インディーゲーム躍進の傍らにゲームパブリッシャーあり。連載「そうだ、パブリッシャーさんに訊いてみよう」第4回は、昨年発足したばかりの新興ブランド「UNTIES」を紹介します。
今回は、UNTIESのキーパーソンである伊東章成氏(以下 イトゥ)と伊藤雅哉氏(以下 伊藤)からお話を伺いました。おなじイトウなれど、バックグラウンドは大きく異なります。伊東章成氏は、もとはソニー・インタラクティブエンタテインメントでPS4/PS Vitaへの日本のインディータイトル誘致をしていた人物です。そして伊藤雅哉氏は、Q-Gamesで世界のインディーゲームイベント事情を見て、京都BitSummitの運営を過去に担当していました。そんなお二人がタッグを組んで立ち上げたインディーゲームのレーベル「UNTIES」について、インディークリエイターさんとどう向き合っていきたいのか、たっぷりお話を伺いました。
インタビュー:一條 貴彰(株式会社ヘッドハイ)
まずは自己紹介をお願いします。
イトゥ
ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)のG&R部門、伊東章成(イトゥ)です。
SMEでインディーゲームをパブリッシュする部門を去年から立ち上げ、私は外向きにディベロッパーさんとの顔役としてコミュニケーションする役割です。
伊藤
同じくG&R部門の伊藤雅哉と言います。私は関西圏で長く働いていたので、関西のほうでイトウと言われたら私のほうかもです(笑)。関西のGIPWestというゲーム業界関係者向けの交流会ではたくさんの開発会社さんとお話しさせていただきました。
イトゥ
私が東の”伊東”で関西と関東でエリア分けしているなんてちょっと冗談でディベロッパーのみんなと話をしています(笑)。それと、昔からあだ名としてイトゥって言われてまして。今でもSNSとかで外向きに名乗っています。(インタビューの表記もこれに準じています)
今回のインタビューにはいらしていませんが、UNTIESのフロント役にはもう1人、John Davis(ジョン・デイビス)さんがいらっしゃいますね。
伊藤
はい、ジョンには主に海外方面の知見共有や調整をやってもらっています。彼はマルチワークスタイルで仕事をしていまして、海外のインディーゲームキャラバンである「Indie MEGABOOTH」を手伝っていて、別のパブリッシャーでもあるDUNGEN ENTERTAIMENTさんでも仕事をしています。
UNTIESの最近のラインナップについて教えてください。
伊藤
我々は去年の10月17日に発足したばかりなのですが、最初のタイトルは「TINY METAL(タイニーメタル)」でした。そして、東方ファンゲームの2作品「不思議の幻想郷TOD–Reloaded-」と「舞華蒼魔鏡」が現在リリース済みのタイトルとなります。
そして、先日のBitSummit 6thで新たに「バトルーン」「ジラフとアンニカ」「Olija (オリヤ)」「マヨナカ・ガラン」の4タイトルを発表しました。
SMEからインディーゲームの事業が始まった理由はなんでしょうか?
イトゥ
きっかけは私の退職でした。もともと私はプラットフォーマーの会社で15年以上働いていたのですが、最後の6年ほどは個人ディベロッパーさんやインディーゲームを誘致する仕事をしていました。
そこで培ってきたことをもっと広く活かしたいという思いがあったのですが、自分が独立したときに、SMEに勤務していた方といろいろとゲーム事業の話をする機会がありまして。そこでインディーゲームの事業を一緒にやるのは面白そうだぞ!という話が生まれたんです。それが現在UNTIESのプロジェクトリーダーである、坂本和則氏さんです。
世間的には、なぜSMEがゲームを?という風に見えてしまったかと思います。
イトゥ
たしかに業界の方からは驚かれましたが、SMEは音楽業界で、インディーズで活動しているミュージシャンを見出してきてヒットを生むという経験も豊富な会社です。才能を見つけてしっかり育て上げて、最終的に売れるところまで持っていくためのノウハウがこの会社にあるなと思いまして。そこが、これからインディーゲームで起こることと非常にマッチしていると思っていて、大変相性が良いなって思ったんです。
それは会社風土も同様で、皆さんにプロジェクトの説明したときも「インディーゲームにはヒットの芽があるということだよね、そこは是非やってみよう」という話がすんなりと通じました。
伊藤
異業界なのに、次のスターはここにいるんだ、という話がすぐに通じたんです。
イトゥ
ここで頑張れば、「インディーゲームは面白くて、盛んで、元気がいい」そんなムーブメントが作れるのでは…という世間へのインディーゲームのアピールにつなげていけると思いました。
私も以前から、音楽業界のアーティスト発掘の仕組みをもっと輸入できると思っていました。
イトゥ
