2019.07.23
歯ごたえのあるVRアドベンチャーを目指して
岸上健人、柏倉晴樹、千田翔太郎
東京クロノス
MyDearest株式会社

「Oculus Rift」が販売された2016年以降、VRコンテンツはユーザーが手を伸ばせば届くジャンルとなった。

日本国内でも大型店舗の特性を活かしたアトラクション型のVRコンテンツが多数登場。VRゲームの体験は比類ないものだという認識が広がっていく。

度々、VR元年がキーワードとして飛び出していたのもこの時期以降だった。ただし、アトラクション型のVRコンテンツはリッチな体験を提供できるものの、そもそも家庭で遊ぶにはハードルが高すぎる。

そういった市況の中で東京・台東区を拠点にするVRコンテンツ制作会社「MyDearest」が2019年5月にリリースした『東京クロノス』はターニングポイントとなる作品と言っても過言ではない仕上がりを見せていた。

立体視や「空間に入れる」ことを生かしたアトラクション系の作品が多い中、『東京クロノス』はさっそうと現れた。

ビジュアルノベルの王道であるクローズドサークルサスペンスを軸足に、「幼馴染が再び集う」という物語と、VRによる「プレイヤーの周りをキャラクターが囲う」という、これまでにない演出が見事に調和。クラウドファンディングによる盛り上がりもあり、発売後はVRゲームプレイヤーの話題を一気にさらった。

開発チームはどんな信念でこの作品に取り組んだのか。じっくりお話を聞いた。

※本インタビューは作品序盤のネタバレを含みます。

インタビュー: 一條 貴彰

プロフィール

岸上健人

MyDearest株式会社 CEO / 『東京クロノス』 総合プロデューサー。 COO・千田翔太郎とCMO・郡陽介と共に2016年MyDearestを起業。これまでにVRライトノベル、VRマンガを開発してきたオタク起業家。『東京クロノス』の企画立ち上げを行ない、本作の総合プロデューサーを務める。 Twitter:@tokimekishiken

プロフィール

柏倉晴樹

MyDearest株式会社所属。『東京クロノス』監督。 CGアニメーターとして数多くのアニメ作品に参画。2014年11月に公開されたアニメーション映画『楽園追放 -Expelled from Paradise-』ではモーション監督を務めた。『東京クロノス』では作品全体のクリエイティブディレクターとして、これまでに無いVR表現に挑戦している。 Twitter:@Akitsuki_dash

プロフィール

千田翔太郎

MyDearest株式会社 COO/『東京クロノス』宣伝プロデューサー。 CEO・岸上健人とCMO・郡陽介と共に2016年MyDearestを起業。『東京クロノス』では宣伝プロデューサーとして、クラウドファンディングを企画。約2000万円の資金を調達に成功した。オフライン、オンライン共にPRの全体統括を担っている。 Twitter:@shiiita13

まずは『東京クロノス』という作品について教えて下さい。

柏倉

『東京クロノス』は「物語がしっかりしたVR作品をやりたい」というコンセプトでスタートした作品です。これまでのVRコンテンツを俯瞰してみると、瞬間的なエクスペリエンスのものが多いと感じていました。そこで、ある意味で逆張りというか物語コンテンツで長大なものを作りたいなと。

そこで、『東京クロノス』は従来の動的でアトラクション的なものではなく、静的なVR作品を目指しましたね。

僕がMyDearestに参加する前、千田さんらが製作していた『Innocent Forest』はノベルや漫画をベースにしたVRコンテンツでしたよね?

千田

そうですね。柏倉監督がプロジェクトに参加する以前からキャラクターが複数登場するタイプのアドベンチャーゲームがVRで出ていないことを不思議に思っていたんです。没入感の高さがVRのウリ。絶対に相性が良いはずだし、日本のみならず、世界中のアドベンチャーゲームファンは待ち望んでいるはずだと…。じゃあ僕たちで作ろうぜという意気込みで製作をはじめました。開発がスタートしたのは、2017年でしたよね?

岸上

開発にかかった期間は、シナリオの構想から含めると、だいたい1年半くらいかな。僕が企画書を作って、2017年の10月から柏倉監督が監督に就任し、本格的に開発がスタートしました。

なるほど。『東京クロノス』における物語の世界観や作品の方向性はどのように決まっていったのですか?

