。

齋藤

海外だと助成などもあるのでインディ開発者が集まったオフィスがあると聞いたことがありますが、日本ではまだ例がないかもしれませんね。

木星

いま、音楽でもそうですが、インディーズがやっていることと企業がやっていることの敷居がどんどんなくなっていっています。時にはインディーズのほうがメリットが多いという現象が起きる。どの環境においても、例えば人と関わりが面倒とか、下請けが嫌だとか、少人数でやりたいとか、あと作りたいものを作りたいとか、インディーズのほうが向いているという人たちは絶対に増えてきている。

齋藤

大きい会社を辞めて、スタジオを立ち上げる方も増えていますね。

木星

ものをつくりたいという人たちで、インディーズに憧れる人も絶対に増えてきているんじゃないでしょうか。せっかくゲームを作るなら、何百人の開発者に埋もれてしまうのではなく、自分の名が轟くような作品のほうがいいなという。テレビとYouTuberみたいな関係ですかね。僕らナナフシの社訓は「We love インディーズ」というもので、インディーズで始まり、インディーズに終わるという精神で生涯やっていくというスタッフ間の共通認識は強いです。

映画で全てが繋がる

齋藤

ナナフシのプロジェクトは、実は映画化がゴールだとか…

木星

そうです。“機械人形ナナミちゃん”の映画化を最終的な目標として目指しています。構想は既にあって、ドキュメンタリーとアニメーションの融合です。ただの自主制作のコア映画で終わるのではなく、きちんとしたエンターテインメントにしたいんです。妄想だけじゃなくて、そこに至るまでの道を今は着実に作っています。頼みたいアニメーションスタジオももう決まっています(笑)。今、ゲームも飲食も漫画も混ざった生活をしていますが、そこに向けてすごく自分のビジョンが固まっているので、生活になんの不安もないんですよ。潔い日々だなという気がします。もし、プロジェクトを人から依頼されたらまた迷ってしまうと思うので、今は誰からも依頼されずにやっていこうと思います。

プロフィール

齋藤 あきこ

ライター・編集者として雑誌やWeb媒体にてテクノロジー・アートに関する記事を多数寄稿するほか、企業PR、コーディネーター、翻訳など幅広い活動を行う。2017年よりMade with Unityに編集者/ライターとして参加。編著書に「Beyond Interaction[改訂第2版]」ほか。

DEAD OR SCHOOL

Studio Nanafushi
  • アクション

プラットフォーム

  • Windows
  • PlayStation 4
  • Nintendo Switch

言語

  • 日本語
  • 英語
  • 中国語
  • steam
  • nintendoeshop
  • psstore

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