2017.03.09
困難を分かち合い、乗り越える
大橋 伸乃介、大橋 愛子
Missileman
Game or Die

スマートフォンで手応えのあるゲームを探しているのなら『Missileman』を試さない手はないだろう。迫り来る壁を華麗にかわし、携えたミサイルで的確に敵を狙い済ます。硬派でハードなゲームでありながら、少し間の抜けたプレイヤーキャラクターは親しみやすく、ついついリトライを重ねてしまう。
今回は海外でもスマッシュヒットを飛ばしている本作『Missileman』の開発者、大橋 伸乃介さん・愛子さんご夫妻にお話をうかがった。

インタビュー: 池和田 有輔

プロフィール

大橋 伸乃介

ゲームプログラマー。ゲーム会社で10年間ゲーム制作に携わる。『Hotline Miami』でインディーゲームの面白さに目覚め、『Downwell』に衝撃を受け、インディーゲーム開発者を志す。妻と愛犬と楽しくゲーム漬けの日々を過ごしながら、インディーゲーム開発者として生きる道を模索している。

プロフィール

大橋 愛子

ゲームアーティスト。ゲーム会社で10年間UIデザイナーとしてゲーム制作に携わったのち、1年間主人と『Missileman』を開発。現在はゲーム会社に勤めながら、気が向いたら主人とまたゲームを作るかもしれない状態。

夫婦で作るということ

池和田

まずはお二人の役割を教えてください。

伸乃介
ざっくり言うと自分がプログラム、彼女がグラフィックという感じですね。ゲームデザインは企画段階では二人で詰めていましたけど、開発中は僕が担当しました。

池和田

二人ともゲーム会社勤務を経て独立されたということですが、開発者を志すきっかけのようなものはありましたか?

伸乃介
僕は大学4年で就職するというときに、仕事をするというイメージが全然わかなくて。「俺、何ができるんだろう、働きたくないなあ」みたいな感じでした。それがいつしか「ゲーム作りたいかも」と思うようになったんですよね。それまで作ったことがなかったのに、全然。

プログラミングは授業でちょっとやったぐらいでした。だから卒論書きながらCの勉強を独学で始めて。その後ゲーム会社受けたんですけど、経験ないし受からないですよね。他の会社も考えたんですけど、ゲームを作りたいって気持ちが強かったので、そのあと2年間専門学校行くことにしました。自分の人生を考えて、初めて「ゲームを作りたい」と思ったんです。

愛子
私は絵を描くのが好きだったんですが、「一人でなく何人かで作りたいな」というのがあって。それから時間軸があるものがいいと思い、映像の専門学校に行きました。でもアーティスト肌な感じの場所には、大衆的なものを好まない人もいたんです。「難解だったらいい」みたいな。それに比べると、ゲームは「面白いか面白くないか」ですし、いろいろな人に遊んでもらえる。すごくわかりやすいんじゃないかと思い、東京のゲーム会社にポートフォリオを送ったら採用してもらえたんです。

伸乃介
そこで初めて会ったんですよ。

池和田

なるほど。でも夫婦で一緒にゲームを開発するのって、理想じゃないですか?

伸乃介
結構言われますね。いろいろな人に「うらやましい」って。

池和田

たまには意見が食い違ったりすることも?

伸乃介
しょっちゅうです。共作は今回が初で、12年間作ったことなかったもんね、一緒に。

愛子
一緒の会社にいたときも、同じプロジェクトになるということがほぼなくて。

池和田

そうなんですね。普段は一緒にゲームを遊ばれたりします?

伸乃介
めっちゃ遊びますね。8、9年ぐらい前、僕が洋ゲーにハマったんです。Xbox360の『Left 4 Dead』にハマって「あれっ、洋ゲーヤバくね?」って初めて認識しました。そのあと『PORTAL』『Bio Shock』で、もう価値観が180度変わってしまうというか。それまで海外のゲームは面白いけど、ちょっと荒いなっていう印象があったんですよ。でもそういった価値観が全部吹っ飛んで、漁るように遊び始めました。彼女も「ちょっとやってみたい」ってなって、Xboxもう一台買ってきて。

池和田

家庭内に二台ある、みたいな?

