リリースされたばかりの新作、『インダーク』は混濁した記憶を取り戻しつつ、海の底へ底へと進むスマートフォンに最適化されたアクションゲームだ。美しく丁寧なドット絵によって描かれた世界は謎に満ちている。
開発を行った「おづみかん」こと小都亮治氏は現在大学生。バンド活動や大学生活の傍でゲームを作っている。今回は小都さんの住まう札幌にて、リリース直前の心境を聞いてみた。
インタビュー: 池和田 有輔
小都 亮治
北海道でゲームを作っている個人開発者。過去に4つのスマートフォン向けゲームをリリースしている。最新作である4作目の『in:dark - インダーク』を現在App Storeにて販売中。
池和田
小都さんのゲームって、どれも作りが丁寧で遊びやすいですよね。過去にリリースしたゲームは『ミカニオン』『パラソルドライブ』『ルインズラン』の3作品でしょうか。
小都
ありがとうございます。そうです、今回の『インダーク』は4作目になります。大学1年の時にゲームを作り初めたので、ゲームを作り始めて2年半くらいになります。
池和田
ということは、かなり早いペースでリリースされてますね。それでこのクオリティは凄い! お1人で作られているんですか?
小都
はい、基本的には1人で作っています。大学生なのでもちろん学校には行きますが、それ以外はずっとゲーム作ってますね。
池和田
ほぼ休みなく?
小都
そうかもしれません。ずっと作ってますね。あんまり計測したことはないんですけど、土日とか何もない日はずっとやってます。もちろん疲れたら休みますけど、それ以外は何かやってます。何がそこまでやらせるんだろうと思いますが…まあ好きなんですよね。
池和田
ちなみに今回の『インダーク』開発期間はどのくらいですか?
小都
今まで開発にそれほど時間を掛けなかったんですが、今回はちょうど1年くらい掛けてじっくり作りました。前作の『ルインズラン』は4ヶ月くらいだったので、3倍くらいかかりましたね。
池和田
大きな作品にしようと思ったきっかけは何でしょうか。
小都
当初はもっとコンパクトなものにする予定でした。でも1年前、初めて『インダーク』のプレイ動画を出したときにすごく反応が良くて、「これなら時間かけて、もっと良いものにした方がいいな」っていう結論になったんです。想定よりだいぶ大きくなり、本当に長かったなあと思ってます。
池和田
下に向かってスクロールするゲームって結構珍しいと思いますが、その辺りはプロトタイプの時点で決まっていましたか?
小都
はい。実際は水中を潜って行くんですが、その辺りはずっと変わってません。でも当初はただの避けゲーという感じで。そこから明確な世界観やストーリーを考えて、今は水の底に隠されている秘密を探る、みたいな感じになりました。
池和田
今回は今までの作品より彩度を落としてミステリアスな絵作りをされてる印象を受けました。
小都
その辺りはわりと試行錯誤がありました。海外のカッコいいドット絵を見て、どんな風に作るのか参考にしたりとか…。ずっとドット絵のゲームを作りたいって思ってましたが、実際に描き始めたのはゲームを作り始めた時、だから『ミカニオン』が最初なんですよね。ドット絵って本当に奥が深いなあと思ってます。
池和田
描く上でのこだわりはありますか?
小都
それでいうと、ドットにこだわりたくないなというのはあります。今は画素数が増えて綺麗なグラデーションが描けるわけですから、1ドットに全ておさめる必要はないということですね。光などは解像度が違うものが混在していた方がより柔らかい表現になりますから。
池和田
わかります。ピクセルパーフェクトにせずに、今だからできる表現をしようということですよね。ユウラボさんも同じことを仰ってました。
小都
いろんな作品から影響を受けて今のような表現になりましたが、今回は特に光の表現には気を使いましたね。柔らかさとか暖かさを出したかったので。
池和田
ストーリーがとても気になります。
小都
今回はシナリオに感動して欲しいなあとか驚いて欲しいなあって思いながら作ってました。プレイしていくと、徐々に謎が明らかになっていくような感じにはなっています。ただ、シナリオ的なものはゲーム内ではあまり語ってないんですよ。
池和田
説明しすぎないことがむしろ重要、みたいな?
小都
そうですね。死んだときに持っていた、ゲーム内の通貨的なものでステータスを上げられるんですが、能力を上げると、記憶が1個、ポッて復元されて、まあ1枚じゃ全然わからないんですけど、だんだん開いていくとストーリーが見通せる感じになってます。
池和田
そういえば『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』では写真の場所に行くことで過去に起きた出来事がわかりましたよね。
小都
実を言うとですね、ゼルダには少しびっくりしました。「ああ、これ…そうなんだ」って。
池和田
アイディア、被ってました?
小都
被っちゃいましたね。でももちろんパクったわけではないです(笑)。
池和田
そこはここでちゃんと言っておきましょう。パクったわけじゃないと(笑)。それはさておき、1枚絵のイラストといえば小都さんはTwitterでたくさんイラストを公開されていますよね。ゲームに出てくる女の子のグラフィックとかで、きれいなドット絵のイラスト。あれも復元された記憶のピースなのでしょうか?
小都
いや、あのイラストはほとんど使わないと思います。『こういう作品』ということを世間に知ってもらいたいなあとは思いますが、描きたいから描くというか。ゲーム内で使うつもりで描いているわけではないんです。世界観を広げるためのコンセプトアートというか、そんなノリで描いてましたね。
池和田
現在はもう開発は一段落という感じですか?
