コアなゲーマーを唸らせ、ライトなゲーマーの興味を引くようなゲーム。そんなものが一生に一度でも作れたのなら開発者冥利に尽きると言えるだろう。本作『Time Locker』は、数少ない例の一つではないかと僕は考える。その得難い価値は果たしてどのように実現されたのか。開発者である大塚さんに話を伺った。
インタビュー: 池和田 有輔
sotaro otsuka
『TIME LOCKER』の作者。Best of Indie Stream Award 2016受賞。App Store iPhoneベストゲーム 2016 次点。
池和田
大塚さん、元々Flashを使われていたと聞きましたが、エンジニアとして? それともデザイナー?
otsuka
どちらかというとエンジニアです。元々デザインの専門学校出身だし、デザインすることもあったんですけど。
池和田
Flash使いって、どっちもやる人が多かったですよね。
otsuka
自然と両刀使いになってました。
池和田
『Time Locker』を初めてプレイした時、「この作者さん元々Flashやってたんだろうなあ」って思ったんです。特に演出面の小気味良さとか、そぎ落とし方とかね。Flash文化の匂いというか。DNAというか。
otsuka
感じましたか。
池和田
僕もそっちの人間だったんで。
otsuka
仕事でFlashサイトを作っていた頃、仕様やデザインがカッチリ決められていて企画には全く携わっていませんでした。でもデザイナーが考えたFlashサイトって矛盾が多く、それを回収する作業が本当にしんどかったんです。自分が工夫できる部分はアニメーションの気持ち良さとか演出ばかりで。それも意味のある演出じゃなくて、演出のための演出。
池和田
でも、それが今ゲームを作る上で生きている。
otsuka
そればかりだったんで上手くなったのかもしれません。その後Flashからは遠ざかりましたが、『クロッシーロード』をプレイした時、あの時代の雰囲気を強く感じたんです。ActionScript3.0が盛り上がっていた最後の方。ゴリゴリゲームという感じじゃなくて、「あ、すげぇ懐かしいこれ」って感じ。こういうのなら自分でもまともに作れるなって。
池和田
じゃあ前職はWeb制作系ですか?
otsuka
Web制作の次にIT企業で3年間ぐらいソーシャルゲームを作ってました。でもソーシャルゲームは自分に合っていないということを感じて。会社を辞めて『Time Locker』を作りました。
池和田
言い換えると『Time Locker』を作るために辞めた感じ?
otsuka
在職中にモックを作り始めたら、急激に会社の仕事が邪魔くさくなったんですね。
池和田
大丈夫? オブラートに包まなくて(笑)。
otsuka
大丈夫です。ちょうど自分のいたチームのゲームが解散ということになったし、じゃあもう辞めようと思って。僕は技術者としては二流、三流だし、常に新しい技術を追うタイプでもなく、先がないのが見えていたんです。会社員時代は活躍できずにずっと隅っこにいました。組織の中で能力を発揮できないタイプというのを痛感した3年間でした。
池和田
大塚さんのようなジェネラリックな能力は活きにくかった?
otsuka
僕の「ご本尊」はコンテンツです。技術じゃない。ゲームに限らず面白い良いものを作りたい。そのために仕方なく必要な技術を身につけてきたという感じです。プログラム組むのも絵を描くのもそんなに好きではないんです。面白いものを完成させるためのパーツだからなんとかやるんです。退屈だし、面倒だけど。
しかし、チームでもの作りをするときは当然ながら分業ですよね。それぞれの分野の専門家が集まって一つのゲームを完成させる。
チームの一員として制作に携わるときに、そのコンテンツの完成形が「つまらない」と思っているのにパーツを作る作業がものすごく苦痛なんです。
池和田
ゲームに限らず、もの作りって情熱が持てないと地獄ですよね、本当に。
otsuka
だから僕は辞めました。もうそうするしか選択肢がなかったという感じです。
池和田
かなり個性の強いゲームですが、アイデアはどこから?
