インタビュー: 池和田 有輔
橋本 厚志
子どもの頃からスクウェアやエニックスが開発したRPGをプレイして育ち、90年代のRPGに大きな影響を受ける。2004年からプランナーとしてゲーム開発に従事し始め『サガ2秘宝伝説 GODDESS OF DESTINY』や『新・光神話 パルテナの鏡』などに携わり、『FINAL FANTASY EXPLORERS』ではディレクターを務めた。2014年からTokyo RPG Factoryのプロジェクトに参加し、『いけにえと雪のセツナ』『LOST SPHEAR』ではディレクターを務めた。
熊谷 宇祐
2003年4月、株式会社レベルファイブにプログラマーとして入社。『ローグギャラクシー』でメインプログラマーを務める。以降『レイトン教授シリーズ』を中心に活動し、3作目の『最後の時間旅行』からディレクターを務める。2015年10月に同社を退職し、2016年1月にTokyo RPG Factoryに入社。『いけにえと雪のセツナ』の英語版、Steam版のディレクターを、『LOST SPHEAR』ではテクニカルディレクターを務めた。
池和田
まずはお二人のプロジェクト内での役割について聞かせてください。
橋本
私は『いけにえと雪のセツナ』(以下『セツナ』)に引き続き、本作『ロストスフィア』でもディレクターを努めました。
熊谷
私も前作から引き続きTokyo RPG Factoryのスタッフとして、『ロストスフィア』ではテクニカルディレクターという立ち位置でUnityさんとやり取りをしたり、開発環境の整備をしました。
橋本
Project SETSUNAのコンセプトの一つに、「企画に賛同したスタッフを集めてゲームを作る」というのがあるんです。
熊谷
そういう人たちとお仕事していくのはやっぱり面白くて、当初は『セツナ』のマスターアップまでのつもりで来たんですけど、「なんか悪くないぞ、ここ」と思いながら本作にも関わらせていただきました(笑)。
池和田
最終的にはどのぐらいの人数で制作されたんですか?
橋本
いろいろ総合すると外部の協力会社を入れて50人ぐらいかな? プログラマーは10名弱、アーティストは15~20ぐらい、そしてプランナーが10~15ぐらいです。
池和田
おお、プランナーさん、多いですね。
橋本
そうですね、僕はプランナーとプログラマーは同じくらいの人数だとバランスが良いと思ってるんですが、今回はかなりボリュームがあるので、その物量を支えるためにプランナーが大量のデータを打ちました。なので比率的に多めになりましたね。
池和田
シナリオの量も相当なものですよね。
橋本
シナリオは総力戦で作りましたね。原案を書いていたのは一人ですが、それをイベントチームがゲームに落とし込んでいき、最後に僕が整合性をとるという感じです。
池和田
体感できるボリュームがしっかりありますよね。戦闘や探索だけでなく、お話を追っている時間が非常に長い印象です。
橋本
『セツナ』は20、30時間ぐらいでクリアできるゲームとして作ったんですが、やっぱりちょっと物足りないというお客さんもいたんですよね。そこで今回はもうちょっとボリュームを増やそうということになりました。でもちょっと頑張りすぎたというか、増やしすぎた感じもあります(笑)。
熊谷
でも実際、プレイされた方からの評判は良いですね。
池和田
前作『セツナ』、そして今作『ロストスフィア』はProject SETSUNAとしてリリースされた作品ですが、そもそもProject SETSUNAとはどういったものなのでしょうか。
橋本
いつまでも遊べるような色あせないゲームを作りたい、というのがスタートです。われわれにとってそういうゲームって何だったんだろう、90年代のRPGが持っていた魅力って何なんだろうという話をしていった中で、「想像できる余地がある」ということなのかなと。
当時はグラフィックの限界もあって全部を完全に描けたわけではないんですけど、それゆえに遊ぶ側が勝手に想像して膨らませていった部分があると思っています。今のゲームには想像の余地がないというわけじゃないんですが、全部きれいなモーションが付いて顔の表情までわかっちゃうので、想像というよりはそのシーンを見ている感覚ですよね。
熊谷
見えない物を感じさせるということは大事にしています。例えばご飯があったときに、ただご飯があるというシチュエーションを見せるのではなく、「そのキャラクターが好きな人の作ってくれたご飯だよ」ってすると、そのテキスト1個で見え方が変わるんですよ。
橋本
何気ないひと言ふた言を足すだけで、同じイベントでもグッとくる感じが全然違ったりするので、そういうワードはかなり大事にしています。
池和田
それは、ただ単にレトロっぽい表現、いわゆる表層部分でドット絵っぽいとかいうのとは全く違う話ですよね。もうすこし根源的な部分というか、精神性に近いような。
熊谷
そうですね。例えばモーションが少なくても絶妙な間を入れることによって、多分いま心が揺れて悩んでいるんだろうなとか、感じるものがある。それは、現代でもずっと演出の力にかかっていると思うんです。これまでに出てきたたくさんのゲームを見てきて、そこから培ったものをちゃんと新しいものに注ぎ込む、ということを頑張っています。
橋本
よく言うのは、90年代のRPGを作りたいのではなくて、90年代のスタイルを継承して進化したものを作りたいんだということですね。『セツナ』のときは、『クロノトリガー』を参考にしたという話をよくしていたんです。でも別に『クロノトリガー』そのものが作りたいわけではなくて、当時のゲームが持っていた面白さを再定義するようなゲームを作りたい、というところですね。
熊谷
それに、1年半ぐらいで作れるというのは現代の技術があってのものなんですよ。昔だったら『ロストスフィア』の画面を作るのにすごい手間がかかったはずですが、今はUnityがあったり、ツールもすごく進化しています。開発者が遊びたいと思っているゲームを遊びたいと思っている内に作りきってしまえる。そういうところは、一つの特徴だと思います。
池和田
でも、それは体験版や展示デモなどの短い時間では伝わりにくいところだと思うんです。その辺りの難しさってありませんでしたか?