インディーゲームはSteamでセルフパブリッシュもできて作品数も大量にある今、なんらかの目立たせる装置が必要だと考えています。作家さんが生み出した作品がより多くの受け手に届くように、コーディネイトする機構ですね。そのポジションこそパブリッシャーとして我々が手伝っていきたいと考えています。
伊藤
ちなみに部署といいますか役職名となるG&Rですが、これは音楽業界の言葉でArtists and Repertoireという言葉がありまして、アーティストの発掘からプロデュースをやっていく職業を指すのですが、それにならってGames and Repertoire、G&Rという役職なんです。
ゲームファンに対するコミュニティマネジメントも重要ではと思います。
伊藤
はい。コミュニティマネジメントはまだこれからですが、作家さんの一人一人のところに寄り添ったコミュニティ作りができたらいいなって思います。
イトゥ
コミュニティマネジメントの神髄は、いかに作家さんにファンを増やすかというところです。UNTIESというブランドのもと、作品に気づいてその作家さんを新たに好きになる方を増やす活動を手伝いたい。そう考えてコミュニティに向けた拡散を主とした活動を行っています。
そして何と言いますか、クリエイターさんが自ら「俺ってすごい!」って言うのは難しいと思うので、私たちが代弁者として拡散する。そうすることで、彼らは自身すごいところを自信をもって演出できるようになります。
伊藤
「この人すごいでしょ!」とみんなに伝えること、ここがパブリッシャーの役目ではないかと思っています。だから私たちは外向きの活動をしっかりやらせて頂いています。グローバルですごいぞと言われるクリエイターを日本から増やしたいですね。
UNTIESの提供するサービスについて教えてください。
イトゥ
パブリッシャーとしては、当然ながらローカライズや海外展開へのサポートをできるだけ多くやっています。私はプラットフォーム展開の経験がある人間なので、販売でどんな数字面の動きがあるのかと、どういう形でセールを打つと効果的なのかは分かっていますから、その点は的確なサポートができます。
伊藤
私は開発会社につとめていた経験から、Steamでのアーリーアクセスやクラウドファンディングの運用をリアルに体験してきました。なので、いろいろな資金の集め方のアドバイスができます。もちろんクラウドファンディングはかなり準備がいりますし、完成していないものを世に問うのですから覚悟がいります。
イトゥ
クラウドファンディングも含めて、海外で起こっている傾向はジョンもよく把握しています。Indie MEGABOOTHをジョンは手伝っていますから、彼の話は本当に現実味が違います。
そしてSMEの会社のリソースの活用がキーになると思っています。たとえばキャラクターやアイテムが立っていれば、グッズ展開ができる関連会社がありますし、アニメーションにも強い。タイトルが大きく育った段階でその先の活躍を思い描いたとき、どこまでも幅広く展開できるのが我々の強みですね。もちろん、クリエイターの成長に合わせてやっていくことではありますが。たとえば「不思議の幻想郷TOD–Reloaded-」では音楽ライブの開催協力を行いました。
主催はクリエイターさんで私たちはあくまでサポート役だったのですが、ライブの仕込み部隊にソニーミュージックコミュニケーションズのチームが動いてくれています。私たちは、ゲーム開発からスタートしたカルチャーの横の広がりを作ることができるというわけです。
ファンはゲーム以外からも作家さんの世界観に触れたいと思いますからね。
伊藤
他にもサントラ作りましょうかとか、アートブックを作りましょうか、という提案が我々ならできます。
イトゥ
作家活動を続ける源泉にもなりますし、ファンの方が継続的に興味を持ってもらえる。ゲーム作り以外のところでも作品性のアピールをしていって、ファンが作家さんのほうに興味がわいて「これは誰が作っているの?」って思ってくれたらうれしいですね。
BitSummitの「バトルーン」での展示は、会場にソファーが設置されており、活気がありました。
イトゥ
ありがとうございます。ただあれはUNTIESのイベント展開としてはまだまだ第一段階といえるものです。
伊藤
リリース時にはもっと本気のプロモーションを仕掛けていきます。どちらかというと、あれくらいのことは最低限やらなきゃいけないな、と常々思っているぐらいです。PAXなどの海外イベントを見ていると、「今年はあのゲームを遊んでおかないと!」というポジションがあると思うんですよね。そこにバトルーンを当てはめにいった感じです。インディーのマルチプレイゲームは気構えて遊ぶものではないと思っているので、「こういう感じで気楽に遊ぼうよ」という提案も含めてあのソファースタイルにしました。
イトゥ
会場の雰囲気と、私たちのゲームへの思いやブランディングのイメージとして「ワイガヤする感じ」をやりたいなって思いがマッチして、今年は「バトルーン」を推すことがきまりました。来場者にバトルーンのわいわい感が良い形で伝わったと思っています。
海外イベントの出展などはいかがですか?
