2018.08.31
夏だ! 海だ! 浮世絵でサーフィンだ!?
Ryuji Kuwaki
Ukiyo Wave

『うきよウェーブ』は、浮世絵タッチの海でサーフィンをするカジュアルモバイルゲームだ。葛飾北斎テイストな和風の波が荒れ狂う中、フリック操作で波に乗り続けるシンプルなゲームである。2018年7月のリリース後、目を引く世界観から多くのゲームファンの間で話題になり、App Storeフィーチャーにも選出された。

開発したのは個人でのゲーム開発をを10年近く続けているベテランクリエイター、Kuwaki氏だ。氏はiPhoneが日本で根付き始めたころからゲームをリリースし続けており、「スバラシティ」「ネコアップ」などの名作を生み出している。独特の世界観はどのようにして生まれているのか。「うきよウェーブ」が誕生した背景と、そのルーツについてヒアリングした。

インタビュー: 一條 貴彰

プロフィール

Ryuji Kuwaki

ゲームデザイン、プログラム、グラフィックを1人でこなすフリーランスのゲーム開発者。家庭用ゲームの開発に長く携わった後、独立しスマホゲームの開発を始める。元々はプランナー、ゲームデザインで新しいものを生み出したいと考えており、今は小規模のゲームを実験的に作ることに魅力を感じている。

iPhone黎明期から個人ゲームクリエイターを専業で

一條

まずは自己紹介をお願いします。

Kuwaki

Ryuji Kuwakiと申します。個人でスマートフォン向けのゲームを開発・配信しています。以前は長らくコンシューマーゲーム機の会社で働いていましたが、10年ほど前に退職して独立しました。そのころちょうど世の中にスマートフォンが登場してきていまして、そこでは自分でゲームが配信できると知ったのですぐに飛びついて、以降ずっと個人で開発を続けています。

一條

iPhone 3Gや3GSの時代ですね。

Kuwaki

はい。そこからコンスタントにアプリをリリースし続けています。「ネコアップ」「こねこあっぷ」「スバラシティ」「みんなの脳内ワールド」など20個ぐらいアプリをリリースしました。はじめはiPhone専用かつiOSネイティブでつくっていましたが、途中から開発環境をUnityに切り替えています。おおむね年1作ベースでゲームをリリースしています。だいたい半年に1本ガッツリと作って、あとはほかのアプリも含めてメンテナンスをしたり、次の企画を考えたりしている感じです。

Nintendo Switchでもリリースされた「スバラシティ」

話題を呼んだ「みんなの脳内ワールド」

一條

何かほかにお仕事はされていますか?

Kuwaki

いいえ、ゲーム開発一本の専業です。

一條

イラストも自分で全部描かれているのですよね。

Kuwaki

はい。「うきよウェーブ」では、実際の浮世絵を参考にしながら、自分の手で描き直しています。キャラクターアニメーションはSpineを使っていまして、これが意外と使いやすかったです。基本的にアニメーションはボーンアニメーションだけで、他にもスプライトアニメーションを少し使っています。
エフェクトとかは全部スクリプトで組んでやっています。昔ながらの人間なので、スクリプト制御でいろいろやっちゃうことが多いですね。あと、音楽は素材集を購入して使用しています。

サーフィン+浮世絵の発想からゲームになるまで

一條

今作「うきよウェーブ」のご紹介をお願いします。

Kuwaki

本当に見たまま、「浮世絵が動くゲーム」です(笑)。葛飾北斎の有名な波の絵がありますよね。あの波が動いて、乗ってサーフィンをするというコンセプトです。基本的なゲームシステムは、波がどんどん画面の下に下がってくるので、ジャンプして次の波に乗っていかないと、下に落ちてゲームオーバーになる、というシンプルなカジュアルゲームです。

今作は第一印象を一番大事にしていまして、普段あまりゲームをやらない人が見ても、「触ってみたい」「ちょっとやってみたい」という印象になるように作りました。

マネタイズ面ではUnity Adsで動画広告を入れているのと、機能開放型の課金を入れています。

一條

カジュアルゲームの中でも、パッと見たときに、これは!って思えるビジュアルですよね。今年のBitSummitに出展されていたときも、参加者の目を引いていました。見た目を決めてからシステムを組み立たのでしょうか?それとも、システムが先にあって、浮世絵のイメージをあとから思いついた形でしょうか。

Kuwaki

はじめは、本当にぼんやりと「サーフィンみたいなカジュアルゲームが作れないかな?」と頭の片隅にあっただけでした。作るとしたどんな外見がいいかな、と考えて思いついたのが「浮世絵タッチ」でした。でも、思いついた時点ではまだ本格的に作ろうという感じではなくて、しばらく放置していました。しかしイメージが頭の中にずっと残っていたので、思い切って作り始めました。

