はじめまして Bluffman Gamesのゲームデザイン、シナリオ、レベルデザイン担当の中村俊太です。今回は「Artifact Adventure」シリーズのデザインについてお話しさせていただきます。
まず、「Artifact Adventure」とは何か?!
Artifact Adventureは自由である
Artifact Adventureは自由だ!
行こうと思えば、開始数分でラストダンジョンにも行ける!
初代「Artifact Adventure」(以下AA)ならゲーム開始直後に飛空艇が手に入るし、「Artifact Adventure外伝」(以下AA外伝)なら100万ゴールドも貰えちゃう!
でもでも、AA / AA外伝の世界は放任的にはデザインされていません!
どこからかじっても餡子に当たるタイ焼きのように、自由で開かれた世界としてデザインされているのです。
ではどのようにAA / AA外伝の世界がデザインされているのか、その一部を紐解いていきましょう!
遠くに行くほど敵は強くなる
AA / AA外伝はオープンワールドである!
オープンワールドを定義レベルで語ると、ややこしくなるのでその言葉の通り、AA / AA外伝が提供するのは限りなくプレイヤーに開かれた世界だと考えてください。
オープンワールドRPGを作る場合、考えなくてはいけないのは、開かれた世界に対する敵の強さですが、下記の3つの選択肢があります。
- プレイヤーの強さに比例させる(成長を感じられない弊害あり)
- 初期値と限界値を持たせてプレイヤーの強さに比例させる
- 地域固定(自由度を阻害する)
AA / AA外伝では3を選択しています。限りなく開かれていて、敵の強さを固定するのは歪な感じがしますが、AAでは戦闘をそこまで重要視していません
なんなら戦闘など、可能な限りしなくてもいいと思っています。
戦闘で得る物は経験値、ゴールドですある一定のレベル、装備を持って、適切な行動をすれば数十秒から数分で、報酬が得られます。
これを自由な世界に置き換えるならばマップを把握し、戦闘から逃げ(AA)、適切な箇所で種火を使い(AA外伝)、クエストの発生する場所や、宝箱までたどり着く事で報酬を得ることができます。
戦闘をするにしろ、しないにしろ、どちらも本当の意味で消費するのは、時間です。そこに芯の所での大きな優劣は存在しないと思っています。
こう設定することで、ユーザーの「こう遊びたい」、「こう遊べるんじゃないか」に、答えるようにデザインできたと思います。
ちなみに、様々な手段を駆使してレベルが低くても強敵を倒せるデザインのゲームもありますがAA/AA外伝では戦闘の比重を強くしたくなかったので、そうはなっていません。
開かれた世界と、その構成要素
どんなに自由でも、ダンジョンは入り口があり、目的地があります
途中から入ることも、目的地から始まることもなく、街から街は一定の距離があり、一つ一つフラグを立てるクエストの進行は前後しません。
ですので、不変的な部分を理解して世界をデザインすれば、どこからかじっても餡子に当たるタイ焼きを作り出せるのです。
AA外伝の世界を構成する要素を分解し解説するとこうなります。
コンテンツ
- ゲームの中核に変化をもたらすもの
- エンディングや後のイベントに影響を与えるクエスト
- ユニークな体験 > ボス戦
- 戦闘に変化を与えるアーティファクト
※厳密には画面上で意味を持つアクティブと数値だけのパッシブでは要素としての強さは異なる
フレーバー
世界や設定を知れるテキストやロケーション
リソース
経験値、ゴールド、傷薬、種火
「 フレーバー」と「 リソース」はそのままですが、続いて「 パス」とはなんぞやと言いますと。
パス
要素と要素をつなぐ通路のようなもので、要素から要素へたどり着く為のおおよその時間とどの要素と、どの要素が接続された状態かを計るものと覚えておいてください全ての要素に絡むので、より詳しい事は後ほど。
チョイス
ユーザーによる様々な選択。AA / AA外伝で言うならばクエストの結末ですが、それ以外に「 チョイス」に当たるものでは「アーティファクト」があります。AAでは誰にアーティファクトを覚えさせるか、AA外伝ではキャラクターカスタマイズの選択の幅を増やします。他にダンジョンに落ちている装備も含まれます。
「 チョイス」という点に当てはめると、現在のダンジョンにおける敵とのギャップ調整、売ってお金にする、コレクションとこれだけの選択が存在します。AA外伝であるならば探索面で種火を使い戦闘を飛ばすか飛ばさないか。RPGとして最も普遍的な所ではゴールドで何を買うか、武器、防具、アーティファクト等のことを指します。
要素を使ってどう組み立てる?
