中国で生まれたインディゲームたち(後編)

中国で生まれたインディゲームたち(後編)

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中国「禅流ゲーム」の誕生

2005年、ロサンゼルスで留学している陳 星漢(チェン シンカン、Jenova Chan)氏は奨学金を申請するために「雲(クモ)」というフリーゲームを制作した。このゲームは世界中でダウンロード数が40万超え、「全然予想しなかった状況だ」と陳は語った。

陳は昔からずっとゲーム好きで、ゲーム開発者を目指していた。しかし彼は「GTA」や「穿越火線(クロスファイヤー、中国で人気のオンラインFPSゲーム)」などを遊ぶ時いつもイライラして焦りや失敗感を感じていた。「映画や小説には悲しみ・喜び・怒りなどの感情で概括することができるのに、なぜゲームにはアクションやロールプレイングなどで認識するしかないのか」と、陳はもっとポジティブな感情をゲームで伝えるための大胆な試みをした。そしてそれが中国で言われている陳の「禅流ゲーム」の発端になった。

「雲」の設定は、ある病気を抱えている少年が夢の中で果てしない雲海の上を飛び黒雲を浄化する、というものだ。空を飛びながら周りの白雲を吸収して、黒雲の周りで排出し、黒雲を浄化して白雲にするという極めてシンプルなルールである。このゲームでは暴力や失敗する要素を一切排除し、自由・雲海・青空・飛ぶなどシンボル的なキーワードはプレイヤーの一人一人に同じ感情を伝えようとしている。そしてプレイヤーは遊んでいる間に、自由自在な解放感とリラックスした気分を味わえる。

「雲」ゲーム画面。シンプルだが完成度が高い。

卒業後、陳は帰国ではなく、アメリカで個人スタジオthatgamecompanyを設立することを決めた。当時のソニーエンタテインメントアメリカと契約し、PlayStationの独占開発を始めた。その1作目は広々とした野原を駆け回って風になった気分がテーマの「Flowery」である。

ゲームの進め方として、基本的に花びらを集めて目的地へ飛べば良いゲームだが、最初のプロトタイプ版では時間制限やコンボ、技など挑戦的な要素を入れていた。しかしテスト中にプレイヤーはイライラしてきてゲームを諦めるケースが多く、「それは我々が欲しい感覚ではない」と、一年半の間にゲームの遊び方を12回も覆して試行錯誤を重ねてきた。それだけで75%の開発時間を占めたという。そしてやっと落ち着いて遊べながら、独特な面白さを味わえるものが出来上がった。

「Flowery」第一ステージ。自由に飛ぶことができ、ゲームの目標がはっきりしていて誘導もちゃんと出来ている。

2009年、「風ノ旅ビト」が開発開始。今回の新作で陳はまた新しいジャンルに挑む。それはオンラインゲームだ。

陳はアメリカに行った直後に、友達がまだ出来ていない期間があり、その当時は毎日家で「ワールド オブ ウォークラフト」を遊んでばかりだったという。しかしゲーム内でコミュニケーションを求めていても、みんなはアイテムを入手することやボスを倒すことなど明確な目的を持ち、プレイヤーの間に人間性に基づいた感情的なコミュニケーションは少なかった。そして、「あるゲームの中で、プレイヤーたちが名前・性別・顔・喋り方などのアイデンティティを一切なくして、感情だけでコミュニケーションすることは可能だろうか」と、陳は考えた。

「風ノ旅ビト」は1本道の探索・パズルアクションゲームで、ユーザーは広々した砂漠・洞窟・雪山などのステージで自分の一族の歴史を探し、旅の終点で生まれ変わるストーリーである。ひとり旅はもちろん出来るが、インターネットに接続し、途中にもう1人のプレイヤーがランダムに参入して一緒に行動するのがゲームの肝である。相手の名前の表示がなく、使用するキャラモデルもみんな一緒。音声や文字のコミュニケーションもなく、できるのはワンボタンで音を出して注意喚起するだけ。そしてレベルデザインは「二人のユーザーが一切会話せず、その場へ行けば伝えたいことがわかる」ように設計されている。こういう言葉なきコミュニケーションは「プレイヤーは他人に助けられて、また他人を助けようとする」という環境の中で成立できた。

知らない人と二人だけの思い出を作る。それが「風ノ旅ビト」のユニークなところだ。

もう一つ用心深い設定は、ユーザーたちはお互いに接近するとエネルギーを補充することができる点だ。元々、ゲームは2人のプレイヤーがお互いに押す事ができ、それを利用して高いところへ行くことや、岩を押すことなどができた。しかしテストプレイ中には協力するよりも他の人を崖から押し落とすなど、攻撃的なことが好きなユーザーが多かった。それはゲームの精神に反するので、また大量の試行錯誤を繰り返して今の設計に辿り着いた。

