2019.12.12
19歳にしてキャリアは8年、ムームーと共に歩んだ道
渡邉 大誠
モチ上ガール
mumimumi

1年前、Unityインターハイの応募作を試遊していた同僚たちがザワついていたのをよく覚えている。プレイした人が「完成度が類を見ない」「最も製品に近い」と一様に声を揃えたのが本作『モチ上ガール』だった。

実際にプレイしてすぐに納得した。操作性や操作感が実にエレガントであり、プレイヤーを動かすだけで気持ちが良い作品だった。練られたギミックと小気味良いエフェクトがそれに華を添えていた。窮屈な発想に縛られず、完成にたどり着くまでに多くの取捨選択や細やかな調整があったことも想像に難くなかった。「類を見ない完成度」という感想に収束するのが頷けるゲームだった。情熱に突き動かされた鍛錬と試行錯誤の結晶のようなゲームだった。

作者である渡邉さんの辿った道のりは「アクションゲーム屋ムームー」のサイトに収められている。
『モチ上ガール』は何度も脱皮を重ねた彼の魂そのものだ。

インタビュー: 池和田 有輔

プロフィール

渡邉 大誠

明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科1年(2019)。2018年に「日本ゲーム大賞U18部門」金賞、「Unityインターハイ2018」優勝。コンシューマ向け販売は、『モチ上ガール』が初となる。

幼稚園の頃に生まれた “ムームー” と “ムミ”

池和田

渡邉さんはどんな子供時代を過ごされたのでしょう。イラストを描いたりものを作ることは好きでした?

渡邉大誠(以下渡邉)

そうですね、絵を描くのは大好きでした。よく覚えているのは幼稚園の頃、棒人間のキャラクターを作ってムームー(Mumu)と命名したんです。初期の頃に作ったゲームの主人公は全部ムームーなんですよ。

LINEスタンプにもなったムームー

池和田

物心ついたときにはもうムームーが側にいたんですね。

渡邉

はい、語源については謎ですが、ブーブー、つまり車の走る擬音から来たのではないかという説が有力です(笑)。トミカとか車のおもちゃが好きやったから。

池和田

渡邉さんのTwitterなどのハンドルネームである「ムミ(Mumi)さん」というのもそこから?

渡邉

ムミはムームーの側近のキャラクターという設定で、顔はムームーですがそれに手と足を棒で描いたみたいな感じです。

池和田

では、Twitterアイコンもムミなんですね。


渡邉

そっちはムミではなくムームーですね。まあ同じ顔なのですが。

池和田

あ、そうなんですね。ちなみに子供の頃によく遊んでいたゲームは何でしょう?

渡邉

一番思い入れがあるのは『スーパーマリオギャラクシー』です。2Pがカーソルを動かすことで、プレイヤーの動きを邪魔したり敵を止めたりするアシストプレイというのがありまして、ゲームがあまりうまくない妹がアシスト役をやってくれてました。よく遊びましたね。

池和田

良いお兄さんじゃないですか。でも子供の頃ってそうそう親にゲームを買ってもらえないですよね。

渡邉

僕は半年に1本でした。誕生日がちょうど6月なので、誕生日プレゼントとして6月に1本買ってもらって、クリスマスに1本買うみたいなサイクルで。

池和田

全く同じだ。僕も6月生まれなのでちょうど半年のサイクルになるんですよね。

渡邉

6月生まれの友達はみんなそう言いますよ。6月生まれあるあるですね(笑)。

池和田

めっちゃ吟味して絞り込んだ1本ですよね、その1本って。

渡邉

なので『マリオギャラクシー』は全クリはして、スターもコンプリートしました。さらに2周目でルイージが使えるので、それも全部クリアして、同じゲームを2回全クリしたみたいな感じですね。自分のゲームへの影響も大きいです。

Flashゲームで目覚めた “作る楽しさ”

池和田

ゲームを作り始めたのは?