最初の難問は「波をどうやって表現するか」というものです。手応えを感じられるまで1ヶ月半ぐらいかかってしまって大変でした。途中で何回か諦めています(笑)。

一條

波の動きをそれらしく見せるのは難しそうだな、と私も思いました。

Kuwaki

私は長いことゲームをつくっていますので、パターンが見えてくればどう作ればいいか分かるのですが、今回はどこから攻めていいか分からなかった。プログラム的なアプローチとして物理的に動かすことと、絵のアプローチもどちらも上手くいかなくて、苦しみました。いろんなアニメの波の資料みるたびに絶望して。ただ、こういう「どういう工法でやればいいかわからない」というときにUnityは強いですね。1人で試行錯誤する、こねくりまわすのに非常に便利です。絵をちょっと変えてプログラムをちょっといじって…という繰り返しをずっと続けていました。

一條

納得がいく波をつくるのに時間がかかったのですね。

Kuwaki

波の表現ができてきたところで、こんどはゲームシステムを乗せなければいけません。波をつかった「遊び」をつくるのが、実は難易度が高くて。波の動きと大きさがだいたい決まっていると、実はゲームにならなかった。ジャンプしても上に行かず、横にとんでいってしまったり。それを制御するために、中では物理的な嘘をいっぱいついています。フリック操作の実装も難しくて。抑えながらフリックするのと、ピって弾くようにフリックする動きなど、いろんなフリックに対応するようにしました。

一條

その2つが、今作でいうとポイントなのですね。

Kuwaki

まだ苦労点があって…なんとか波に乗せることができたら、今度はゲームがあんまり面白くない。なぜかというと、波に乗るので精一杯で、他のことができない。「波に乗れた」という感触は楽しいのですが、乗り続ける目的意識が足りなかった。本当に最後の1ヶ月くらいは悩み続けていましたね。

一條

そして最後に、上のほうに扇があって、それを取りに行く部分ができたと。

Kuwaki

はい。あれが出るまでが苦しみましたね。波にのること自体は難易度を下げて、かつ扇の目標を作ることで、ちょっと上手い人は上手い人なりに点が稼げるバランスにしました。ただ、上手い人でもだいたいプレイ時間はそんなに変わらないですよ。いかに扇を効率良く取るかで点数が変わってきます。

一條

プレイアブルキャラクターが複数登場しますが、これはどのように決めたのですか?

Kuwaki

はじめは北斎テイストでキャラクターも参考にしようとしたのですが、途中から歌川国芳風味にしました。猫とか。キャラは今後もアップデートで増やしてくつもりです。まだまだ未定ですが、妖怪とか出したいですね。



一條

「うきよウェーブ」はAppStoreのフィーチャーをとられていましたね。ほかにも、AppStore公式Twitterアカウントで紹介されていました。今回は特に早かった気がします。

Kuwaki

そうですね、有難いことに。BitSummitで展示しているときから、お客さんの目が輝いているぞと感じていました。

一條

あのイベントは特に海外の方も多くいらっしゃいますが、「うきよウェーブ」の配信は全世界ですか?

Kuwaki

はい。ただ、とくに海外を意識していたわけではなくて、自分の中にあった発想の中で組み合わせてできたものです。

ゲームの着想はどこから

一條

ゲームの着想はどういうところから出てきたのでしょうか?

Kuwaki

日々のインプットでしょうか。そういうのはすごく大事だと思っています。自分の中にいっぱい材料があると、ある日突然組み合わさる瞬間があります。意識はそんなにしていないのですが、それがないと上手くいかない。

一條

「誰もが知っているけど、誰も見たことがないゲーム」というスローガンのようなことを別の場所でおっしゃっていました。いろいろなゲームを作られていますが、コンセプトやポリシーなどをもって作品に取り組まれていますか?

Kuwaki

すこし話がずれるのですが…実は、「最初に入った会社」というのは任天堂なんです。そこで、横井軍平さんが私の上司でした。横井さんが上手かったのが、ゲームの外からネタをもってきて。それを上手く遊びにすることでした。今作は、彼のやってきたことにかなり近づけたのがすごく嬉しかったんですよね。30年ぐらいゲームを作っているのですが、その中で初めてこういう意味で満足いくものが作れたと思っています。

一條

クリエイターとして満足のいくものがつくれた、という感覚ですね。「今までにないものを出せたな」という感覚はクリエイター冥利につくというか、楽しい瞬間ですよね。

Kuwaki

はい、作っている段階から満足度が高かったですね。

一條

具体的にゲームを作る中で横井さんの影響は感じますか?