伸乃介
そうです。二人でチームを組んで『Call of Duty』遊んだり、オンラインゲームじゃないのに同じゲームを2本買って同時に遊ぶみたいなことをしたり。会社でゲーム作り、帰って2人で並んで遊ぶというのを8年くらい繰り返しました。そのすごさに惹かれながら、「なんでこういうゲームを作れるんだろう、僕もアメリカ行きたい」とか「もっと知りたい、作ってみたい」と思って。やっぱり現地に住んで価値観を共有しないとわからないのかなーとか、ずっと思ってましたね。

初期のラフスケッチ

攻略の秘訣

池和田

プレイヤーキャラクターは少しシュールだけど可愛いじゃないですか。なのに難易度はキツめになっている。僕、2-4のボスにも辿り着けないんです。でもそのアンバランスな感じが面白いですよね。実装されている伸乃介さんはコアゲーマーで、アートを担当されてる愛子さんは、もうちょっとゆるやかなゲームを好まれているに違いないと思ってました。

伸乃介
そうですね。僕がバリバリゲーマーで、難しいゲームを好む感じではあります。

愛子
私はそれほどゲーマーというわけではないですが、カジュアルゲームが好きかというと、そうでもなかったりします。どうぶつの森とか、いかにも女子なゲームは実はちょっと苦手で。

池和田

愛子さんはクリアできます?

愛子
私は2-4のボスを倒せるぐらいです。

池和田

僕よりちょっと上ですね(笑)。

伸乃介
でも1年遊んでこれですからね(笑)。

池和田

伸乃介さんにこの端末(iPhone7)を渡して、今からやってもらったらサラっと全クリできます?

伸乃介
そうですね。95%ぐらいは。

池和田

マジですか?! 95%って結構な確率ですよね。ちょっとだけ攻略情報を(笑)。

伸乃介
はい(笑)。このゲームはどれだけ強くできるかがミソで、でないとどんどんジリ貧になっていくんですよね。なので頑張ってコンボをつなげて高いレベルを保ち、回復はギリギリでとどめるという。

池和田

なるほど。僕、最初にバリアに振っちゃうんですけど。初心者丸出しですね。

伸乃介
最初のバリアのタイミングは重要です。ダメージを食らうまでは基本的にショットとバックアップ。それは好みでいいんですけど、いかにバリアに振らないかがミソかなと。

池和田

また挑戦したくなりました(笑)。

伸乃介
1-1でフルコンボを取れると、だいたいレベル5になっているんですよ。そのレベル上昇分の4ポイントでショットとバックアップを2ずつ振ると両方のスキルが手に入ります。これでかなり強くなりますね。その時点でレベル4以下ならやり直すこともありかなと。

池和田

リセマラみたいな感じですね。

伸乃介
そうですね、リセマラになっちゃいますけど(笑)。

コンボをつないで1-1をクリアした状態

ハードなゲームへの情熱

池和田

やはり難しいゲームは好きですか?

伸乃介
僕はもう、完全にそうですね。とにかく難しい、コントローラーぶん投げたくなるようなゲーム、遊んでいて手に汗握るような。死ぬと超悔しくて、でもそれを乗り越えたときの達成感は、そうそう味わえないんじゃないかなと思っていて、人生の中で。その達成感の快楽に、中毒になってしまっているというか。だからそれを他の人にも味わってもらいたいな、というのがあるんですよね。

池和田

では、今後作られるゲームも基本的に難しめですかね?