渡邉

小学校高学年から触り始めたパソコンで何かゲームができないのかと調べたら『マリオ』のFlashゲームが出てきました。それにエディット機能というのがあり、それでステージを作ったのがゲームを作る楽しさを味わった最初の体験かもしれません。低学年の頃からノートに『マリオ』のオリジナルステージみたいなものを描いていたような子供だったので、凄くハマりました。そのFlashは任天堂製ではないと理解していたので「いいのかな」みたいな思いはあったんですけど(笑)。

池和田

なるほど、面白い入り口ですね。

渡邉

その後ゲームの中身から作っていきたいという気持ちが芽生え、Googleで検索したら「アクションエディター4」というフリーウェアを発見しました。ドット絵を打ちこんでオリジナルキャラクターでアクションゲームが作れる、『RPGツクール』のアクション版みたいなものですね。それでゲームを作り、友達にやらせていたんですけど、そのうちゲームを投稿できるサイトがあることを知りまして。2013年に『ムームーのアクション』という名前のゲームを出しました。(「アクションゲーム屋ムームー」)

最初の作品『ムームーのアクション』

池和田

Unityを使われたきっかけは?

渡邉

『ムームーのアクション』とその続編の『2』『3』を続けて作ったんですが、やっぱり3Dのゲームを作りたいなっていう思いがあり、その頃流行り始めたUnityを使ってみました。

池和田

どのように習得したのでしょう。情報源はネットですか?

渡邉

そうですね。プログラム自体初めてでしたが、サンプルゲームを元に、内容は全くわかっていないけど組み合わせたらこうなるだろうと予想しつつ、うまいこと組み合わせてという。いわゆるトライアンドエラーで覚えました。

池和田

当時はいわゆるパソコン部に所属していましたよね?

渡邉

はい、高校から電子計算機部というところに入りまして、そこが実質パソコン部でしたね。ただ自分が入ったときには先輩がおらず、部員は自分と友達だけでした。先生も素人で、一応顧問はやっているけど「勝手にやりなさい」みたいな感じで(笑)。

文化祭のフィードバックが元になった “遊びやすさ”

渡邉

部活に入ると文化祭で展示できる権利を得られるので、それを狙い入部したんです。高1の頃には何かしらUnityで作れるようになっていたので、とにかく自分のゲームを展示したかったんですよね。いろいろな人に遊んでもらいたかった。

池和田

実際に文化祭で展示したんですか?

渡邉

はい、高1のときは『コレに限る』というゲームを、高2のときは『急がば旋転れ』を展示しました。どちらもUnity製です。

池和田

『急がば旋転れ』は『モチ上ガール』同様に爽快感がありますよね。

渡邉

確かにコンセプトは似てるというか延長線上にあります。『急がば旋転れ』を展示したとき、普段ゲームをしない人にとっては3Dゲームは難しいんだなと思ったんです。それからボタン1つしか使わない人が多かった。ジャンプボタンを2回押すとグルーって回るんですけど、そのグルグルだけで踏みつつどんどん進んでいけるんです。それも考慮されてたので破綻はなかったんですが、いっそボタン1個の操作を突きつめればもっと良くなるのではないかと思い付きました。なので、『モチ上ガール』は2Dでボタン1つでできるゲームになったんです。

池和田

なるほど、1ボタンへのこだわりの謎が解けました。でも、それって部員が二人しか居なかったことが大きいのでは。例えばパソコン部の仲間がいたら、だいたいみんなゲーマーだし複数ボタンでも普通に遊べるでしょう。でも文化祭のお客さんが対象だとシンプルさが求められる。

渡邉

そうですね、小学校低学年みたいな子からお年寄り、それから先生方も来てくれましたが、ふだん全然ゲームやらないので操作や視点に苦戦してました。でも僕はみんなに楽しんでもらいたかった。そういう思いから生まれたのが『モチ上ガール』かもしれません。

Unityインターハイでの激戦を超えて

2017年のUnityインターハイにて

池和田

Unityインターハイ初出場時の『急がば旋転れ』はいきなり準優勝を獲得しましたが、そのときはどう思いました? 優勝できなくて悔しかった?

渡邉

いえ、全くですよ! 2番目というのはかなり衝撃でしたから。自分が作るゲームが通用するのか全くわからなかったんですよ。それに自分ぐらいやっている高校生・中学生がどれぐらいいるのかとか、そういうことを全く知らなかったので。

池和田

でも、準優勝になったら次はもう優勝しかないじゃないですか。次の年はそういう気持ちだったのでは?

