前作にあたるPixelJunk Monsters はタワーディフェンスゲームの楽しさが詰まったゲームだった。
戦略を立てて迫りくる敵の襲来を撃退し拠点を死守するといったおなじみの要素に加え、操作できるキャラクター「ティキマン」がプレイに奥深さを与えており、当時ブームとなりつつあったこのジャンルの中でもひときわ印象的な作品だった。初めて体験したタワーディフェンスがMonstersだったという方も、おそらく少なくないだろう。
そのファーストリリースから10年の歳月を経て登場したのが今作『PixelJunk Monsters 2』である。前作をプレイした人であれば、まずはそのグラフィックの進化に目を奪われるはずだ。多数のプラットフォームでリリースされた本作は、ローカルマルチプレイやオンラインでの協力プレイを始めとする新しいフィーチャーもあり、誰でも楽しめる作品に仕上がっている。
開発を務めたのは京都の名門スタジオ、キュー・ゲームスだ。今回はディレクションを務めた前田さんと、リードアーティストの藤井さんに話を伺った。
インタビュー: 池和田 有輔
前田 和志
20年以上のキャリアを持つゲームデザイナー。キュー・ゲームスでは『スターフォックス64 3D』など11本の任天堂タイトルのディレクションを務めた。コンセプト立案からゲームデザイン、クライアント折衝と、様々な業務に携わっている。
藤井 貴裕
大阪のデザイン会社を経て「SIREN」シリーズにUIアーティストとして参加。その後リードUIアーティストとして、「メタルギア ライジング リベンジェンス」「VANQUISH(ヴァンキッシュ)」でUIデザインやインハウスツールの仕様策定、カットシーンUIの映像制作を担当。現在はキュー・ゲームスでリードアーティストを務めている。
池和田
今回のプロジェクトはどのように始まったのでしょうか。
前田
前作は世界累計で110万本売れるほどのヒットとなり、おかげさまで続編を望む声も多くあったんです。実際に何度か続編の製作が検討されましたが、人員の都合などでプロジェクトを開始することができませんでした。しかしながら2018年は10年目の節目の年ということで「今年中に出したいよね」という話になりまして。ありがたいことに『Monsters 2』に興味を持っていただいた制作会社さんがいくつかあり、そういった中でスパイク・チュンソフトと組むことでプロジェクトが具体的に走り出しました。
藤井
そのさらに前の段階では、実はVRを検討してました。Oculusが正式にリリースされる前、社内でちょっとしたVRブームがあり、僕も色々テストしてみたくてOculusの試作品を用意してもらったんです。その時にVRで『Monsters』を作ってみないかという話が持ち上がりました。
池和田
では、一番最初のプロトタイプはVRバージョンだったんですね。
藤井
そうですね。パブリッシャーさんとの話し合いの末、「マルチプラットフォームでいきましょう」ということになり、VR版の話は立ち消えてしまいました。やはり様々なプラットフォーム+VRというのは辛いので。ノーマルマップどうしようとか、いろいろ検証してはいたんですが。
前田
今回ビハインドビュー(3人称視点)に切り替えられるのは、実はVR版の名残なんです。ビジュアルを楽しんでいただくようなものとして残ったという感じですね。
池和田
そういう経緯があったんですね。あのモードは謎だったのでとても腑に落ちました。個人的にはタワー建設中や踊ってる間とか、ちょっと手が空いたら視点を切り替えたりして、わりと愛用してる機能なんです(笑)。
藤井
引きだけの絵だとプレスリリースのスクリーンショットやトレイラーの絵作りがちょっと寂しいんですよね。そういう時にもビハインドの画像が役立ちます。ちゃんと実機に入っている機能ですから(笑)。
池和田
前作と比べると、グラフィックは本当にガラッと変わりましたよね。
藤井
前作は描いた人の趣味や個性が全開で、僕としてもちょっと衝撃でした(笑)。いわゆる作り込んだアートとかでは全くなかったはずなんですが、10年も経つとやはりファンの方々にも思い出補正が生まれるんです。「これじゃない」「前作はもっともっとスゴかったぞ!」みたいなことを言われてしまうんです。いやいや…と(笑)。
池和田
きっと変わり過ぎちゃったってことですよね。
藤井
「ティキマンはもっと可愛いぞ」って(笑)。
前田
今回のティキマンは異様に恐ろしいと言われましたね(笑)。でも、当時のまま3Dモデル化するとお面だけが浮いてしまうんです。なので後ろに少しモデルを足したりとかはしていますね。
池和田
今回のようなクレイアニメーション風のルックを作るうえで、留意した点などはありますか?
