リトルプラネット: 次世代型テーマパーク

次世代型テーマパーク「リトルプラネット」開発・運営のヒミツと秘訣

お台場、横浜、新三郷、松戸、大宮、福岡と全国規模で展開されている「リトルプラネット」。インタラクティブなデジタルアトラクションを中心に据えた子ども向けの施設で、2018年7月の誕生からわずか1年足らずで六ヶ所の常設展示、各地での催事と大幅に事業を拡げている注目の存在だ。施設内にあるほぼ全てのアトラクションの開発にはUnityが使われている。今回はリトルプラネットを運営する株式会社プレースホルダのエンジニア・西尾純さんと、広報・横山友紀さんに話を聞いた。

ユーザーが気持ちよくなれる体験を創る

まず「リトルプラネット」を企画・制作・運営されている「プレースホルダ」という会社についてお教えください。

横山友紀(以下横山)

会社の創立は2016年9月です。代表の後藤(貴史)は大学時代にソーシャルゲームの会社を起業しており、プレースホルダは2度目の起業となります。後藤と同じように当社のメンバーにはソーシャルゲームの開発に携わってきた人間が多いので、そこで培ったものをテーマパーク作りにも生かしています。開発拠点は東京・五反田にあり、現在は社員が約40名、パークのナビゲーター(店舗スタッフ)を加えると計170名ほどの規模です。

西尾純(以下西尾)

その中で開発のコアになっているエンジニアは7名、デザイナーは2Dと3Dを合わせて6名ほどです。「リトルプラネット」のアトラクション開発は基本的にすべてUnityで行っています。センサーとの連携部分で一部C++で書くこともありますが、最終的なアウトプットは全部Unityですね。やはり前職でゲーム開発に携わっていた人間が多く、元々Unityでモバイル向けのプロダクトを作っていたので、Unityでやるのが一番早いだろうという判断になりました。

光と音のデジタルボールプール「ZABOOM」開発画面

光感受性に留意してエフェクトを調整している

「リトルプラネット」の構想はどうやって生まれたんでしょうか?

横山

もともと代表の後藤がテーマパークが好きだったんですが、前職に在籍していた頃にたまたまOculusを体験する機会があり、「VRでテーマパークをつくれば、ソフトウェアを更新することで施設もアップデートできる」と思いついたのがきっかけです。ただ、ヘッドマウントディスプレイの使用には年齢制限がある。そういう制約がある中で、どうやったらデジタルで子どもが楽しめるテーマパークが作れるかと試行錯誤していくうちに「リトルプラネット」が生まれました。

「SPRAY PAINTING」

オリジナルで製作したスプレー缶を使用。スプレーからは実際にインクは出ずに、壁やVR空間でラクガキができる。

西尾

その企画書をいろいろなデベロッパーさんにとにかく提案して回っていたんですよね。

横山

でも最初は、なかなか興味を持っていただけなかった。唯一興味を持ってくださったのが「ららぽーと」を運営する三井不動産さんでした。そこでまずは東京・立川市にあるららぽーとに期間限定で出店させていただいたところ非常に好評で、集客目標も達成出来たので、そこから本格的な常設パークの出店へと進んでいきました。その第一号が新三郷の「ららぽーと」で、2018年7月より営業しています。

創業から短い年月でここまで急速に、全国的に店舗を拡げていらっしゃるのはすごいですね。

横山

常設パークや催事イベントなどを展開しているうちに少しずつ認知されるようになり、現在ではいろいろなデベロッパーさんからお声がけを頂けるようになりました。

運営してみて初めてわかること

AR砂遊び「SAND PARTY!」(第11回キッズデザイン賞を受賞)

様々なコンテンツがありますが、どのように作っていったのでしょうか?

西尾

コンテンツを作ってみて、テストして、施設で運営しながらアップデートしていくというやり方です。最初に作ったアトラクションはスプレー缶をモチーフにしたデジタル落書き「SPRAY PAINTING」とAR砂遊び「SAND PARTY!」、展開図の塗り絵が力士になるデジタル紙相撲「PAPER RIKISHI」で、これらは現在も運営しています。

「SAND PARTY!」開発画面。ユーザーの動きをリアルタイムに反映させる

ただ「SAND PARTY!」は当時と今ではずいぶん仕様が異なります。当時はセンサーにKinectを使用していましたが、現在はRealSenseを使用しています。また、地形を映像へ反映する速度も当時は1秒おきだったのが、現在ではほぼリアルタイムになっています。