渡邉

正直、その気持ちはかなりありました。だけど優勝したのが西村君のチームのあのゲームですからね。仮に西村くんたちが出るとして…っていうのは想像しましたが、あまり比較しても仕方がないわけで。自分にも強みがあるということを審査員の方から教えてもらったので、それを信じてやるという感じでしたね。

池和田

西村君は渡邉君とは全く別軸で振り切れてましたからね。

渡邉

そうですよね。ちなみに西村君の登壇スライドはかなり参考になりまして、C#のLINQもそこで初めて知りました。Unityの技術、他にも自分の知らない機能があるかもしれないと思ったので結構調べて、Shaderがかなり面白いなというのに気づきました。

池和田

Shaderは『モチ上ガール』では多用してますね。

渡邉

はい、僕は水の表現というのがかなり好きでして。『マリオ』とか、あの表現がUnityではできなかったのがちょっとモヤモヤしていたので、Shaderを使ってかなり頑張りました。でも最初は「これ、C#と全然違うよ」というのを感じましたね。何でエラーが出ているのか全くわからなくて、エラーが出たらとりあえず戻して。

池和田

ピンクになったら戻す、みたいな(笑)。

渡邉

そうなんですよ。「これだとピンクになるんだ、これは大丈夫だ」みたいな感じで、どうすればピンクにならないか徐々にわかっていくという、ちょっと理不尽なパズルみたいな感じでやってましたね。

池和田

ぶつかったときのインパクトエフェクトも良くできてますよね。

小気味良いインパクトエフェクト

渡邉

あれ意外と驚かれるんですけど、板ポリにノーマルマップで波紋描いてそれを拡大するだけみたいなシンプルなやつです。

池和田

でも効果は大きいですよね。それから出だしやゴールしたときのアニメーションも印象的です。

渡邉

頂点を法線方向に拡大するってやつですね。たまたま「チューブの中に物が入った表現をShaderで描けます」みたいなツイートを見かけたので、自分でも実装してみました。

池和田

インターハイは年々レベルが上っているけど、それでもShaderってのはハードルが高いと思うんです。

渡邉

できている人はほぼいないと思いますね。

池和田

でも渡邉くんは自分のゲームには必要だと感じて学び、導入した。まさに自分の持ち味を伸ばした結果の勝利だったわけですね。

そして、憧れの任天堂ハードへ

池和田

日本ゲーム大賞のU18部門でもグランプリを獲得したわけですが、そのあたりで渡邉くんの中での変化はありましたか?

渡邉

一番はNintendo Switchへのリリースの話が来たところですかね。自分は任天堂のゲーム機がずっと好きだったので、憧れのゲーム機にソフトを出せるというのはかなり嬉しかったです。

池和田

メディアスケープさんのパブリッシングですよね。どのような経緯でリリースが決まったのでしょうか。

渡邉

きっかけはMade with Unityにも出てるクルステさんです。クルステさんが契約しているパブリッシャーであるメディアスケープさんを紹介してくれて、その流れでゲーム大賞の決勝のとき、自分の親に代表の江崎さんから話を頂いたんです。

池和田

そうか親か。まだ未成年だもんなあ。

渡邉

今もまだ19歳ですが、その頃は高校生だったんですよ。メディアスケープさんも前例がなかったと思います。

池和田

リリースが楽しみです。基本ステージ50に裏ステージ50で合計100ステージ作るって記事も見ましたが。

渡邉

100ステージって言っていたんですけど、さすがに無理でした(笑)。

池和田

だよね(笑)。

渡邉

そもそもの話でいうと、Unityの簗瀬さんが「100ステージあったら買う!」みたいに言うてたから、よしそれなら100作ろう!みたいな。

池和田

簗瀬さんがハードル上げてたんだ(笑)。

渡邉

ようわからんけど僕も乗ってみようって思って(笑)。一応50は作れたんですけど、さすがに全部が全部面白くなかったので、クオリティを守るみたいな意味で30ステージに減らしました。

池和田

試遊版ではギミックが印象的なボスがいるじゃないですか。ああいうボスバトルみたいなものがいくつかあるんですかね?

渡邉

ボスバトルは4ステージあります。ラスボスは主人公と対になるキャラクターにしたくて、餅の対は何だろうなと考えたものになってます。

リスクを取ればより楽しさが得られる

池和田

横スクロールゲームだけど、意識してプレイしてると視点が少し変化しますよね。たまに見下ろし視点になったり。あれはどういう発想でそうなったんですか?

渡邉

目的はプレイヤーの誘導です。行かせたい方向にカメラを向けることで誘導しているわけですね。『マリオギャラクシー』も同じようなカメラの動きがあるんですが、任天堂のゲームのそういう細かいところも大好きなんです。

池和田

他に影響を受けたゲームを挙げるとすると?