イトゥ
重視しています。海外展開を目指しているクリエイターさんは、やはりイベントが良いきっかけになります。新発表ができる場でもあり、制作中のタイトル展示であればフィードバックをもらえます。一番はPAXで、他にもE3、Paris Games Week、gamescomなどのイベントに出展していきたいと考えています。
伊藤
イベント出展で大事なのは「賞」です。ベストインディーゲーム賞とか、そういうものですね。こうした賞は公式サイトでのヒストリーや、ファクトシートをつくるときに書けることが増えます。
私は開発会社にいた経験から海外のイベントでどのような賞があるか知っているので、たとえば「この賞狙って、1個でもハクつけようよ」という作戦が立てられます。
海外のイベントでは、韓国BIC (Busan Indie Connect) の受けが出展者からすごくよいと聞きました。
伊藤
欧米からの参加者も含めて、とても評判が良いと聞いています。BICは、もともとBitSummitに参加していた開発者たちが「韓国でも同じことができないか?」と立ち上げたイベントと聞いています。政府から「IT誘致策の一環」として予算が降りているようで、出展者にホテルを提供して、パーティーには無料で入れるし通訳まで用意してくれるそうで。
羨ましい限りです!
これまでのMade With Unityインタビューでは、クリエイターに開発費を投資しているケースもありました。そのような資金面での援助はありますか?
イトゥ
いまのところ、ただただ開発費を提供するスタイルの支援は考えていません。自由制作の応援のスタンスでもありますので。ですが、ディベロッパーさんの資金繰り相談によっては、取り組ませていただくタイトルの想定の売上に対して、事前に売上提供していったり等のサポートを行ってます。
伊藤
他にも、他のゲーム機への移植をするときに開発会社に委託するから費用がかかります、というタイプならばご相談いただきたいと思っています。明確に「こういうサポートがほしい」って掲示して頂いたら、きちんと検討します。
パブリッシャーとして、ゲームデザインにはどのくらいアドバイスをしていますか?
伊藤
ゲームを「触りやすくする」ことについては強めにお願いしています。
海外向けに販売するにはキーボードでちゃんと遊べるようにしないといけませんし、昨今は動画配信者が多いですから、彼らが配信しやすいように作りましょう、というアドバイスなどはさせていただきます。このあたりは開発者さんが気づきにくい可能性がありますので、ちゃんと理由も添えて「絶対にやってください」とお願いします。
イトゥ
ゲームを「販売物」と捉えたときに、ユーザーが物足りないと思う部分や、安く見られてしまうような部分、自身も含めユーザーとして絶対困るぜ、という部分は熱く言いますね。否定と受け取られて制作意欲を落とす危険性があるのかもしれませんが、ゲームを俯瞰して見たときに、受け手により楽しんでもらえるようにと思って言っています。決して一方的ではなく相互作業ですので、それがパブリッシャーだと思っています。
クリエイターさんからよく聞くこととして、「発売から時間がたった作品に対してどのようにバックアップしてくれるか?」という質問があります。
イトゥ
その不安は、私はプラットフォーマー側をやっていた経験上複数タイトルを平行してご一緒する機会もあったのでよくわかります。
シンプルですが、タイトルの寿命を延ばせる一番の策はセールですので、きちんとセールを打って、売上のスパイクを継続的に作ります。また、これは開発者さんに負担がかかることですが、可能であれば追加コンテンツを作ってもらい、本体のセールもそれと紐づけることでプレイヤー母数を増やしていくこともお勧めしています。
伊藤
セールって実は準備がすごく大変なんですよ。
あれこれ画像素材などを用意しなさいって言われますよね(笑)
伊藤
海外のPCプラットフォームなんて山ほどありますから、そこで一斉にセールをやろうと思ったら、すべてのストアで必要なバナー画像が違って、メールでやりとりしなくてはならない。
そういう事務作業は創作意欲が削がれるじゃないですか。我々であればそのあたりもサポートできます。
イトゥ
私はセールをどのように打つと、どう売り上げが伸びるかの知見も豊富ですので、一緒に考えてやっていけます。
伊藤
UNTIESは発足から一年経っていないので、過去作についてはまだ言えることは少ないのですが…各作家の皆さんの次のタイトルまでの間にゲームファンに忘れられてるかも、という不安を埋めてあげたいと考えています。
BitSummitではブースの一角に「Play,Doujin!」ブランド作品のコーナーがありました。こちらはどのようなタイアップなのでしょうか?
