2017.08.23
ゲームの仕事 20年の軌跡と反省
宮下 英尚
人形の傷跡
Child-Dream

子供の頃、マイコンが出現しBASICに熱中。ファミコンでは「オホーツクに消ゆ」「ドラクエ」。漠然とソフトウェアを作る仕事をしたいと思ったが、大学でプログラマ、理系の研究者の優れた人の姿を見て、敵わないと感じた。
だが、ゲームを仕事にする気は無く、むしろ、あまりの怠惰と決別するためゲームを全部捨てたこともある。今思えば、勉強せずに「クロノトリガー」を徹夜でやっていた時間はむしろ財産だった。

1997年~ 突然の転機

1997年発表「Lost Memory」。作曲家AIさんのピアノ曲も話題に。

かといって何を仕事にすべきかは全く見えず、大学院に進学。Windows95とインターネットが普及しつつある頃、RPGツクール95で「Lost Memory」を作った。
初めて売れた時は忘れられない。それは自分が作り出した無形のものにネットの先にいる顔も知らない誰かが価値づけてくれた瞬間であり、その人は1000円を使ってちょっと豪華な昼食を食べられるのに、それを私のゲームの続きを遊ぶことを選んでくれた。しかも振込などの手間を割いて…。そう思うと気持ちが高ぶり、もっとゲームを作りたくなった。

初のミステリーとなるADV「人形の傷跡」は推理小説専門誌に掲載、ネット上の過去のコンテンツを参照するAR(Alternate Reality=代替現実。現実でのプレイヤーの行動により作中で物語が進行するなど、日常世界と物語世界が相互に干渉し合うことが特徴)の要素がある「ANGEL WHISPER」を制作。「YU-NO」など菅野ひろゆきさんの作品に傾倒していた。窓の杜など多くのメディア、雑誌で評価され、制作団体だったChild-Dreamを法人化して、ゲームを仕事にすると決めた。

ゲーム作家の遺作そのものをプレーする「ANGEL WHISPER」。なぜ遺作なのか?

オリジナル作中心で受託や協業の比率は少なかったが、プロバイダへのゲーム提供を行ったり、携帯ではi-mode全盛となり、大手企業から受託して既存作を移殖した。法人化したとはいえ漫画家の事務所に近く、自分以外に専業者は頼まず、身軽さを心がけてリスクを取らなかった。PCや携帯を対象に制作を行っていたが、以前より家庭用ゲーム機向けのゲームを作りたいと思っていた。

2005~ FolkSoul(フォークスソウル)への参画

(C)2007 Sony Computer Entertainment Inc. All Rights Reserved.

シナリオを任せてもらえるゲーム機のプロジェクトを探した。幸いにもゲームリパブリック社で新規タイトルがあり、インディーズでの実績を評価いただきシナリオライター兼プランナーとして入社。これまでの活動は一旦休止して、専念する。

PS3ローンチタイトルのアクションアドベンチャー「FolksSoul~失われた伝承」はアクション性の強いゲームながら、複雑なシナリオを盛り込ませてもらった。ケルトの異界航行譚をモチーフに寒村での殺人事件の謎を追いながら、異界のファンタジー世界を死者の魂を求めて旅する。PS3があるうちに男女の主人公によるダークファンタジーとサスペンスをお楽しみいただきたい。

女性主人公のエレン。覚醒して異界(死後世界)に向かえるように。(C)SCE

ゲームリパブリック社にはその後もお世話になったが、あまり貢献できず心残りだ。ただ、今でも海外含めてフォークスソウルを最後までプレーした方の評価は高く、シナリオに感動したという感想を目にする度、多くの人が関わった開発だけにほっとする。また、個人的には今の制作仲間はフォークスソウルがきっかけで私に声をかけてくれたので、縁を運んでくれた一本である。

フリーランスが長い私にとってゲムリパ時代は例外的で貴重な経験だった。普通はゲーム会社に勤めた後に独立するので、逆は珍しいだろう。今、学生の方でゲーム業界で働くと決めているなら環境の良いゲーム会社に新卒で入社するのも良いし、できれば、その前に自分でUnity等でゲームを作って公開するべきと思う。そのことで自分の適性が分かるし、スキルも上がる。ゲームを仕事にする準備と判断がじっくりできる。私は高校や大学の頃にそれを行わなかったことが残念だ。

自分の脚本で美しいムービーが作られるのはうれしいことだが、シナリオを少し動かすことであらゆる部門に工数が発生し、多くのしがらみがある。インディーズだと全て思い通りの良さはある。どちらも違った大変さとやりがいがある。