渡邉

『星のカービィ』シリーズですかね。見た目3Dやけど、ゲーム内容は2Dみたいなのは『星のカービィWii』とか『スマブラ』から拝借している感じです。あと『星のカービィ』の空を飛べばどんなステージでも簡単にクリアできるっていうのがかなり好きなんです。あれのいいところは、上に行けばクリアできるんですけど、かなり移動が遅いんですよ。楽なほど遅い。そういう考え方はかなり影響を受けていて『モチ上ガール』でもリスクの低い行動は速度が低下するっていう、そういう考え方のもとで作っていますね。

池和田

そのあたりは渡邉くんらしさ、と言い換えても良さそうですね。

渡邉

そう思います。例えば上下するリフトとか、タイミングを見計らって乗らないと乗れないし、乗ったあともタイミングを見計らって降りないとうまく進めないみたいなのがありますよね。実はそういう待つ仕掛けがあまり好きじゃないんですよ。そういう仕掛けをできるだけなくして、自分のペースで行けるようにしたい。そして広い層に遊んでもらいたいって思ってます。

池和田

普段あまりゲームをやらない人でも楽しく、やり込んでいる人も楽しめるように。

渡邉

そうですね。例えば『モチ上ガール』はタイムアタックまでやり込むとなるとわりと難しい技術というか、繊細な動作も必要になってくるんですよね。そういう練習をするときちんと結果として返って来ます。でもリスクを負いたくないというか、そもそも負えない人、ゲームの腕がない人でも面白さが味わえるように逃げ道はきちんと作ってあります。

池和田

あまりゲームがうまくない人でも「僕、ゲームうまいんじゃないかな」って錯覚するような作りになっていると思うんですよね。

渡邉

それも意識している部分です。

面白いロジックを引き当てろ!

池和田

ゲーム開発っていろいろな工程があるじゃないですか。アイデアを練るところから始まり、キャラ考えたりエフェクト作ったり細かいところも含めて。どのあたりが一番好きですか?

渡邉

やっぱり構想のときです。面白いゲームを思いついた瞬間ですね。

池和田

頭の中で思いついたらすぐにでも形にしたくなりますか?

渡邉

それはかなりあります。思っていたほど面白くないこともしょっちゅうです。とくに対戦ゲームは難しいですね。対戦アクションみたいなものは完璧なロジックに見えてもいざ遊んでみると、強い手が編み出されて駆け引きが生まれなくなってしまう。想像できなかった手段が生み出されてしまうので、想像力の限界を感じます。二人用のゲームは、脳みそ二つ分をシミュレートしているわけだから、それは無理でしょうと。でも一人用のゲームは正直、ある程度うまく面白いロジックを引き当てることができるようになってきた気がします。『モチ上ガール』はロジックで面白いなと思ったアイディアが実際にストレートに面白かったパターンでした。

池和田

経験を積んだ結果ですね。

渡邉

作り続けることによって、そこの勘みたいなものが養われていくような。そういう気がします。

池和田

実はもうすでに次回作を作り始めていたり?

渡邉

作り始めてはいないですが、構想は練れているのかな。実際にどうなるかわからないんですけど、Unityインターハイのインタビューのときに、「オープンワールドを作りたい」と言ったんですけど、実際にオープンワールドのアイデアを思いついてはいます。オープンワールドは移動している間がちょっと退屈なので、移動する楽しさみたいなものをねじ込めたら良いオープンワールドができるのではないかというのをよく思っています。

池和田

今までの作品は、出展やイベントエントリーが大きなモチベーションだったと思うんですよ。でも新規で作るとなると売り物になるゲームを作らなきゃ、みたいな意気込みになるんですかね?

渡邉

そういうはっきりとした目標はないんですよ。売り上げで言うたってどのゾーンに売るかというのもまだはっきり決めていませんし。ただ、自分が遊びたいゲームを作りたいです。そうしないとモチベーションが出ないので。例えばこのゲームより既存のゲームのほうが面白いやろって、そういうゲームは絶対に作らないです。自分が一番楽しいと思えるようなゲームをこの世に存在させるというのが、ゲーム制作の大きなモチベーションですね。

プロフィール

池和田 有輔

フリーランスとしてWEB制作・広告制作のキャリアを経て、2013年からRépublique開発チーム(Camouflaj, LLC.)に参加。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社に入社後はエバンジェリストとしてUnityの伝道活動に携わってます。

モチ上ガール

mumimumi
  • アクション

パブリッシャー

メディアスケープ株式会社

プラットフォーム

  • Nintendo Switch

言語

  • 日本語
  • 英語

GAME ゲーム

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