まず、AA / AA外伝の全体にありきとしてゲームを包んでいる要素は「 チョイス」になります。
AA外伝では、一つのダンジョンを探索する事で必ずアーティファクトを入手でき、纏まったゴールドを手に入れてクエストを解決できるか、クエストが発生します。
街や村へたどり付いても、クエストを解決したり、新しいクエストの発生新しい装備に、新しいアーティファクトが姿を現します。ここで生まれるのはカスタマイズ、買い物、クエストの結末、新たなクエストになりますね。その時プレイヤーはこう考えます。
- 新しいアーティファクトを試したい
- 手に入れたゴールドで何を買おう
- クエストの結末はどうなるんだろう?
- 新しいクエストに挑んでみよう!
アーティファクトは、手に入れば入るほどビルド幅が広がりを持ちそうして、カスタマイズを試したい場合は、ダンジョンへ戦闘に赴きゴールドを使用する場合には街へ向かうことになります。
即ち「 チョイス」の役目はプレイに推進力を与え持続性と連続性をもたらすと考えています。
この重要な「 チョイス」へ正しく誘導し、生かすものが「 パス」になります。
先ほど書いたように「 パス」は、要素から要素へたどり着く為のおおよその時間と、どの要素と、どの要素が接続された状態かを計るもので
「 パス」の考え方で一番重要で、注意を払うのは要素と要素の接続です。
簡単な注意点は、
- 同じものが接続され続けていること
- 「 リソース」や「 フレーバー」等、要素として弱い物を連続させないこと
になりますがかと言って、要素として強い「 コンテンツ」だけを繋ぐのであれば必要な物が増え、作業量は膨大になってしまいます。
そこでAA外伝では「 コンテンツ」と「 コンテンツ」の間を埋めるためにちょっとした解決策を講じています。AA外伝をプレイした勘のいい方なら、お気づきなのでは?
プレイヤーの興味を惹き続ける方法
それは、ただ「 リソース」としてゴールドを手に入れる宝箱よりも、より意味を持たせる、「 フレーバー」+「 リソース」となる、ダンジョン内に現れる兵士や代弁者を配置すること。これらは、見つけた時より印象を強くするために、周辺の宝箱よりも多くのゴールドが手に入るように調整しています。
渦での戦闘は、回数を重ねると「 フレーバー」+「 リソース」。コンプリートの暁には「 コンテンツ」になり、「 フレーバー」+「 コンテンツ」のコンパニオンクエストもその一つです。
そのままでは弱い要素も、他の要素と絡めることで、プレイングに影響を与えるように仕向けています。
これはAA / AA外伝でタンスや壺に、簡素なものを入れず、ドーピングアイテムが主に手に入るのも同じ理由です。弱い探索の要素を少しでも強化するためです。少ないお金や、回復薬では探索しても喜びは薄いですしね。
また、要素として弱い「 リソース」が続いた場合でも、累積して新たな「 チョイス」が生まれるように仕組んであります。
戦闘を重視しない造りに、ダンジョンと街の役割から「 チョイス」のもたらすもの、ここに「 パス」の要素から要素へたどり着く為のおおよその時間を加味すると、どこからかじっても餡子に当たるタイ焼きの原型は出来てきます。
要素へ至る時間はプレイヤー毎に変化するので判断は難しいのですが、AA外伝では、おおよその時間をコントロールしているものがあります。
それは、戦闘を回避できるアイテムの種火です。店での購入と、宝箱から手に入る以外に、戦闘後に50%の確率で手に入る種火と、渦での戦闘勝利で最大値まで手に入る種火で時間をコントロールしています。
これで戦闘をすればするほど戦闘回避の権利が発生し、重い戦闘(渦戦)をクリアで戦闘回避の権利が大量に発生するので、戦闘を避け続ければ、戦闘をしなくてはならないが、戦闘をすればするほど、探索はスムーズに行えるようになっています。
そして、プレイの蓄積で縮まっていく世界。プレイヤー自身の地理への理解と、ファストトラベルによる時間の短縮です。
これは「南西の洞窟」の図形化です。こちらでは最大戦闘回数3回以内でコンテンツとコンテンツが結ばれています。下のコンテンツはアーティファクト、上のコンテンツはクエストを指します。入手したアーティファクトを試す内に、次のチョイス(クエスト)が発生するように設置しているわけです。
このダンジョンで手に入るゴールドは1000↑程。レグルス城の納骨堂で得たリソースを含めると、2ランク目の装備か、アーティファクトの購入かのチョイスが発生するように調整されています。
自由と世界 広さと深さ、未知と既知
100万ゴールド、最初から全ての場所に瞬間移動、最強の火力(AA外伝)。どれもとても凄そうに見えますね。
ですが、実際にそれらをゲーム開始直後に手に入れても、真に生かし切るのは不可能。そして不可能であるがゆえに、自由を感じる構造となっています。
なぜ生かしきれないか?