伸乃介
そうですね。基本的にはやっぱりヒリヒリするような緊張感。ラスボスで最後もう心臓バックンバックンいいながら、「倒せるの?倒せないの?」って。「倒せなくて超悔しい!」、でも最後に倒したときの「はー、倒した!」っていう気持ちをどうしても味わってほしいんですよね。それを味わえるゲームを、僕は一生作り続けるんじゃないかなって。

池和田

それが『Game or Die』のカラーになるんでしょうね。

伸乃介
そうですね。それから他にはない、僕らにしか作れないものを作ります。じゃないと意味がないので。実際『Missileman』は僕らにしか作れないものだと思ってます。馬鹿みたいに高難易度で、かつ僕らにしか作れないもの。その二つが大きな軸ですかね。誰も見たことがない、触ったことがないゲームを作りたいな、とは常に思っています。

池和田

明確なんですね。今後も二人で活動されていくのでしょうか。

伸乃介
彼女は仕事が忙しいので、次作は僕一人になっちゃうかもしれません。彼女がいないとなると、絵ができるかなという。僕は絵が描けないので・・・。

愛子
面白そうだったらやるよ。

伸乃介
・・・ということらしいです(笑)。

池和田

そのフィルタリングはすごくいいですね(笑)。手伝いたいと思うものを作らなくては、ですね。

伸乃介
そうですね。インディってモチベーションが全てで、それがないと一歩も前に進めないなというのは、今回つくづく感じましたね。

苦難、そしてブレイクスルー

池和田

では、開発する上での困難はありましたか?

伸乃介
開発は常に苦しかったです。特に秋ぐらいが一番辛くて。クオリティが全然上がらなかったんです。その前では7月に『BitSummit』があったので、春の間は出展するという目標を掲げてバーッと突き進んでいったんですよ。で、出来たものを持っていったんですが、思っていたよりお客さんの反応が良くなくて。もちろん楽しんでくれる人はいたんですけど、率が低かったというか。なんかしょっぱいなと思い、その後は一生懸命やりました。でも、なかなか面白くならずにいて。

池和田

問題点は明確でしたか?

伸乃介
わかりませんでした。一生懸命やって、ステージを頑張って増やしているんですけど、イマイチ面白くならない気がして。面白いのかな?面白くないのかな?というせめぎあいの中で。

池和田

ああ、すごくわかります、それ。

伸乃介
『INDIE STREAM AWARD』にも出したんですよ。賞を獲れる自信があったわけじゃないけど、可能性はあるかもという思いで出したらノミネートさえもされなくて。「つまらないんだよ」と突き付けられた気がして本当にショックだったんですよね。「ハッキリ言われた」みたいな感じがあって。

二人とも一生懸命なんですけど、クオリティが上がらない現実があって。それでもう、「リリースどうしようか。面白くならないからやめようか」みたいなことを言っていた時期もありました。でも、つまらなくてもこれが今の実力で、それをリリースするということには価値があるとも思ったんです。

だから、もう消耗し切っていたけど、二人で「あと1カ月だけ頑張ろうか」と話し、集中的に頑張ったんですよね。彼女は絵を全部描き直し、僕はグラフィックのクオリティを上げるためにシェーダーをいじり始めて。そうしたら思いのほかクオリティ上がってきたんですよ。絵はグッと良くなり、ダメなパターンがわかってきて、全て良くなってきたんです。敵の出現パターン、ステージ、全部作り直しました。

池和田

1カ月の間に、ですか?

伸乃介
はい。一番のポイントは壁を簡単にしたんですよね。当初はシューティングと避けゲーを100%ずつガッとくっつけていたので、もっと難しかったんです。そのせいでプレイヤーはどちらに集中していいのかわからなかったんです。それをシューティング寄りにしてみたら、プレイヤーはそちらに集中し、少し壁が出る程度でも怖がることがわかってきて。そういうことを踏まえて作り始めたらどんどん良くなり、絵のクオリティも上がり、面白くなってきました。1ヶ月が結構あっという間に終わり、ゴールが見えたんですね。あとはひたすら進みました。

池和田

気持ちが楽になったんですね。

伸乃介
楽になりましたね、随分。

池和田

仕事で作るゲームって時には妥協しなければならないことがありますよね。でも、インディーでやるからには妥協したくないな、みたいなのはありませんか?

