例えば舌の肥えた料理人が足繁く通うレストランのように、例えば広くトリビュートアルバムを望まれる孤高のアーティストのように、「同業者に支持される」というのはその道に生きる者にとってこの上なく栄誉なことではないだろうか。本作『アーティファクトアドベンチャー外伝DX』はまさに多くのゲーム開発者に見い出され、エールを受けているゲームと言えよう。事実、多数の開発者の協力のもとで開発された作品であり、本インタビューも多くの固有名詞が飛び交う内容となっている。
開発の中心は中村俊太さん、勇太さん、建太さんという3兄弟から成るユニットbluffman(ブラフマン)だ。ゲームボーイ風のテイストを再現した『Artifact Adventure Gaiden』は2018年初頭にSteam向けに配信され、好評を博した。結果として世に放たれたのが本作『アーティファクトアドベンチャー外伝DX』。Nintendo Switchに向けて作られた『Artifact Adventure Gaiden』の完全版とも言える内容で、カラー化やふたりプレイの要素追加など、大きなアップデートを果たしている。
最後までお読みいただければ本作の魅力が伝わることだろう。
インタビュー:池和田 有輔(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)
インタビュー: 池和田 有輔
中村 俊太
「Artifact Adventure」シリーズ ゲームデザイン、レベルデザイン、シナリオ担当
中村 勇太
「Artifact Adventure」シリーズ プロデューサー
中村 建太
「Artifact Adventure」シリーズ グラフィック、プログラミング担当
池和田
ご兄弟でゲームを開発されているというのは非常に珍しいと思うんですが、みなさんそれぞれどういった役割なのでしょう。順番に自己紹介してもらっても良いでしょうか?
中村俊太(以下俊太)
はい、では順番に…。bluffmanの長男、中村俊太です。担当はゲームデザインとシナリオとレベルデザインです。
中村勇太(以下勇太)
次男の中村勇太です。役割としては連絡係とか素材の発注なんかが多いですね。
中村 建太(以下建太)
三男、中村建太です。プログラムとUnity全般を担当しています。
池和田
ありがとうございます。実装は建太さんが一人で担当されているんですね。
建太
そうですね。今回、スキルが80以上あるし戦闘全般も大変でした。モンスターの挙動などはかなりの数を作りましたし。
俊太
弟(建太さん)はグラフィックも少しできるので、一部のモンスターなどグラフィックもやりました。
池和田
八面六臂の活躍だったんですね。ちなみにプロジェクトの方向を決められたのは俊太さんだと思うのですが、このシリーズを作る上で大切にされていることはありますか?
俊太
『ARTIFACT ADVENTURE』のときから大事にしているのは、選択と結果と自由度です。選択に対する結果は、多分、思ったり望んだりしないような、それこそダークだったりユーモアだったり、いろいろなところに飛ばし、結末を見せるというのは『1』も『外伝』も共通していて大事にしているところです。それからゲームをユーザーの手にどれだけ委ねられるかっていうのも大事にしています。
池和田
自由度が高いというのは本作の大きな特徴ですよね。
俊太
はい、例えば最初の選択次第では100万ゴールドなんていう普通ではありえないお金が手に入りますが、その判断はプレイヤーに委ねられています。バランスが壊れてしまう感覚をプレイヤーに感じさせてしまうのか、あるいは楽しんでもらえるのかという部分はプレイヤー次第で、その判断自体を任せているところが『ARTIFACT ADVENTURE』というゲームの体験の核になっているのかなとは思います。
池和田
感情の振り幅の範囲を規定することを重要視せず、体験する場所を作ることに注力しているわけですね。そしてそこで自由に遊んでもらうという。
俊太
まさしく場所を作るということが重要だと思っています。マップやフィールドの広さっていうのはどれだけ距離があるかじゃなく未知の数で決まるわけで、つまり未知のものがなくなったときに世界は狭まるという話です。とある媒体の企画で『OCTOPATH TRAVELER』の宮内さんと対談させていただく機会があったのですが、そのあたりはお互い意見が一致していましたね。
池和田
なるほど、物理的な広さ以上に未知のものの数で広さが決まると。
俊太
実際、本作のフィールド自体はあまり広くないんですけど、プレイヤーからは結構「広い」って言われますから。そういうことなのかなと思います。
勇太
『UNDERTAIL』の作者トビー・フォックスさん(@tobyfox)にも「世界が広い」と言われました。
池和田
その話、もう少し聞かせて頂きたいです。
俊太
