オーストラリア・メルボルンのスタジオ、Studio Mountainsが制作したゲーム「Florence」は、iOSとAndroidでリリースされた、インタラクティブなストーリーゲームだ。現代社会に生きる25歳の女性、Florence Yeohのリアルなライフスタイルが、ギミックたっぷりのビジュアル・コミックのスタイルで語られる。インタラクティブなパズルやインターフェースを駆使し、都会に暮らす等身大の女性像を、現代的な表現で切り取っているのが新鮮だ。タップやスワイプだけの簡単な操作で進めることができ、普段ゲームをプレイしない層にも訴えかける、普遍的な魅力を持つゲームである。
ストーリーの主人公は、都会に住み、平凡な仕事を淡々とこなす日常を過ごす25歳の女性、Florence。彼女はある日、公園でチェリストのKrishに出会い、恋に落ちる。Krishとの恋は順調に発展していき、彼の夢を応援するFlorenceだが、実はFlorence自身にも幼い頃から諦めきれない夢があった…。
リードデザイナーのKen Wongは、名作ゲーム「Monument Valley」を手がけたクリエイター。Appleがすぐれたデザインのアプリを表彰する「 Apple Design Award 2018」にも選出された本作品について、Studio Mountainsのプログラマ、Sam Crispが答えてくれた。
インタビュー・翻訳: 齋藤 あきこ
Sam Crisp
メルボルンのロイヤルメルボルン工科大学を卒業後Mountainsにジョイン。オーストラリアの「Freeplay Independent Games Festival in 2015.」にてベスト・ビジュアル・アート賞を受賞したスタジオ「Movement Study 1」所属のプログラマー。
斎藤
まず、「Florence」が作られることになったきっかけを教えてください。
Sam
まず、「スマホとタブレットにおけるタッチ・インプットで何か新しいことをしよう」ということからプロジェクトを始めました。スマホとタブレットという市場には、普段はゲームをしないという大勢の人にも、パーソナルでエモーショナルな体験をしてもらえる大きなポテンシャルがあると考えていたからです。
わたしたちのアイデアのひとつは、一連のジグソーパズルを解く過程で、バラバラになったイメージやメタファーが一つになるということを通して、ストーリーを伝えることでした。わたしたちは、オーディエンスがゲームを通して何か個人的なストーリーを感じることで、エモーショナルな繋がりを感じてほしかったんです。
そしてすぐに、ラブストーリーを作るべきだと気づきました。愛がいかに人を高揚させたり、突き落としたり、それらのすべてを超えて人生を変えるのか、といったことについてのお話です。わたしたちはみんなロマンスが好きですよね。映画でも、本でも、テレビでも、あらゆるフォーマットでロマンスが語られています。わたしたちは、その体験を新しいフォーマットに持ち込んでみようと思ったんです。
斎藤
製作にはどれくらいの時間がかかりましたか?
Sam
2年間かかりました。
斎藤
制作のチームはどうやって作られたんですか?
Sam
Ken WongはStudio Mountainsのクリエイティブ・ディレクターです。Kenはustwo gamesで働いた後、ロンドンから故郷のオーストラリアに戻り、自分のスタジオを立ち上げました。メルボルンはゲームスタジオを作るのにすごく向いている街なんですよ。多様性があって、才能のあるゲームクリエイターがたくさんいます。KenがMountainsで常に目指しているのは、”まず人ありき”ということ。良いチームを作ることにすごくフォーカスしているんです。Kenのアーティストとのしての姿勢に賛同して、Tin Man GamesでたくさんのゲームをプロデュースしてきたKamina Vincent、Cupheadのリード・デベロッパーであるTony Coculuzzi、そしてRMIT Universityを卒業したプログラマーの僕がMountainsに入りました。
斎藤
美しいデザインとインタラクティブなシステム、エモーショナルなストーリーとトリックなど、複合的な要素から作られているゲームですが、それらの要素をどうやって一つにしたのでしょうか?
Sam
正しい結果に至るまでに、たくさんのトライアル・アンド・エラーを繰り返しました。わたしたちはミニゲームやメタファーに関するたくさんのアイデアを思いついたんです。すぐに良い結果に結びつくアイデアもありました。でも時には、わたしたちが「すごい!」と思ったアイデアでも、プレイヤーに遊んでもらう段階では上手くいかず、また最初のドローイング・ボードの段階に戻らざるを得ないこともありました。初期の段階では幅広いストーリーのプランがありましたが、ゲームの様々な仕掛けに沿ってストーリーを付け加えたり、外したりといった調整をずっと行っていたんです。
斎藤
デザインが最初だったんですか?それともストーリーが最初だったんですか?
Sam
そのどちらもです! わたしたちが伝えたいストーリーがあり、またわたしたちが信じるデザインの哲学がありました。そのどちらも入れ込めるように、ストーリーとデザインが出会う中間点をずっと模索して、作り続けていました。
斎藤
なぜUnityが使われたのでしょうか?
Sam
Unityはチームの全員が使ったことがあったので、良いチョイスでした。わたしたちが一緒にゲームを作るのは初めてのことでしたが、Unityのゲームを作ったことがあるという点においては共通点があったんです。Unityはプロジェクトの最初からわたしたちが目指していた、複数のデバイスでのモバイル・プラットフォームの開発が簡単だったことが大きなメリットでした。なぜならわたしたちのゲームはたくさんのミニゲームがありますから! そのうち、ゲームには採用されなかったものもたくさんあります。そうしたアイデアがたくさんあったので、プロトタイプを作って即座に何度も反復するという作業が必要だったんです。プログラムに関する僕からのアドバイスは、自分のコードにあまり執着するなということ。ものごとを放り投げて最初からまた作りなおせば、アイデアをすぐに変更することができます。
斎藤
制作で最も難しかったところは?
Sam
「いまわたしたちが何を作っているのか」を見つけ出して理解することが最も難しいところでした。このゲームの開発にあたっては、主人公のFlorenceが行き着く先を理解するためのたくさんのフェーズがありました。彼女の仕事は何なのか、ストーリーで語るべきところはどこで、イマジネーションのために残しておくところはどこなのか?そしてFlorenceの物語が、どういった結末に行き着くべきなのか。それらの決断は、ゲーム性においても、ストーリーでも、アート性においても正しい結末に行き着くために、等しく行われました。このゲームでは、ストーリーはビジュアルで語られるもので、あまり言葉を使っていません。それは、わたしたちがとにかくビジュアルで伝えるということにこだわっていたからなんです!ストーリーのプロットのディテールをニュアンスたっぷりになりすぎず、テクニカルに頼りすぎず伝えるというのはすごく難しいことでした。
斎藤
新作の予定はありますか?
Sam
いま取り組んでいるところです。もうすぐお伝えすることが出来ると思います!
齋藤 あきこ
ライター・編集者として雑誌やWeb媒体にてテクノロジー・アートに関する記事を多数寄稿するほか、企業PR、コーディネーター、翻訳など幅広い活動を行う。2017年よりMade with Unityに編集者/ライターとして参加。編著書に「Beyond Interaction[改訂第2版]」ほか。
忽然と姿を消した親友を探す為、奇妙な島「追憶島」を進む少女“J.J.”。その島は重傷を負い、不自由な身体になっても死ぬことができない…