2019年6月にLAで開催された「Xbox E3 2019 Briefing」。世界中が注目する大舞台で、ある日本製インディタイトルが2020年に発売されると大々的に発表された。それが大阪を拠点に活動するスタジオ「DESK WORKS」が開発する『RPGタイム~ライトの伝説~』だ。
「DESK WORKS」は ”プログラムが少し書けるプランナー” である藤井トム氏と、”絵が少し描けるゲームデザイナー” である南場元樹氏のたった二人から構成されるスタジオだ。
構想10数年以上・制作期間6年以上にわたり開発が進められているこのタイトル、そして彼らが辿った軌跡は想像していたよりもだいぶドラマに溢れたものだった。
インタビュー: 池和田 有輔
藤井トム
『RPGタイム!~ライトの伝説~』の開発者。
少しプログラムが書けるゲームデザイナー。
南場ナム
『RPGタイム!~ライトの伝説~』の開発者。
少し絵が描けるゲームデザイナー。
まずは『RPGタイム』というゲームについて教えて下さい。
藤井
『RPGタイム』は、小学校の教室を舞台に、ゲームクリエイターになりたい少年、ケンタくんがRPGを手作りするというゲームです。Unityを使って、ゲームの中にゲームクリエイターの卵を再現するという試みを行っています。
ケンタくんはゲームマスターということなんですね。どのような位置付けのキャラクターなのでしょうか?
藤井
ケンタくんはゲームの進行をするゲームマスターであり、ゲームの作り手でもあります。彼は自分なりに完璧で面白いゲームを作ろうと目指しているんですが、ゲームの進行に行き詰まってしまったから理不尽な展開になったり、プレイヤーを困らせるようなことをたくさんしてくるんです。アナログゲームって、プレイヤーの関係というか、信頼性がすごく大事になってきますよね。このゲームでも、ゲームマスターであるケンタくんがプレイヤーを困らせることがあったとしても、笑って許せるような友だちというか、親友みたいな存在になれればいいなと作っています。
開発中にケンタくんの設定に変化があったそうですが、どのように変わったのでしょうか?
藤井
制作当初は、シンプルに「小学生がゲームを作る」というコンセプトだったんです。でも、そのコンセプトを練っているうちに、プロジェクトの概要を書き留めたノートが200ページを超える厚さになってしまった。あれっ、どうしてこんなボリュームになったんだろう?!と考えたら、「彼はゲームクリエイターになりたいから、こんなに一生懸命ゲームを作っているんだ」という答えにたどり着いて。そこからケンタくんの話す言葉や行動が迷いなく出てくるようになりました。さらには、ゲームへのリスペクトや憧れもうまく反映されていって。それはやはり、私たちが子どもの頃に感じていた、ゲームクリエイターに対する憧れや尊敬がクロスオーバーして、すごく作りやすくなったんです。
ケンタくんに藤井さんの過去を自己投影している?
藤井
そうですね。僕はケンタくんみたいに才能のある子どもではなかったので、どちらかというと、その僕を楽しませてくれたクラスのヒーローというか、すごく図工が得意なお友達であるとか、すごく話すのが得意な友達であるとか、そういった僕らのヒーローが、ケンタくんに集約されているというイメージで僕は作っています。
セリフはお二人で考えているんですが?
藤井
はい。最初に僕が書いて、南場が修正するパターンもあれば逆もあります。より自然に、より面白く見えるように作っていくので、本当に二人で、共同で書いているというイメージです。
DESK WORKSはどのようなスタジオですか?
