パブリッシャーインタビュー「コーラス・ワールドワイド」

そうだ、コーラス・ワールドワイドさんに訊いてみよう

インディーゲーム躍進の傍らにゲームパブリッシャーあり。連載「そうだ、パブリッシャーさんに訊いてみよう」第3回は、一風変わったタイトルのパブリッシングを担うコーラス・ワールドワイド合同会社の登場です。

インタビューに対応いただいた大柳竜児氏、二宮文月氏はともに外資系コンソールゲーム機のパブリッシング畑で10年以上活躍してきたベテランです。そんな二人がインディーゲームに舵を取り、ゲーム機・モバイルに向けて様々なインディーゲームの支援を行ってきました。その経験則から、世界に売っていきたいインディーゲームに求められていることと海外情勢、そして今後の展望についてお話を伺いました。

インタビュー:一條 貴彰(株式会社ヘッドハイ)

『The Room』アジア圏でのヒットを支えたコーラス・ワールドワイドとは?

初めに自己紹介をお願いいたします。

二宮

コーラス・ワールドワイドの二宮文月と申します。制作周りを担当しています。弊社で取り扱うタイトルが決まった後に、開発チームからソースコードをもらったり、翻訳データを用意したり、スケジュールを切ったり。翻訳についてはボリュームが小さいものであれば自分でやっていますし、大きいものであればフリーランスの翻訳者さんに頼んでやっています。

大柳

大柳竜児と申します。PRやディベロッパーとのリレーションシップをとる役割をやっています。
弊社はあともう一人、バンクーバーにいるCEOの金親とあわせて3人の会社です。実は二宮とは、以前ある海外ゲーム会社の日本支社につとめていまして、そこからの知り合いです。仕事としてずっとゲームローカライズやPRをやってきています。

御社の主力のラインナップは何でしょうか?

大柳

現在の主力タイトルはスマートフォン向けの「The Room」「The Room Two」です。
弊社では日本、中国、韓国、台湾、香港、シンガポール地域の販売を担当しています。

The Room Two

二宮

現時点でシリーズ合計500万ダウンロードを越えていまして、おかげさまで中国からかなり多くの反響を頂いています。中国にはGoogle PlayがありませんのでAndroid版は現地の企業と組んで配信をしているのですが、それも入れると1,000万DL越えてしまう規模です。

すごい規模ですね。

二宮

「The Room」はアジアでは3年前に配信したタイトルなのですが、未だに定期的な売り上げがあります。 しかしながら、「3」以降はパブリッシャーが変わることになったので、そんなこともあり、今現在は弊社タイトルの展開を見直しているところです。今後はモバイルメインからSteamとNintendo Switch、PS4、Xbox One向けに力を入れていくつもりです。

大阪在住のイタリア人開発者が作ったゲームから、シニカルなUKのアドベンチャーゲームまで

ではPCやSwitch向けでは、どんなタイトルを予定していますか?

大柳

弊社タイトルでは先ず「RPGolf」がSteam版を予定しています。

二宮

「RPGolf」は大阪在住のイタリア人開発者が作った、その点からもユニークなゲームです。コーラス・ワールドワイドが始まった早い段階からお話をしていたタイトルで、先にiOS版、Android版がリリースされています。

RPGolf

大柳

他にも「バートラム・フィドルの冒険」というアドベンチャーゲームの第1章をNintendo Switchでリリースします(3月29日配信予定)。いわゆるポイントクリックアドベンチャーで、謎解きよりは会話を楽しむゲームです。イギリスのアニメーション会社が作っていまして、絵周りがすごい良くできているんですよ。

バートラム・フィドルの冒険 EP1

イギリスっぽい毒がありそうなビジュアルですね。

二宮

もう毒だらけです(笑)。ダジャレが大量にあって訳すのが難しかったのですが、翻訳者さんがすごい頑張ってくれました。今後もUKのタイトルを取り扱っていく予定です。欧州では大手の開発会社に勤めていた方たちが独立してインディーゲーム開発を始めるパターンが多く、弊社の代表がUKにコネクションが広いので、自然とUKタイトルが多くなるんです。

