中国で生まれたインディゲームたち(前編)

中国で生まれたインディゲームたち(前編)

前回の記事では最近中国でゲームをパブリッシングする時の手順や注意点などをまとめてみた。日本の方々にとって中国は新たな市場なので、今後進出する時に参考になったら嬉しいと思う。

中国の開発者たちにとって、海外のゲームは啓発される対象であり続けた。彼らは自ら探索しながら、中国ならではのゲーム表現に挑戦して業界に新鮮な血液を送り込んだ。今回はゲームを着眼点とし、中国のインディ業界で重要な地位を持つ、中国人が制作した作品を紹介しよう。

「二つの剣」が中国製ゲームの発端になる

90年代の中国ではパソコンの普及が遅く、自作ゲーム・同人ゲームのようなものはほぼなかった。ただし中華圏の人々は自分の国の文化を反映したゲームを求めており、最初にその要望に応えてくれたのは台湾のゲーム企業だった。その中、特筆すべきなのは1988年に成立した台湾大宇資訊(タイユーインフォメーション)有限会社の「軒轅剣(ケンエンケン)」シリーズと「仙剣奇俠伝(センケンキキョウデン)」シリーズだと思う。この2つのRPGゲームシリーズはインディ開発ではないが、中華圏プレイヤーたちには「二つの剣」と呼ばれ、中華圏ならではの考え方・表現を多く取り込んだ作品として国内ゲーム業界の発端だといえよう。是非この機会にゲームの特徴を紹介したいと思う。

筆者は前の記事で、「仙剣奇俠伝」シリーズの紹介と中国武侠の設定については少し触れた。この「武侠」とは中華文化特有のもので、気になる方は是非記事をチェックして欲しい。実は「仙剣奇俠伝」シリーズが誕生する前に、初代「軒轅剣」が大宇資訊最初の武侠世界観のゲームとして1990年に発売された。実際に遊んでみると気づくかもしれないが、これらの作品はゲームシステムが初期「ファイナルファンタジー」・「ドラゴンクエスト」などの80年代のターン制JRPGから受けた影響が強く、あらゆる場面で既視感を覚える方も多いだろう。

「軒轅剣」と「仙剣奇俠伝」のゲームカバー

なぜこの「二つの剣」シリーズは、中華圏で広く受け入れられたのか。

RPGには「奥行きの深い世界観」と「波瀾に富むストーリー」、この2つが不可欠だろう。海外では王道ファンタジーやSci-Fiな設定がよく見られるが、「軒轅剣」・「仙剣奇俠伝」はともに中国のプレイヤーたちが馴染んでいる中国の古代神話や浪人の世界を舞台にした。

「軒轅剣」は90年代から今まで十数本の作品が発売されて長く続くシリーズである。ゲームは中国の神話「山海経」で登場する妖怪と人間の物語や、古代暴政への抵抗、千年の時を超えた人生など重いテーマが多く、世界観の設定とストーリーの展開も自由奔放だ。中華文化の中に存在する「絶対の善と悪が存在しない」「自分の大義を求めるこそ生き甲斐である」などの思想が反映されている。

「仙剣奇俠伝」シリーズでは主人公はいつも浪人という設定で、復讐や自分探しの目的を背負って旅に出るものの、道中さまざまな人と出会い試練を乗り越えるという展開となっている。ゲーム中の個性豊富なキャラクター設定と中国の古代風景の美しい再現が印象的である。バトルシステムとアイテムの設定は中華武術「クンフー」からインスピレーションを受けたのも好評される理由の一つ。愛情・自由を追求するのは中華文化の重要な要素で、人間関係と感情の表現が繊細で切ないシナリオは中国プレイヤーたちの心を掴んだ。

「軒轅剣6」のスクリーンショット

「二つの剣」はゲームシステム上でJRPGから多くの要素を吸収したが、オリジナルな世界観とシナリオは90年代から長い間ユーザーに愛され続けた。2000年以後、中国大陸で海賊版が氾濫する時期にも新作の販売数は毎回30~50万ほどをキープし続けることができた。また、シリーズは中華系RPGゲームに深い影響を与え、特にオンラインゲームブームの時期に武侠テーマのMMORPGは非常に多かった。

