Game a weekというゲーム開発の練習法がある。
オランダのインディースタジオ「Vlambeer」のRami Ismail氏が提唱したもので、1週間に1本のゲームを作る、ということを繰り返してゲームの開発力を上げるというものだ。 1週間は本当に短い。熟考する時間はなく手を動かす必要がある。もちろん、沢山の失敗を犯すだろう。 しかしその失敗から得られる経験は、その後のゲーム制作に役立つはずだ。
Game a weekを実践することのメリットは様々あるが個人的には
- ゲーム制作に必要な知識と技術の習得
- ゲームのアイデアが本当に面白いのか確認
この2つが得られると思った。
「Downwell」を開発したmoppinさんはこのGame a weekで13個のゲームを制作し、ゲーム開発経験ゼロから「Downwell」のプロトタイプを作り上げた。 私はmoppinさんのツイートからこのGame a weekというメソッドを知り強い関心を持った。 インディデベロッパとして本格的にゲーム制作を行う前の準備として最適だと思い実践してみた。
「1週間1ゲーム」(game-a-week)ていう、オランダの開発者の方が提案したゲーム制作練習法(?)をやり始めて1週目で作ったのがこの「ジョウハンシンの冒険」 でした、重力とか2段ジャンプ、壁キックとかの作り方をこのゲームで学んだ pic.twitter.com/ZqJ3QXhOyK
— もっぴん (@moppppin) 2015年3月12日
1週目「Square of Squares」
このゲームはトップダウンのツインスティックシューターである。 「Hotline Miami」がきっかけでインディゲームに興味を持ち、 「The Binding of Isaac」と「Nuclear Throne」でインディの沼にずぶずぶにハマった私にとって、 1番最初にトップダウンのツインスティックシューターを作ることは必然だったのかもしれない。
開始当初は妻が忙しく絵を描く余裕がなかったので頼れない。そして私は絵が描けない。
というわけで四角のグラフィックのみで構成されたゲームにすることに決めた。 四角(プレイヤー)が四角(弾)を打ち出し四角(敵)を倒すゲームだ。 本作の特徴は、プレイヤーの弾は9発のみ。撃った弾は着弾地点に落ちるのでプレイヤーはそれを拾わなければならない。 このアイデアは面白いと思いすぐに制作に取り掛かった。実際に遊んでみるとやっぱり面白い。 敵にヒットさせると弾が敵のそばに落ちるので拾いやすく、逆に外してしまうと画面端まで取りに行かないといけない。 敵にヒットさせる事は倒すだけでなく弾を拾いやすくなるというゲーム性が生まれた。 これは作る前は全く予想していなかったこと
だった。
やはりゲームは作ってみないと分からないことがあるということを改めて実感した。
(この直後、自分の撃った弾を拾って使いまわすFPS「Heavy Bullet」というゲームの存在を知るorz….)