イトゥ
「Play,Doujin!」はメディアスケープ株式会社さんが幹事で進行されている同人ゲーム向け活動を指します。このプロジェクトの前身として、最初にPS4で同人作品の中でも特に、東方Projectのファンゲーム作品を出しましょう、と言い出したのは私なんです。言いだしっぺとしても支援の続きとして、東方Projectなどなど、日本らしいインディーゲームを広げていく絵を描くことについては引き続きお手伝いしていきたいと考えて一緒にやっています。「Play,Doujin!」は同人から生まれる日本らしい個性的なゲームを育成するのにいい枠組みだと考えています。個人開発社のゲームを出す環境への自由度が増すべき状況下、インディーサポートのパブリッシャーも複数参加してそれを応援する活動にもなっており引き続きそのような互助会的、アライアンス的活動としてサポートしていきます。
UNTIESのタイトル群は、他のパブリッシャーさんに比べて一番バラエティに富んでいると思います。
伊藤
私たちが見る、「これはこのユーザーに届いたら面白いな」という目線が多種多様なタイトルを引っ張ってきていると思うので、バラエティがある、偏っていないように見えるならうれしいですね。
作品を扱うかどうか、判断する基準は何ですか?
イトゥ
私たちは皆、3人とも好きなジャンルがバラバラなのですが、お互いの感性を大事にしながら一緒に取り組むタイトルを決定させていただいています。私の観点で言いうと「ゲームが最終的にちゃんと出せる状態までもっていけること」「クリエイターさんと一緒に、納得いくプロモーションをやっていけること」を判断基準に置いています。折角作品を作ったのならば、世に問うて勝負してもらいたいと強く思っていますので、そういう志を同じにできるクリエイターさんと組んでいます。
タイトルを選ぶときは、誰かひとりに依存するのではなく、その人の「芽」を信用してベットしている感じです。予算感やバジェット以前に、クリエイター自身の「芽」が見えて、やりたいといえるかどうか。最後までパブリッシャーとしてもフィニッシュまでもっていってあげるモチベーションに
その気持ちがあっているかというのをお互いに確認しあって決めていってます。
責任もって開発者さんとタイトルを売る自信があるか、クリエイターさんを幸せにしてあげる覚悟はあるのか。そこをじっくり考えて、私たちがベストパートナーです、と言える自信を持って活動していくつもりです。
伊東 章成
ソニー・インタラクティブエンタテインメントにてプロモーション、営業、新規事業立ち上げ、を経てディベロッパーとのPlayStationタイトル制作に向けたアドバイス、誘致を担当、インディーゲームの盛り上がりに合わせて、個人ディベロッパーとも広く繋がり、サポートに従事。独立後UNTIESのG&Rとしてディベロッパーのサポートをまた違う立場として活動中。
伊藤 雅哉
国内最大級のインディーゲームイベントBitSummitの立ち上げ当時から4度目の開催まで運営に携わり、Q-Gamesでは国内のPR等を担当。昨年よりソニー・ミュージックエンタテインメント、UNTIESのG&Rとして、また架け橋ゲームズの一員として、インディーゲームとゲーム好きの皆さんの出会いをたくさんつくっていきたいと活動しています。
一條 貴彰
個人ゲーム作家。代表作は『Back in 1995』(Steam)。Newニンテンドー3DS™版『Back in 1995 64』開発中。インディーゲーム開発の他、小規模ゲーム開発者が活動を継続しやすい世の中作りのために複数社からGame DevRelの仕事を請け負う。現在はPlay,Doujin! ディレクターも務める。