パブリッシャーインタビュー「PLAYISM」

そうだ、PLAYISMさんに訊いてみよう

インディーゲーム躍進の傍らにゲームパブリッシャーあり。連載「そうだ、パブリッシャーさんに訊いてみよう」第2回は、国産インディーゲームの勃興時期から国内外の良質なゲームのパブリッシング事業を行ってきた「PLAYISM」を取材しました。

出迎えていただいた水谷俊次氏は、これまで6年間コンソール・Steam・自社サイトとさまざまなチャネルでインディーゲームのリリースを行いながら、さまざまなイベント出展を指揮してきたキーパーソンとも言える人物です。今回は氏が取り組んできた「日本のインディーゲームを世界に売り出す」という挑戦、そして今後の展望についてお話を伺いました。

インタビュー:一條 貴彰(株式会社ヘッドハイ)

国産インディータイトルを長らく支えてきたPLAYISMブランド

まずは、PLAYISMの最近のラインナップを教えてください。

水谷

最新作としては、2月9日に「BREAK ARTS II」がSteamでリリースされました。また「Artifact Adventure 外伝」というゲームボーイライクなタイトルと、待望の「Strange Telephone」PC版がこの後に控えています。
また、先日Nintendo Switchへの参入も発表いたしました。「トルクル(TorqueL)」を皮切りに、「CroixleurΣ(クロワルール・シグマ)」「ケロブラスター」「返校 -Detention-」といったタイトルが2月から春にかけて順次リリースとなります。

Break Arts II Trailer

Artifact Adventure 外伝 PV

事業内容について詳しくお聞かせください。

水谷

PLAYISMというブランドを掲げているパブリッシング部の事業内容は、海外ゲームを日本語にローカライズすること、逆に日本のゲームをグローバルに届けることです。プラットフォームとしてはSteamとコンソールをメインにしながら、Humble StoreやGOG、自社のPC向けダウンロード販売サイトでの販売を行っています。
ゲーム作品を世に出すための基本的な手続きは全部やっていまして、ものによっては移植や、各種プラットフォーム対応もやります。展示会出展や、メディアへの提案、レーティング、ローカライズなどですね。

もともとはローカライズを中心にやっていらっしゃいましたよね。

水谷

はい、メインはローカライズからはじまり、次にプロモーションとしてPAXやTGSの出展もするようになりました。そういった場所で色々なディベロッパーさんに「何に困っているか?」と聞いたとき、やはりパブリッシングだと。開発チームだけでは、いろいろなプラットフォームや幅広い言語圏でリリースすることに限界があって、そこをサポートしてほしいという声を多く聞きました。
今、さらにサポートを厚くするべく、プログラマーのスタッフを増やしました。「シルバー事件」のリメイクを担当した腕利き達です。

開発サポートの体制も作られたのですね。では、ディベロッパーさんがコンソール移植で困ったときも手伝ってもらえたりするのでしょうか?

水谷

はい、できます。個人的に、コンソールへの移植はクリエイターが一生懸命手をかけるべきではなく、第三者がやってもいいのかなと思っていまして。もちろん、Unityエンジンがマルチプラットフォームに対応しているとはいえ、やはり各機種の最適化や機能の繋ぎこみは必要です。その辺をサポートできる体勢を作っているところです。

日本のインディーシーンの今と、開発資金提供の試み

取り扱うタイトルは増加中でしょうか?

水谷

それについては、実はむしろ減らそうとしています。信じられないほど忙しいのと(笑)、今後はタイトルを絞って、1本1本を大きく販売していく道を模索しているところです。
PLAYISMブランドのパブリッシングを6年半ほどやってきましたが、始めた当時と比べるとインディーをとりまく環境が大きく変わってきています。2010年あたりはまだ、気合の入ったローカライズは多くなかったのですが、今はどこのパブリッシャーでもなかなかのクオリティでローカライズされるようになりましたので…。

比較的小規模な500円クラスの作品でも、しっかり日本語化されて、リリースのスピードも早くなってきましたよね。

水谷

6年前なら「ネイティブが翻訳します」「Steamで出せます」「ゲーム機向けに出せます」というサービスだけで我々の強みになっていたのですが、今はどこもそれが普通になりました。もちろん、インディークリエイターさんにとってはすごく良いことだと思っています。しかしながら、我々の強みは相対的に弱くなったな…というのは正直ありますね。

