中国で海外製ゲームが解禁されたけど、実際どうですか?

中国で海外製ゲームが解禁されたけど、実際どうですか?

Unityは今年、中国で大きなシェアを占めるスマートフォンメーカーXiaomiと提携を発表しました。これは参入障壁が非常に高かった中国スマートフォンアプリ市場への展開が非常に容易になったことを意味しますが、実のところ、中国市場にアプローチできるゲームとは、一体どんなものでしょうか。彼らゲームファンが普段どんなことを考え、どのようなライフスタイルの中でゲームを楽しみ、どのようなゲームデザインを好み、どのようなキャラクターやストーリーに共感するのか、知りたくはありませんか?

今回は中国でゲームジャーナリストとしての経歴を持ち、開発者でもあり、またひとりのゲームファンでもある宣科さんに、近年の中国におけるゲーム事情についてお話を伺いました。

ゲームは「電子ヘロイン」だった?

宣科さん、まずは簡単に自己紹介してもらってもいいでしょうか?

宣科

はい。私は現在日本に留学中ですが、それまでは中国のマスコミで働いていました。日本に来たのは本格的にゲーム開発について学びたいと思ったからなんです。学校では主にDirectXプログラミングを勉強していますが、中国だとなかなか専門的に学べる場所がなくて。もちろんUnityを使った開発もやりたいし、プランニングにも興味がある。そうすると留学するしかないんですよね。

今日は中国のゲーム事情についていろいろ聞かせて頂こうと思っています。よろしくお願いしますね。

宣科

はい、よろしくお願いします。

まず、避けて通れないトピックとして、そもそも中国では長い間ゲームが流通していなかったということが大きくありますよね。

宣科

ええ、それは上海の教師がとある新聞に投書したことに端を発します。2000年当時、学校をサボりネットカフェに入りびたる子供が一定数いたんです。教師はそのような生徒と彼らを取り巻く環境を「電子ヘロインは強制終了すべき」という内容で批判したんですね。これは何もゲームに限った話ではなく、インターネットへの批判もあったわけなんですが、言葉の響きの強さも相まって大きな論争を巻き起こしました。自分の見解では家庭あるいは学校教育で解決すべき問題だと思うんですが、世論はそう捉えず、中国政府はついにデジタルゲーム全般の製造、販売、輸入を禁止してしまったんです。

宣科さんとしても全面禁止というのはやはり衝撃でしたか?

宣科

もちろんです。僕の家では90年代、中国では結構早い段階でインターネットを利用していて、日本やアメリカのアニメを見ていました。「電子ヘロイン」という言い方が流行り始めたら、ゲームだけでなくアニメなどの日本のコンテンツは害悪として扱われるようになってしまいました。今でも輸入される際には、編集で多くのシーンがカットされます。

ハリウッド映画なども同じような扱いだったんですか?

宣科

暴力的なシーンがあればもちろん編集はされますが、基本的にハリウッド映画は映画館で見るものとして、そこまで風当たりが強くありませんでした。日本のアニメの方が主にDVDで普及していたんです。また、同じアジア圏だから審美眼が近いので、受け入れられやすかった。広がってブームになるからこそ、規制が働いたというふうに捉えています。

2000年というと、PS2が出たあたりでしょうかね。

宣科

はい。なのでPS2はごくわずかな間だけの流通でしたね。香港、マカオ、台湾などごく一部の地域を除いてほとんど出回っていませんでした。

では、ゲームが解禁されたのは…。

宣科

2014年年末、中国政府は上海において製品の審査手続きを一部免除することにしました。ただし、外資系企業が中国企業と合資する形で支社を成立するなどの条件があり、審査基準も曖昧なものでした。言ってみれば試験的なものだったんです。しかし、その後2016年には、審査機関の広電総局から若干明確なルールが開示され、輸入だけではなく、国内の個人開発者も参考できるようになりました。

つまり去年が実質的な解禁だったと言えるわけですね?

中国のジャーナリストの多くはそのように捉えています。これまでソニーやマイクロソフトが長い間中国での販売を働きかけていましたし、インターネットを通して海外の考え方が流入しており、社会的にも「電子ヘロイン」という考え方は古いものとして徐々に薄れつつありました。また、中国のゲームマスコミの影響力も大きく作用したと考えられています。

その頃、任天堂は?

任天堂やマイクロソフトのハードも同様に禁止されていたわけですよね。

宣科

それがですね、任天堂のゲームボーイアドバンスやNintendo DSは販売されていたんです。iQue(神游科技)という任天堂の合弁会社が「マルチメディア教育機器」としてそれらのハードを取り扱っていました。

なるほど、子供向けの教育機器としてなら販売することが出来たんですね。

宣科

ただしゲームソフトはほとんど流通していませんでしたね。ほとんど日本などの諸外国のお土産で入手するか、マジコンで遊んでいるような状況でした。中国語へのローカライズの困難さがもっとも大きな原因だと思っています。

うーん、そんな状況だったんですね。

神游科技

中国を本社として2002年に設立されたコンシューマーゲームメーカー。英語名iQue Limited。なおゲームボイアドバンス発売時、本体の裏には「マルチメディア教育機器」という刻印があり、CMなどでは「子供向けの勉強用デバイス」として宣伝された。商品名称の中にも「GAME」という単語は出さず社名の「iQue」をそのまま使った。

wikipedia

ゲーム禁止から生まれた、中国ネットカフェ文化

当時はゲームというとPCが一般的だったんでしょうか?