テライン/シェーダーグラフ

ラボでの実験

クオータービュー

深度マップ

短期間でこれだけのコンテンツを揃えるには、プログラムだけでなく”遊び”を創るセンスもデザインスキルも必要なので大変なことですよね。

西尾

我々はソフトウェアエンジニアですから、ソフトウェアを開発する事はできる。でも実際に運用をしてみると、お子さまの想定外の使い方に対応が求められるなど、「運用をしてみて初めてわかること」がすごく多いんですね。例えば「SPRAY PAINTING」では、スプレーガジェットに充電ケーブルがつながった状態のままだと、使用の際にひっぱられてすぐに壊れてしまう。そこでマグネット端子を使って充電できるようにすることで、引っ張られてもすぐにはずれてケーブルが故障しないようにしたりと、想定外のことへも色々対応してきました。

横山

アトラクションが完成したら、社内の開発ラボに社員のお子さんを呼んで、実際に体験をしてもらうテストをしています。子どもは素直なので、すぐ飽きてしまったりするのを目の当たりにして(笑)。

西尾

グサッと来ますよ(笑)。エンジニアとしてチャレンジブルな要素を入れても、子どもには関係ないですからね(笑)。

大人が「これは面白いと思ってもらえるだろう」というコンテンツを開発しても子どもの感性はまた違うと…

西尾

「SAND PARTY!」では水をシェーダーですごく綺麗に表現しても全く反応がなくて、シンプルに宝箱がチャリンと開く音にこだわる方が反応が良かったりするんです。エンジニア的な自己満足の表現部分と、実際に子どもが喜んでくれるコンテンツには、ちょっとベクトルの違いがありますね。

「PUZZLE DUNGEON」キューブパズルをモチーフにしたコンテンツ。条件整理と立体感覚を育むことを目的としている。

コンテンツのアップデートはどのようにされているんですか?これだけ複数の施設があると大変な作業になるのではないでしょうか?

西尾

お客様の反応や現場の声を聞いて、新しい演出をどんどん組み込んでいます。毎週何かしらのコンテンツにアップデートが入っているような状態ですね。開発速度の速さやコンテンツの入れ替え性の部分は、プレースホルダの強みですね。

その”スピードの速さ”はどうやって実現するものなのでしょうか?

西尾

エンジニアが一店舗ずつ回るのではなく、開発拠点にいながら遠隔でコンテンツをアップデートをする仕組みを整備しています。各パークから現場の声を日報で集約する社内システムを構築しているので、日々の改善をスピーディーに回すことができています。またスピードの速さで言うと、そもそもパーク作り自体を高速化させる取り組みも行っています。

BIMでの図面

西尾

社内に一級建築士がいるので、UnityとBIMを連携させて、プロジェクターの投影面が実際の施設でどのように見えるかなどをVR上でシミュレーションするなどの実験も行っています。

「遊び」は普遍的なもの

「PAPER RIKISHI」

多彩なコンテンツがありますが、それらを貫く「リトルプラネットらしさ」というものはどういう部分にあるのでしょうか?

横山

「リトルプラネット」のアトラクションの特徴は、アナログの要素を必ずどこかに残しているところです。砂場も、紙相撲も、塗り絵も、元になる遊び自体は昔からあったものですよね。あらゆる年齢の人が、詳しく説明をされなくてもどういうものかわかる。「遊び」自体はどんなにデジタルが発展しても普遍的ですから、アナログの要素を残しつつ、そこにデジタルの要素を加えるという”融合”を目指しています。

西尾

僕が考えているのは「大人数で体験できるものであること」、また、「いつ来て、いつやめても大丈夫」ということです。途中で抜けても成立するものを想定した上で、どういう体験が生み出せるのかを極力考えて作っています。「一人用の遊びだったらもっと出来ることがあるのに」と思ったりもするのですが、テーマパークである以上、あくまでも複数人で遊ぶアトラクションということを意識しています。

横山

遊び方を言語で説明する必要がほとんどないのも特徴ですね。ノンバーバルな遊びが多いので、外国の方にもスムーズに遊んで頂けています。

2019年9月25日・26日に東京・グランドニッコー東京 台場で行われる「Unite Tokyo 2019」には、「リトルプラネット」のコンテンツ「SAND PARTY!」が出展される。ぜひ会場で実際に体験してみてはいかがだろうか。詳細は「Unite Tokyo 2019」公式サイトにて。

リトルプラネット


企画・制作・運営:PLACEHOLDER, INC.
公式WEB:http://litpla.com/

齋藤 あきこ - 2019年9月20日