小都
はい、と言いたいところですが、まだラストスパート中です。実は先月のBitSummitの時からいろいろ変わってるんですよ。ゲームのルールとしてわかりづらい部分があり、けっこう作り直しました。
BitSummit
毎年京都で行われている、日本最大級のインディペンデントゲームの祭典。2017年は5/20~21にみやこめっせで開催され、100を超えるインディーゲームの展示が行われた。一般来場者は入場チケットさえ購入すれば、すべての展示ゲームを自由に試遊して回ることができる。
池和田
会場で試遊した方からのフィードバックを元に?
小都
はい、やっぱりわかりづらい部分があったようで、チュートリアルはだいぶ作り直しました。システムもより簡潔になっていると思います。
池和田
テストプレイは本当に重要ですよね。個人開発だと特に「良いのか悪いのかわからん!」みたいな状況になりやすいし。
小都
そうですね。友達とかに頼んでも、ある程度ゲームをやっている人だったりするので。BitSummitで初めて僕のゲームを見て、初めて触る人の意見というのはすごく貴重だと感じました。特にダウンロードゲームだと、世界中のどこか知らない人がダウンロードして、何も知らない状態で触るのが前提だと思うので、かなり気を使う部分ですね。正直に言うと、BitSummit出なかったらちょっとヤバかったかなあと思っています。
池和田
あのイベントは、本当にいろいろな人が居ますからね。ふらっと来た家族連れとか、カップルとか。
小都
課題が生まれはしたけど反応自体はかなり良かったし、とりあえず僕のゲームがイベント出展に耐えれるものだと思ってそれは自信になりました。やっぱり外部の評価というのは嬉しいですね。
池和田
イベント自体は楽しめましたか?
小都
楽しかったですよ。ただブース出展側になると、忙しくて全然他のところ回れないのが辛かったです。作曲担当のはるまきごはんとお手伝いの人連れて3人で北海道から参加したんですが、僕がほとんどブースに付きっきりで、あんまり回れなくて。そいつらは結構回ってたりしてたんですが(笑)。
池和田
あらら。イベント出展は今回初ですか?
小都
そうですね。初めてのイベントでした。開発者の方々、名前はよく知っているものの誰とも会ったことがなかったので、初めましての方ばかりで。緊張しまくりでした。Twitterでいつも見ている人が、周りにいるのがもう…。
池和田
ちなみに誰に会えたのが一番嬉しかったですか?
小都
一番だと誰だろう。うーん、本当に憧れの人たちばかりで…。あ、一番びっくりしたのはtakaokaさんですね。メッチャ優しい人じゃないですか。いつも世間に切り込んでいく、すごい人だなって思ってたんですが、会ってみたら本当に優しい人で、びっくりしました。
池和田
takaokaさんのTwitter面白いですよね、相方の、えーと…。
小都
池和田
そうそう、あの二人が作ってる新作、とても面白そうですよね!
小都
『サムライ地獄』メッチャ面白かったです。みんなで机囲んでやりたい感じがありますよね。
『サムライ地獄 九天魔城の謎』
ローカル協力プレイが特徴的な、古き良きターンベースのシミュレーションRPG。takaokaさんとハフハフ・おでーんさんの二人組チーム、スカシウマラボによって開発中のタイトルで、BitSummit2017に展示されていた。PC・スマートフォンなどのプラットフォームでリリースを予定している。
池和田
自分が作ったゲームを知ってもらうのって、今だとやっぱりSNSがすごく重要だと思うんですが、どのように広がっていくのが理想だと思いますか?
小都
そうですね…。過去のゲームを買ってくれた人とか、友達とか、最初に何人か買ってくれる人がいるのは間違いないんですけど、そこから広げるには「この作品が良いから広めたい」っていう人が必要ですよね。
池和田
そのためのトリガーとなるようなものを考えたりしますか?
小都
今回でいうと、記憶のイラストを見て絵を描く人たちが何か描いてくれたりして広まったりしたら良いなあという気持ちはありました。イラスト界隈の人に響いて何か描いてもらい、それで広まるのは僕も嬉しいですから。
池和田
なるほどね。Twitterにアップされている絵はそういう意味もあったんですね。
小都
それからシナリオも、思いもよらない展開があれば驚いたって人が広めてくれたりしますよね。
池和田
驚くべき展開とかドンデン返しとまではいかなくとも、続きが気になってつい夜遅くまで遊んじゃうようなゲームって理想的ですよね。
小都
受け取り方は人によって変わるでしょうけど、『インダーク』にはちょっとオチのようなものはあります。でもどう受け止められるかは本当にわからないんですよね…。本当にリリースしてみないとわからないので、賭けのようなところはあるかなあと思ってます。
池和田
プレイヤーの反応が楽しみですね。
小都
そうですね。リリース前っていつも少し不安があるけど、楽しみです。フリー・トゥ・プレイじゃなく有料販売にしたのも初めてで、それについての不安もちょっとあります。
池和田
それはどういった理由なんでしょうか?
小都
これだけ時間を掛けて世界観やシナリオを考えたので、そこに広告があるのはどうなんだろうって思っちゃったんですよね。
池和田
じゃあ、いままでのゲーム以上に「自分の作品」という思いを強く感じられているんですね。
小都
はい、自分のテイストが強く出ていると思います。長い時間をかけた分、今までよりも良い作品になっていると思うので、ぜひ多くの人にぜひ遊んで欲しいです!
池和田 有輔
フリーランスとしてWEB制作・広告制作のキャリアを経て、2013年からRépublique開発チーム(Camouflaj, LLC.)に参加。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社に入社後はエバンジェリストとしてUnityの伝道活動に携わってます。