柏倉

まず前提にあったのが、「現実の渋谷を舞台にする」ことです。そこから「クロノス世界」と呼ばれる閉鎖空間の設定や、登場人物8人の構想を練っていきました。

『東京クロノス』はって、スタッフや実現可能な機能などの条件面から作ったものではないんですよね。まず「こういう作品・物語がつくりたい」ということが一番強くあって実現した企画です。

岸上

そうですね。あと、「VRだからこその面白さ」はたくさんありますが、『東京クロノス』のストーリーは仮にVR作品ではなかったとしても面白いと自負しています。

確かに。シナリオについては、私も非常にのめり込みました。ミステリーものに慣れているプレイヤーも、まんまと乗せられる作りと言うか…。

岸上

私も自分が関わってなかったら、「ここはこういう意図の演出かな?」と疑ってかかる目線で遊んでいたと思います(笑)。ミステリー慣れしていると、疑ってシナリオを読んじゃうんですよね。叙述トリックだとか(笑)。

(一同笑)

分かります(笑)。ちなみに「Oculus Go」対応の作品としてリリースした経緯についても聞かせて下さい。

岸上

『東京クロノス』は、もともと「Steam VR(PCVR)」と「Gear VR」向けに作っていました。なるべく多くの人に遊んでもらいたいと色々考えていた時、ちょうど「Oculus Go」の情報が出てきたんですよ。そこで、「Oculus Go」で出そうと。

ところが「キャラクターを8体ぐらい出したい」という企画を同時に書いていまして(笑)。

千田

そうそう(笑)。

岸上

これまでのアドベンチャー系VRは、キャラクターと1対1で話すコンテンツがメインでした。また、従来のアドベンチャーゲームでも表示されるキャラは多くても3人でしたよね?その路線はすでにあるものだから、このままいくと勝てない、面白くないなって思ったんです。

なので、「Oculus Go」に対応しつつ、キャラは8人同時に出すという2つのチャレンジを同時に行いました。ここは、メインプログラマーを担当した下嶋さんの尽力で成り立っています。前例もないことなだけに改めて感謝ですね。
(『東京クロノス』のUnityを使った技術的トピックについては、STORYで紹介しています。)

VRとビジュアルノベルの融合

柏倉

本作はビジュアルノベルが基本であり、尺の大半は会話劇。ですので、「文字を読む」ところをいかに楽しくするかが重要だと考えていました。正直、会話部分の操作が楽しくないと、作品的にはもう負けになってしまう。息を吸うように自然に触れるインターフェースと操作を目指しました。

また、こだわったのは、キャラクターの会話劇のところで「囲まれている感じ」の演出ですね。自分がコミュニティの一員になっている感覚は、本作ならではの演出だと思っています。

キャラクターが喋るときは、その方向からテキストがシュッと出てくる演出が入りますね。

柏倉

どうやったら「誰が喋っているのか」を自然にわかってもらえるか色々考えました。視界の外にいるキャラクターもいるわけで、直感的に言葉を発した人を把握できないと辛いなと思いまして。

企画の最初のほうに、私が「キャラクターにテーマカラーをつけたい」と言っていたんです。その設定から、テキスト表示も色で判別させればユーザー的にも直感的になるなと。

最終的にキャラクターの方向から文字が飛んでくる仕掛けにプラスして、テーマカラーでテキストのバーを色分けすることで、分かりやすいUIができました。

岸上

「VR内のAR」的な考え方って言ってましたよね?

柏倉

そうそう。リアルな世界のなかにインターフェースを出したり、文字を出しちゃったりすると、いわゆるところのプレゼンスが剥がれるんじゃないかと不安になりますよね。

だた、『東京クロノス』の場合は、キャラクター絵のテイストの時点でかなりのコミック的世界観。文字に関しては「これはこういうものだ」と割り切りました。

なるほど。オープニングムービーの演出にも感銘を受けました。

柏倉

ありがとうございます。オープニングはどうしようか結構悩んでいましたが、VRの作品であることをより効果的に伝えるためには、やっぱり対比が効果的だと考えました。これは、世界初だという手ごたえがあります。今後のVR作品で同じ演出が出てきても「東京クロノスのあれね」って言われることでしょう(笑)。

(一同笑)

プレイヤーが首元を掴まれるシーンも印象的です。VRならではの臨場感があるというか。

柏倉

作品がスタートした冒頭でパンチのある演出を見せたかったんです。もともとシナリオにもあった部分でしたが、プレイヤーにショックを与えるような演出を入れたいと思いまして。VR作品の長所は立体感ですよね?ただ、常に立体感を押し出す演出をやっていると、“ケチャップを塗りすぎたホットドッグ”みたいになってしまう。肝となるシーンで使うからこそ、ユーザーの印象に残るものになったと思っています。

