『ガンナーオブドラグーン』はVR空間上に美しく描かれた夕闇を背景に、飛竜にまたがって敵を打ち倒すシューティングゲームだ。過去、多くのイベントに出展し、関心を集めてきた期待のタイトルである。VRゲームに興味がある方なら一度は耳にしたことがあるのではないだろうか。
最大の特徴は改造したロデオマシン(本来は健康器具)の動きがディスプレイ内のドラゴンと連動し、より深い没入感を得られるようになっている点だ。開発者である渡部氏はサークル ハイドレンジャーの「野生の男」として活動し、ゲーム会社で働く傍らで個人開発を行っている。
インタビュー: 池和田 有輔
渡部 晴人
島根県松江市出身。2011年松江高専 専攻科卒。2013年の松江市在住時にサークルハイドレンジャーを立ち上げ。2016年より上京し現職のゲーム会社へ所属。Oculus RiftのKickstarterのバッカーとなって以来VRゲームの開発を始め、現在『BLAST BUSTER』『ガンナーオブドラグーン』をともに1人で開発中。
池和田
『ガンナーオブドラグーン』は開発中のタイトルではありますが、今までかなり多くのイベントに出展されてますよね。
渡部
はい、過去に出展したイベントを時系列順に並べるとこんな感じです。
池和田
……めちゃめちゃ多いですね。というかこんなにVRコンテンツが発表できるイベントがあるのが驚きです。
渡部
そうですね。なんか他にも出展したような気がするんですが。
池和田
では思い出したらインタビュー後に伝えてください(笑)。特に印象的なイベントはありましたか?
渡部
それぞれ印象深いんですが、1つ挙げるとするならUnityさん主催の「Unity VR Expo Shibuya」でしょうか。
池和田
ありがとうございます。なんだか気を遣っていただいたような……。
渡部
いえ、本当に。というのはVR Expoが初めて相対的な評価をもらえたイベントだったんです。それまではただ展示しただけでしたが、投票で21組中2位になったんで、「ああ、本当に楽しんでもらえたんだな」ということがわかり、その後モチベーションが上がりましたから。
池和田
その後、BitSummit 2016、Unity VR Expo Akibaで立て続けに賞を取って、以後何かしらの賞があると確実にお土産を持って帰るような感じですよね。
渡部
まあ、アワードがあるものは一部ではありますが。でもそろそろイベント出展を控えようとも思ってます。
池和田
それは開発に専念するということでしょうか?
渡部
そうですね。その前に並行して開発している『BLAST BUSTER』のリリースも予定しており、まだまだやることは沢山あります。完成までは展示を減らしても良いと思っています。
池和田
渡部さんはさまざまな開発者さんと交流があると思いますが、特定のコミュニティへの帰属意識みたいなものはありますか?
渡部
それでいうと、インディと言うよりは同人ゲーム開発者の方ですね。特に『東方Project』のZUNさんには上京した時から仲良くさせていただいて、影響はとても大きいです。
池和田
お一人での開発にこだわっているのも、その影響ですかね?
渡部
確かにそうかもしれません。僕は島根出身で学校も地元の高専でしたが、周りに学生のゲーム開発コミュニティがなかったというのもあって、学生時代にゲームを作るっていう発想自体あまりなかったんです。そんな中、高専2年生の時に『東方Project』に出会ったのは大きかったですね。『東方』もZUNさんが東京電機大学の学生だった時のPC98版が最初だったんで、一人でフルゲームを作るっていう実例を見たっていうのは本当に、僕の人生に大きな影響を与えてますね。
池和田
では、仕事としてゲーム業界に行くっていうのも自然な流れだったんですね。
渡部
それが、働き始めたばかりの時は仕事としてゲームを作る気があまりなくて、地元に誘致されてきたソフトウェアの会社に就職しました。基本的にはFlashやHTMLでゲームを作ったり、PHPでシステムを作ったりしてましたね。
池和田
当時、印象に残る仕事はありましたか?
渡部
島根県の産業技術センターがGesture-Camっていうシステムを開発したんですが、いわゆるデプスカメラを使って手などをトラッキングして入力として使えるものだったんです。Flashを使って京都太秦映画村に納入するFlashコンテンツのデバッグをしたり、アドテックに展示するものを作ったり、いわゆるデジタル・サイネージ系の仕事です。当時はKinectもなかった時代でした。
池和田
島根県がそんなにエッジの効いたことをやっていたんですね。
渡部
確かにこの話はあまり知られてはいないと思います。今にして思えば、特殊なデバイスを使ったゲーム開発という意味では今やっていることに通じるきっかけだったのかもしれません。
池和田
このゲームのアイディアはどこから生まれたんですか?
渡部
もともと『パンツァードラグーン』が大好きで、その精神的続編である『クリムゾンドラゴン』のリリースを楽しみにしていたんです。当時のアナウンスでは初代Kinectに対応とのことだったので、発売日の2012年の6月に合わせてSonyのHMZ-T1、Kinect、それからロデオマシンを揃えて遊ぼうと思ってました。要するにリビングで自作DIYによるバーチャル環境を作ろうとしていたんです。でも、MSのハード戦略変更の影響で、Xbox Oneに移行してしまい、Kinect版の発売が中止になってしまいました。
池和田
では、リリースされないのなら、自分で作ってしまおうと?