メディアやプラットフォーマーとのコミュニケーションを綿密に

御社のパブリッシングサービスの内容についてお教えください。

大柳

我々のビジネスは、タイトルのライセンスアウトを頂いて、グローバル、ないしはアジア地域でパブリッシングさせて頂くというものです。基本的に翻訳と、日本語音声の収録作業も行っています。他社さんの依頼もやっていまして、最近では日本のアニメをモチーフにした作品に対して、日本の声優さんに依頼するなどのコーディネートをやっていました。

パブリッシュだけでなく、部分をお手伝いすることもあるんですね。

二宮

はい、タイトルリリースに関するコンサルもやっています。海外からは、パブリッシャーは決まっているのだけれど、日本でリリースする方法が分からないという相談がよくあります。そこで私たちが翻訳や音声収録のお手伝いをし、もちろんCERO審査への提出も行います。そしてPR活動ですね。私たちは今まで大手でPRをやってきましたので、国内ゲームメディアさんと太いコネクションがあります。

メディアさんへのコネクションが強みなのですね。

二宮

我々が力を入れているのが、プラットフォーマー様との継続的なコミュニケーションです。 Apple、Google、任天堂、ソニー、マイクロソフトといったプラットフォーマー様に対して、常にリリース時期やタイトル内容の共有をしています。しっかり事前に「こんなタイトルがあります」と伝えておくと、ユニークなゲームであればフィーチャーに取り上げてくださることがあります。リリース後も、アップデートのタイミングで「今日のゲーム」というページに取り上げていただける確率もあがります。最近の「RPGolf」では、App Storeの一番上のビッグバナーをグローバルの主要な国で獲得することができました。

プロモーション活動はどのようなことをしていますか?

大柳

基本的にはプレスリリースを送って、メディア編集部へ訪問するドサ回り活動をやっています。いわゆるプロモーション予算をドカッとやるパターンは今のところやっていません。私たちの経験則として、小規模のタイトルでは雑誌広告などの従来型のプロモーションをやっても効果が薄いと考えています。そのかわりに、TOKYO SANDBOX東京ゲームショウなどイベントには進んで出展します。

インディーは世界的にSwitchに注目

ゲーム機への移植はクリエイターさん自身に任せますか?開発会社さんに依頼しますか?

大柳

ケースバイケースです。例えば「バートラム・フィドルの冒険」はイギリスのタイトルですが、実はSwitch移植は日本で行っています。フリーランスのエンジニアさんを雇って弊社で行いました。また、Switchの場合、開発スタジオ側で移植作業される場合は、任天堂さんとスタジオの仲介役もやります。

二宮

ブラジルの開発者が作った「No Heroes Here」というタイトルは、イベントで見つけたときはまだSteamリリースだけでした。私たちはSwitchにすごく向いているなと思ったのですが、彼らは任天堂とのつながりがない。そこで、私たちのアジア圏でのパブリッシングを条件に、任天堂とのセットアップは全て弊社に任せて、というかたちで契約させてもらいました。インディーゲームクリエイターはSwitch向けにゲームを出したい人が多い印象です。

日本のクリエイターさんもSwitch展開を前提に作っている方が増えました。

大柳

Switch展開はやはり敷居の低さが魅力です。契約と安価な開発機さえ手に入れてしまえば、一番敷居が低いんです。しかも、海外展開においてはIARC(注:International Age Rating Coalition。国際的・横断的なレーティングシステムで、加盟している国のレーティングが自動的に取得できる)に対応しているところが嬉しいポイントです。

日本と一部の国を除く全世界に向けては、一気にレーティングが取得できます。クリエイターや我々にとっては、大変ありがたいことです。

DLCなどによる「継続的なアップデート」の重要性がより顕著な時代に

御社で取り扱いたい!と思うタイトルは、どんなポイントを見ていますか?