藤井
基本的な制作フローとして、現実世界で小道具を作る場合は何で作るか?と仮定して進めました。粘土がベースの素材もあれば、プラスチック、金属など様々なマテリアルが存在するので、それを考えて作るわけですね。
池和田
ディティールまで非常に作り込まれていると感じました。
藤井
確かに他のゲームに比べて、『Monsters 2』はリッチに作ってますね。普通の小さいモンスターも2048×2048 pixelとかありえないサイズで作っています。それで大論争になるんですけど(笑)。まあゲームのサイズが小さいし、4Kも見越したうえで、そこに集中して投資しているという感じです。
前田
後方視点でまじまじと見るから執拗になっているところはありますね(笑)。
池和田
ジオラマ風という意味では『The Tomorrow Children』に結構近いかなと僕は思ったんですけど。そのあたりのノウハウも生きているのでしょうか。
藤井
『The Tomorrow Children』のキャラクターアーティストと、今回の『Monsters 2』のキャラクターアーティストは同じ人なので、同じような世界感が保たれているんじゃないかなと僕は思います。
ただ、『The Tomorrow Children』は動的なGIシステムを採用しているので事前計算するEnlightenとはアプローチ自体は異なります。細かい色の変化よりも大きな変化の方がGIの恩恵をうけやすいので、フィールドに使用しているテクスチャの色の構成は意図的にリアルなものでは無くシンプルな構成にしていることなど絵的なノウハウの一部が引き継がれている、という感じですかね。
池和田
世界観的には「ピンポンパン」や「テレタビーズ」のような、子ども向け番組をイメージしていたと伺いました。
藤井
そうですね。難しい漢字を使っている時点で子ども向けではないし、純粋な意味での子供向けではなく「子供向け風」といった感じはあります。手作り感みたいなものがあり、演出などもそれに寄せてます。例えばメニュー画面などのUIは子ども番組でやる「おたよりコーナー」みたいな、そういう感じをイメージしてます。
池和田
「子供向け風」というのはとても伝わります。ちょっとしたパロディー要素も含んだ感じですね。
藤井
その上で、世界観をもう少し今風にというか、受けを良くすることも考えています。実は当初「UIとか含めて全て3Dで全部やろうか」なんて話になり、実際テストもしていました。最終的には担当アーティストのスキルセットと、全体的な工数との兼ね合いでそういうふうにはならなかったんですが、思いは残しているみたいな感じですね。
池和田
お話を聞いてると、藤井さんはゲームアートに関わる仕様の策定、方向性や品質の確認なども担当されているという意味で、リードアーティストというよりもアートディレクターに近い印象を受けました。
藤井
たしかにその表現に近いのかも知れませんが、弊社では「アートディレクター」という言い方はしないんですよね。アート面も含めてすべてのゲームを統括しているのはエグゼクティブディレクターのディランになります。
池和田
では実際にディランさんによるアートディレクションというのもあったのでしょうか。
藤井
常にプロジェクトに張り付いているわけじゃないんですけど、社内SNSを使って、進捗状況を把握しているので、「こういうのがいいんじゃないかな」「ああいうのがいいんじゃないのかな」という提案はあります。具体的な話で言うと、試作中のものについて彼から「スタジオ撮影されたとわかるようなライティングにして欲しい」とリクエストがあり、この時点でアートの完全な方針が決まりました。
池和田
スタジオ風のライティング、ですか…。正直、あんまりピンと来ないんですけど、具体的にはどういうことなんでしょう?