otsuka
『SUPERHOT』と『Shooty Skies』ですね。この2つの影響はデカイです。『Shooty Skies』は『クロッシーロード』シリーズの第二弾です。出してる会社は違うんですけど同じデベロッパーの作品で、いわゆる見下ろし型シューティングです。
池和田
自分のゲームの元ネタを明かさない人は多いけど、大塚さんは大っぴらに公言してますよね。
otsuka
あからさまなので隠しようがないというか。
池和田
リスペクトがあるから言える、ということでもありますよね。
otsuka
それはもちろんそうです。『SUPERHOT』にはものすごい衝撃を受けたし、『Shooty Skies』はムチャクチャハマりました。
実は全然ゲーマーじゃないんですが。
池和田
あら、そうなんだ。
otsuka
恥ずかしながら中学以来ほとんどゲームをやっていなくて。この間久しぶりにゲーム機買いました。WiiUとPS4。
池和田
え、絶対Switchかと思ってたのに。
otsuka
最近といっても12月の終わりで、まだSwitch出てなかったので。でもゲーマーじゃなかったのが良いほうにはたらいている部分もあると思っています。ゴリゴリなゲーマーの開発者だと、スマホアプリとしてのゲームを作るという認識が抜け落ちていることが多い。ひたすら純粋に『ゲームとしていいもの』を作ろうとして、スマホの持ち味を活かせないというか。
池和田
インディゲームという言い方がありますけど、大塚さんご自身はどのように捉えてますか?
otsuka
インディゲーム・ディベロッパーって言うと聞こえは良いんですけど、僕はそんなにかっこいい者じゃなくて大量に存在するアプリ開発者の一人だという認識です。だから良いゲームを作りたいというよりは、良いゲームアプリを作りたい。それをしっかり自分に言い聞かせるようにしています。
池和田
それはどこが違うんでしょう?
otsuka
本来、スマートフォンはゲームをする機械じゃないです。電話、ブラウジング、それから生活のための道具じゃないですか。人間の生活がベースで、そっちが主体。そこにゲームを間借りさせてもらっているという考え方です。だから生活を侵してはいけないと思っているし、スマホ本来の使い方をスムーズにゲームに適応するべきだと思っているんですね。
例えばローグライク。ワンプレイが短い。場合によっては長くなったりしますけど、基本さらっと片手でできる。親指だけならなお良い‥‥というところですね。
池和田
なるほどね。生活環境に溶け込むものを作るという。
otsuka
そう考えたときに、仮想の十字スティックとかを置いてしまうと、入力・非入力というのが、On、Offじゃないですか。スライドさせたら進んでいって、放したら止まるみたいな。これって本来スマホにはない操作ですが、スクロールはスマホ操作の基本です。普通のゲームに用いたら指が疲れてしまうのでみんな普通やらないんですけど、『Time Locker』でやってみたら「時間を操る」という操作の部分にバッチリハマったんです。そこは偶然もあるんですけど、大きなポイントかなと思っています。
それから、ゲームプレイと同じ操作でアウトゲームのカスタマイズができるということはかなりこだわりました。
スタートラインの前でキャラを動かし、ガチャポンの前でガチャを回す。その辺りをボタンとかにはせず、極力シンプルにしてあります。僕はソーシャルゲーム開発で過剰な演出をずっと作ってきたので、とにかく直接的なことをやりたかったんですよ。
ソシャゲの場合「ガチャを回す」というボタンを押して、画面が変わって、パーティクルまみれの演出があって、「SSR」とかダーンと出てきて、ド派手なパンパカパーンみたいなの、すごく嫌だったんですよ。
池和田
それこそ、演出のための演出みたいなね。
otsuka
煽るためのものじゃなく、直接的な演出にしたかった。
おもちゃ屋にあるような本物のガチャポン、あれ、ガーっていっぱい並んでいると楽しいし、ワクワクする。僕は回さないけど。あれをそのままゲームに持ちこんでみたんですね。ダーッと並べて、本当に100円玉を入れて回すように気軽にやってほしくて。そのためにレートに対してコイン量は多くしてあります。
池和田
ガチャの演出、派手ではないけどすごく気持ちいいですよね、ガチョーン、ガチョーンという音も。
otsuka
そうですね。フリー素材がベースでも、そのまま使うのではなく編集したり加工したり、つなげたり離したりとか。あとは自分の口を使ったり。いろいろしてますね。
池和田
口? ボイスパーカッション的な?