2009~ 運用とクリエイター

ゲムリパ退社後は受託で脱出ゲームやRPGなどを作っており、仕事には恵まれていた。だが、フリーになったことで趣味だった投資運用に本格的にのめり込み、やがて収入がゲームのそれを超えて、本業副業が逆転してしまった。これまでの、ゲームを作り評価されること=仕事として生活のためのお金を得ること、というシンプルな図式が崩れた。お金のためにゲームを作っていたわけではないが、それでも制作から心が離れてしまったのは今思うともったいない。運用しなければ、もっとゲームで稼ぐ必要があるので、時代に合った収益に結びつく企画を考えねばならない。これは当然のことであり、発想の源泉でもある。その努力を怠ったとも言える。

ただ、扶養家族が多い身としては、運用の成果は大きいのも事実で、子供との時間を十分に持て、ゲーム制作をビジネスと切り離すことが可能となった。投資運用は簡単にお勧めできるものではないが、すぐに結果を求めずに小規模から経験を積むことが大切だろう。市場の順風もあり、長年有料だった「人形の傷跡」の無料公開を決断した。

2013~ 完全無料での公開の意義は?

スマホでリメイクとなる「人形の傷跡」は25万DLを超えた。その後、「ANGEL WHISPER」、新作として極限の雪山を舞台としたサスペンスノベル「緋染めの雪」を公開(ダウンロード)。高橋道雄九段出演・監修の将棋ミステリー「千里の棋譜」。PCではRPG「Creatures~生きとし生けるもの達へ」をツクール開発部に提供。

全部無料で広告なしである。運用をベースに非営利化する制作モデルは類例はないだろう。
個人的には昔からコンテンツは有料であるべきと思っているが、状況が可能ならば、昔ほどこだわる必要はなく、より多くの人に遊んで喜んでもらえれば幸いに思う。

Android版『千里の棋譜』のレビュー。将棋ファンでない方からも高い評価を得た。

収益を断つことはプロとしての観点では葛藤はあったが、私たちのユーザーが心を込めて書いてくれたレビューはスマホアプリでも随一だと誇りに思っている。昔のPC時代に子供だったユーザーが30歳前後の立派な大人になって今連絡をくれることも多く、良い影響を与えていたと知るとうれしい。

「千里の棋譜」は特に力を入れたものだ。子供の頃から親しんだ将棋をテーマに物語を作り、その魅力を伝えるものを目指した。私には珍しく人が死なないミステリーで内的な苦労もあったが、今年完成。渡辺竜王が全プレーしてくれたり、加藤一二三九段からお褒めの言葉を頂いたり、将棋ファンとして幸せなことが多々あった。将棋ブームなので、今後も広く展開していきたい。

2017~ 今後、何を作るのか?

運用は経験的に確立した手法があるので、今は時間を使う必要がなく、熱は冷めたようだ。逆にゲーム制作は失敗も多く、常に暗中模索だが、続けているのは、やはり面白いのだろう。ただ、現在は保守的すぎると思う。例えば、ずっとシナリオ重視のゲームを作っているが、そこから離れて全く新しいものを作ってもいいし、家庭用ゲーム機への再挑戦を模索してもいい。冒険していきたい。

最新作はある科学系機関から依頼されたRPG。私がゲームの仕事を選んで飛び出した研究室の先輩を通じて依頼されたもので、私のことを覚えていて声をかけてもらったのがうれしい。難しいテーマだが、当時の先生にもご迷惑をかけたので意義深いものにすべく取り組みたい。また、昨年立ち上げに携わった「将棋の森」を舞台としたリアル謎解きイベントの制作も楽しみだ。

既存作のシナリオも展開を模索したい。協業する場合はもちろん無料路線にお付き合いいただく必要はないので、法人個人問わず、興味ある方はお気軽にお声がけいただきたい。
ツイッターまたはmysta [at] child-dream.netまで。

最後に本稿では書かなかったが、私の制作は当初から支えてくれる方々によって成り立ってきた。制作仲間とユーザーの皆さんに感謝の気持ちを込めて、今後も意義ある制作活動を続けることを宣言したい。

プロフィール

宮下 英尚

ゲームプランナー/シナリオライター/投資家。物語を重視したRPGやアドベンチャーゲームがヒットし、株式会社Child-Dreamを設立。PS3『FolksSoul~失われた伝承』では全シナリオ担当。他、人気棋士が出演する将棋ミステリー『千里の棋譜』など独自制作多数。長年の制作と運用の結果、ゲーム公開の非営利化を実現。ゲームと物語の可能性を追求し、人の心に深く残るものを作り続けることがライフワーク。

人形の傷跡

Child-Dream
  • アドベンチャー
  • ナラティブ

プラットフォーム

  • iOS
  • Android
  • Windows

言語

  • 日本語
  • 英語
  • appstore
  • googleplay
  • steam

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