藤井
解釈が難しいんです(笑)。きかんしゃトーマスとかウォレスとグルミットの画像を挙げて「これやで」って。例えばKUBOのように最先端のストップモーションアニメを作るようなスタジオでは、きちっとした画像処理がされるんでしょうけど。小さいスタジオで撮っているとそれが少しチープな感じ、良く言えばハンドメイキングなライティングになりますよね。ようするに「生っぽいもの」っていう解釈ですね。
例えば「暖色系のライティングやで」って言うので、暖色系のライトにしてみたり‥。もちろんステージがいろいろ変わるので暖色系のライトではまとめられないんですけど、そういうフィールドの実験とかをすると途中からだんだんわかってくるんですよね、絵づくりが。テクスチャもリアルなのがちょっと合わなくなってきたりしますし。
池和田
ああ、例えば Skyboxも自然界にはないようなキツ目の水色のベタ塗りをあえて使ってみる、みたいな?
藤井
そうです。チープなスタジオで撮るのだったら、まあ一色でしょうと。一色で置いてVignette処理入れたら何となくグラデーションつくからそれでいいんじゃない?っていうような感じですね。あれを多分、きちっと手でこう‥水彩画で描いたようなSkyboxとかをちゃんと作ると、だんだんリッチになってしまいますよね。チャチくするんだったらそっちでいいんじゃないの?っていう。
池和田
そのあたりに試行錯誤があったんですね。ちなみにキャラクターの大きさ自体はどれぐらいでできているんですか?
藤井
30センチか60センチの、ちょっと忘れちゃいましたけど、それぐらいの大きめの人形でやりました。
さっきも言いましたが、ストップモーションアニメのKUBOなどのメイキングを見たら、意外とデカく作っていたんですよね。「じゃああれは、これぐらいちゃうか?」っていう感じで決めました。他にも参考としたものはあったんですが。
池和田
今回、Unity採用のきっかけは「VRコンテンツを作るものとして」という意味合いが強かったのでしょうか。
前田
それはありますね。実際に触れてみるまで不安もありましたが、ディランもこのプロジェクトでUnityのイテレーションの速さを気に入って、「Unityならすぐできるね」という話をいろいろなチームにするようになりました。
藤井
やっぱりUnityは民主化されているところがすごいやりやすいなって思います。『The Tomorrow Children』では少人数で独自のエンジンや独自のエディタで作っていましたが、正直足らないところが多かったんです。「ちょっとこういうのが欲しい」と言っても、それに対してプログラマが動かなきゃいけない。そこがUnityだったらゲームデザイナーでもある程度スクリプト書ける人だったら機能拡張できる。それにインターネットで調べれば知りたいことの断片情報くらいは出てくるんですよ。「これやらないほうがいいか」みたいな判断が簡単にできるので助かりました。
池和田
現在のようなググればだいたい見つかる状況はユーザーの皆さんのおかげなので、本当にありがたいと思っています。
藤井
それからUnityは “むき身な状態” がいいですね。最初、何もない状態で、足していったら足していった分だけ応えてくれるじゃないですか。なんやよくわからないけどポンと置くと「きれいでしょ」みたいなやつとかもありますが、それは最初にその設定をした人がいて、その手の中で踊ってるだけだなって思っちゃうんです。外して欲しいぐらいなんですけど、余計なのを。
池和田
外すよりも付け足す方が楽ではありますよね。依存関係が気になって外しにくい、みたいな状況もあるわけで。
藤井
何もないからこそ、足すと「よし。これいける」ってなりますよね。『Monsters 2』のグラフィックはジオラマ的で、ちょっと特徴的に見えるかもしれませんが、だいたいベーシックなことしかやってないですから。ちょっと特殊なShader欲しいなって思っても、Shader Forgeで作っちゃって「こういうのどうですか?」ってプログラマに言って、最適化してもらうくらいです。
池和田