プレイヤーが100万ゴールドを完璧に生かすのであれば、このゲーム内の全てのアイテムの価値を知っていて、また、その性能を全て把握している必要があります。
アイテムの価値を知らなければ、無駄な買い物が発生し性能を把握していなければ、持っている装備は歪になります。
あなたが最初から全ての場所に行ける事を完璧に生かすのであれば、このゲーム内の全ての地理を把握し、戦闘を回避し宝箱を手に入れるのであれば、ダンジョン内のどこで種火を使うかを知っている必要があります。
地理を把握していなければ、宝箱を効率よく回収できず、街へ種火を買いに戻る事になります。
あなたが最強の火力を完璧に生かすのであれば、ゲーム内の全ての敵の耐久力に、全てのアーティファクトと装備の性能を把握している必要があります。
敵の耐久力を把握していなければ、敵を倒しきれない。逆にアーティファクトの発動を待ち過ぎれば、オーバーキルになり戦闘の時間が長引く。全てのアーティファクト、装備を知らなければ、この最強の火力は、いずれカスタマイズの候補には上がらなくなります。
どれも凄いのですが、何も知らなければ無駄になってしまうのです。
逆に完璧に生かせるようになった時には、最適解へ一直線に進むことが可能になり、「 チョイス」が減少します。すなわち、自由とは、世界の広さとは、そこに未知が広がっている事であり、未知が減り既知が増える事で、徐々に世界が狭くなり浅くなっていきます。
そこで手に入るのが【神の視点】と【神の業】。
あれや、これや、ゲームをハックするかの如く、全てを有利に進め、思うがままに世界を蹂躙し、あらたな遊び場として、ゲームをプレイできるようになっているでしょう。
ここでポイントになるのが、未知の面白さと、既知の面白さ。未知の自由と、既知の自由によって、どこからでも餡子に当たるタイ焼き構造となって絡み合い、結果として、AA / AA外伝は、最初から最後まで形を変えて限りなくプレイヤーに開かれた、自由な世界を提供できたと思います。
最後に
まだまだ、細かい所で世界を構築している要素を語りたくはありますが、ひとまずこれまでとします。このような、乱文長文を最後まで読んでくれてありがとうございます。
いつか誰かが作ったArtifact Adventureのようなゲームを遊べる日を楽しみにしていますので、皆様も自由度の高いゲーム作りに挑戦してみてください。自由なゲームを自由に作るのは、きっと楽しいですよ!
おまけ Artifact Adventureに流れる血
1.ファイナルファンタジー1 / ファイナルファンタジー2
戦闘を【逃げる】事が落とし込まれ、デザインされている自由なゲーム。ゲーム性に物語や設定等、初代Artifact Adventureは多大な影響を受けている。PS版をPS Vitaに入れて折あるごとに遊んでいます。AAの夢想家が生まれたのは、FF1を何度もプレイして生まれた不満から!
2.ドラゴンクエスト3 / ドラゴンクエストシリーズ
FF1と同じくキャラメイクや自由度の点で影響を受けています。モノによってはブラックなネタ、イベントが素晴らしい。
3.Fallout: New Vegas
捻りのきいたシナリオ、物語の選択と結末これをプレイしていなかったらArtifact Adventureは生まれていなかった。
4.ポンコツ浪漫大活劇 バンピートロット
物語を遊ぶという点で、最も好きなJRPG。自由な世界での物語上の、立ち振る舞い、役割、、善悪を混沌的、秩序的にもロールプレイできるゲームにおける、わたしとは何か……の面白さ。特に混沌的な振る舞いに対するNPCのリアクションは必見。
5.Diablo3
こちらは外伝の戦闘システム、カスタマイズ周りで影響を受けてます
モンスターの特殊能力にはモロな物があり。