伸乃介
あります。だから会社員として仕事するより辛かった。

愛子
インディー開発者さんたちって、同じゲームを何年も作り直しているイメージがあって。でも私たちは二人とも10年間ゲーム開発の仕事をしていたし、納期には間に合わせてきたから、多分そのノリでやればズルズルいかない、期間内で作れるんじゃないかな、という妙な自信が夏頃まではありました。

伸乃介
あったあった。絶対あった。

愛子
絶対あって、「やることやればいつかできるよね」みたいに思っていたんです。でもやっぱり秋ぐらいに「面白くないな」とか「このグラフィックイマイチだな」「このまま作っても面白くないな」みたいな感じになったときに「これか」と思って。「全部作り直したくなる」とか。

伸乃介
そう。そのときにわかった。

愛子
開発が延びちゃう原因がこれ、みたいなのを実感して。

伸乃介
要は仕事だと、結局は責任をとる人がいるので、とにかく出しちゃえば僕らの仕事は終わりだったから。それが面白かろうが面白くなかろうが。でもそれがインディーだと全部自分たちの責任なので、「これは出せないぞ」「このままじゃダメだよね」となって、それが本当に苦しかったんですよね。今までどれだけ無責任に仕事をしていたんだよっていう。

池和田

作り手として「このクオリティが最低ライン」みたいなものってやっぱりあるじゃないですか。それが高ければより良いゲームを生むとは思うんだけど、苦しむ要因でもあるわけですよね。

伸乃介
「ものづくりはこんなに辛いのか」というのを、本当に始めて痛感しましたね。心がこんなに辛いんだ、という。

池和田

先ほど「難しいゲームが好き、それを乗り越えたときの達成感は何物にも代えがたい」という話をされましたが、開発にも言えるかもしれませんね。

伸乃介
そうかもしれないです。ものを作ったときの喜びというか「俺、天才じゃん?」みたいな、そう思う瞬間。

池和田

一方で「受け入れてもらえないかも」っていう不安と「俺すごくない?」みたいなものの、繰り返し。

伸乃介
そうです。ずーっとそれ繰り返していました、本当に。この週は落ち込んでいて、次の週は有頂天でみたいな。本当に感情の起伏がすごかったですね。

池和田

メンタル強くないと、やっていけない部分はありますよね。

伸乃介
確かに、自分を信じる強さがないとね。あきらめないことと。ゲームしかないってわかっているので、自分の人生。ゲームがないんだったら生きている意味がない、っていうぐらいの感覚があります。

そして海外へ

池和田

海外でも大人気ですよね。

伸乃介
先週の金曜日に全世界のApple Storeのフューチャーされて。日本国内はそうでもなかったんですけど、海外だとApple Store一番上のデカいバナーの一枚にしていただけて、そのおかげでそこそこ出たのかなという。売り上げはアメリカが1位です。

池和田

おお、素晴らしいですね!

伸乃介
売り上げはアメリカ、日本、中国という順で。それはすごく嬉しかったです。

池和田

文字要素はそこまで多くないゲームですが、ローカライズは?

伸乃介
多言語対応できたら良かったんでしょうけど、そこらへんのノウハウもなく、リソースも必要だったので、ちょっと後回しにしてしまっています。でも要望があれば可能性はあります。Appleの韓国のチームからは、「ぜひローカライズほしい」とは言われてはいたんですよね。「今すぐには無理です」という感じですが。

池和田

Appleのフィーチャーは大きかったんですかね。

伸乃介
と思いますね。他には特にやっていないので。でもメールはめちゃめちゃ来ましたね。英語で各国から「プロモコードくれ、プロモコードくれ」って。送ったら、いくつかのブログやサイトが記事を書いてくれたり。ロシアとかデンマークもだったかな。

池和田

それはいわゆるゲームメディアさんですか?

伸乃介
そうですね。個人ブログもあったと思います。

池和田

それはもう、苦労が報われた瞬間ですよね。『Missileman』の今後の展開にも期待しています。本日はありがとうございました!

プロフィール

池和田 有輔

フリーランスとしてWEB制作・広告制作のキャリアを経て、2013年からRépublique開発チーム(Camouflaj, LLC.)に参加。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社に入社後はエバンジェリストとしてUnityの伝道活動に携わってます。

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