岸上

いい例えですね(笑)。素材の味を残しつつ、味にアクセントが生まれる演出は柏倉の持ち味だと思います。実際、VRゲームとしてはかなりの長編(約10時間以上)ですし、ユーザーが「長く遊べるように」と意識して作っていたので。

柏倉

ピンポイントで立体感を得られる。実在感や存在感を得られる。そんな場面を少し挟むことで、キャラクターの距離感が引いた後も、その雰囲気や感覚がプレイヤーに残るんですよね。結果的に、遠くに立っているキャラクターも、「そこにいるんだ、ちゃんといるやつなんだ」という感触に繋がります。

『東京クロノス』ではメインで会話している2、3人以外も、見渡すと他のキャラクターと何かしら話している様子を見ることができますね。

柏倉

よく見てますね!ありがとうございます。画面外のキャラクターが何かしている様子など、視界以外のことも意識して作りました。大事にしたのは、キャラクターがそこに生きているように感じられることです。

岸上

『東京クロノス』はまんまテキストアドベンチャーの文法やお作法をVRに持って行った作品ですが、それがよかったと思います。ゲームは新しすぎるとよくわからないんですよ。楽しみ方が伝わらないというか。

千田

そうだね。それはあると思う。全く新しいものだと、評価ができないし。少し新しいくらいを狙ってやることもビジネス視点として大切なことだと思います。

柏倉

そうそう。見たことあるのが半分で、見たことないのが半分、というバランスがちょうど良いですね。安心する材料半分、新しいもの半分です。

ファンを「共犯者」に

「東京クロノス」には専用のDiscordチャンネルがありますね。

岸上

私が立ち上げたのですが、あとはファンの方に自由にやってもらっています。ネタバレ禁止のお触れを出していますが、そうはいってもファン同士が感想を話す場所が必要だよな、と考えたことがきっかけです。

ファン向けのイベントも多数実施されていますね。

千田

本作の中心的なプレイヤーは、VRに馴染みのある方がほとんどです。VRを体験したことはないけれどアドベンチャーゲームが好きという層には一度、体験してもらったら勝ちだと考えています。それほどにインパクトがある作品に仕上がったと自負しています。

ですが、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)をかぶせるまでのハードルが高いので、その点をなんとかしたいと考えていました。

そこで、イベントベースでファンを増やすことと、クラウドファウンディングでタイトルについて知ってもらうことを計画したんです。

クラウドファウンディングを行われたのにはそういった経緯があったんですね。

千田

そうですね。「VRのことはよく知らないけど、何か面白そうな作品がある」ということを、広くゲームやアニメのファンに知ってほしかったんです。

『東京クロノス』というタイトルを先に知ってもらってから、VRタイトルなんだなと知ってもらう順番が正しいと思っていました。

バッカーは「プロジェクトの一員だ」という意識が強く、とても熱量が高いです。イベントを通じて進捗を共有し、リリースまでみんなで一緒にゴールすることを考えました。

クラウドファウンディングのバッカーを「共犯者」としていたのは、そういう気持ちも入っているんですね。

千田

VRに対して興味が高い人を中心にしながら、VRにあまり詳しくない人でもプロジェクトの熱さに惹かれてくる人を増やそうと思いました。そのため、イラストレーターさんや声優さんのファンからも興味を持ってもらうべく、とにかく豪華に実力のある方々にオファーしました。

岸上

櫻井響介役の上村祐翔さんにお越しいただいたファンミーティングでは特に顕著でした。

千田

あのイベントはおよそ半分が『東京クロノス』のファンで、残り半分が上村さんのファンの方でした。前者は制作共犯者ですから、VR HMDを持ってきていて、上村さんファンの方にVRの魅力を紹介したり、その逆もありました。

©️︎2018-2019 Project TOKYO CHRONOS. All Rights Reserved.

千田

イベントでは毎回メッセージやフィードバックをアンケートに書いてもらっていました。アンケートから意見を反映したものはかなりあります。「一緒に作っている感」を大事にしながらプロジェクトを進めていました。

『東京クロノス』は終わらない

海外の反応はいかがでしょうか?