タワーディフェンスの魅力って、その時々で何をすべきか判断したり駆け引きを行うことだと思うんですけど、『Monsters』シリーズのように操作キャラクターがいることでまた新しい駆け引きが生まれると思うんですね。今は建設すべきか、コインを回収するべきか、あるいは踊って施設をレベルアップしたほうがいいのか、みたいな。
前田
一般的なタワーディフェンスでは予算がなくて新しいものが建てられないとか、早めに敵Waveを全滅させてしまったとか、プレイヤー的にどうしても暇な時間というのが生まれるんですけど、実際にキャラクターを置くと、そういった時間が生まれにくくなります。さらにリソースも自分で回収しに行く必要もある。そういう駆け引きは作っていくうちに自然とどんどん出て来ましたね。
藤井
本当はジャンプ自体をもうちょっと低いジャンプにして、高いところはよじ登るような形も検討してたんです。つまりよじ登って時間を使うか、遠いけど走っていくかみたいな。結局はジャンプが今の仕様になり、そこの駆け引きは入れなかったんですけど。
池和田
なるほど。レベルデザインによる駆け引き、ということであれば「ジャンプすればショートカットできるけど、落ちて戻されちゃうリスクもある」というステージなどは今作にありますよね。
前田
そうですね。ただ、アクション要素が強すぎるとまた別の難しさも出てしまうので、ルート取りをどうするかぐらいに留めた今の形に落ち着きました。
ちなみにステージの作り直しが入ると工数的な意味で致命的になったりしますが、その点についてはProBuilderがとても助かりました。先にProBuilderでステージを作ってしまい、ある程度プレイできるようになっているので、テスト済みのデータからデザイナーが本チャンのものを作る。そのおかげで作り直しは比較的少なくて済んだと思います。
池和田
協力プレイは今回のキーとなるフィーチャーの一つだと思うのですが、ローカルだと1画面で行う形になりますよね?
藤井
実のところ、当初評判はあまり良くありませんでした。マップが広いので1Pが2Pから離れてしまうとスクロールが発生し、2Pが画面から消えてリスポーンしてしまっていたんです。この仕様が大不評という。
前田
今回、ネットワークのマルチプレイというのが開発当初からありましたので、4人まで対応させることでかなりワイワイガヤガヤできるよう、結構力を入れて作っていたんです。でもローカルマルチについてはとりあえずSwitchのおすそわけで遊べるよう必要最低限のものにしました。でも思ったよりもSwitchでの人気が高く、おすそわけプレイする人も予想以上に多かったんですよね。
池和田
それは嬉しい悲鳴ということでもありますよね。
前田
なので対応するパッチを作りました。現在は二人が離れるとカメラが引いていくような形になり、遊びやくくなっています。その流れで、シングルプレイでも画面をズームアウトして遊べるようになっています。また、ユーザーさんからリクエストの多かったオンラインマルチプレイとローカルマルチプレイのランキングボードを新設したり、マッチングをしやすくする機能を追加したりしています。
さらに目玉として、ご購入していただいたユーザーさんがより長く遊べるようなコンテンツとして「WEEKLY STAGE」が追加されます。こちらは毎週内容が変化するステージが解放され、みんなでランキングを競うことを楽しんでいただけます。(ランクに関係なく)ステージをクリアすると、今、増やしているお面やこうらのがもらえるので、ぜひ遊んでいただきたいと思います。
池和田
シーズンパスを買えば遊べるようになるんですか?
藤井
いえ、誰でも遊べますよ。
池和田
それは楽しみですね。では『PixelJunk Monsters 2』の今後にも期待しています。本日はありがとうございました。
池和田 有輔
フリーランスとしてWEB制作・広告制作のキャリアを経て、2013年からRépublique開発チーム(Camouflaj, LLC.)に参加。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社に入社後はエバンジェリストとしてUnityの伝道活動に携わってます。