現在、中国ではプレイヤーたちの審美眼が高まり、人々はこの中華文化を代表する「二つの剣」のゲームデザインと技術両方の革新を期待している。最近「軒轅剣7」と「仙剣奇俠伝7」両方とも新作が公表され、筆者も心の底から「頑張れ!」と応援している。

「雨血」シリーズの発展歴史

昔から中国で自作ゲームのサークルは存在するが、残念ながら影響力を持つ作品は少ない。その中で、「武侠」文化をベースとして世界観とゲームシステムを磨いて、高い水準に達した中国製インディゲーム「雨血(ユーシェー)」シリーズを紹介したいと思う。

2006年、清華大学で建築デザインを学んでいる学生梁 其伟(リャン チーウェイ)氏はRPGツクールを使用して1作目の「雨血」の制作を開始した。武侠小説が大好きで、日本のCLAMPや大友克洋など漫画家の作品も熱中している梁は、少年時代から趣味で世界観・シナリオを作って背景やキャラクターデザインも自分で描いていた。

初代の「雨血:迷鎮(メイジェン)」は数時間でクリアできるミニRPGだった。RPGゲーム慣例の主人公を成長させる設定ではなく、ある男が過去の記憶を探して真実に辿り着く展開だ。ストーリーの展開と演出表現はインパクトが強く、2010年に海外のパブリッシャー経由でアメリカで発売した際には多くのユーザーから好評を受けた。そう、初めて海外流通を実現して話題となった中国インディゲームと言えるのだ。「なぜあの時に中国で発売しなかったのか?」と尋ねたところ、「シングルプレイヤーゲームのパブリッシングが未熟で、海賊版も出回るので時期的にまだ早いと思った」と、梁は答えた。

「迷鎮」ゲーム画面。タイトルの意味は「幻の町」である。

発売後、梁はすぐに2作目の「雨血:燁城(イェチェン)」の開発を始めた。前作は一人ですべてを担当していたが、2では5人のメンバーが参加して音楽・視覚の表現が大幅に向上された。移動方式も横スクロールになり、RPGツクールの作品の中ではトップレベルだと言われている。その後の審査などはいろいろ大変だったが、中国で発売されなかった1作目と2作目ともに、国内パブリッシャーGamebar経由で発売することに漕ぎ着いた。

「燁城」ゲーム画面。戦闘中の表現はさらに向上。今回タイトルの意味は「火の城」だ。

2013年、シリーズのプロローグである「雨血前伝:蜃楼(シンロウ)」がSteamで発売された。1・2作目の優秀な世界観が継承され、今回はUnity開発で横スクロールアクションとなった。梁は「アクションゲームのキモは操作感だ」と認識して、戦闘時の爽快感を徹底的に追求したとのことだった。開発中に他の格闘とアクションゲームの動画を分析し、「蜃楼」のすべてのキャラアニメーションを1フレームずつ微調整して、妥協なしのクオリティーを求めていた。2015年、「蜃楼」はPlayStation 4中国ストアで発売され、初めての中国国内のゲーム機で正式発売された中国製インディゲームとなった。中国のゲーム業界にとっては “特別な意味を持つ1作” と言って良いだろう。

「雨血:影の刃」ゲーム画面

現在ではシリーズ4作目の「雨血:影の刃(カゲノヤイバ)」がスマートフォンに登場し、アイテム有料のF2Pゲームとして開発元の「スタジオ北京霊遊坊(レイユウボウ)」が運営している。すでに安定した収入があり、インディ開発者としてはハッピーエンドを迎えた、と私は思う。

前編 まとめ

以上紹介したシリーズはまず海外ゲームを真似しながら中華文化の要素の表現手法を探索することから、完全オリジナルの世界観・ゲームシステムを作るまで、1990年代から2000年代の間に中国製ゲームの発展ルートを反映している。しかしやはりこの時期の中国ではシングルプレイゲームの市場規模が小さかったので、一部のファンから好評を得ても普及するまでにははるかに遠かった。

では次世代に入った後、中国のインディ業界は転機を迎えたのだろうか。それはまた後編で述べよう。

(後編に続きます)

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