宣科

PS2を遊んだ人もいますが、ごく一部の富裕層に限られていました。中国は地域間の経済・教育格差が大きく、北京や上海といった都市部では1999年ごろにゲーム機を触っていた人もいますが、田舎の方では10年前くらいに初めてパソコンを触ったという人も普通にいます。自分のPCを買えない人も多く、ネットカフェは禁止後も変わらず流行っていましたね。

ネットカフェはもともと喫茶店だったところにPCを置いた、というようなイメージでしょうか?

宣科

いえ、カフェといっても基本的にはPCを置いてあるだけの簡素な場所ですね。基本的にはオープンスペースです。豪華なところになると個室になっていたりドリンクサービスがあったりします。ネットの普及とともに広がっていきました。都市部よりむしろ田舎の町にはたくさんあるイメージです。

禁止後も規制を免れたゲームが遊ばれていた、というような状況だったんでしょうか。

宣科

そうですね。Tencent社のオンラインゲームがよく遊ばれていました。ゲームが禁止されていると言ってもTencentは中国企業ですから、政府も黙認しているような形だったのです。Tencentのゲームは、コアなゲーマー向けというより一般人向けで、当時はオンラインで遊べるマリオカートやダンスダンスレボリューションなどのクローンゲームを自社開発していました。

今や巨大企業ですが、もともとは一介のベンチャーだったわけですよね。

宣科

そうですね、ICQのクローンであるOICQというチャットアプリが爆発的に普及したことから始まります。現在は「Tencent QQ」と名前を変えましたが、中国で最も普及しているチャットサービスです。Tencent社はこのQQを中心に、ゲームやニュース、ブログのサービスを展開して、多くのユーザーを獲得しました。

現在では、いわゆるLINEのようなメッセンジャーアプリとしてQQが使われているわけですよね。ユーザー数はどのくらいいるのでしょう?

宣科

現在のTencentユーザーは約10億人だと言われています。僕もまあ使ってはいますね。

投資家たちの注目を集めたゲーム解禁

宣科

その後、スマホの普及に伴いシンプルなソーシャルゲームを作る小さな会社がたくさん現れました。業界的には短いスパンで起業と倒産が繰り返されており、正確な数字を出すのは難しいのですが、中国国内のゲーム開発会社は現在400くらいあると思います。ちなみに去年度の中国のゲーム白書での数字は150でしたが、現在はもっと増えてますね。

市場規模からするととても少なく感じますね。

宣科

とにかく倒産する会社が非常に多いんです。リリースして3ヶ月くらいで資金を回収して、その後1ヶ月後くらいにクローズして倒産というのがほとんどという所感です。クローン商品が多くて、同じことをみんなで一斉にやるから、結局誰も儲からない。ゲーム解禁によって一種のバブル状態になったので、VRやスマホゲームの開発を名目に資金だけ集めて結局何も作らないまま倒産するような会社も多かったんです。ですから最近は投資家の目も厳しくなってきているように思います。

どんなゲームが資金提供を受けやすい、というのはありますか?

宣科

投資家からすると、やはりスマホのソーシャルゲームが有力ですね。あと2、3年くらいならブラウザゲームもいけるかなという感じです。いわゆるインディゲームはお金を集めにくいですね。そもそも国内ではヒットした前例がありませんから。

WeGameは中国のゲーム新時代を導くか

ゲーム解禁後、中国のゲーム業界で起きた特に大きい変化はなんでしょう?

宣科

Tencentがパブリッシャーとして新しいプラットフォームWeGame(リンク先中国語)をつくり、他社のゲームも取り扱い始めました。海外のインディゲーム開発者ともやり取りをして、Steamよりも安い値段で売ったりしています。9月1日から正式にサービスが開始されて、日本のタイトルでは日本ファルコムの『軌跡シリーズ』なんかも販売されています。

10月現在のWeGameのストアページトップ。中国語で『看火人』と表記されているのは『Fire Watch』。その下には『零の軌跡』『碧の軌跡』が並んでいることが確認できる。

流行りそうですか?

宣科

もうすでに流行っていますね。でもSteamユーザーが移ることは無いように思います。昔クローンゲームばかり作っていたから、ゲーマーとしては正直、ちょっと嫌悪感もあります(笑)。今と昔のTencentは違うから触ってみてもいいんじゃない?という人もいるんですが…。もちろんWeGameというプラットフォームのおかげで田舎の子供やゲームをほとんどすることの無かった人たちにもゲームというものが広く認識されましたし、それはひとつ大きな功績だと思います。

中国でもSteamは遊べるんですね。

宣科

Steamは今も昔も問題なく遊べます。正直、そこまで流行っているわけではないのでブロックされていないという感じですね、ゲーム機のタイトルを遊びたいけれど規制で入手できないコアゲーマーにとってはありがたいことでした。ユーザー数が増えたらブロックされてしまうかもしれないです。

なるほど、ではWeGameはこれから中国のゲーム市場が変動していく一つのきっかけとして注目ですね。宣科さん、本日はありがとうございました。


宣科さんには今後、中国のゲーム事情についてのコラムの執筆をお願いする予定です。
みなさん是非お楽しみに!

池和田 有輔 - 2017年11月14日