otsuka
iPhoneのマイクで「パッ」って言ったやつを撮って、加工する。そういうのも一部で使っています。
池和田
いろんな試行錯誤があるんですね。
otsuka
Flash時代から音は大事だとよくわかっていたので、集めていたんですよね。何かしらフリー素材とか。その中で、自分で作ったりとかもして。だからそういうものの集合体ですね。
池和田
海外展開みたいなものって、最初から意識していましたか?
otsuka
はい。でも「外国でウケたい」というより単に絶対母数を大きくするという意味でです。というか日本ではウケないと思ってました。『クロッシーロード』型のカジュアルゲームは流行ってないので。
池和田
実際の売り上げは?
otsuka
日本が一番多いです。3分の1ぐらい占めていますね。売り上げでいったらもっとかも。ユーザー数だと30%ぐらい。
池和田
課金率も?
otsuka
すごく意外だったんですけど日本がダントツ、次いでアメリカ。次の中国と韓国は近い感じです。海外向けとしてはちょっと難しすぎたかな、というのは一つあります。
池和田
AppleのApp Storeフィーチャーというのは大きいんでしょうか?
otsuka
これはものすごいデカいです。最近のApp Storeのインディー特集20選にも入ったし、日本のAppleストアは気に入ってくれて推してくれるみたいです。でもアメリカはあんまりで。なんでなんだろうという。
池和田
難しいですね。
otsuka
売れるゲームって3タイプあると思うんです。プラットフォームに気に入ってもらって行くタイプと、本当にユーザーのつながりで広まっていくタイプと、有名人のおかげで広がるタイプ。
多分一番いいのはユーザー間のツテで自然に広がる仕掛けがあるもの。実際中身が良ければプラットフォームも取り上げてくれると思いますが。この二つを満たしているのはほとんどないけど、数少ない例外が『クロッシーロード』だったと思うんですよね。だからあれだけいったんですよね。普通はたいていどちらかなんですが。
池和田
次回作については?
otsuka
いくつか構想はありますが、具体的なものではないですね。
池和田
やはりお一人で?
otsuka
それが気楽で良いですね。
池和田
プラットフォームは?
otsuka
スマホでいきます。スマホが一番感覚がわかるから。
さんざん愚痴を言いましたが、会社でソシャゲを作ってきた3年間も大きな糧になっています。
池和田
積み上げたものがある、というわけですね。
otsuka
『Time Locker』でも他のハード移植を考えたこともあったんですが、結局やめました。例えばですけど、Switchというハードで作るんだったら僕は本当にSwitchだけのために作りたいんです。あのガジェットのために、あのシステムを生かしたものを。
複数ハードで出すと、どうしてもどちらかが劣化版になってしまう。
池和田
少なくとも「Switchならではの何か」が必要と。
otsuka
それを実現できなければ厳しいかなと思うんです。コンシューマーゲームのすっごい作り込んである大作がある中で、『Time Locker』はそれに対抗するためにスマホに依存した的な部分もある、というか逆にそういう強みしかない。だから成立しているゲームなんだと思います。大手がわかっていない部分、というのは言い過ぎかもしれませんが、気づきにくい部分に気づいているという自負はあるんです。
池和田 有輔
フリーランスとしてWEB制作・広告制作のキャリアを経て、2013年からRépublique開発チーム(Camouflaj, LLC.)に参加。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社に入社後はエバンジェリストとしてUnityの伝道活動に携わってます。