とあるイベントに出展した際、トビー・フォックスさんが直々に来て、「自分は日本語があまりうまくないけど感想が言いたい」と言われたんです。最初は誰かわからなくて、でも海外のファンが来てくれて嬉しいみたいな感じでしたね。「『外伝』と前作があるんですけどどちらをやりました?」って聞いたら「両方ともクリアしています」と言っていて。いろいろ話していたらゲームを作っていると言うのでTwitterを見せてもらったんです。それで気が付きました。
池和田
そこから『DX』版のイースターエッグ(隠し要素)が生まれたわけですね。
UNDERTALE
トビー・フォックス氏が手掛け、世界中で大ヒットしたインディーロールプレイングゲーム。「アーティファクトアドベンチャー外伝DX」には、「UNDERTALE」のイースターエッグが隠されており、特別なメッセージと共にプレイヤーを待っている。
俊太
そうです。『DX』を出すときにTwitterのダイレクトメッセージで「ちょっとコラボしてみない?」っていうふうに言ったら乗ってくれたんです。
勇太
ちなみにトビーとは日本語で連絡していますよ。日本語はまだ習いたてみたいですけど、ちゃんとやり取りができてます。
俊太
『ARTIFACT ADVENTURE』ってメインフレームのインディーゲームに比べると、まだまだ隠れているような作品だと思うんですよ。それでも広めてくれたり、いろいろやってくれて嬉しかったし、本当にびっくりしましたね。トビーさんからは『DX』の推薦文として「ゲームを裏まで理解し、攻略していくのが楽しいです」というようなメッセージも頂きました。
池和田
この一言からもトビーさんがやり込んでいることが伝わりますよね。ちなみにトビーさんはどんな経緯でゲームをプレイされたのでしょう?
俊太
もともとは友達から薦められてやったみたいですね。なんかそんなノリでやってくれるんだ、と思いました(笑)。
池和田
なるほど。確かに『Gaiden』のときは友達から薦められてやる以外の入り口があまりなかったような気がしますね。
俊太
そうだと思います。今回の『DX』もネット上ではほとんどバズらないんですよ。RTもお気に入りもされていない。Nintendo Switchのランキングで18位くらいにはなりました。でも、みんな何をきっかけでやっていただけてるのか不思議なんです(笑)。
池和田
そのあたりをとても聞きたかったんですよ。どういう広まり方をしているのかということを。でも開発者である俊太さんでも「あんまりよくわからない」という(笑)。
俊太
まあそうですね。やっぱり口コミじゃないかなあ。リアルな友達とか、Twitterのフォロワーさん同士がやり取りをして、やってみようかなという。やってくれた方からいただいた感想はすごくいいので。
池和田
Twitterでもオープンな方ではなく、DMとかそういう方だったり?
俊太
ホントそんな感じです。任天堂のインディーゲームの担当者さんとかもハマってくれてちゃんとクリアしてくれていたり。最近だと『ドラクエXI S』のディレクターである八木さんという方が、「このゲームすごい面白い」ってツイートしてくれたりもしましたが、やはり会社の同僚から薦められたというふうに言っていましたね。だからディープな口コミで伝播していってるからなのかなと。
勇太
あれは励まされたなあ。
池和田
やった人同士だと話が盛り上がるゲームだと思うんです。人によって体験がだいぶ違ったりもするし。
勇太
自分たちが『ドラクエ』『FF』を小学校のときに話していたという感覚が一番強いかもしれないですね。
俊太
海外のSteamでのレビューで「放課後に学校の校庭で話をしたような感じのゲーム」という感想を頂きました。
池和田
わかります。以前、楢村さん(@naramura)にインタビューをしたとき、「LA-MULANAは、昔のゲームの良いところも駄目なところも肯定するゲームなんだ」という話をされてたのが印象的でしたが、同じように感じました。昔のゲームの硬派な部分を踏襲しているというか。
俊太
楢村さんとはイベントでお話ししたんですけど、MSXとかのゲームを説明書がない状態から攻略するのが面白いとか言っていましたもん。「ああいうゲームを作る人だな」っていう感じがしますよね(笑)。
池和田
でもそうなってくると僕、ちょっと気になるのが若い世代の反応なんですよね。おじさんとしてはある種の不便さとかにもグッときたりするんだけど、そのへんって若い世代はどう見えるのかなって。
俊太
若い世代でいうと、hako生活くん(@clrfnd)が手伝ってくれた関係でプレイしてくれたんですが、「これめちゃくちゃ面白い。一気にクリアして3周目までやりました」って作業用のSlackに書いてくてました。ハマる人は若い人でもハマってくれるんだなと思いました。
勇太
あと、『ghostpia』を作っている超水道(@chosuido)の方たちも個人的に買ってくれたみたいで、2人用でやって、「すごい面白い」って感想をいただいたりして、やっぱり嬉しかったですね。フック的には全部おじさん向けなので(笑)。
池和田
イベント出展はかなり積極的に行っていましたよね?