藤井
私は、少しプログラムが書けるゲームデザイナーとして、『RPGタイム~ライトの伝説~』の開発に関わっています。ゲームデザイナーの役割であるゲームの設計以外にも、テキストを書いたり、3Dのモデリングをしたり、ゲーム全体のディレクションも担当しています。
南場
僕は少し絵が描けるゲームデザイナーなので、主に2Dアニメーションや3Dモデルのデザイン、他にはテキスト、アイデア出しなどを行っています。ゲーム内には工作物も出てくるのですが、そういうものを実際に作って、それを参考に3Dモデルのほうに反映させることもしています。工作を自分でやるのは、やはり実際に小学生が作れるようなものをモデルに落とし込むということが必要になるから。そこにリアリティというものを出せるのかなと思っています。
『RPGタイム』制作の始まりは、2007年にまで遡るそうですね。学生時代(HAL大阪)に卒業制作として開発したゲーム『バトルクエスト』が元になっているそうですが。それから12年もの月日がかかっているわけですが、現在に至るまでの大まかな流れを教えてください。
藤井
『バトルクエスト』は数人のチームで制作したんですが、結局15分ぐらいのとても短いRPGしか完成させられなかった。学生最後の夏休み全てを費やしても15分のゲームしか作れないのが悔しくて、「いつか完成させて世に出そう」と開発チームで約束して、それぞれゲーム会社に就職していきました。私は就職してからも会社内の企画コンペに出したり、決裁権を持った上司に直談判に行ったり、さらには新しいタイトルが作りやすい会社に転職したりしたんですが、学生時代のゲームを世に出すということは難しかった。もう諦めるしかないと思いました。
心が折れかけたところから、実際の開発に踏み切ることができた理由は?
藤井
状況が変わったのは6、7年前ですね。Unityを初め、個人でもプロ並のクオリティがあるゲームを作ることができるツールが出てきたことで「インディゲーム」や「個人ゲーム開発者」が現れ、そういったゲームを展示するイベントも行われるようになった。それまでは「自分でゲーム会社を作るしかない」と思っていたんですが、「自分たちだけでも作れるんじゃないか」と考えて、開発を再開したんです。
それで南場さんと組んで、二人だけの開発を始めたと。そこから6年、制作のモチベーションを保ち続けるのはかなり大変だったのではないでしょうか。
藤井
初めは2年間で完成させる予定だったんです。ですが、ゲームデザイナーだけでゲームを作るのは想像以上に困難で、ものすごく時間がかかることになってしまいました。プランナーの立場だと、仕様を書けばゲームグラフィッカーさんがすごくイイ感じにしてくれたり、プログラマーさんが汲み取って作ってくれたりしていたのですが、二人ではそれらを全部自分たちだけでやらなければならない。一応、開発を始めてから3年目に形にすることができたので、昔から出たいと思っていた「東京ゲームショウ」のインディゲームエリアに応募したんですが落選してしまって。さらにクオリティを上げて翌年もエントリーしたんですがまた落選しまして(笑)。そのタイミングで、任天堂Switchが発売になったんです。
南場
それまではiPad専用のゲームで開発していたんですが、Switchの発売をきっかけに、思い切って画面比率を4:3から16:9に変えました。タブレット専用の、画面比が4:3のゲームでは、なかなか広くまでゲームを届けられないのではないかという思いもありまして。ゲームの世界をノートから机の上に、机の上からさらに教室へ広げたんです。
藤井
ターゲットを変えたことで、ゲームにも変化がありました。今までノートの中だけで起こっていた2Dの世界が、ケンタくんの視界が広がったことで、ケンタくんのいる3Dの空間に広がって、出すアイデアというのが2Dだけの世界ではなくて、3Dのケンタくんがいる世界に派生していったということで、かなりアイデアも質も方向性が変わっていったというところです。
南場
まあその分開発期間も伸びてしまって(笑)。結局、開発を始めてから6年目の2018年の夏にようやく、念願の「東京ゲームショウ」に出展することができました。
昨年9月に開催された「東京ゲームショウ」よりも前に、京都で開催された「BitSummit vol.6」(2018年5月)に出展されていますね。これが実質的に『RPGタイム』の世界初お披露目となったかたちでしょうか?
藤井
はい。それまで、誰にも見せずに作ってきたので、普通の人に遊んでもらうというのも初めての経験で、どんな評価が来るのかもわかりませんでした。おかげさまでたくさんの方々に楽しんでいただけて、小学校に入りたてのお子さまから、私たちの先生ぐらいの年齢の方まで、年齢・性別・国籍問わず楽しいとフィードバックを頂けたのは嬉しかったですね。国内外でも賞を頂くことができました。
イベントごとに話題になっている印象がありますが、開発者として手応えを感じていますか?