このゲームの制作を通して、Unityを使ったゲーム制作の基本を学んだ。
2週目「Missileman」
ミサイルに乗った男が飛び回り体当たりで敵を倒す、というアイデアは学生の時から持っていて、 いつか実際に作ってみたいと思っていた。Game a weekで作るのにうってつけだと思い着手した。 ここで妻が合流。きちんと絵をつけることにした。 以前から興味を持っていたSpineという2Dアニメーションツールを使ってみることにした。 妻と2人でゲームを作るのはこれが初めてだった。2人で朝から晩まで作り続けた。 自転車でスーパーまで買物に行く時も打ち合わせしてた。
あっという間に1週間が過ぎゲームは完成した。 正直、そんなに面白いものではなかった。しかし、妻の絵と私のプログラムで作り上げた、2人にとって初めての作品だ。
この時はまだ、Missilemanを製品として作ろうという考えは全くなかった。 しかし思い入れは大きく、それが本制作を決定させる一因になったことは確かだ。
このゲームの制作でSpineの使い方を学んだ。
3週目「Issen-一閃」
チャンバラゲームは作ってみたいゲームの1つだった。このゲームで私が表現したかったことは”一撃必殺”。敵もプレイヤーも一撃で死ぬ。刀を使用したゲームは星の数ほどあるけれど、何十回も切らなければ死なないという部分にずっと違和感を持っていた。もちろんゲームとして成立させることや連続で斬りつける見た目の派手さがあることは理解しているが、それでもやはり一撃で殺し殺されるスリルを持ったゲームが作ってみたかった。
最初の3日間は、熱海にある猫が沢山いる宿で合宿を行い、絵の方向性とゲームシステムの基本を完成させた。電車の中だと自然と作業が捗った。ガタンゴトンの音が心地良いからか。(いつか電車内で行われるゲームジャムに参加してみたい) 左右から現れる敵を次々と斬り殺していく。刀の構えは上中下の3段が存在し、敵の構えている段とは異なる段で切らなければ、逆に斬り殺される。敵が列をなして襲ってくるので、瞬時に各敵の段を見極め対応する必要がある。
遊んでみると、表現したかった一撃必殺の気持ちよさとスリルが同居した面白さがあった。
このゲームの制作では、アニメーション作成の難しさを痛感し、猫の可愛さと気ままさを知った。
4週目「Run Jump Run Blindly」
プラットフォーマーは作ってみたいゲームジャンル1つだった。 いままで10本以上のタイトルに関わってきたが、プラットフォーマーはほとんど作ったことがなかった。プラットフォーマーのための当たり判定のシステムを作るために5日費やしてしまい、肝心のゲームシステムがなかなか決まらなかった。 ヤケクソになってUnityの各種パラメータをデタラメに弄っていたら、足場が背景に溶け込んで見えなくなる瞬間があった。 その瞬間にゲームシステムが決まった。 このゲームはいわゆる無限ラン系のゲーム。 プレイヤーは自動で走るので、ユーザーはジャンプで床から床へ飛び移らなければならないが、床が背景に溶け込んで見えない。 道中にある玉を取ると僅かな時間、背景に色がつくのでその短時間で床の位置を記憶しジャンプするタイミングを図る必要がある。
このゲームシステムはエディタをデタラメに弄っている時に事故的に生まれたものだ。机の前で考えているだけでは絶対に生まれなかったと思う。
こうして4週に渡り4本のゲームを作った。4本のゲーム制作を行うことで様々な効果が得られた。
- Unityでのゲーム制作の練習
- 昔から考えていたゲームアイデアの具現化
- 制作のための瞬発力を養う
(4本目制作直後にFallout4が発売されたので、妻と私は3週間ぶっ続けで遊び倒した)
ゲーム作りは本当に難しい。面白いと思ったアイデアを実装してみたらつまらなかった、なんてことは当たり前。 自分の場合、面白いと思ったアイデアを実装してみると、その90%はつまらないものになる。 考えたとおりに面白くなる割合は5%ほどだ。残り5%は、狙っていなかったけど事故的に面白いものができた場合。 この事故的に面白いものができた時が結構好きだ。なぜなら、それは自分の頭では考えつかなかったものだから。
自分で考えた面白さと事故で生まれた面白さが上手に絡まり新たな面白さが生まれた時の快感は格別だ。 この瞬間を味わいたくてゲームを作り続けているのかもしれない。制作前によく考えることはもちろん大事である(というか必須)。 しかしそれはただの机上の空論。 やはり実際に作って動かしてみないと面白さなんて分からない。 Game a weekでの制作とMissilemanの制作を通して、それを身をもって理解できたと思う。
私は生涯ゲームを作り続けたいと思っている。 ゲーム制作は辛いことが多いが、自分にはゲーム制作しか生きる道がないと確信している。 見たことない遊んだことのないゲームを作ること、それがGame or Dieのコンセプトの1つだ。 そんなゲームを作って多くの人に楽しんでもらうためには、もっともっと沢山のゲームを作って失敗を重ねる必要がある。
沢山の失敗から多くの事を学ぶ必要があり、時にその失敗が思わぬ面白さを生み出すだろう。 そんなことを考えながら、私は今日もキーボードを叩きゲーム作る。