Kuwaki

うーん、それは今日々考えている感じです。横井さんの部下だったときは私は20代だったので、ゲームについて話したことはあまりありませんでした。ですが今になって、横井さんはあの当時なにを考えていたのだろう、と色々思うようになりました。ちょうどバーチャルボーイの立ち上げ時期で、別にテレビゲームの枠でもないというスタンスでしたし、常に先を見ている人でした。

私の世代より上の任天堂は、ある意味で一枚岩的な強さがありますよね。何かを判断するときは、おそらく皆が同じ判断をするだろうみたいな。ただ最近は、開発のスタッフが顔出しするようになったのは大きな変化だと思います。昔は考えられなかったですね。

一條

プロトタイプを作っていたけれど、途中で捨てちゃうことはありますか?

Kuwaki

作り直しはしょっちゅうありますね。「うきよウェーブ」もBitSummitバージョンではたくさんのキャラクターがてんこ盛りで出てくる感じにしていました。でも、それじゃ面白くなかったんで、一回ゲーム部分をばらして、いまあるように最初のステージをシンプルにするなどの調整をしましたBitSummitのときはステージが2面だったのですが、いまは4面で、それぞれに違うゲーム性をつけて、キャラクターを再配置しました。

一條

展示会にはほかにも出展されていましたか?

Kuwaki

実はBitSummitが初めてでした。ただ、一人で回すのがかなり大変だったので、今後はそんなに出展はしないかもしれない。次に出るゲームが展開向けであれば、というぐらいでしょうか。

一條

インパクトが強いので展示会に向いていたと思います。強烈に印象に残りました。

Kuwaki

狙い通りです(笑)。

一條

今回はフリックゲームですし、前はパズルゲームですし、ゲームジャンルにはこだわらずにいろいろ挑戦されていますよね。

Kuwaki

「うきよウェーブ」はクロッシーロードのような立ち位置を狙ったゲームでした。ただし、思ったより操作的の難に度が一般ユーザーには高いものになってしまったかなと。狙いとしてはもう少しライトにしたかったですね。でも。「波」のテーマが決まっているからどうしようもない(笑)。

Kuwaki氏の作家色とは

一條

もうすこし規模の大きい作品に挑戦されるような考えはありますか。

Kuwaki

私が1人で開発をしているのは、発想からちょっと変わっているもの作ろうと思っているからなんですね。今の「うきよウェーブ」のサイズが丁度いいと思っています。これから大きくしようとすると2人や3人いないといけない。無理して1人で大きなもの作ろうとは思ってないないですね。

一條

誰かと組まれるとしたら、どんな方が良いですか。

Kuwaki

まずは絵の制作を振りたいですね。量産がたいへんで、いつも自分で作っていると力つきてしまうので。なるべくゲームデザインをやっていたい。本当はプログラミングもやりたくない(笑)。キャリアとしてもプランナーで始まっていますし。

一條

これまでのファンが引き続き遊んでくれるように、作風や作家の色が出るような工夫はされていますか。

Kuwaki

意識はしてないけど、出せたら良いなと思います。シリーズものを作っている人は強いと思っています。ところにょりさんは羨ましいですね、少し嫉妬します。自身の作家性が強く出ているというか。ただ、私はいろんなゲームを出しているので、その辺はあまり気にしていないですね。たぶん、ゲームプレイヤーから私自身に注目はされていないと思うのですが、たまに声をかけてもらえると嬉しいですね。

一條

「スバラシティ」はSwitchの移植が発表されました。思い返すと3DS版もリリースされていました。ゲーム機版は今後も予定されていますか?

Kuwaki

実は、ゲーム機への移植はフライハイワークスさんにお願いしています。Unityのプロジェクトファイルをそのままお渡ししているので、あまり私の手はかかっていないです。
しかし最近は、スマートフォンでのゲームもだいぶユーザーが育ってきて、ヒットするのはちゃんとゲームシステム部分が作り込まれているものになっていると思っています。外見のネタだけでは勝負しにくくなってきて、その辺はゲーム機に近づいてきているのかなと。なので、今後は最初からゲーム機展開を見据えて、スマホもゲーム機もいけるゲームを作っていくことができればと思っています。

一條

最後に、挑戦したいジャンルやゲームのシステムはありますか?

Kuwaki

今回、ゲームの部分をつくることにすごくストレスがかかったので、次はゲームシステム優先で作りたいなと考えています。なんでも「反動」で行動することが多いので(笑)。

一條

ありがとうございました!

プロフィール

一條 貴彰

個人ゲーム作家。代表作は『Back in 1995』(Steam)。Newニンテンドー3DS™版『Back in 1995 64』開発中。インディーゲーム開発の他、小規模ゲーム開発者が活動を継続しやすい世の中作りのために複数社からGame DevRelの仕事を請け負う。現在はPlay,Doujin! ディレクターも務める。

Ukiyo Wave

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