藤井
はい、ものすごく感じています。私たちは6年間ずっと、誰にも見せずに開発してきたんです。その間は、こう遊んでくれるかな、驚いてくれるかな、笑ってくれるかな、なんて頭の中で一つ一つ思い描きながら作っていたわけですが、実際にプレイしていただくと、その想定していたところ全てに思っていた以上の反応を返してきてくれるんです。長く開発していると、正直見飽きてしまって、自分たちでもどこが良いのかわからなくなってくる。それが、自分たち以外の方に遊んでいただくことで、また頑張ろうという気持ちになれるんです。
国内と国外の反応で感じる違いというものはありますか?
藤井
海外の方から、「日本でもこうやってノートを使って遊んでいるのか、俺らの国だけかと思ったよ」とコメントを頂きました。そして、「でも、俺たちはここまでは作らなかった。やっぱり日本人はクレイジーだな。ここまで作り込んでいるなんて」とおっしゃるんですね。世間一般で言われている日本人の少しクレイジーな部分であるとか、こだわって作る部分みたいなところが、いいかたちでケンタくんに反映されていたら嬉しいなと思っています。
“DESK WORKSらしさ”は、このゲームのどのあたりに表れていると思われますか?
藤井
DESK WORKSは、ゲームデザイナーが主体となった開発チームです。だから、アイデアだけは本当にたくさん持っていて、そのアイデアをゲームの端々にまでギュウギュウに詰め込んでいくというところが”らしさ”ですね。ノートに少しでも隙間があったら、何か面白いものを描く。机に少し空いている所があれば、何か面白いものを置く。とにかく「隙間があれば埋めたくなる」という癖があります(笑)。その詰め込んだものが一つでも、プレイヤーに届けばいいなと考えています。
Unityを使って良かったと感じた点はありますか?開発期間が長いので、バージョンアップで仕様が変わって困難もあったのでは?
藤井
特に困難は感じませんでした。私自身は7年前からUnityを使って開発しているんですが、今回Unityを使って良かっと感じたのは、自分たちが考えついたアイデアをゲームの中ですぐに確認できるところですね。ゲーム開発は粘土をこねるようなもので、会社内で「ゲームデザイナー」だった頃はプログラマさんに粘土をこねてもらっていたわけですが、Unityを自分で使うことで、直接粘土を掴んで深いところまで直接触れることができる。だからゲームがどんどんできて行くし、愛着も湧いてくるんですよね。
南場
アイデアを実装しやすいというか、「すぐ置いて表示できる」のが一番良いことです。絵を描くツール上で表示している絵と、実際にゲーム上に表示した絵では印象が変わるので、カメラやオブジェクトなど、ライティングの関係で3D上に表示して確認しながら調整できるのはメリットでした。
どのような方にゲームを届けたいと考えていますか?
藤井
やはりケンタくんと同じぐらいの年齢の少年少女たちはもちろんなんですけれども、もと子どもだった全ての、全世界の人々に遊んでほしいなと考えています。
南場
ケンタくんと同じように、小さい頃にノートに落書きをして、ゲームで遊んでいたような人たちとか、ゲームクリエイターになりたいという人たちに遊んでいただきたいですね。そこから将来、ゲームクリエイターになる人がいたら最高です。
リリースを楽しみにしている方々に向けてメッセージをお願いします。
藤井
まさに今、仕上げのアイデアをどんどんゲームに詰め込んでいっている最中です。現在進行形でどんどん面白くなっているので、皆さんのお手元に届く頃には、今は自分たちも想像できないような面白いゲームに仕上がっていると思います。ぜひぜひ皆さん、楽しみに待っていてください。
南場
皆さんの期待以上の驚きとアイデアに満ちた作品になっているはずなので、ケンタくんのノートが届くのを楽しみにお待ちください。
池和田 有輔
フリーランスとしてWEB制作・広告制作のキャリアを経て、2013年からRépublique開発チーム(Camouflaj, LLC.)に参加。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社に入社後はエバンジェリストとしてUnityの伝道活動に携わってます。