陳星漢氏はいつも既存のゲーム設計思想を破り、新しい「何か」を伝えようとしている。彼のゲームではアジア文化の繊細さと欧米系のオープン感が両方感じられるので、その個人スタイルが非常に強くて他人は簡単に真似ることができないのだ。PlayStationの独占契約が切れた現在、「Flowery」がiOSに登場して新作の「Sky」も開発中だ。今回「Sky」のテーマは「愛する人と一緒にエンジョイしてシェアする」とされており、もう待ちきれなくてワクワクする気持ちでいっぱいだ。

新世代の中国インディゲーム「キャンドルマン」

ゲーム機販売が解禁されたことは、中国のインディ開発者にとって新しい扉が開いたことを意味する。その1つの例は、清華大学美術学院出身の高 鳴(コウ メイ)氏が制作したパズルアクションゲーム「キャンドルマン」だ。そのゲームはマイクロソフトから支援を得て、2016年の年末にXbox One中国ストアで一年間独占販売することになった。中国のインディ業界はまだ成長期だが、この件は開発者の人々に自信を持たせた。

高は昔からゲームジャムに参加するのが好きだった。中国国内にはゲームジャムがないためオンラインで海外のものに多く参加した。2013年のルドゥム・ダレーゲームジャムでは、「10秒間」というテーマが提示されて、高は「10秒間しか燃えないロウソク」をベースにしてゲームを作った。それが「キャンドルマン」初めてのプロトタイプとなった。

2009年、高は自分のスタジオ「Spotlightor Interactive」を成立して、KinectアプリなどのB2Bデジタルインタラクティブソリューションとスマートフォンゲームの開発を開始した。しかし、2015年ゲーム機解禁後に意外な展開が来た。マイクロソフトは中国でインディゲームを支援するプロジェクト「id@Xbox」を運営開始し、ニュースを見た高はマイクロソフトに「キャンドルマン」のゲームジャム版を提出した。そして、マイクロソフトからの評価は「理念の完成度が非常に高く、ぜひゲームを完成させたい」というものだった。「実はゲームジャムで作ったものはあまりにも雑で、あの時希望を抱いていなかった。今から考えると、これが運命だろう」と、最近のインタビューで高はそう言った。

マイクロソフトと契約して資金の支援を得て、高のスタジオは全力で「キャンドルマン」の開発に身を投じた。そして問題は、ゲームの主人公、その10秒しか燃えない小さなロウソクはどんな物語を語るのかということだった。「暗闇の中で自分を燃やす者。それはだれ、そしてなぜだ」、そこから考えれば答えは自然に導かれた。

「キャンドルマン」ゲーム画面。日本ではSteamで遊べる

最終版の「キャンドルマン」は、とあるキャンドルちゃんが遠方にある灯台に惹かれ、その輝かしい存在になりたいと思い自分探しの旅に出たという、少し切なくて美しいストーリーだ。遊び方は合計10秒の灯せる時間を複数回分けて利用し、探索してゴールへ進むというものだ。見える範囲もかなり限定的でそれを十分に活用して目標へ進む。

今から考えてみると、「キャンドルマン」のアイデアから発売するまでの経緯はインディゲームの中で典型的である。しかし3、4年前ならば中国開発者が企業から資金をもらえることは想像もできなかっただろう。現在、「キャンドルマン」の独占期間が終了して、SteamやPlayStation中国ストアで購入できるようになった。将来PlayStation日本ストアの発売も準備しているという。

後編 まとめ

今回記事の前編と後編で紹介したゲームは皆、中国ゲーム業界の歴史上では代表的なもので、それぞれの運命を見ると時代の発展が感じられるだろう。今まで中華文化を代表するゲームが「2つの剣」しか存在しない時期があり、中国の個人制作ゲームは海外でしか販売できない時期もあった。そしてやがて「本物のゲーム機で自分のゲームを発売する」という夢を叶えて、中国のインディ開発者たちはより多くの機会を手に入れた。

やはりゲーム解禁後でも、民衆の意識形態の更新にはまだ時間がかかると思う。一番最初に行動し始めたのはパブリッシャーたち。それから、数年あれば業界に開発教育や、イベント・コンテストの運営など新しい需要が高くなり、リソースは都会から地方へ普及するだろう。さらに、オンラインとオフラインのコミュニティも成長し、プレイヤーであろうと、開発者であろうと、皆は仲間を簡単に見つけることができる。そして、海外との繋がりもより強くなり、ギャップを埋める日もいつか来るだろうと、私は思う。

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Made with Unity - 2018年4月20日