俊太
そうですね。TOKYO SANDBOX、BitSummit、ぜんため、デジゲー博…。全部で5、6回ぐらいはイベントに出ているのかな。
池和田
出展での試遊って、基本的には5分とかそのくらいですよね。ゲームとしては伏線がまとめて回収される後半にカタルシスが集中するし、短時間では体験では面白さが伝わりにくいのではと思ってしまうのですが。
俊太
そこはもうRPGの宿命というか、正直5分で伝えるのはキツイですね。それもあり、最初にフックとして最強のキャラとかお金が100万ゴールドもらえるキャラとかそういうのを置いて、とにかくまずやってもらうわけです。
池和田
ああなるほど、最初の選択はそういう効果も見越しているんですね。
勇太
中にはずっと熱中してやっているひともいるんですよ。後ろに人が並んでいても、ずっと自分の世界に入ってやっている人が。
俊太
30分、40分ざらにやってしまうような人ね。あと、ありがたかったということでは自分たちのブースのためにブラジルからわざわざ来ましたという方もいました。それについでとはいえトビー・フォックスさんにもわざわざ来ていただいて、日本語で感想をくれるくらいですから。イベントでは本当に良い出会いがありました。
池和田
開発期間はどのくらいだったのでしょうか?
勇太
相当長いですね。2014年にMAKUAKEでクラウドファンディングを達成してから作り始めているからもう5年ぐらいでしょうか。MAKUAKEを使ったのは自分たちの中で作るか作らないかの判断みたいなものでした。
池和田
どのぐらい受け入れてくれるんだろうというのを世に問う、みたいな?
俊太
金額よりもそれですね。どのぐらいやりたい人がいるのかなと思いました。
池和田
結果、そこで手ごたえを感じたわけですよね?
俊太
そうですね。もうほとんどプライベートで楢村さんも応援してくれましたし。
勇太
他にはゲーキャスのトシさん(@gamecast_blog)とか、room6のまさしさん(@masashihan)もですね。
池和田
みなさんゲーム内にもちょっと出てますねよね(笑)。
勇太
そうです。実は「ファンディング通らないかも」っていうときにトシさんとまさしさんからわりと大きな支援を頂きまして、彼らのおかげで突破したみたいなものですね。
俊太
その縁もあり、『DX』のパブリッシングがroom6さんになりましたし、とにかく有り難かったです。
池和田
グラフィックやアニメーションなどは勇太さんから外部の方に発注されたのでしょうか?
勇太
そうですね。グラフィックはいのうえしろさん(@ligpd)にお願いしました。前作の『ARTIFACT ADVENTURE』というファミコン風のRPGからずっと付き合いがあるドット絵師さんで、会ったことは一度もないんですけれど、フリーランスでドット絵をやられている方です。
俊太
『ARTIFACT ADVENTURE 1』の頃から考えたら10年くらいのお付き合いです。
池和田
アウトゲームのタイトルやロゴなども印象的だと思いました。
俊太
今回はいろいろなクリエイターさんにやってもらってますからね。タイトル画面は『果てのマキナ』のおづみかんさん(@ozumikan)だし、戦闘背景は「UNREAL LIFE」のhako生活くん(@clrfnd)。そのあたりはSwitchで出す際にやってもらいました。あとはroom6のデザイナーさんのachaboxさん(@achabox)とsaino misakiさん(@saino_m)もですね。
池和田
なんという…。豪華なメンバーでやられていたんですね。
俊太
才能ある方なので「こんな感じでやってください」って言ったら、本当にいいものを上げてくれました。
池和田
楽曲も何人かの方にお願いしたのでしょうか?