橋本
もちろんありました。インタビューとかで話をすると「確かに、なるほどね」ってなるんですけど、ゲームを通して伝えるとなると、やはり考えるべきことは多いですね。プレイしてもらったときに「ああ、これこれ」っていう安心感が得られつつも、それだけじゃなくて「ちゃんと今のゲームになっているな」と思ってもらえるようなバランスをとる、というところは気を付けています。
池和田
そういう感覚をチーム内で共有する難しさというのも、また別にありそうですが。
熊谷
それもそうですし、概念自体は共有できていても実際起こされたテキストには好みがありますし。ただ、「このキャラクターはこういうセリフしゃべらないよ」って意見が分かれたりするんですけど、その議論が起きること自体が大事かなと思います。
橋本
議論が止まってしまうのが一番怖いですよね。
熊谷
時々チャットワークが炎上するんですよ。ダーッて流れてきて、おっと何が起きているんだ? みたいな(笑)。
橋本
朝起きたら、100件とか出ていて「え?」って(笑)。
池和田
それだけ盛んに議論が行われているんですね。
池和田
前作『セツナ』のときはリモートワークが基本としてあったと伺いましたが、今作でも同様なのでしょうか。
橋本
リモートワークは採用しているんですけど、やり方をちょっと変えた部分はあります。すごく雑に言うと、『セツナ』のときは本当に「自由」だったんです(笑)。でも今回は拠点を作りました。大きい拠点が二つあって、一つは外部の開発会社さんで、もう一つが弊社のオフィス。
池和田
『セツナ』のときはそういう拠点がなかったんですか?
橋本
一応あったんですけど、あれは拠点と言ってはいけないですね(笑)。
熊谷
せいぜい10人入れるくらいの、大きめの家というか…。いまのオフィスは最大で20~25人ぐらいは入れる場所になっていて、そこである程度集まってやるようになりました。
橋本
フレキシブルさは保ちつつ、何かあったときはちゃんと連絡をとって集まる、というような形ですね。企画がデータを打っているときも結局、誰かに確認しないといけないことが出てくるので、あまり自由すぎると逆に非効率だったりしますし。人数がもう少し減ればアリかなとは思いますが。
熊谷
他にも『セツナ』での反省から今回、データ管理の仕方を変えました。SVNを使っているんですけど、それぞれがプロジェクトをローカルに落としていろいろな所に保存していたんです。なので、ファイルをやり取りするときのパスがバラバラでその確認から始まってしまい、時間が無駄になっていたんですね。今回は必ず同じ開発環境になるようなツールを作って、それを叩いてから作業を始めてもらうことにしました。
橋本
あとやっぱり、リモートワークはやっている側のリテラシーが必要だなというのはこの2作をやってきて思います。長くやっていく中で、少しずつ最適化はしてきていると思うんですけど。
熊谷
相手は見えていないんだという前提でちゃんと情報を上げないと、混乱しちゃうんですよね。まずはやはり、発注書を丁寧に作っておく。じゃないと、アウトプットされたときに違うものになっていたということが起きやすいと思います。
橋本
余裕がないなら、ないなりのケアの仕方をする、あとはやっぱり、最後は会って話して押さえるところは押さえる、というのは大事です。「こういうふうにしとけばいいんでしょ?」みたいな感覚でやると、事故が起きるのかなと。
池和田
リモートワークはファンタジーな世界観を打ち出す上でネックになる気がしたんですが、『ロストスフィア』の場合はUIやエフェクトも含めて完全に統一された世界観がありますよね。アートディレクションが本当に素晴らしいというか。
熊谷
それはもう、アートディレクターがわがままな人なのでね。こうしたいああしたいと(笑)。
橋本
突っ走りましたからね(笑)。そのアートディレクターの個性が全力で出ています。
熊谷
思いを貫いたので、彼もある意味やりきったと思っているんじゃないですかね。今回の作品も。
池和田
海外版がローンチされるのはいつでしょうか。
熊谷
来年の1月23日ですね。英語、フランス語、ドイツ語を配信する予定です。これは今日本で展開している分にも全部パッチで追加されて、全世界で同じ物が動くようにしようと思っています。Steamでも同じ日に、同じ内容で展開予定です。