二宮

実は最初からマルチプラットフォーム展開を考えられてるディベロッパーさんのほうがやりやすいですね。展示しているものがPCかモバイルだけであっても、今後コンソールでの展開を考えているような。

大柳

それからこれは開発者さんにとっては大きな負担になってしまうと思うのですが、発売後のDLCや機能拡張があるタイトルを積極的に求めています。我々パブリッシャーやプラットフォーマーさんの共通認識として、タイトルの生存期間を伸ばすためには、DLCが必要な時代になってきています。

普通、ゲームの売り上げが跳ねる時期はせいぜいリリース1週間です。そこで、DLCによって本体の売り上げが再浮上するタイミングを作り、タイトルの寿命を延ばすことが重要だと思っています。そういうDLCまで含めた展開を想定されてるタイトルがあれば、とても好ましいですね。

二宮

これはモバイルタイトルに関しても同じでして、長いスパンで販売するのであればゲーム改善のアップデートだけではなく、コンテンツアップデートも一緒にやっていただければと思っています。

開発負担はあるかもしれないけど、ユーザーさんが継続的に楽しんでもらえるような工夫があるといいということですね。

大柳

よく言われることですが「パッと見てユーザーに刺さるか刺さらないか」という第一印象は大事です。そこをうまくデザインとして落とし込めているかどうか。日本ではゲームシステム側をこだわる方が多い印象ですが、ビジュアルの印象も大事です。

問い合わせやオンライン上のやり取りで、タイトルが決まったケースはありますか?

大柳

実は、そう多くありません。たまにTwitterやLinkedIn経由で話がつながることはありますが、正直なところ直接会って話せたほうが、最初の印象はすごく良いですね。メールで紹介されても雰囲気が伝わらないじゃないですか。

二宮

割合としてはイベントきっかけのほうが断然多いですね。直接イベントでお会いしたディベロッパーさんとの成約率を考えると全然違います。

大柳

イベントは絶対出たほうがいいということです。それは是非開発者さんに伝えたい。これは間違いないですね。

中国は “ゲームプレイヤーの質が高い国”

中国市場向けについてはいかがでしょうか。

大柳

向こうの市場が求めるタイトルであれば当然やっていきたいですね。内容に関しての制限が厳しいので。

二宮

「The Room」の中国展開については、完全オフラインの脱出ゲームで、表現的に引っかかるような要素がなかったのが良かったのかと。

大柳

中国は非常に良い市場です。ゲームファンの質も高いです。ストアのレビューにも表れています。日本では、正直なところ第三者がみても厳しめなレビューが目につきますが、中国のレビューってそんな荒れ方しないんですよ。ちゃんとゲームに関して評価してくれます。まず、「このゲームが中文でできるってすごい!」とちゃんと言ってくれる。バグがあった場合も端末情報や状況を詳しく報告してくれて、「動かないんですけど」みたいな何の情報もないサポートメールを送ってくるようなことがありません。

どうすれば一番タイトルが良くなるかゲーマー側が分かってる感じがあります。

二宮

レビュー内容についても、中国のユーザーさんは文量からしてしっかり書いてくれるんですよ。すごいダウンロード数なのに点数が4.7~4.8と高い位置にいられているのは、中国のユーザーさんがゲームを評価してくれていることが大きいです。

これは現地の方から聞いた話ですが、彼らはプレイしたいゲームがあっても、なかなか中国語翻訳が少なかったんだそうです。とにかく面白いものであれば英語版で遊んでいた文化があるそうで、中国語に翻訳されているだけで、本当に喜んで頂けるんです。

今後のイベントや御社の展開についてお聞かせください。

大柳

事業としてはモバイルをベースにしながら、コンソールとPCのタイトルを多めでやっていきたいです。今まで3年間はモバイルに偏ったパブリッシングをしてきたのですが、偏りをなくして広く展開をしていきたいなと思っています。イベントに関しては、TOKYO SANDBOXと東京ゲームショウには出展予定で考えています。

もし、弊社に興味があるクリエイターさんがいれば、ぜひお声かけください。パブリッシングまでやりたいようでしたら、真剣に検討したいと思っています。

ありがとうございました。

Made with Unity - 2018年3月27日