俊太
はい。1人は青木しんたろうさん(@ShintaroAoki)ですね。この方は映画とかアニメとかをバリバリやっている方で、最初Switchに移植する際に、音楽を一緒にしようということで、「Chiptuneをできる人いませんか?」ということで声をかけていただいて、「僕、できます」って。それでやってもらいました。あと2人いて、もう1人がつよみーさん(@tsuyomi0508)。この方は『太鼓の達人』のコンペで入賞して、楽曲提供したりしている方ですね。あとはロルミ85%さん。この方はニコニコでずっとゲームボーイの音楽を作って投稿しています。
勇太
みなさん面識がない状態で始まりました。青木さんとつよみーさんにはこれがきっかけで会うようになりましたが、ロルミさんは今でも完璧に謎の人です(笑)。
池和田
『AA』シリーズは今後もとして続くのでしょうか?
俊太
『AA』はファミコン、『外伝』はゲームボーイ、『外伝DX』はゲームボーイカラーと、もともと過去のハードをコンセプトにゲームを作っているので、そういうハードに音と絵をコミットして、シリーズの特徴である選択と自由度を組み合わせたものを多分作るんじゃないのかなと思います。ただ、RPGなので作るのが超大変です。
池和田
作を追うごとに一つずつ進化していくという感じなんですね。となると次はスーパーファミコンとか?
俊太
メガドラとかその辺りです。
勇太
その後はプレステなのかサターンなのか、みたいな。
池和田
思い入れがあるハードはみんな違うだろうし、ファンの間でザワつくかもしれないですね。『AA』に限らない話でいうと、先日Twitterにアップしていたリンゴを集めている動画のものが気になります。あれって今まで作られたものとだいぶテイストが変わってますよね。
#gamedev #project_circle ゲーム画面!Q:どんなゲームですか?A:ブレスオブザワ(ry木を叩いてリンゴを集めるゲームです!グラフィック&アニメーションは@ameo_gameさん!あとまだ音楽がないんです。どこかに弦楽四重奏とかピアノの生演奏を使うBGMを得意とされる方がいればなー。 pic.twitter.com/D5Ta8RqSbE
— bluffman (@bluffman) May 6, 2018
俊太
『ペーパーマリオ』みたいな感じで。
池和田
新作として現在作られているのでしょうか?
俊太
正直、まだ実験段階ですね。表現とか、何がああして何ができるのかという実験をしながら‥という感じになります。実際に作っているというよりは、どう作っていって、どういうことをやりたいかというのを出している段階です。
池和田
今、そういう色々なモックアップを、ちょっと試しに作っているというようなフェーズなんですね。
俊太
『DX』が一段落しているので、そういう感じですね。
池和田
そういうときってめちゃくちゃ楽しくないですか?
勇太
開発の中で一番ですね。
俊太
その時点では可能性は無限大なので。アセットもたくさん買ってますよ。使っていないけど、アセットを買って勉強するっていうのを結構やっていますね。3Dも含めて。
建太
3Dのゲームは作ってみたいなと思います。便利なアセットもいろいろあるし試してみたいことはたくさんあります。
勇太
またこだわりが強い人たちが集まっちゃいそうで時間はかかりそうな気がしますが、新作は楽しみながらやってます。音楽は椎葉さん(@shiibadaisuke)で、生音で作っているし。
池和田
おお、それは楽しみです。大活躍ですね、椎葉さん。
勇太
インディー界隈でもすっかりおなじみですよね。何回かはスタジオに録りにいくのを見学しましたけど。生音すごかったです。
池和田
では、音楽も含めて楽しみにしています。本日はありがとうございました!
池和田 有輔
フリーランスとしてWEB制作・広告制作のキャリアを経て、2013年からRépublique開発チーム(Camouflaj, LLC.)に参加。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社に入社後はエバンジェリストとしてUnityの伝道活動に携わってます。
「The Good Life」はDeadly PremonitionやD4のクリエイター、SWERYが率いる株式会社White O…