渡部
そうです。Oculus RiftがKickstarterでファンディングを開始したのがその後2012年の8月だったのですぐにバッカーになり、DK1(注:Oculus Riftのプロトタイプ)を手に入れました。
池和田
逆に言うと、そのKinect版が予定通り発売されていたら開発はスタートしなかった?
渡部
多分、作ってないですね(笑)。
池和田
それにしても自分のために作ったコンテンツが周囲の評価を受けて製品化を目指すって、すごく幸せな展開ですよね。
渡部
確かにそうですね。特に本作は尊敬するゲームクリエイターにも体験していただき、多くのフィードバックを得ることができました。
池和田
開発をUnityで行うことは最初から決まってましたか?
渡部
はい。VR開発を始めたのはDK1の頃だったので、Unity一択でした。最初にUnityを使ったのは学生の頃で、夏休みの演習でしたね。バージョン2.6の頃です。
池和田
早いですね! 僕はその頃存在すら知らなかったですよ。ちなみに当時、日本語の情報はあったんでしょうか?
渡部
ええ、崇城大学の和泉先生が和訳したドキュメントがオンラインで公開されていました。
池和田
ああ、それは既にあったんですね。
渡部
でも周囲で使っている人はほとんどいなくて。Twitter上でUnityをめっちゃ推してて変人扱いされてました(笑)。
池和田
開発する上で困難はありますか?
渡部
技術的な問題で開発で詰まることはほぼないんですよね。ただ、難易度どう振るかとか、ゲームデザインはまだ詰め切れていないです。例えば、ポストエフェクトでダメージを視界を赤くするとか、ドラゴンにエフェクトをつけることでダメージを表現するとか、HUD的なものは極力入れない方向で考えています。
池和田
ウェポンの種類も増えるんですか?
渡部
考えてはいるんですが、武器変更するとなると持ち替えをどうするかという課題がありますし、まだ検討中ですね。ステージ側に仕掛けがあってそれを使って敵を殲滅するような専用ギミックも考えています。
池和田
自機の弾をロックオン性にするというのは?
渡部
かなりやってみたい要素ではあるんですが、ロックオンは爽快感が出にくいですよね。加えて現状のファーストパーソン視点だと見てない部分にもレーザーが飛んだり、視点の問題や見た目の問題があるので、これも検討中の要素という感じです。
池和田
アーケードゲームのように、いわゆる面クリ型の構成になるのでしょうか?
渡部
そうですね。ステージの最後にボスがいるようなものにしたいとは思っています。
池和田
ストーリーについては?
渡部
大まかなストーリーは考えてはいるんですが、詰めるのはこれからですね。ただ、ゲーム内では物語の流れがわかるくらいにとどめ、積極的に語るようなことはしないつもりです。そのステージの構成や敵の種類などからストーリーラインがなんとなく伝わるようなものが良いかなと思ってます。過去のアーケード作品、例えば「ダライアス」や「R-Type」もそうですよね。
池和田
となると、多くのステージや敵キャラが必要になりますよね。
渡部
その辺りのコストは上がらざるを得ないので、どこまでいけるかなってのは一つ、挑戦ですね。
池和田
VRゲームとしての快適さをかなり重視したゲームだと伺いましたが、具体的にはどのような工夫がありますか?
渡部
ユーザーが意図しない方向への移動をなくした上でステージを開けた空間にすることで、移動している感覚を意図的に少なくしています。ただ、それだけでは移動している感じが弱いので、空気中を舞っているパーティクルで補っています。酔いは主に移動量と視覚のズレによって起きるので、パーティクルのように視覚の面積に占める割合に対して小さなものを細かく動かすことで、移動方向を明確にしつつベクションを少なくするというアプローチを取っています。
池和田
パーティクルは雰囲気を出す上で効果的だと思ってましたが、そういった意味もあったんですね。
渡部
はい。でも移動に関してはそういった工夫はあるにせよ真っ直ぐ進むだけなのシンプルな構成です。だからユーザーさんがなぜ爽快感を感じるのか僕自身、不思議ではあるんです。VRゲームって本当に必要なものとそうでないものが、思ってた以上にはっきり分かれているということかもしれません。その意味では「自由に動き回りたい」というリクエストもあるにはあるのですが、まあ実現は難しいし兼ね合いを考えるとかなり優先度が低い要素だと思っています。展示などを通じてユーザーさんから教えられる部分は非常に多いです。
池和田
海外展開は考えていますか?
渡部
ええ。むしろ海外がメインだと思っています。『パンツァードラグーン』は海外での人気がとても高いタイトルですし、僕も特に北米のゲームファンには強い親近感を覚えています。彼らの反応が今からとても楽しみなんです。
池和田 有輔
フリーランスとしてWEB制作・広告制作のキャリアを経て、2013年からRépublique開発チーム(Camouflaj, LLC.)に参加。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社に入社後はエバンジェリストとしてUnityの伝道活動に携わってます。
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