センス・オブ・ワンダー ナイト 2017レポート

2017年9月東京ゲームショウ2017で行われたインディゲームのイベント「Sense of Wonder Night 2017」(SOWN2017)をレポート。本イベントは今年で10年目となる恒例の人気イベント。事前に選考されたインディゲームの開発者がステージ上でプレゼンテーションを行い、観客がハンマーを振って投票。オーディエンスの反応が最も多かったゲームが優勝するというコンテストだ。

このイベントの特徴は、実験的な要素を持ったゲームやチャレンジングなアイデアが評価されること。プロトタイプ段階のデモや、ジャストアイディアで開発した思いつき勝負なゲームも対象となり、奇想天外であればあるほど評価される。昨年は1本のLED上で遊ぶ独創的な1次元ゲーム『Line Wobbler』がオーディエンス賞を受賞した。

「Line Wobbler」は、レバーを倒して自機を操作し、障害物をかわしてゴールへ導くゲームだ

では、今年の最終選考に残った8作品を順番に紹介しよう。

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イギリスのチームhumble groveによるゲーム。日本人のハナとイギリス人のトムによるプレゼンテーション。このゲームはマジックリアリズム(日常にあるものが日常にないものと融合した表現)によるアドベンチャーゲーム。自分たちが住んでいるアパートの部屋をゲームにするというアイデアから始まった。舞台はどこにでもあるような部屋、道路、建物など。ベッドや洋服などの身近なものをクリックすると、キャラクターの心境について知ることができる。部屋を回転させてアイテムを見つけたり、キャラがどういうところに住んでいたのかを知るゲームだ。これは舞台における「黒子」がセットを動かすことにヒントを受けているという。

またこのゲームでは、社会的なテーマにも触れている。精神病というものへの理解を深めたり、”彼”や”彼女”という二元的な考え方を変えていきたいという。時代の変化とともに、若者が普通の人生を普通に歩むことが困難になっており、その苦しみを伝えていきたいというメッセージが込められている。

Blink

nextReality Gamesのライアン・スライによるプレゼンテーション。『Blink』とは目の中に残るふわふわした光の残像のこと。目を開いた状態の光の世界と、まぶたを閉じたときの影の世界の2つの世界を行き来しながらパズルを解いていくアクションゲームだ。光の残像に飛び乗ったり、光の橋をわたったり、残像の上を飛んだり、目を閉じた時だけ追いかけてくる敵を避けたりとオリジナリティある仕掛けが特長。「最初はBlinkという仕組みをどう使えばよいのかわからなかったけど、だんだんわかってきた」と語る。パズルは100種類が用意されている。Steamにて提供中。

OLD MANS JOURNEY

オーストリアの開発チームBroken Rulesによるゲーム『OLD MANS JOURNEY』。パズルをベースにしたストーリーゲーム。手紙を受け取った老人を導き、彼の人生をにおける重要な転換期の思い出をなぞりながら風景を作っていく。2つの丘が交差するところで、奥行きを無視してひとつ奥の丘に飛び乗るなどのだまし絵的な仕掛けが面白い。人生における愛や家族などをテーマとしたこのゲームを開発したきっかけは、チームのメンバーたちに子どもが生まれ、家族、キャリア、夢の追求のバランスを図るということがテーマになったことから。「愛するものから許しを求めるのに遅すぎることはない。愛は永遠だから」というメッセージが会場に感動を与えていた。Steam、iOS、andoroidなどで配信中。

シュココーココ

大阪発、みやざわたかひろ氏が開発するシャンプーボトルがコントローラーになるゲーム『シュココーココ』。最大4人でプレイ可能。最大の特徴はコントローラーがソープボトルであることで、ボトルを傾けた方向に鳥が飛び、ポンプを押すとビームが出る。ボトルの中に傾きセンサーを入れ、ポンプを押したデータはスライダー取得。「VRはゲームの中に入るが、こっちはキャラクターが出てくる。いわゆるリバースVR」と語る。

Strange Telephone

HZ3 Softwareのゲーム『Strange Telephone』。既にリリースされ、斬新な構成が話題になっているゲームだ。「小さい頃に奇妙な電話番号が噂になったことをモチーフに作った」という。内容はピクセルアートを使った2D横スクロールのアドベンチャーゲーム。入力した電話番号に応じてワールドが自動生成され、アイテムを見つけて謎を解き脱出に必要な鍵を見つける。生成される世界の種類は数百万にも及ぶ。どの端末でプレイしても、同じ番号にかければ同じ世界が生成されるようになっているので、口コミで「あの番号にかけるとこんな世界がある」と広がることも狙っている。iOSなどで配信中。

EARTH DEFENSE SATELLITE

ニカイドウレンジ開発のゲーム『EARTH DEFENSE SATELLITE』。主人公は地球。ビームを撃ってくるエイリアンから地球を守るために、地球自体を動かすことで衛星の月を振り回して戦う、かなり新しいシューティングゲーム。構想0.1秒、制作3ヶ月。「ガイア理論によると”地球は巨大な生命体”だから、地球が戦ってもおかしくない」と語る。地球と月の動き両方に気を付けて操作しなくてはならないので、見た目よりもかなり難しいゲームだ。デモではニカイドウ氏が華麗にクリアして会場を魅了した。

Conga Master

スペイン・バルセロナのUndercodersが開発したゲーム『Conga Master』。コンガ・ラインと言われる、前の人の肩や腰に両手をおいて列になるダンスのゲームだ。パーティ会場で踊ってくれそうな人を選んで近づき、なるべく長い列を作るのがゲームの目的。このゲームの制作のためにあらゆるコンガ・ラインのパーティに参加した開発チームは、うんざりするほどのコンガ・ラインの経験を積んだそうだ。ゲームには4種類、33のキャラクターがおり、それぞれのダンススタイルがある。豚や滑る床、エイリアンなどの妨害に負けず、できるだけ長いコンガ・ラインを作るのが目標だ。この後のパーティでも、ゲームにちなんだコンガ・ラインが生まれていた。ゲームはSteamにて配信中。

ACE OF SEAFOOD

最後はmadewithunityでもご紹介した大貫真史氏開発の『ACE OF SEAFOOD』。「小さいものが大きいものに勝ててこそ娯楽」と語る大貫氏。主人公のエースというロボットがビームで巨大な敵を撃つ日本のアニメにインスパイアされ、小さい魚でもビームがあれば大きな魚と戦うことができるというこのゲームを制作した。生存戦略、希釈効果、自切など生き物の生態をゲームに取り入れている。開発には3,4年を要した。

優勝は「ACE OF SEAFOOD」

いずれも個性派のゲームが揃ったSOWN2017。本イベント最高の栄誉であるオーディエンス賞には、『ACE OF SEAFOOD』が選ばれた。ちなみに日本のゲームがオーディエンスアワードを受賞したのは、長いSOWNの中でも初だそう。他の受賞作品は下記のとおり。

ベストエクスペリメンタルゲーム賞:Strange Telephone
ベストテクノロジカルゲーム賞:ACE OF SEAFOOD
ベストゲームデザインアワード:Conga Master
ベストアーツアワード:OLD MANS JOURNEY
ベストプレゼンテーション:EARTH DEFENSE SATELLITE
齋藤 あきこ - 2017年10月4日