岸上

現在は英語と中国語に対応していて、OculusストアとSteam VR向けに全世界リリースしています。日本のプレイヤーが60%ぐらいで、20%が英語圏、残りがその他海外という感じです。日本国内から大きな好評をいただいた結果、Oculusのストアの中でのフィーチャーカテゴリであの「Oculus Essentials」に入りました。そこから英語圏の反応も増えています。

千田

海外への露出は今後も行っていますが、VRメディア自体のページビューはこれから更に成長するといった印象です。それよりも、アニメ系メディアが非常に活気がありますね。

岸上

確かに。

千田

アニメ系のメディアに取り上げられるとアクセスも多いですが、まだOculusやSteam VRはそうしたファンの方に浸透してない様子です。しかし、データを見るとアニメファンとPlayStation VR(‎PS VR)は親和性があるようです。海外向けの展開は、‎PS VR版と合わせて拡大していきたいと考えています。

岸上

そう。『東京クロノス』はもとからPS VRにも完璧にフィットするゲームだと考えていたので。ここが一番の勝負どころですね(‎PS VR版は2019年8月22日に発売決定)。僕たちがファーストペンギンとして、VRゲームはビジネスとして張る価値のあるマーケットだと証明できなければ、これからも日本発の作品が増えていかないじゃないですか。

『東京クロノス』が売れるということは、日本のアドベンチャーゲームが世界で通用するということを改めて証明するということ。

しかし、まだまだ僕たちだけの力では及ばない点もあります。この気持ちに共感してくれる方には、ぜひ応援いただきたいです。

これからVR作品を作っていくクリエイターさんにアドバイスはありますか?

岸上

『東京クロノス』はナラティブ系として超長いところが狂気的だと思っています。「よくこんなの作ったな」と関係者全員に言われました。同じように、狂気を感じるタイトルが欲しいですね。今のVRの世界ではそうした特徴が無いとみてくれない。もはや、何かしら狂気的な要素が必要だと思います。欧米からはお金のかかったクオリティが高いものが出て来る。それに対抗して、日本から出すなら、超狂気的なものを出せば絶対に見てくれるなと思いますね。

柏倉

今後も中国やアメリカから、すごい資本を持って参入してくる作品がどんどん増えるでしょう。
ただ、ゲームの歴史を紐解いていくと予算と同じくらい大切なのは、やっぱり知恵、アイデアなんですよね。

ゲーム作りで一番コストがかかる部分はプレイヤーが直接目で見るものなんです。表現レベルのことを更に突き詰めていきたいですね。

MyDearest全体としてのミッションはありますか?

岸上

これからもエンターテイメントとテクノロジーを掛け合わせつづけて、作品作りをつづけたいと思います。また、もうひとつ意識しているのは、「二番煎じをやりたくない」と考えている集団であり続けるということです。

僕たちが目指し続けるのは前例がなく、新しいけど新しすぎないゲーム。そんな作品を才能溢れるクリエイターたちと一緒に作り続けていきたいですね。

柏倉

正直、個人的にはVRにこだわっているわけでもありません。なので、VRは楽しいから好きだけど、VRっていうものはある種、新たな場であり道具でしかないんです。VRに既存の表現を融合したら化けた。これが『東京クロノス』です。これからもいろんな場や道具を見つけられたら、そこにチャレンジしていきたいですね。

千田

『東京クロノス』はスピンオフノベライズ作品の『渋谷隔絶 東京クロノス』を発表しました。発売日は2019年7月19日です。キャラクターの一人である「神谷 才」を主役にしたダークサスペンスに仕上がっています。
今後のIP拡大を見越して、グッドスマイルカンパニーさんとのプロジェクトを組成したこともあり、グッズやコラボカフェなど、リアルな展開が続いていきます。今後も『東京クロノス』プロジェクトにご期待下さい。

ありがとうございました。

『東京クロノス』

プロフィール

一條 貴彰

個人ゲーム作家。代表作は『Back in 1995』(Steam)。Newニンテンドー3DS™版『Back in 1995 64』開発中。インディーゲーム開発の他、小規模ゲーム開発者が活動を継続しやすい世の中作りのために複数社からGame DevRelの仕事を請け負う。現在はPlay,Doujin! ディレクターも務める。

東京クロノス

MyDearest株式会社
  • AR/VR
  • アドベンチャー

プラットフォーム

  • HTC Vive
  • Oculus Rift
  • Playstation VR

言語

  • 日本語
  • 英語
  • 中国語
  • steam
  • oculus

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