その背景があり、これからはタイトルを絞る方向性なのですね。

水谷

当初から「日本のインディーゲームを世界で売る」というのが個人的な目標でもあったので、それをさらに強化していくためです。日本のインディー作品は、もっぴんさんの「Downwell」以降、本当にド新人で出てきたクリエイターが世界的にヒットを飛ばした、というパターンが続いていないように感じています。その後続をPLAYISMから輩出するのが当面の目標です。

私も若いロックスターの登場が必要だと思います。

水谷

そうですね、新しいクリエイターの台頭が必要です。しかし課題もあります。現在の日本には、ローカライズしてくれる会社はたくさんあって、パブリッシングもかなり楽になりましたが、クリエイターが育つ環境のほうがまだ追いついてないと考えています。

インディーゲーム開発で成長していける土壌が日本ではほとんど整備されていないと感じます。特に資金面。

水谷

実は、資金面についての模索もすでに始めています。先ほどもご紹介した「BREAK ARTS II」の開発者なのですが、前作ではフリーランスで他の仕事をしながらの開発だったんです。そして、今作からは弊社が開発費を投資しています。決して大きい金額ではありませんが、話し合いをして、1年間開発に集中してやってみましょう、となりました。彼なら前作で実績ができていたので、もっとやりたいという話があるなら、お金を出そうと決断しました。

すばらしいです。いまの日本のクリエイターにはまさにそうした支援が必要です。

水谷

毎年PAXに行って分かったのですが、海外では凄まじいタイトルが毎年出ているんですよ。なぜこんなにすごいのか、ということをいろいろな人に聞いたのですが、理由の一つとして、海外にはインディーゲームに対して投資の仕組みがあり、お金出してくれる人がいることだったのです。開発者は制作に集中できる環境を手に入れるチャンスがあります。
日本ではそうした支援がかなり限定的でして、大きな差があります。基本は本業と掛け持ちだったりしますから、趣味の延長線上からコツコツ続けざるを得ない。そうすると、100%自分の力を作品へ注ぎ込んでいる人と勝負にならないんです。その差は埋めたいと考えていまして、まずは弊社でできる範囲でお金を投資してみようかなと。

私は残念ながら、新人のインディークリエイターへお金を出したいと言ってくれる日本の投資家を見たことがありません…。

水谷

(笑)。我々は稼いだお金を次世代に使うことが、正しい利益の使い方だと思っています。日本には才能のある人がたくさんいて、技術で負けるわけがない。あとは作り続けられる環境を整える。それを一つの仮説として立て、今後解決していくのが当面の目標です。

PLAYISMブランドが大切にしている「インディーならでは」とは

今後はどのようにPLAYISMで扱うタイトルを決めていくのでしょうか?

水谷

一番大事にしているのは、「インディーならでは」と言える、他のゲームにはない魅力を持っているかどうかです。そして、ゲームの動画がYouTubeで何回再生されているかということや、発表時にSNSで話題になったのかどうかといった観点など、いやらしいですが「ちゃんと売れるかどうか」みたいな客観的なデータやプレイヤーさんの期待度ももちろん加味して考えます。
週に数回、下手すれば1日に1本くらい問い合わせが来ますが、まず見るところはこのポイントです。

扱うタイトルを選ぶとき、PLAYISMブランドの中の位置づけや、ラインナップのバランスを考えていますか?

水谷

それはとても考えます。あと、我々がどのタイミングで何を取り扱うかというのはブランドの方向性を定めるので、非常に気にしています。それに、AAAタイトルの完全な真似事とか、クローンゲーム系はすごく売りにくいので、そこに依存していない魅力があるかどうかがやはり大事ですかね。

では、気にするのはやはり「この作品ならでは」というポイントがあるかどうかですね。

水谷

はい。クリエイターの皆さんには、作っている中でコンセプトがしっかりしているかを考えてもらえると嬉しいです。私がもともとコピーライターだった背景からの考え方なんですけど、「キャッチコピーがつけやすいか」という観点が重要なんです。世の中に大量のゲームがリリースされるなかで、どうやって選んでもらうか。そこでキャッチーな、一言で言い切れる何かの存在が必要です。一言の説明を聞いて、どんなゲームなんだろうと興味を引くものがあれば、一緒に仕事をしたくなりますね。

プロモーション関係では、最近どのような取り組みをされましたか?