池和田
海外の反応も楽しみですね。僕、海外で『クロノトリガー』の人気ってものすごいんだなあと感じているんです。生涯ベストゲームだって人に3人会いましたから。
橋本
すごいですよね。話には聞いていたんですけど、向こうに行ったときの反応が相当良くてビックリしました。90年代のJRPGって好きな人は本当に好きなんだなと。
熊谷
特に弊社のゲームに興味を持ってくれる記者さんの多くは、90年代の日本のRPGが好きだった人たちです。仕事なんだけど半分趣味みたいなところがありますね。8月にゲームズコム(※ドイツのケルンで開催されるゲームイベント)とかPAX WEST(※アメリカのシアトルで開催されるゲームイベント)へ行ったんですけど、しっかり『セツナ』を遊んでいて、試遊台で『ロストスフィア』も遊んでくれて、システムの細部に踏み込んだ具体的な質問や感想をくれたり、わりとコアな話が多かったです。
橋本
熱量をすごく感じましたね。特にPAX WESTはコアゲーマー向けのイベントという印象なので、なおさらでした。
池和田
空気感もいいですよね、PAX WESTって。メジャーな作品とインディゲームの試遊台が隣り合わせになっていたりして。
橋本
そうですね。わりとギュッと入っている感じで広さも良い。コアなゲームからインディから、いわゆるボードゲームみたいなものもあったりとか。聞いたらチケットが5000円するらしくて、高いなと思ったんですけど。それでも4日間全部行く人も結構いらっしゃるらしいので、熱量の高さは本当に感じますよね。
池和田
ウェブサイトにDLCという項目がありますが、どういった内容になるんですか?
熊谷
DLCというか、追加コンテンツパッチなんです。12月にまず1回、海外の発売日と合わせてもう1回という感じで、2回更新をしようと思っています。
橋本
第一弾の内容としては、アーティファクト(※マップ上の特定ポイントに任意で設置できるランドマーク。設置したアーティファクトの種類によって攻略に有利な特殊効果を発揮する)や武器・防具の追加ですね。それから追加のプロシージャルダンジョンがあって、限定アイテムや新規の武器が手に入ります。その武器にはそれぞれ特殊効果が付与されているので、良い効果を探して自分の好きな武器に継承したりもできます。
第二弾がバトルの早送りや難易度変更、イベント早送りの速度変更など、遊びやすさを向上する要素の追加ですね。また、アーティファクトの追加も予定しています。過去のボスと闘うような要素もあって、そこが本当のエンドコンテンツになります。
池和田
レベルの上げ甲斐がある要素が追加されていくんですね。最後に次回作についてお伺いしてもよろしいでしょうか。
熊谷
いま企画を考えていて、これから賛同される方を集める、そういうフェーズです。もうちょっと後だと何か言えたかもしれないんですけど、本当に何も決まってないんです。
橋本
実現できるかどうかは別として、VRをやりたいってずっと言っていますね。
熊谷
VRで、ミニチュアで動いているRPGを見れたら可愛いかなって。テーブル上を覗き込むようなアングルで遊べると面白いと思ったんです。ただ、それで20時間30時間プレイしてくれるかって言ったら別で。
橋本
発狂するよね(笑)。でも1時間遊ぶなら、ちょっとやってみたい気はするけどね。そんな話は、妄想レベルではしていますけども…っていう感じですね。
熊谷
またUnityエンジンを使わせていただく場合は、新しいことに挑戦してみたいと思っています。色々やってみたいことはあるんですよ。
池和田
では、期待して待っています。本日はありがとうございました!
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池和田 有輔
フリーランスとしてWEB制作・広告制作のキャリアを経て、2013年からRépublique開発チーム(Camouflaj, LLC.)に参加。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社に入社後はエバンジェリストとしてUnityの伝道活動に携わってます。