水谷

直近だと「VA-11 Hall-A (ヴァルハラ)」の事例がわかりやすいんじゃないでしょうか。本作はバーテンダーのゲームなので、コラボバーなどの施策を行いました。プロモーションはタイトルごとにかなり変えます。必要であればYouTuberにもお願いしたりします。

パッケージ販売を行うこともありますね。

水谷

はい。初めて出したパッケージは「CroixleurΣ(クロワルール・シグマ)」でした。パッケージ対応自体はスケジュールが厳しいこと以外そこまで大変ではなかったのですが、そもそも販売するためのその他の手続きが非常に大変でした。

CroixleurΣ(クロワルールシグマ) PS4

日本では、パッケージを販売する場合は店舗ごとの特典を個別に作らないといけない問屋文化への対応が大変です。

水谷

はい。特典の用意は毎回悩ましいところです。でも、パッケージはまた違う側面でプレイヤーさんに届けることができますので、チャレンジしていきたいですね。

海外イベント出展の継続、そして今後の中国市場アプローチに向けて

いろいろなイベントに出展されていますが、今後の予定はどうでしょうか?

水谷

日本国内ではBitSummit、東京ゲームショウ、デジゲー博には顔を出しています。海外はPAXと、台北ゲームショウにも出展しました。

クリエイターにとって、海外の展示会にゲームを出展していただける機会があるのは非常に大きな魅力です。

水谷

PAXは、実はまだ日本からの出展がとても少ないんです。あと、展示会の出展は各地のメディアでどれだけ取り上げられるかが大事だと考えていまして、事前にアポを取って準備をして挑んでいます。

海外メディアさんとのコネクションは多いですか?

水谷

はい、うちでメディアリストを持っています。具体的にはPolygonやRock,Paper,Shotgun、PC Gamerなどですね。

海外方面へどうやって作品をアピールするかは、日本のクリエイターにとって非常に大きな問題です。

水谷

PLAYISMでは、タイトルにもよりますが海外の協力会社さんと組んでプロモーションすることもあります。そして今ですと、やはり中国向けだなと。Steamユーザーの6割が中国ユーザーということが話題ですよね。今は社内に中国語担当のスタッフがいて、中国語のプロモーションに向けて取り組んでいます。

中国PCプラットフォームである「WeGame」への展開などは。

水谷

まだはっきりしたことは申し上げられませんが、一応その辺も見据えています。この先数年後には、インディーゲームにとっても中国市場が大きくなってくると思います。ただ、まだまだダイナミックに成長し続けている地域なので、慎重に進めています。

逆にクリエイターへ向けて、海外を目指したい場合はどういったポイントに注力してほしいと思いますか? 技術的なところではなく、作品性の観点としては。

水谷

技術的でない部分でいえば、ありきたりですが「日本人にしか作れないゲーム」がどこかにあると思いますので、「海外インディーっぽいもの」を無理に目指さずに作ってほしいです。
海外で流行ってるインディーゲームをプレイして勉強するべきだとは思いますが、それに安易に迎合せず、世界観みたいなものをちゃんと持って作りこんでいただければと。

その作家さんにしかできないところを突き詰めてほしいと。例として、これは作家性が高い、ビリビリきた! というタイトルってなんでしょうか?

水谷

最近じゃないし、日本のゲームでもないですけど、「Her Story」ですね。これには度肝を抜かれましたね。考えて分解すると、ありものの組み合わせなんですが、あれを完成させたのはすごいと思いました。あの作品はあの人しか作れないなと。

Her Story PLAYISM

今後の事業全体をこういう方向にもっていきたい、などの展望はありますか?

水谷

先ほどの通り、「日本からヒット作を出す」ということにずっと取り組んでいきたいと考えております。いくつかクリエイターさんと交渉中のタイトルもあります。
そして、イベントにもこないし全然メディアにも出てこないけどすごいタイトルを作っている人が、まだまだいるんだなと最近感じています。どうしたらいいか分からないけどパッションのままゲームを作り出しちゃった、というセンスのとがったクリエイターってまだまだ発掘できると思っていまして、そうした人の支援になれればと思っています。

ありがとうございました。

Made with Unity - 2018年2月23日